2010年2月 2日 (火)

■エッセイ的なもの:遅刻の話

・ち‐こく【遅刻】
[名](スル)決められた時刻に遅れること。「待ち合わせに―する」
(大辞泉より)

友人と待ち合わせをするとき、わたしはけっこう遅刻をする方だ。
特に仲の良い友だちになればなるほど気が緩み、遅れがちになる。
今の時代携帯電話というものがあるので、
よく「○分くらい遅れます、ごめん」とメールを打つ。
あんまりよく打つものだから、「よく打たれる定型文一覧」に
すぐに出てくる。見るたびにまたやってしまった、と思う。

でも自分が遅れがちだからか、他人が遅れることには寛容である。
そもそも一人でいることが多いので、大概本を読んでいる。
だから、相手が少しくらい遅れようが、本を読める時間が増えた、
と思うくらいなのである。それは決して遅れてくる誰かを思って
いないから(会える時間が減ってしまって残念じゃないか、など)
ではないのだが、遅刻という「約束」を利用した、気の許しあい、
みたいなもの、を無意識に行っているように思う。
「ごめん、遅れる」「えー、また? はいはい、わかったよ」
という軽いやりとりが、わたしは嫌いではない。

だけど、そう思っている人ばかりではないことを忘れてはいない。

大学生のとき、中学生のときの友人が久しぶりに会わないか、
と誘ってくれたことがあった。言うまでもないが、わたしは、
中学生のときから遅刻の常習犯であった。ことのほか仲の良かった
Aちゃんとの待ち合わせはよく遅刻したものだ。
田舎の電車は1時間に2本くらいしかないので、
わたしが電車に乗り遅れたばかりに30分も待たせてしまったこともある。

中学生のときとは違い、わたしたちは都会の真ん中で待ち合わせをした。
電車はたくさんある。しかし、わたしは性懲りもなく遅刻をして行った。
言い訳をさせてもらえるなら、当時わたしは殺人的に忙しかった。
平日は会社に行き、その後には学校だった。
土日の昼間はファミレスでアルバイトをし、夜は居酒屋で働いていた。
この日はAちゃんと会うために作った1ヶ月ぶりの休暇だった。
休暇だ、と思い気を抜いたわたしは、案の定寝坊した。
大慌てで用意をし、15分ほど遅刻して待ち合わせ場所に着いた。

久しぶりに会ったAちゃんは、懐かしい話で盛り上がり笑っていたが、
その遅刻について快く思っていなかったようだ。
数週間後、また遊ばないかとメールをしたところ、
「あなたと待ち合わせをするといつも遅刻するから、
わたしに会いに来るのが面倒なんじゃないかと考えてしまう」と、
やんわり断られてしまった。わたしはAちゃんに上記のような
言い訳をしなかった。言い訳はわたしが一番嫌いなことだからだ。
それに今までしてきた遅刻のことを考えると、言えるはずがなかった。

あるとき、母と遅刻の概念について話したことがある。
インドだったか、ブータンだったか、ミャンマーだったか、
とにかくそのあたたかい地域に住む人たちは、とても時間にルーズだ、
という話だ。ルーズと言うのは語弊があるかも知れないが、
1分1秒を争わないと言う意味である。

内容は何かのテレビでやっていたのだが、例えば待ち合わせをしたとき、
相手が遅刻したら、どれくらいの時間黙って待つか、というもの。
その国の人たちは、2時間くらいはみな平気で待つらしい。
店で待ち合わせた場合は、店主と世間話をしてのんびり過ごす。
駅の場合は、やってきた違う知人と立ち話をして陽気に待つ。
きっと遅刻、という概念が別ものなんじゃないだろうか。
きっと遅刻という言葉に、悪意、ミス、過失、
というような負の考えが含まれていないのではなかろうか。
それとも時間がもっと優雅なものであり、10分、20分といった
形式で括らないような、太陽が昇り、沈むといっただけの、
広々とした時間的意識なんだろうか、とも考えたりした。
余談だが、そういった差を、小説の中で見つけるのは、少し面白い。

ちなみに日本人の許容時間は20分くらいのようだった。日本の場合、
2時間も来なかったら、逆に心配し始めてしまう時間ではないだろうか。
そんなことを考えていたら、「ちっ、日本に生まれなければ」
とか悔しく思ったりして、人間は面白いな、と思えてくる。
母は、「そんなの20分でさえ耐えられない」と飽きれたように言った。
わたしの持論である、約束の許しあいについて語ったが、
聞く耳を持たなかった。わたしとはやはり気が合わないようだ。

ところで近年出会った友人が、わたしに輪をかけて遅刻をする。
この間の日曜日には、1時間24分待たされた。
去年の最高記録は4時間30分だった。Yちゃんは誰に対しても
遅刻常習犯であり、そのみんなが「Yちゃんなら仕方ない」と
思っている。でも、わたしはYちゃんが遅刻をするたび
自分のことを思い出してしまう。ふとAちゃんの顔が浮かび、
楽しかった日々を思い出してしまう。Aちゃんの部屋はアイドルの
ポスターでいっぱいだったな、とか、よく漫画の濃い話をしたな
とか、思い出し、感傷的な気分になるのだった。
Aちゃんのような人を増やしたくないし、
Yちゃんもわたしのように後悔して欲しくない。

こっそりYちゃんの遅刻癖を治すようにも仕向けたい。
どうしたらいいだろう。

わたしは日本人だから、
やはり多少なりとも他人に合わせることは必要であろうと思う。
わたしの心の中の小さな目標はいつも、遅刻をしないことである。

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