2011年10月 1日 (土)

「斜陽」 太宰治

斜陽 (新潮文庫) 斜陽 (新潮文庫)

著者:太宰 治
販売元:新潮社
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お久しぶりでございます。本は読んでいるのに感想を書いている時間が
ありません。そしてまた太宰治を読んでしまった。太宰治を読むと
どうも落ち込むんですよねぇ、だから元気の良いときに読むべきなんです
けど、手に取るのは弱っているときに限るという。引き寄せられるのかしら。

最後の貴族である母。私生児の母になり、古い道徳とたたかって
生きようとするかず子。麻薬中毒によって破滅する直治。
飲酒にふけるデカダン作家の上原。4人の宿命的な生きざまが
夕陽のような輝きを放つ太宰文学の集大成。
(Amazonより)

斜陽ってこんな話だっけな? と疑問を抱えながら読み終えた。中学生の
ときの記憶なんてそんなもんだよなあ、と思いつつ。大人になって改めて
読むと、とても恥ずかしい気分になる小説だった。主人公である「かず子」
にとても自分の思考が似ているように思うからだった。とても金持ちで
裕福な家庭に育った人間の、捨てきれない傲慢さを、どうにか消し去りたいと
必死になってもがく作品。息子への執着や、麻薬への依存、そして下級な
人への歪んだ恋、様々な方向からその金の厭らしさを拭おうと描かれている
けれど、どの方法も失敗に終わり、死に行き着く。生まれ育つ環境を
選べないという神への怨念というべき邪悪な心は、死を持ってしか拭えない
と、するすると導いていく文章は圧巻だ。その迷いのなさは不気味ささえ
窺え、死ぬべくして死ぬのです、と決意を括る弟に声を掛けることもできない。
自分に染み付いた高飛車な空気を、どうにかして消したいのだけれど、
それには他人に縋るより仕方がない。その人間の弱さを見事に浮き彫りに
していて、だから「かず子」の書く狂ったような恋文は、そっと背を
なぞられるような怖ろしさがあった。その狂った感情が、自分のどこかに
潜んでいると、揺さぶられるような思いがするからだ。で、元気のないとき
太宰治を読むと大変落ち込み、死にたい気分が増すのだが、
「ああ太宰治を読んでしまった」と気づくのは、読んでしまった後のことで、
読んでしまった後に「わたしは弱っているのかも知れない」などと、
思い知らされる始末である。この作家の、自分の、いや、人間の、恥ずかしく
卑しい感情を惜しげもなく曝け出した言葉たちは、やはり敬うべきであり、
このような家庭環境に育ったと思われる彼自身の不幸と、その功績に、
苦悩が報われる日が来ることを待ち望むばかりである。本を開くたびに
読むかえる彼の苦悩が、いつしか人間に理解されなくなるとき、もしかしたら
その束縛から解かれる瞬間が訪れるのかも知れない。

★★★★☆*86

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2009年11月30日 (月)

「ヴィヨンの妻」 太宰治

ヴィヨンの妻 (新潮文庫) ヴィヨンの妻 (新潮文庫)

著者:太宰 治
販売元:新潮社
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あぁ死にたい死にたい。そう思いながら、つい太宰の本を読む。
そうしてやはりその本の中の死の魅力に惹かれてしまう。生活の一部に、
死にたいと言う気持ちが染み付いている、分かる人はどれ位いるのか。
そして、今の自分の人気振りを見たら、太宰は何を思うのだろう。

「おさん」
たましいの、抜けたひとのように、足音もなく玄関から出てゆきます。
娘のマサ子が、「おとうさまは?」と尋ねたので、私は「お寺へ。」
といい加減な事を答えました。夫は寺などへは行ってはおりません。
マサ子は「早く帰ってくるかしら」と凛とすました様子で健気に
大人しくしております。私は胸が締め付けられるようでした。
夫が勤めていた新聞社が罹災し、借金を背負ってからと言うもの、
元々無口でしたが優しかった夫は、暗い表情を隠さなくなりました。
どうやら他の場所に女が出来たようでもあり、けれど何も言わないの
です。じっと黙って哀しそうに笑っている。そうするくらいなら、
いっそ、私たちをも楽しませながら不倫を楽しんでくださればいいのに。

上に書いたけど、もし今太宰治が自分の評価振りを見たとしたら、
もう少し長生きしたのではないか、と思う。矛盾だらけの想像だけど。
でも、それと同時に、きっとやはり自殺して死んだだろう、とも思う。
太宰治は38歳で亡くなっている。38って、でも毎日死にたいと思って
いる人間にとっては、長い時間のようにも思う。この本には、
今映画をやっている『ヴィヨンの妻』が収められている。
けど、期待していたほどでもなかったような……。この明治の妻が、
どのような理想像だったかはよく分からないけれど、
今のそれとは少し違うように思え、「家庭を顧みない夫でも、
たまに優しい一面があり、寄り添っていられればいい」と言うような、
太宰の描く妻は、今の女性はきちんと理解することが出来るのだろうか
と、とても疑問に思った。もちろん、太宰治が問題ではない。
と言うのも、映画の宣伝で、「辛いことでも笑って過ごす。
これがヴィヨンの妻。ヴィヨンの妻はなぜこんなにも強いのか」
みたいな文句があり、わたしはそれに首を傾げたのだった。
ヴィヨンの妻を書いたのは、太宰治なのだから、それを望んでいるのは
太宰治である。奥さんも実際にそういう態度を取っていた人
なのかも知れないが、そこにはやはり足りないものがあるように思う。
女の嫉妬というものである。女は男には嫉妬している姿を見せない。
その包み隠された部分が書かれていないように感じるのだった。
もしも「あぁいう人だから仕方がない」と割り切るのだとしても、
その割り切るまでの過程が書かれていない。太宰治は、
あぁもうしょうがないわねと沢山女が世話を焼く、どうしようもない人
だったんだろう。でも嫉妬が微塵もないのはどうしてだろう。
それを「強い女」と言ってしまうあたりに、疑問を感じるんだよな、
とか思いつつ。この本はとてもいい。一番読みやすい短編集かも。

★★★★☆*88

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2009年10月12日 (月)

「走れメロス」 太宰治

走れメロス (新潮文庫) 走れメロス (新潮文庫)

著者:太宰 治
販売元:新潮社
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太宰治である。最近太宰づいている。何だか良く分からないのだが、
読んだ方がいいという強迫観念がある。別段、太宰治は好きではない。
なぜなら、わたしにそっくりであるからだ。そもそも、死んでから、
今さら人気なのは、そんな人が多いんだ。発行部数が物語っている。

「走れメロス」
間違ったことが大嫌いなメロスは、変わってしまった国を前に
愕然とした。平和だったはずの隣国はまさに惨劇といってよかった。
人を信用できなくなった国王が、妻を、親を、子どもを惨殺し、
家来や市民にまで手を加えようというのである。あの豊かだった国は
どこへ行ってしまったのか。激昂したメロスは国王に直訴しようと城へと
乗り込んだ。メロスは当然のごとく捕まり、たまたま所持していた
ナイフが見つかり、大騒ぎとなった。捕らえられたメロスは
極刑に処されることになる。しかし、メロスは願い出た。
たった一人の家族である妹の結婚式がある。それを終えた三日後、
必ず戻ってくる。身代わりに友人セリヌンティウスを置いていこう。
果たしてセリヌンティウスは拘束されることになった。
友人と別れたメロスは、全速力で国へ戻る。無事三日後に間に合うのか。

そもそも、この表題作「走れメロス」は太宰治が考えたものではない。
いや、構想を練り、執筆したのは彼なのだが、その話の下敷きには、
ギリシャ神話があるのだ。そう、もうお話があるのである。
今風で言うならば、パロディ小説と言っていいだろう。
そのギリシャ神話を読んだことがないので、どれくらい似ているのか、
どの部分を抜粋したのか等は全く分からないが、それを知ったとき、
わたしは太宰治という人間をまた少し理解したように思った。
太宰治は、発想力がない。私小説で散々こぼしているが、
物語の主となる’物語’を生み出す、ということが出来ない人なのだ。
それはそう、ここ最近読んだ3,4冊でも簡単に分かることで、
書いてあるのは、もしくは言いたいことは、
同じことの繰り返しなのである。あるいは、実際に自分が味わった
直接的な感情でしかないのである。作家として致命的であろう。
その証拠に、太宰作品に出てくる男性はほぼ「作家」であった。
作家以外の職業をしたことがないからだろう。また、興味もないのだろう。
そして作品は、小説なのか、私小説なのかごちゃまざになった、
産物ばかりなのである。以前太宰の生涯、と言った本を読んでいたので、
どのような人物だったのかは知っていた。それにこの本の最後にも、
別記で載っている。知ってから、それらの小説を読んでみると、それは
まるで名前だけを挿げ替えたエッセイのようで、その気持ちが
痛々しく、または名前を変えていることすら滑稽に思えてくる。
才能がない。散々叩きのめされた。自分でもそう思っている。
それでも彼は小説家になりたかったのである。応援する人がいたのである。
ところで太宰治の『人間失格』は、現在の日本語小説の中で、
夏目漱石と肩を並べて発行部数が日本一である。太宰治の小説は、
楽しくない。ぜんぜん、「面白」くない。ぜんぜん、物語感がなく、
「小説」ですらないように思える。けれども、こんなに多くの
人間が指示するのは、「そんな人間」が多いからだろう。
「何かになりたい人間」である。しかし、太宰治は生きているうちに、
それを心から達成できたとは言えないだろう人生を送っている。
苦悩し、苦悩し、挫折して、苦悩し、そんな彼の姿に、
多くの人間が共感を得、叶えられない何かを思うのだろう。
この本はとてもつまらない。けれども、太宰治を知ることが出来る。

★★★★☆*80

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2009年9月14日 (月)

「女生徒」 太宰治

女生徒 (角川文庫) 女生徒 (角川文庫)

著者:太宰 治
販売元:角川グループパブリッシング
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久しぶりに太宰さん読みました。なんだかんだいって、実は
あんまり読んだことなかったりします。『津軽』とか、『斜陽』
『走れメロス』なんかは読んでますが、語るほど読んでいないな、
とか思ったりもします。しかしやっぱり読みやすくて好きです。長いけど。

「きりぎりす」
お別れ致します。あなたは嘘ばかりついていました。
私にも、いけない所が、あるのかも知れません
けれども、私は、私のどこが、いけないのか、わからないの。
もう二十四です。このとしになっては、どこがいけないと言われても、
私には、もう、直す事が出来ません。あなたは変わってしまいました。
あなたは口下手で乱暴なお人でしたから、ついぞ、いえ、これからずっと
売れない画家のまま、貧相な暮らしをしてゆくのだとばかり思っていたのに、
私はもう耐えることが出来ません。私は貧しい暮らしが好きでした。
あなたの売れるとも知れない絵を見ながらも、つつましく、
金がなくなってゆくにつれ、なお、私はあなたを支えようと、
心嬉しく思っていたのに。私には間違いが分からないのです。

この短編集は相当よいものばかりが収められている。
やはり一番は表題作の「女生徒」かもしれない。女学生の、
学生を卒業したら、結婚をしなくてはならない時代の、
むずむずとした女の悩みが、とても的確に、しかし柔らかくしなやかに、
書かれている。あれ?太宰治って男だったよね?と、
当たり前の事を確かめたくなるほど、女性の心理描写が上手い。
若く初々しく、移り気で、小さな苛立ちを抱え、そして
誰にも言わない秘密をそっと隠している。
「おやすみなさい。(中略)もう、ふたたびお目にかかれません」
の最後の行は、みな感嘆の思いで読み終えることだろう。
また、中でも太宰治らしい話だったのは「きりぎりす」だった。
とても貧乏だった画家が、突然売れっ子になり、
人格が変わったようだ、と嘆く話である。私は、
金がなく無口だったあなたが好きであったのに、そんなに心汚く
変わってしまっては、飽きれるばかりで、そばにはいれないと、
三行半と共に突きつける離婚文である。太宰治は、超のつく金持ち
だったと言われているが、そのコンプレックスは、「裕福であること」
だったと言う。きっと汚い人間をたくさん見てきた末、そう思うように
なったのだろう、その心理がこの話から読み取ることが出来る。
それも主人公は妻なので、きちんと女の心情を得ている。
この時代の女は、まず最初に必ず男を立てる。けれども、
変わりすぎてしまった夫を、妻は理解できないと嘆くのだ。
私が悪いのかもしれないけれど、と。そこには女らしい突然の激昂と、
男を今ひとつ理解し得ない(男を立てているので弱さを観ないからか)
様子を、これも感嘆する文章で書かれている。
1つ残念なのは、夫の職業がほぼ小説家であることだけだな。
一度は読んだらいい、そんな本。太宰治は読むと癖になる。

★★★★★*95

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2007年11月26日 (月)

「人間失格」 太宰治

人間失格 (集英社文庫) 人間失格 (集英社文庫)

著者:太宰 治
販売元:集英社
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文豪作品は、一律「*90」でつけてますから、悪しからず。
いや、凄くつまらないものだったら、下げますけど、
昔の本、と言うだけで色々学ぶものがありますよね、ということで。
この太宰の斜め視線、私の考えと重なるところがあります。

「自分」は、幼い頃から人間を信用する事が出来なかった。
他人が不意に見せる、裏表のある表情を見るたびに恐ろしく、
それから逃れるためには「自分」は道化になるしかなかった。
どんなに自分に不都合な事であっても、笑顔を振り撒き、おどけてみせる。
そうしているうち、皮肉にも「自分」は人に好かれ、男女の関係を結んだ。
しかし、芽生える事のない独占欲と、絶望に悩まされるうち、
道はいつも自殺の一途を辿った。狂人、それは人間、失格である。

こんな凄い作品を書いておきながら、何一つ賞を取れていない太宰治。
この人は生まれた時代が悪かったとしか言いようがない。
あと50年早くして、夏目漱石とやり合ったとしたら、
もっといい意味で善い作品が生まれたろうし、あと50年遅くして、
現代に生きていたとしたら、間違いなく芥川賞を取れている。
その分今の審査が甘くなっているのではないか、と言えなくもないが、
今回はそれを置いておいたとしても、とてももったいない時に生きた人だ。
この本は夏目漱石の「こころ」と発行部数が大体同じ、と言う、
驚異的な人気を持っている。あえて述べておくと、
私は夏目さんの方が好きなのだが、その原因として、起承転結の、
「転結」が非常に上手く纏まっているからである。
「こころ」では自殺させてしまった友人を追い、
自分もまた自殺せねばならないという心境が痛いほど伝わって来、
また、そうと分かっていながらも、「まさか」と真実を知る「私」の
焦燥が合間って、ラストでは鳥肌が立つほどだ。
対する「人間失格」は、滑稽さを若干狙った節があるので、
自分の死さえも笑い話にしようとした感がある。
それはそれで痛々しい作者の思いが伝わってくるのであるが、
一番の感動としては、突き落とされる絶望が欲しいのだ。
「私」がKの血飛沫を見た時の愕然とした思いや、
それに反して、遺書を冷静に読んでしまう自分の冷酷さを知るような。
そういったものがないから、「人間失格」と堂々たるタイトルの割に、
ラストのインパクトが薄く感じるように思う。
しかしながら、人間を信用する事が出来ない「自分」の様子は、
思わず人を頷かせる文章である。周りの人間が信じられない、
そう言った経験は、人間一度は味わった事があるんじゃないだろうか。
少なくても私は味わった事があるのだが、その時の心境といったら、
自殺願望なくしては立っていられないほどだ。
太宰の人生がそうであったように、遺書とされる小説の中の「自分」もまた、
幾度も自殺を選ぶ。これが太宰の人生なのだろうか、
そう思いながら、他の本を読むと、違った感慨が生まれるかも知れない。

★★★★☆*90

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