2010年9月 5日 (日)

「長い長い殺人」 宮部みゆき

長い長い殺人 (光文社文庫) 長い長い殺人 (光文社文庫)

著者:宮部 みゆき
販売元:光文社
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久しぶりに宮部さん。いつもそう言いながら読んでいる気がする。
宮部さんは昔よく読んでいたが、最近はめっきりである。けれども、
ふと忘れた頃にそわそわと読みたくなってくるのは、やはりこの宮部味
の吸引力によるだろう。どこからどう読んでも宮部みゆき。他に類はない。

殺された人間は森元隆一、三十三歳。森元は保険金をたっぷり
掛けられており、どう見ても保険金目当ての殺人として間違いなさそう
である。また容疑者もいる。森元の妻である法子の愛人・塚田だ。
あるいは、法子も塚田と共謀し、保険金を狙った可能性もある。
久しぶりの大きな事件に、わたしのあるじは緊張しているようだ。
そう、わたしは、あるじの財布である。事件の数日後、
今度は塚田の婚約者が何者かに殺された。こちらもまた保険金である。
事件は新たな展開を見せ始めたが、塚田も法子も今一歩逮捕には至らず……。

この本の一番の特徴と言えば、なんと言ってもこれだろう、
財布が主人公なのである。正確にいえば、主人公の財布が主人公、
と言うべきか……物語は連続短編になっており、財布は次々に
変わってゆく。警察官を始め被害者や関係者の財布が、事件を語るのだ。
なんとも風変わりな作品であり、ある意味小説でしか味わえない、
面白みがあるだろう。(ドラマでこれをやったら、
滑稽さが先にたって物語の面白みをかき消してしまうと思う)
と、褒めてみたものの、この財布効果がどれほどのものか、
いまいち図りかねる、というのが正直なところ。別に普通の描写でも
よかったのでは、と思いつつ、これぞ宮部みゆきのみぞなせる
エンターテイメント、とも思ったりする。物語については、
『模倣犯』を彷彿とさせる、犯人の猟奇的な感情が描かれている。
「俺は他の誰よりも偉いのだ」という狂った感情をもった人間が、
ひつように行うマスコミとの応報。何でもない一人の人間の
狂気に至るまでの描写が簡易でありながらとても納得でき、
さすが宮部さんだなぁと思った。いつしかの榊原事件のような、
ただ人に持て囃されたいだけの歪んだ意識が、
ポップな作風の中に、とても上手く描かれていたように思う。
少し雫井さんの『犯人に告ぐ』を思い出したりもした。
あれもある意味エンターテイメント性に富んだ面白い作品であるな。
やはりここに宮部みゆきあり、と思う。

★★★★☆*85

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2009年10月25日 (日)

「魔術はささやく」 宮部みゆき

魔術はささやく (新潮文庫) 魔術はささやく (新潮文庫)

著者:宮部 みゆき
販売元:新潮社
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宮部さん、お久しぶりかも。この本の初版は平成五年だそうで、
もう十六年も前の本なのか……としみじみしてしまった。
そして今も尚ヒットメーカー。すごいね。本を読まない人だって、
宮部みゆき、という名前を知っているだろうし。今後も期待。

守の父親は、守るが幼い時に公金を横領し逃亡した。
世間に責め立てられ、その後母をも亡くし、守は叔母叔父夫婦の
元で世話になる事になった。叔父はタクシーの運転手をしている。
ベテランで優良ドライバーとして表彰されたことがある、
腕のいい運転手だった。ところが、ある日の帰宅途中の深夜、
叔父は若い娘をひき殺してしまった。娘は信号を無視し、
自殺でもするかのように突然飛び出してきたのだが、
目撃証言のない叔父の説明は立証されず、叔父の信号無視が原因の
業務上過失致死とされてしまった。飛び出してきた娘は何者かに
追われているような慌てぶりだった――叔父の証言から、
守は事故について調べ始めるのだが……。

感想一言目は、昭和の香り、である。何がどう、と表現しがたいのだが、
この本の中には昭和の香りが漂っている。例えばちょっとした人間の
考え方であるとか、説明の言い回しだとか、そういうものが。
それは宮部さんが社会派の、とても身近な事件をとり扱っている作家
だから起こりうるもので、だけど今の平成に読むと何だか恥ずかしい
感じがするのだった。時代遅れというか、そういう意味で。
催眠術や、映像の中に広告を挟む、等の事柄を簡単に「魔術」と
言ってしまうのは、人攫いを神隠しだと信じきっているような、
そう言った恥ずかしさがあるように思うのだ。しかし、この本が
書かれた当時は、画期的、かつ衝撃の仕組みだったのだろう、
そう思うと、なるほど仕方ないよな、と思う。こういった恥ずかしさ、
を拭い去るには、もっと時間が経てばいいと思う。平成ではなく、
その後、またその後の時代になったとしたら、それは立派な歴史
になるのではないか、と思う。今明治維新の小説を、面白く思うように
この昭和という時代もまた「面白く」思える日が来るんだろう。
少し残念だったのは、彼女たちがしたこと、があまり明確に
描かれていないため、なぜ殺されなくてはいけなかったのか、
という理由がとても弱い。もちろん彼女たちはいけないことを
していたのだから、制裁されるべきだ、とは思うが、
あまりに魔術の「仕掛け」にページが費やされているため、
物語り全体が陳腐感を感じなくもない。それと守の境遇についても
かなり悲惨な男の子であり、救いがない。父親の横領の時も、
今回の事件についても、他人に冒涜されるだけでうやむやに終わる。
現実がそうなんだ、と言われれはそれまでだけど、ちょっと
悲劇が集まりすぎているようにも思えた。折角社会派でリアルを
描こうとしているのに、作られた感が否めない。むしろそれが目的かも?
しれないけども。といろいろ書いたが、ここにも宮部みゆきあり。
愛して病まない作家である。宮部さん実は、遠い知り合いだったりして。
いつしかお会いしてお話してみたい。

★★★☆☆*85

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2009年8月 3日 (月)

「誰か」 宮部みゆき

誰か Somebody (カッパノベルス) 誰か Somebody (カッパノベルス)

著者:宮部 みゆき
販売元:光文社
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宮部さんにしては詰まらなかったなぁ。うーん。実はこれの2巻目である、
『名もなき毒』を先に読んでしまったのだが、そちらの方が面白かった。
今回の本は、「で、何したかったんだっけ?」という微妙な終わりなので、
どんなにキャラクターがよくても映えない残念な感じだった。

今多コンツェルン会長―わたしの義父のお抱え運転士だった梶田が、
隣町で自転車で引かれ亡くなった。65歳……長女の結婚式を控え、
これから晴れやか、とまでは行かずとも、穏やかな老後を考えていた
矢先である。残された二人の娘は、いくつかの疑問を抱いていた。
父は何故隣町へ行ったのか。父が片をつけなくてはいけない、
と言っていたのは何なのか。そして見つからない犯人のゆくえは?
広報室長のわたしの元には、義父からのじきじきの依頼が来ていた。
二人をよろしく―かくして私は事件の全容を調べるため、調べ始めた。

詰まらない原因は、7割がよくわからない過去について、
うじうじ悩んでいるだけだから。もちろんうじうじ悩むのは必要だけれど、
両親が人を殺しの隠蔽をしたかも知れないと分かるのは、後ろから50Pくらいだ、
というのは、結論、それはあまり重要だととられていないからだろう。
とすると、何がこの話の中で重要なのか? それがよくわからないのである。
ひき逃げ事故は結局中学生が犯人であるし、掘り返した過去は
なかったことにするし、仲の悪かった姉妹は、彼氏を奪い合い最悪の結末。
えっと、で、何したかったんだっけ? の領域である。
宮部さんにしては大変珍しいのだが、あんまり面白くなかった。
ただ一人の印象の良い運転士の暗い過去を根掘り葉掘り曝け出し、
残された娘すらも修羅場を向かえ、不仲になる。なんなんだろう。
主人公をはじめ、奥さんや義父、娘、その他の登場人物はとてもいい。
何となく高級な生活と、素朴な生活が分けられて書かれているから、
庶民から観た、ちょっとしたセレブへの憧れ、みたいな願望と、
実際セレブになった庶民の肩身の狭さ、みたいなのがとても上手く書かれている。
ので、内容が微妙なのが大変悔やまれる作品だと思う。
『名もなき毒』の方が、数段面白かった。あっちは描写が軽すぎて、
気になったけど、こっちはちょっとくどいぐらいだな。
まぁ、それが宮部さんだけど。私は宮部さんが書く30~40代女性が好き。
男性は、そうでもないんだけど、とか言って、この主人公は男性です。

★★★☆☆*80

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2008年7月 6日 (日)

「あやし」 宮部みゆき

あやし (角川文庫) あやし (角川文庫)

著者:宮部 みゆき
販売元:角川書店
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はい、この本も図書館整理で貰って来た本です。
けれども貰ったのはいいけど、処分本なわけで汚いんですよね。
と言うわけで、どうせ捨てられる本なのだから、一度読んでやれば、
本も本望だろう……と言うわけで捨てます。いや、本当に汚いんですって。

『布団部屋』
酒屋の兼子屋では、代々の主人が短命であることが有名だった。
百五年経つ間に普通なら四、五代目というところで、
なんと七代も代替わりが行われていたのである。
商売屋でありながら、不幸話で噂になることは避けたいことだろう。
けれども兼子屋の女中や奉公人はとても優秀だと知られていて、
周りの商人から羨まれていた。なぜ聞き分けの悪いはずの子どもを、
こんなにも素直に言い聞かせることが出来るのか?
そんな時、一人の奉公娘・おさとが奇怪な死をとげた。
その代わりに奉公に入った妹のおゆうであったが、
そこで兼子屋に伝わる「布団部屋」の秘密に触れる。

読み終わった後に知ったのだが、この本は怪談物らしい。
ふむ、そうか、言われてみれば、そう思わないこともない。
けれども、宮部さんの時代小説は、結構どれも奇怪話が多いから、
『あかんべぇ』『本所深川~』然り。
けれどもよくよく考えてみると、今回は目に見えない、
怨霊とか、呪いとかをテーマに描かれていたように思える。
この『布団部屋』に至っては、代々の主人が短命で、
その店子は呪われているのだ…という話である。簡単に言えば。
それを語ってゆくうち、呪いは代替わり同様、
人に移っていき、その店を苦しめ続けているのだと知れる。
けれども、一つ残念なのは、こういう「呪い」と言うのは、
何かの因縁があることが多い。例えば、夫が不倫していたことに
対する妻の恨みであったりとか、屈辱を受け続けた部下の怒りとか。
そう言った、美味しいドラマになる部分が、今回書かれておらず、
ただ「怪談」「奇怪話」と纏まれている気がして、
何となくもったいなく思った。まぁ宮部みゆきに、時代物。
そんな贅沢な組み合わせで、面白くないわけがない。

★★★★☆*86

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2008年6月15日 (日)

「人質カノン」 宮部みゆき

人質カノン (文春文庫) 人質カノン (文春文庫)

著者:宮部 みゆき
販売元:文藝春秋
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図書館でレンタル落ちした本を沢山貰ってきたのですが、
この本はその中の一つ。出来たら『模倣犯』でももう一度
読みたかったので欲しかったのですが、なかったんですよねぇ。
宮部さんの本は他にも四冊ほど貰いました。この本はでも……。

『人質カノン』
逸子はふらりと立ち寄ったいつものコンビニエンスストアで、
強盗と遭遇した。覆面を被り、片手に拳銃を持ったその犯人は、
逸子たちを拘束した。アルバイトの店員に、小学生の男の子に、
酔っ払いのサラリーマン、それから逸子。
促されるがままになる四人だったが、犯人が店を施錠し始めたとき、
彼が玩具を床に落としたところを目撃したのだった。
赤ん坊をあやすときに使うような、ガラガラと音が鳴る道具……。
それは落ちたのではなく、わざと落としたように見えた。
一体何のためにそんな事をしたのか、逸子は事件後に考え始める。

まぁ、あまり期待はしていなかったのだけど…、と前置きしておく。
個人的に、ではありますが、宮部さんは長編や連続短編の方が、
面白い気がする。短い所に凝縮するって言うよりも、
いかにたくみに現実や事件経過を描くことに長けているような
気がするのだ。というわけで、この本はそんなに面白くなかった。
もしかしたら、もう少し前に読んでいたら、なるほど、と思った
のかもしれないのだけど、以前に読んだ『返事はいらない』みたいな、
ちょっと古臭い感じのする話が多かった、と言うのが一つ。
それを一番に感じたのは表題作『人質カノン』である。
強盗に遭遇した女の話であり、事件後になぜ犯人をすぐに特定
出来なかったのか、という疑問と向き合う話である。
結局のところ、コンビニという空間は、スーパーなどとは違い、
極力他人同士の接触を避けるような、排他的なところである、
と纏めている。近代化につれ、機械的な店が増えることは、
こういった強盗などにつけいれられやすく、
また人々の協力がないとか、人を認識するという行動をしないから
解決が遅れることになるだろう、それは残念なことだ、と言っている。
言いたいことはとても分かるし、納得もするのだが、
もう少し突っ込んだ話にしてほしかったなぁ、とか、
更なる事件性があったらなぁ、とか、ないものをねだりたくなる、
少し物寂しい感じの話が多かった。
私は『本所深川ふしぎ草紙』の続編が読みたいのだけど…でないかなぁ。

★★☆☆☆*77

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2008年5月 8日 (木)

「名もなき毒」 宮部みゆき

名もなき毒 名もなき毒

著者:宮部 みゆき
販売元:幻冬舎
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この本、去年の夏ごろに予約したんだけど、ようやく回ってきた。
凄いなぁ…宮部さん。いつもながらその筆力に乾杯です。
今回はたぶん「誰か」の続編?みたいなのだが、気付くのが遅く
その「誰か」はまだ回ってきていないので、先に読んでしまった。残念。

今多コンツェルンの広報部で働くわたしのところでは、
現在一人の女性をめぐって問題が起きていた。
アルバイトで雇っていた原田いずみという女性が、
どうも履歴や学歴を詐称して採用されていたと分かったのだ。
たとえ詐称していたとしても、使いものになるならまだいい、
しかし原田いずみはいつまで経っても要領が悪く、
ついには注意されることに逆切れをする始末。
困り果てたわたしが辿り着いたのは、以前同じく詐欺被害にあった
会社の社長だった。いい人を紹介するよ、といい教えてもらった男、
私立探偵の元で、わたしは一人の女の子と出合った。
数年前、コンビニなどの飲料に青酸カリなどの毒物が
混入される事件が続発した、その遺族であった。

今回も安心して読むことが出来た。さすが宮部さんである。
しかし、続編、となるとある程度設定が決まっているからか、
筆が軽快すぎるような部分があって、そこがあまり私は好きではない。
逆にそこがいいのだ、という人のほうが多い気がするので、
強い事は言えないのだが、私は堅苦しい宮部さんの文章を愛している。
特に「理由」なんかの堅苦しさは本当、大好きなのだ。
と、そのへんにしておき、今回は現代社会に蔓延る様々な「毒」を
テーマに話が構成されている。シックハウス症候群であったり、
いじめであったり、土壌汚染であったり、貧乏ゆえに歪む心であったり。
その様々な毒物が世の中の見えない「名もなき毒」であると。
その関係性が、読んでゆくとなるほどね、と思うことばかりで、
あととち狂った女の登場が、いい感じに話を乱してくれて、
「あぁこいつここで出てくるか!」とイラッとするタイミングを、
見事に再現していたように思う。確かにいそうな気もする、あんな女。
一つ残念に思ったのは、主人公が、会社の一社員で、
しかも広報…という、あんまり権力がないような部署にいる
というところだろうか。確かに入り婿ということで、
地位は高いのだが、低い…という微妙なバランスの男、
という魅力もあるのだが、事件に首を突っ込む辺りで、
「こんなことに首を突っ込むのはやめようと思いつつも…」
みたいな言い訳の文章が何回か出てくるので、
こんな事を書かなくて済む位の人間設定にしたらどうだろうか、と思った。
まぁ、突っ込みたくないのに、性分で突っ込んでしまう、
という情けない男は見事に描けているんだけど、好きになれなかった。
そうそう、語りが一人称であることにも関係があるかもしれない。
全ては好みなんですけどね。宮部さんなので、面白くないわけはない。
私は三人称で、尚且つ堅苦しい宮部さんものが好きです。

★★★★☆*86

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2008年4月13日 (日)

「レベル7」 宮部みゆき

レベル7(セブン) (新潮文庫) レベル7(セブン) (新潮文庫)

著者:宮部 みゆき
販売元:新潮社
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この本は多分2回目でした。最初のシーンで、「レベル7って何?」
と不穏な空気が持ち上がる辺りの描写がとても秀逸で、
そこのイメージばかりが残っていたため、中盤~後半にかけて、
すっかり内容を忘れていました。まぁ、楽しかったですが、うーん。

男は目が覚めると、記憶をなくしていた。
自分が何故この部屋にいるのかもわからず、名前も思い出せない。
だから、当然ながらベッドの隣に寝かされていた女性のことも知らず、
途方に暮れるしかなかった。真新しい内装に、真新しい家具、
それに水道もガスも使われた形跡もない。
不穏な空気が漂う中、さらに男を混乱させたのは、
腕に印された「Level7 M-175-a」という不可解な文字列だった。
レベル7…一体これは何を表しているのだろうか。
不安を抱きつつとにかく情報を集めるめ、男は女と相談し部屋の外に出た。

あらすじがとても妙な部分で止まっているが、まぁいいや。
私はこの本の中で一番魅力的なのは、この冒頭部分であると思う。
自分の腕に「レベル7」と印字され、途方に暮れる記憶喪失の男女。
その様子が、とても秀逸に描かれているからである。
記憶がなくなった状態の描写も、かなり的確(私がそうなったことは
実際ないから、想像する上でもっとも上質であると思う)だから、
読者も共に混乱と不安を味わうことが出来る。
だが、この本を絶賛お薦めを私が出来ない理由も少しある。
この話の欠点は、大きな筋書きが簡単に読めることだ。
早いうちから、精神病を専門とする病院が出てくるため、
「レベル7」がゲームなどの経験値的要素ではなく、
何らかの医療的段階だろうと、予想がついてしまう。
そうすると、タイトルから感じることのできる、
わくわくした感じがなくなってしまい、残念だった。
しかし、その他の展開においては、かなり緻密に計算され、
進んでゆくことがわかる。二つの視点から構成されており、
その相互から絶妙なテンポでヒントが小出しにされ、
「次、どうなるの?」とハラハラさせる力は、さすが宮部さんだった。
そうした事を除き、この作品の一つだけ気になる箇所は、
記憶の回復状況だった。そもそも、彼、彼女は、
一体どれだけの記憶をなくしていたのだろうか?
事件や自分の周辺全部、行動という体で覚えたもの以外は忘れていた、
ということだったが、事件解決当時、一体どの程度まで思い出していたのか、
その割合というか、状況が分からず少し曖昧だった気がするのだ。
最後に指輪をはめ、男は記憶を完全に思い出す。
と、言う事は、事件解決当時は完全ではなかったわけで。
まぁ記憶なんて見えないから表現しようがないですが、
失っていた記憶が思い出され、靄が晴れるような清々しさは、
本編では感じられなかった(最後の一行で済まされている)のが、
なんとも言いがたいラストのような気がしてならなかった。
そんなことを言いつつ、宮部作品ですから、面白いことは間違いなし。

★★★★☆*88

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2008年2月15日 (金)

「あかんべえ」 宮部みゆき

あかんべえ あかんべえ

著者:宮部 みゆき
販売元:PHP研究所
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いやぁ、地味に長かった。面白かったんですけどね。
中盤が「まだこんなにある」と思ってしまい、きつかったです。
私は宮部さんの時代物は短編の方が好きかなぁ…と思ったりしました。
しかし、これを読んでおいた方が、話が繋がって面白いんです。

賄い屋の娘であるおりんは、ひょんな事から引越しをする事になった。
お父ちゃんが、おじいちゃんの店からのれん分けしてもらい、
新しい店を開くからである。早速下見をして回り、
引っ越し先が決まったのだが、おりんは突然の高熱に犯されてしまった。
三途の川を渡る寸前までふらふらと歩いてゆき、やっとのことで
こちらの世界に戻ってきた時、不思議な出来事に見舞われた。
何とおりんはお化けが見えたのである。お侍さんに、遊女の女、
あかんべえをする女の子…おりんは次第に仲良くなってゆくのだが、
そんな時、店にお化けが出ると言う悪い噂が流れてしまった。

宮部さんの時代物は「人情」の描き方が最高に上手い。
本当なら、江戸の雰囲気を描くだけで苦労するところだが、
この本にそんな心配はまったく必要ないのだ。
読んでいるだけでその時代の空気に染まれるような、
巧みな描写で、いつしか頭の中には完璧なお江戸が浮かんでいる。
そこに登場する人物たちの、心意気と、気持ちのいい受け答え、
悩みどころなど、だから思わず頷いてしまうのである。
今回はお化けと対話できる少女のであるが、
何とも痒いところに行き届いている、というか、
必要な描写がとても自然に補われているので、読みやすい。
比較してしまうと悪いのだが、畠中さんの「しゃばけ」シリーズも、
このくらい「お化け」など実態の無い物の描写がされていたら、
もっと評価が高かったんじゃないかなと思う。
面白かったので、然程言う事無く、「まぁ読んでみなよ」
と言いたいところですが、若干説明文が多い点を指摘しておく。
まぁ時代物をあんまり読まない人には、丁度よい位なのかもしれないが、
ここは親切設計。料理の仕方から、長屋の説明まで、
端から端まで説明してくれるので、ちょっとくどいね、と思ったのだった。
おまけに分厚いんで…それでページを喰ってるのかと思うと、
少し残念な気もした、というのが正直なところ。
あとは最後のゴタゴタが、ちょっとこんがらがった?ようにも見えた。
見えている人間と、見えていない人間がいっしょくたにいるシーンでは、
何がなにやら、慎重に読まないと、誰が見えていないのか忘れる。
それに時代物なだけあって名前が「おゆう」「おみつ」「おたえ」など、
人物の名前がとても似ているので、大変だった、と伝えておく。
そんなのは、私だけでしょうかね。笑
まぁ、面白いよ、と言う事で文句はありません。時代劇でいけますよ。

★★★★☆*88

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2008年1月 9日 (水)

「初ものがたり」 宮部みゆき

初ものがたり (新潮文庫) 初ものがたり (新潮文庫)

著者:宮部 みゆき
販売元:新潮社
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そうそう、この続編はどうしたのよ宮部さん!と思わず嘆いてしまった。
これは「本所深川ふしぎ草紙」の続編ですが、終わり方が、
とても意味深です。おまけにあとがきで謝罪をしている…
HPには出しますと書いてあったけど、果たしていつ出るのだろうか。

本所深川を守る茂七は、回向院の岡っ引きである。
町の異変を素早く察知するため、下っ引きの噂を聞きつけたり、
町人のよく集まる場所についと足を伸ばすのが習慣だ。
ある日そんな茂七の元へ、新たに妙な噂が流れてきた。
橋の袂の今まで蕎麦屋の屋台があった場所に、
夜中までやっている稲荷寿司屋が出ていると言うのだ。
酒も出さない稲荷寿司屋がなぜ深夜営業をしているのだろうか…
茂七は興味半分にその屋台を尋ねてみる事にした。

茂七シリーズの二巻目です。これの前に「本所深川ふしぎ草紙」を
読んでおくと、よりスムーズに内容が理解できてよいかと思います。
今更気づいたのですが「本所深川~」の方の感想も書いてませんでしたね、
うっかりしていました。後ほど読み直して書こうと思います。
さて、随分昔にこの本を読んでいましたが、
それでもなお、楽しく読める小説です。
簡単に言うと、主人公茂七という岡っ引きのおやじが、
毎度騒動に巻き込まれ、人間関係を知るうち解決するという話。
それは茂七自ら飛び込んだものであったり、
町じゅうに広がった噂から発生した事件だったりする。
時代物と言う事で、解決は粋に人情味溢れたものが多いが、
いつも幸福だとは限らない。ふいに冷や水を浴びせられたような
背筋の寒い事件が起こったり、
それもまた現代人としても共感を得られる絶妙な塩梅になっている。
この本では、橋の袂に突然店を出し始めた稲荷寿司屋が現われ、
茂七や下っ引きがその人物を訝しがり始める。
屋台の親父は明らかにここの町人の田舎ものではない。
色々な思惑が飛び交い、さて正体は……
という所で、なんとまぁ終わっているのである。
その後連載していた雑誌が廃刊になり、連載もストップ。
何とも尻切れトンボになり、もう十年近く経つんじゃないだろうか。
時代物ファンとしては是非続けて欲しいですね。
そう言えば、この本数年前時代劇でやったらしいですよ。
私「おいてけ堀」しか見たことないんですが、見てみたいなぁ。

★★★★☆*89

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2007年12月22日 (土)

「理由」 宮部みゆき

理由 (新潮文庫) 理由 (新潮文庫)

著者:宮部 みゆき
販売元:新潮社
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この本3回目。一言、「長かった」でも、「読みきった」と感慨深い思いです。
インタビュー形式により、謎が段々に解けてゆく…という
それぞれの人が何故事件に関わったのか、その「理由」が描かれた物語。
物語性が希薄なので、「超面白かった!」とはなりにくいと思いますが。

六月二日、荒川区ヴァンダール千住北ニューシティ、2025号室で、
一家四人が殺害される惨殺事件が発生した。
ヴァンダール千住北は出来て間もない高層住宅マンションであったが、
事件が深夜だったという理由もあり、目撃情報が乏しかった。
また普段から互いを干渉しないという主義が災いし正確な情報が掴めない。
捜査が難航する中、この2025号室は売りに出されていたことが分かった。
家賃未納によって競売に掛けられたこの家には、買受人がいる。
だがその家には法を巧みに掻い潜った占有屋と呼ばれる人間たちが住んでいた。
その事実が分かった頃、殺された四人は血の繋がらない人間だと判明する。

怖ろしい。怖ろしいよ、宮部さん。何回読んでも舌を巻きますよ。
たった今この事件を目撃してきたんですよ!と言えそうなくらい、
練りこんだ人物設計と、事件の真相。全てにリアリティが求められ、
まるで現実に起こった事件をインタビューして小説にした、
というような感じで真実を読むことができる。
宮部さんの頭の中では一体どんな風にこの話が処理され、
描かれるに到ったのだろうか。私としてはそっちの方が気になってしまった。
この本で一番伝えたかったと思われるのは、
この一つの事件に対し、驚くほど大勢の人間が関わっているという事だろう。
2025号室の所有権を持つ人間、そこに実際に住んでいる人間、
競売から競り落とし買受人になた人間、占有をさせた人間、
殺されたおばあさんの家族、殺されたおじさんの家族
殺されたおばさんの家族、殺された青年の生い立ち、
四を殺した人間、マンションの管理人、逃げた容疑者、
容疑者をかくまった人間……と実に様々な人間が犇いている。
まるでその人たちは事件の放射線状にいるような気がするのだが、
実際は、重要な人物が事件から遠いところにいたり、反対である事もある。
事件の経緯と、なぜ人々が事件に加担するに至ったのか、
その「理由」を、一つ一つ近くから手繰り寄せてゆくように、
実に見事な展開で、宮部さんは人間模様を描いてくれている。
ただし、一つの人間としての物語性が乏しいので、
ハラハラ・ドキドキ、面白い、というものを求めている人は、
少し物足りなさを感じるかも知れない。
しかしながら、このリアルな人間模様、他の誰にもまねできまい!
という感じですね、さすが宮部さん。
この「理由」と「火車」は3回ずつ読んでいる。
それでも色あせない思いは、凄いとしか言いようがないですね。

★★★★★*95

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