2010年5月17日 (月)

「アレグリアとは仕事はできない」 津村記久子

アレグリアとは仕事はできない アレグリアとは仕事はできない

著者:津村 記久子
販売元:筑摩書房
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津村さん……どうしたんだ一体……と絶句した本。津村さんの持ち味は
こんな所にないよ、と。わたしは主人公の気持ちがいやんなるくらい
わかったので、なんだかもう、やめてくれよ、って気分になった。そこ
に虚しさを求めるならまだしも、怒りに持っていっちゃだめなんだと。

「アレグリアとは仕事はできない」
ミノベの元に新しく入った品番YDP2020商品名アレグリア、という複合機は、
まるで役立たずの機械であった。新機種であるはずのアレグリアは、
コピーを始めて一分経つと、八秒間エラー音を出し、二分間の
「ウォームアップタイム」に突入する。その間もちろんコピー作業は
中断され、仕事が滞る事になる。この一分働いたら、二分休む、という
様子は、まるで仕事を急いているミノベをあざ笑っているかのようで、
アレグリアの存在はミノベにとって腹持ちならないことであった。
コイツが人間だったら、締め上げてやるのに。しかし、機械にはそんな
ことはできない。先輩などに同意を求めると、「機械なんだから」と
言って、笑うだけだった。ミノベは釈然としなかったが、ある日
先輩が大量にコピーをする日にアレグリアはまたしても不具合を
訴え始めた。納期に間に合わないため、仕方なく手作業になった。
絶望を感じた先輩はその日から会社に来なくなってしまうのだが……。

意味深に進むので、裏側をちょっと期待していたのだが、まったく裏の
ない話で、ずっこけた。一体なにが言いたかったのかよく分からない本
である。もちろん、このスキャナー付複合機のこういった苛立たしさ、
はわたしもそう言う仕事をしているので身に沁みている。
(沖で待つのHDDといい、なんだか嬉しいようで、虚しい共感)
この機械の「よく分からないエラー」や「よくわからない不具合」
ほど、頭にくるものはない。おまけに対応係に任命されたりすると、
「使えないんですけど」と他の社員からまるでわたしが悪いような
文句の口調で訴えられる。ボタンを押してもどうにもならないし、
専門作業員を呼んでも「よく分かりませんね」なんて言われることもある。
じゃあどうするんだよ!という怒りの矛先は、どこにも向けようがなくて、
そうして、誰にでもなく怒っている自分がしまいには虚しくなってくるの
である。と言ったようなことが、物語の9.5割を裂いて描かれているのだが、
ただそれだけであって、「で、どうするの?」についての、物語の
展開がまったくなく終わるのであった。この本については、とても
「苛立つ原因と現状」がくどいほど描かれているけど、その後の
虚しさ、というか、こういった機械に頼りすぎている情けない人間の
事情が足りなかったように思う。津村さん、好きなんですけど、
得意分野はここじゃないと思う。もう一つの「地下鉄の抒情詩」も
かなり面白くなくて、残念だった。あれは何を得るべきだったのか?
読後もよく分からない。地下鉄の中でイライラするのは分かるけど、
それをただ単に描いただけでは、ただ地下鉄でイライラしている人と
変わらないわけで……。そのあとの感情の変化がなく、これも
何を伝えたかったのかよく分からない話だった。

★★☆☆☆*55

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2008年10月 1日 (水)

「婚礼、葬礼、その他」 津村記久子

婚礼、葬礼、その他 婚礼、葬礼、その他

著者:津村 記久子
販売元:文藝春秋
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津村さん、いつか芥川賞取ってくれるのを楽しみにしてるんですが、
たぶんこの本では取れないと思う。……というのも、津村さんの
持ち味である、絶妙な感覚?がこの本には描かれていないから。
うーんこの本だったら、頑張った他の誰かが書けそうな気がするので。

「婚礼、葬礼、その他」
誰かを「招く」という経験を幼い頃からしてこなかったヨシノは、
友人からお願いされた結婚式の二次会の司会に当惑していた。
いつも招待される側の人間である自分が、お客のために、
ハガキを買ったり、スピーチを書いたり、ビンゴの景品を用意をしたり
しなくてはならないのだ。そんな未知の挑戦を前に、
少なからず意気込んでいたのだが、その結婚式の最中、
会社の部長の父親が亡くなった事を知らされた。人数が少ない会社
なので強制参加となった葬式に行き、ヨシノは遠くで行われているはずの
二次会と、この葬式を思わず比べてしまう。
同じ日に行われる弔いと祝辞……変な感じである。

何だかこの本にはイマイチぴんと来なかった。
「君は永遠にそいつらより若い」や「カソウスキの行方」は、
その発想自体が面白くて、新鮮さがあり、津村さんのファンになった。
けれども、この本はある意味誰でも思いつけそうな感じで、
あんまり「絶妙さ」を味わうことが出来なかった。
そもそも、本の大部分を占めている、結婚式と葬儀の対比は、
言われなくてもみんな考えることだと思う。
主人公のようにまさか同じ日に結婚式→葬式と行く人は
かなり稀だと思うのだが、次の日とか、同じ週にとか、
言う人はたくさんいるだろうと思う。だって人は死ぬんだからさ。
とか考えていると、当たり前のことを面白げに書いているように
見えてあまり楽しむことが出来なかった。
けれども、あの葬式のときに不意に思い出してしまった、
自分の祖父母のことが、なぜか離れなくて、
あの一緒にいたゆっくりと流れる時間が今も流れている感覚、
その表現はとても好きだった。子どもの頃は、なぜか時間が長く
感じてしまう、その表現が、滑稽さの中に溶け込んでいい味である。
願わくば、あとは「絶妙な」津村さんの感覚を混ぜていただければ、
文句は何もないのですけれども。もう一冊新刊でてたなぁ読んでみよう。

★★★☆☆*83

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2008年5月25日 (日)

「カソウスキの行方」 津村記久子

カソウスキの行方 カソウスキの行方

著者:津村 記久子
販売元:講談社
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「君は永遠にそいつらより若い」の方が好きでした。
でも、こっちの方が新しいんですよねぇ…うむ。
この作家さんもっと読んでみたいのだけど、全然出してない。
このやる気のなさ加減が好きな人、結構いると思うのだが。

「カソウスキの行方」
本社で勤務していたイリエは、後輩に課長から嫌がらせを受けている、
と相談されたので、一緒に立ち会って部長にその事実を伝えてやった。
もちろんイリエはその事を他人には言わなかったし、
けれど後輩はその立会いの場で、それはイリエの勘違いだと言ったのだ。
何が何だか分からない。折角助けてやろうとした親切心のため、
イリエは地方の倉庫勤務に飛ばされることになった。
そろそろ取り壊されると噂されるその倉庫では、何もいい事などない。
つまらなくて、冴えなくて、だからイリエは
自分が森川を好きだと仮想してみることにした。

あらすじを読むと、何か面白そーと思っていたのだが、
本編を読んでみると、あまりに変わり映えのない展開に、
進展しない結末で、かなり腑抜けた感じに見える小説だと思った。
しかし、そう思ったのだとしたら、きっと作者の意中にはまっている
証拠ではないだろうかと思う。最初から、劇的な変化など、
イリエは求めていない。取り壊し寸前の、みみっちいことばかり、
せかせかとやる職場の、冴えない社員たち。
今までも湧かなかったのに、当然そうなっては、
恋をしてみるような、ちょっとウキウキした気持ちも
生まれるわけはなく、つまらない日々が過ぎてゆく。
だから「仮想的に自分が好きだと思い込む」事によって、
自ら何らかの変化をもたらそうと努力するのである。
まぁしかし、それは上手くいっていないようなのだが。
何ともやる気のない心持に、やる気のないセリフ。
けれど、なんか気持ちが沈んでいるときの自分を、
小説にしてみたら、こんな感じになるんじゃないのかな、
とか思ったりした。劇的な変化は求めてはいない。
けれど、せめて生活に退屈しないくらいの、少しの刺激を、
自分で見つけ出してみるものいいんじゃないのか、と。

★★★☆☆*83

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2008年5月 9日 (金)

「君は永遠にそいつらより若い」 津村記久子

君は永遠にそいつらより若い 君は永遠にそいつらより若い

著者:津村 記久子
販売元:筑摩書房
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何だか女の人の本ばかり読んでるな…と思いつつ。
そう思い始めると、男の人の本を読みたくて読みたくて
仕方がなくなっちゃうんですよね。あぁ誰読もう、横山さんでも
久しぶりに読もうか…ところで、この本良かったです。

二十二歳で処女である私は、どうやら変わり者であるらしかった。
公務員試験に受かり、ぐうたらと残りの大学生活を送っているが、
その生活について問題はない。言ってしまえば問題がないのが、
寂しいくらいのもので、しかしそう感じさせないのんべんだらりとした
私を見ると苛立つ人間がいるらしい。傷を抱えた河北を
気付かぬ致命的な失言で激怒させた私は、そのことをいつも
考えるようになっていた。そんなとき、私はイノギさんに出合った。
毎日見かける人に、まさか声をかける日が来るなんて、と思いながら。
色々な物事が済んだ今、私は無性にイノギさんに会いたいのだった。

このタイトル凄くないか、とか思いながら読んだ。
いや、凄いだろう、明らかにこのタイトル。インパクトありすぎる。
そして話の大部分はタイトルとは全く無関係に進んでいくので、
一体どこでこのセリフは使われるのだろうか、と疑問だった。
結果、このセリフは、最後の方でちらりと、しかし話を締めくくる
感じで登場する。だが、そのポイントが、的を得ているようで、
でも得ていないような気もして、これでいいのだろうか?
と思ったのが本音であった。いや、何かもうちょっとうーん。
このセリフは言いし、言いたい事は凄く分かるのだが、
その根源となるはずの、少年を見つける、という意気込みが、
というか、そう思った衝撃みたいなものが、かなり簡略で、
唐突にそう思ったから、となっているのが原因な気がする。
過去の描写がないのに……平穏が脅かされる恐怖が薄いようで。
少年=自分の幼い頃なのか?、自分の何らかの欠如した部分、
という暗喩で、けれど、一方では生き延びているはずのその少年が、
その支配者を思うとき、自分は彼らより永遠に若い=
自分は世間の柵を作る大人より、永遠に若いのだから、
もう少しして、その大人が死んだら、何か自分にも生まれるはずであると。
その部分はとても好きであったのだが。
この本は一文がとても長いのだが、個人的にとても読みやすかった。
これを三浦さんが審査したんだろうか?とか思うと、
むしろこちらの方が魅力を感じるようで、審査って難しいよ、と思った。
話がずれましたが、さっぱりした女性観で私は好きです。

★★★★☆*88

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