2010年3月 3日 (水)

「整形美女」 姫野カオルコ

整形美女 (新潮文庫) 整形美女 (新潮文庫)

著者:姫野 カオルコ
販売元:新潮社
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姫野さん気づけば結構読んでいるような。これはいよいよ、
『ツ、イ、ラ、ク』読まなくては、かもしれませんね。この性の哲学?
は他では味わえません。ついつい、手にとってしまうのは、作戦に
嵌っているような気がする。しかし他にない、は素晴らしいことだと。

繭村甲斐子は自分の全身に対し思い悩み、整形手術をすることにした。
すべてを『計画』と称しこれから「美人」になるためのプロセスを実行
してゆくのだ。まずはこの大きなバストをどうにかしなければならない。
次は目元、頬、口もと、鼻、それから尻もである。そう説明する甲斐子
のことを、大曾根ドクトルは不審な眼差しで見た。「なぜ?」
大曾根は甲斐子の言葉を理解しようとしなかった。甲斐子が整形をする
必要性を大曾根は見つけることができないのだった。そう、甲斐子は、
大きなぱっちりとした二重瞼に、美しい弧を描く口もと、豊満な胸に、
くびれたウエストをもつ、理想的な「美人」であったからだった。
大曾根の反対を押し切り『計画』を実行しようとする甲斐子であったが……。

「美人はモテるのか?」という命題を元に推し進められる性哲学。
以前読んだ『受難』と方向性が似ている。今回は、ずばり、
「美人はモテるのか?」である。そもそも「美人」というのは、
どういう人物のことをいうのだろうか。モナ・リザや、古代ローマの
彫刻、もしくは世界のトップモデルのような整った美しい顔立ちで、
豊満なボディを持っている女は、「美人」でモテるのだろうか。
答えはノーである。確かに「美人」であるが、本当の美人ではないのだ、
と姫野さんは言う。まず定義として本当に「美人」と言えるのは、
男が好感を持ちセックスをしたいと思えるような女である。
顔を見ただけで、服の下のおっぱいを感じ、やはりセックスをしたいと
思うことができる女なのである。いわゆるそれが「モテる」女という
わけだが、トップモデルのような目鼻立ちがはっきりした女は、
一見美しいように見え、しかし男がそのような感情を抱くことはない。
同じ言葉を発したとしても、顔立ちがはっきりしている分、
印象がキツくなり、好感を得ない。それならば、目立たない地味な女
であった方が、男は安心し好感を得ると言うのであった。
トップモデルのような整った顔から連想されるおっぱいは無機質だが、
地味な女のおっぱいは容易に想像することができるからだろう。
柔らかなふわりとした洋服を着、小さな瞳で上目遣いで男を見ながら、
えぇ、まぁ、そう、えぇ、まぁ、そう、と曖昧な返事ばかりをする、
女の中で「薄汚い女」とされる女ばかりが、男からはモテるのである。
読んでいて、はーなるほど、ふーんそうかだからわたしは……と、
いよいよ自分のことのように読んでしまったが、とても面白い、
美的感覚を覆す効果のある本だった。なるほど、一般の男性は、
美しい女よりも、顔の皮が厚い女の方が好きなんですね……と、
ふむふむ納得し、わたしもちょっとお馬鹿そうに振舞おうかしら、
とか思ってみたりした。きゃぴきゃぴしている女、ついていけないなー
とか思うんだけど、そんなこと言っているから、モテないんだろうな。
と如実に感じつつ、女を「演じる」のも大変だ、と他人事のように思った。
あと、美容整形の賛否についても、(否定が多めだが)書かれており、
とても小説とは思えない充実度である。美女は読んだ方がいいと。笑

★★★★☆*87

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2010年2月 3日 (水)

「もう私のことはわからないのだけれど」 姫野カオルコ

もう私のことはわからないのだけれど もう私のことはわからないのだけれど

著者:姫野 カオルコ
販売元:日経BP社
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久々に母に読ませたいと思った本だった。わたしと母は好みが丸っきり
違うので、好きな本をお薦めしても大抵はずれる。そもそもたくさん
本を読むわけでもないので、そういった本を最後まで読んでくれている
かどうかも怪しいものだ。だけど、この本は読んでくれる、そう思う。

「衣斐さんと、衣斐さんの奥さんのこと」
衣斐さんはいつも笑っている。衣斐さんは笑ったあと、いつも泣く。
衣斐さんの奥さんはいつも怒っている。衣斐さんの奥さんはいつも
怒ってばかりいる。「このぶさいくが」「おめえなんか嫌いだ」
病気なんだってわかっていてもわたしは悲しくなる。
「そうりゃもう、みんなに気をつかって気をつかって、ウチの手伝い
のもんにも細かいとこにも気をつかって、いっつもいっつも頭を下げて、」
「ふしぎね。前とはまるっきり反対の性格になってしまったの……」
衣斐さんの奥さんの昔を知る人は、そんな事を言う。
衣斐さんはわたしにありがとうと何度も言う。「家内の言いよることに
腹が立ったら、ばかやろうと、どうか代わりにわたしに怒鳴って下さい」
衣斐さんはいつも笑っている。衣斐さんは笑ったあと、いつも泣く。

病気を抱えた身内を看病・介護している人たちの心情を、姫野さんが
小説におこした短編小説集である。1話ごとにそれぞれ実在の人物が
おり、末ページにそのプロフィールが載っている。そのことを知り
内容の深さがぐっと濃くなったような気がした。大概、
事実を文字で伝えようとすると、うそ臭くなる。作家がその人を
描くと「その人を描く」という時点で作者の視線や感情が入り、
本物ではなくなってしまうからだ。そこからどんなにインタビューを
して言葉を聞いても、それは本人の言葉ではないように思えてくる。
しかし、この本は違った。小説よりも詩に似た、どこか「呟き」
のようなその一節は、見事に本人を捕らえていた。
「本当は、こんなこと言っちゃいけないの知っている、だけどつらいの。
そうして、つらい、と言ってしまった自分を許してほしい」
そう言った生々しい感情が、ぽつりぽつりと続く文章から
押し寄せてくるのだった。耐え、微笑むような笑顔がちらつく。
介護をするのは大変なことだ。だけど、自分の親でしょ? 
今まで育ててもらったじゃない、世話をしないなんてどうかと思う。
世間はそう思っている。けれど、やってみないとその気持ちは
分からない。介護をしたくない。でも介護が必要になってしまったら、
誰かが行わなくてはいけない。いったい誰が? その夫が、その妻が、
その子どもが。そのことから目を逸らしているから、
当事者になった人間のこころが分からないのだ。こうして伝えて
もらうまで。考えさせられた本だった。秀逸な本である。小説としての
重みはないが、こころの奥に大切な重みを得られる本である。
「受難」の後に読んだら驚愕すると思う。本当に同じ作者なのか? 
と。姫野カオルコ恐るべし。最後の小説は「ヒメノカオルコ」である。
上手く言えないけど、本屋で1話読むだけでもいいから、
ぜひ、読んでほしい。きっと自分と重ねられる話があると思う。

★★★★★*93

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2009年12月13日 (日)

「受難」 姫野カオルコ

受難 (文春文庫) 受難 (文春文庫)

著者:姫野 カオルコ
販売元:文藝春秋
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人の立ち入らない境地に踏み込む勇気があれば、何でも出来る気がする。
むしろ超えてしまったがために、たがが外れるのか、
そもそもなぜこんなに重要なことに誰も手を触れないのか、と、
疑問にさえ思えてくる。これを読み、頷く女はたくさんいるに違いない。

修道院で育ったフランチェス子は、貞操を守り慎ましく生きている。
豪華なものを持ったこともなければ、福引で当たったプラダのバッグを
被災地へと寄付したくらいだ。そんなフランチェス子の腕に、ある日
突然人面瘡ができてしまった。一見痣のようだが、人の顔をしている。
その上なんとフランチェス子に話しかけてくるのである。
キキキキ、と下品で卑猥な笑いを繰り返す人面瘡は、
翌日フランチェス子の秘部へと移動していたのだった。
「俺がいても、お前のここは使われることはない。このダメ女め」
人面瘡はフランチェス子は貞操を守っているのではなく、
守れてしまうような男にとって魅力のない女なのだと貶し続けた。
自分が女として無能なことを認め始めたフランチェス子は、
人面瘡を「古賀さん」と名づけともに生活してゆくことにしたのだが……。

なんか、もう言うことはない、と言う感じである。
女友だちに、ただ「いいから読め」と言って渡してみたい。
卑猥という、そういうものを通り越して、ああ愛とはそういうものね、
という悟りを感じさせる内容であった。まぁほぼギャグなんだけど。
女として微塵も魅力がないフランチェス子は、古賀さんに取り付かれ、
自分のダメ女加減を知る。触るだけで男を萎えさせるだけではなく、
道具を破壊してしまうほどの特異体質なのであった。
本当は豊満な体を持ち、顔も悪くないはずなのに、
彼女の何が魅力を打ち消しているのか? 裏を返せば、「もてない女」
はなぜいるのか、という疑問のつきつめた本でもあった。
男は、女を見れば興奮するはずなのに、なぜかそう思えない女がいる。
あるいは顔や態度を隠してさえいれば、大丈夫なのになぜなのか。
女の「女たる態度」を放棄した女は、もはや女ではなく価値がない。
女であるためには、男が好くとされている女の行動パターンを模し、
すべてのパーセンテージの真ん中を行けば完璧である。
男は寄ってくるだろうし、女でいることが出来る。しかし実際は、
多種多様のもてる女ともてない女がいるわけで、結局のところ、
誰かを好きになる、という感情の変化により、「女」というものが、
生まれるのではないか、と纏まっているように思える。
最後、フランチェス子は古賀さんと上手くいくわけで。
通り越えてしまえば、誰も立ち入らない境地で佇むことは、
案外気持ちがいいことなのではないか、と感じる。
何たって、楽しい本なので、卑屈さなど必要ないのだと。
まぁ、エロス注意、ということで。電車では読まないほうがよいかと。
それにしてもキリスト教と筋肉少女帯のミスマッチ具合が最高です。

★★★★☆*86

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2007年8月 4日 (土)

「蕎麦屋の恋」 姫野カオルコ

蕎麦屋の恋  /姫野カオルコ/〔著〕 [本] 蕎麦屋の恋 /姫野カオルコ/〔著〕 [本]
販売元:セブンアンドワイ ヤフー店
セブンアンドワイ ヤフー店で詳細を確認する

「ツ、イ、ラ、ク」で撃沈して「あぁ姫野さんとは分かり合えない気がする」
と密かに思っていたのですが(笑)この本は素直に面白かった。
短編集なのですが、姫野さんの短さ特有の纏め方みたいなのが、
とても好きでした。とりわけ「蕎麦屋の恋」がいいですね。

「蕎麦屋の恋」
製薬会社に勤める秋原健一は、とりわけ優れた魅力もないのに、よくモテる。
43歳で結婚もして子供もいるのに、引く手数多、
娘と同じ歳の女から、8歳も年上の女にまで……。
しかし、好意を寄せられる反面秋原は、好きと言う感情を持てないのだった。
おざなりの感情で廻る恋情、そんな時、秋原は一人の女性に出会う。
恋愛とは程遠い、愛に醒めた女・妙子に。
二人は蕎麦屋に入りテレビを見、そしてラブホテルに入ってテレビを見る。

この話、絶妙である。
一見何もなさそうなところに、愛はそっと潜んでいる、
何だかそんな事を考える作品だった。
そうか姫野さんはこういう作家だったのか、とちょっと嬉しかった。
「蕎麦屋の恋」の主人公・秋原はとりあえずよくモテる。
振り返れば、至る所に恋愛が転がっているのだが、彼はそれを取らない。
不本意だからなのか、まぁむしろ妻がいるという体裁上なのか、
秋原はなかなか紳士な男に描かれている。
しかし、一度犯してしまったちょっとした不倫の動機が、
あまりにも不明瞭で、そしてそこには愛はないのだと自分でも気づく。
そんな中現れるのが、もう一人の主人公・妙子である。
コタツとテレビが好きな女、はっきりいって変わり者だ。
一緒にテレビを見て楽しむ事が出来る人、それこそが真に愛しい人だと、
彼女は信じているのだった。変な人、そう感じる人物設定だが、
その裏には、幼少期にテレビをずっと一人で見ていたという、
少し切ないエピソードがあり、妙にリアリティが沸いてくる。
オマケに話の中にはコタツやテレビなんてほとんど重要性が無いのだが、
それを感じさせないほど、馴染んだ自然な存在感を生み出している。
姫野さん凄いなぁ、と思う。これで突拍子もなく出てきたら、
私は辛口コメントしているところだが、この絶妙な配合がとても素敵だ。
結局は何も起きない二人…いや、二人はラブホテルに入り、テレビを見た。
そして、いつもの「快特」に乗って帰ってゆく。
二人はキスもしなければ、セックスもしない。
だが、どうだい、この親密感と愛しさはと聞かれる、
清々しいような、じんわりと心が和むような、温かい気持ちになった。
姫野さんの本は短編が合っているようなので、また読んでみようと。
そしていつしかあの「ツ、イ、ラ、ク」を制覇したい…!

★★★★☆*90

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