2009年11月25日 (水)

「SPEED」 金城一紀

SPEED (The zombies series) SPEED (The zombies series)

著者:金城 一紀
販売元:角川書店
Amazon.co.jpで詳細を確認する


最後は必ず勝つとわかっていても、泣けるストーリーがある。
とか言うと、「勝たない話に意味はない」と一蹴されそうだが、
まぁそんな話。とても楽しいのだけど、マンネリを感じなくもない。
やっぱり勝ってばかりじゃ、それは嘘だと嘆く心が現れるのか。

家庭教師の彩子さんが自殺をした。憧れていた女性なだけに
ショックを受けた佳奈子は、彩子の知人である中川に事件の真相を
尋ねるため喫茶店で待ち合わせをした。実は彩子さんの自殺には
心当たりがあった。彩子さんは不倫をしていたらしい。
小さいけれど、証拠もある。話を切り出そうとしたが、しかし
中川は取り合ってくれず、もう忘れた方がいいと言い始めた。
煮えきらなかったが帰宅しようとしたところ、何者かに襲われ空き地
に連れ込まれてしまう。絶体絶命のところを、偶然居合わせた
不良高校生――朴舜臣たちに助け出された。どうやら襲ったのは
中川の手下の生徒たちらしかった。中川の目的は? 
調べ始めるうち中川の大学内で蔓延する、悪質な金の動きを知る。

ゾンビ3巻目。楽しかったのは嘘ではない。駆け抜ける疾走感と、
窮屈な箱の中から抜け出す開放感を十分に味わうことが出来た。
少し残念だったのは、やはりマンネリ、と回想である。
マンネリは必ず勝つに決まっている、という結末に始まるのだが、
絶対に上手くいくに違いないと言うシンデレラムードが、
その原因のように思える。そのため、今回は話の一番最初に
フェイントとして朴舜臣がやられてしまう?! みたいな記述があり、
ハラハラさせるという仕掛けが施されていた。でも、結局
本の九分目でようやく襲われるので、きっと上手くいくだろう、
と分かってしまいやっぱりシンデレラ路線だった。最後に
必ず勝つのが悪いわけではない。推理小説だって、最後は必ず解決
するんだし、解決しなかったら気持ち悪い。犯人に逃げられた、
と言うオチもあるかも知れないが、最後は安泰の結末がある。
と、考えると、最後に勝つのが悪いのではなく、最後まで負ける気が
しないのがいけないのだと思う。という感想を持った本だった。
もう一つは回想シーン。前2巻の内容をちょこちょこ小出しにしている
こと。前の巻を読んでいないと分からない、という仕組みである。
人間は過去の積み重ねで生きているから、過去を思い出すのは当然で
ある。けれども小説でそれをやられると、何だか違う気もするのだった。
ここまではっきり書かれていなくても、もっとさり気ないニュアンス
で出したとしても、シリーズ好きのファンはきっと覚えているし、
気づいてくれるだろう。それをわざわざ語ってしまうのは、
恥ずかしいような、くさいような、そんな感じがした。
あと、悪いやつの名前が全部某政治家の名前で失笑である。
と、いろいろ文句を書いたけど、面白いことには変わりはない。
わたしも女子高だったので、佳奈子と同じ思いを味わうことができた。
はみ出てはいけないという拘束。そんなもの、いらないのである。
わたしもスピードがほしい。読み終わり素直にそう感じた本だった。

★★★★☆*87

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2009年11月 5日 (木)

「フライ,ダディ,フライ」 金城一紀

フライ,ダディ,フライ (角川文庫) フライ,ダディ,フライ (角川文庫)

著者:金城 一紀
販売元:角川グループパブリッシング
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金城さんの文章は冷たい。余分な情けがなく、事実をズバリと記す。
目を逸らしたくなる事柄を避けずに真っ直ぐ、あるいは被害妄想気味
に描きなら、けれどなぜが涙を流してしまう。悲しいからか?
いや、いつの間にか胸に熱い思いが込み上げてくるからである。

娘が暴行を受けて入院した。病院に駆けつけてみると、
顔面を殴られ怪我した娘が力なくベッドに横たわっていた。
殴ったのは隣の学校の男子生徒である。殴られた理由を求めたが、
男子生徒の学校の教師たちに金を掴まされ、事を大きくしないようにと、
釘を刺された。憔悴しきった私であったが、ある日テレビを見ていたら、
暴力を働いた男子生徒がインタビューに出ており息を飲んだ。
なんとボクシングの期待の星なのだと言う。怒り心頭した私は、
家の包丁を持ち出すと男子生徒の学校へ乗り込んでいった。しかし、
上手くはいかなかった。呆気なくつかまり、おまけに侵入した学校は
隣の学校であった。男子生徒たちに事情を説明した私は、朴瞬臣という
韓国人から、倒すため体力づくりを指導してもらう事になった。

正義は必ず勝つに決まっている。金城さんの小説もまたそれである。
会話の中にも出てくるが、勝たなければ意味がない、と言った
強いポリシーの持ち主である。ので、話は簡単に読めてしまう。
どうせ勝つんでしょ、みたいな。それと、「レボリューションNo.3」
の続編と言いつつ、主人公は高校生の娘を持つオッサンである。
今までの軽快な口調から一遍、社会に縛られた堅苦しい語りになり、
ちょっと残念な気持ちで読み始めた。あの高校生の、陽気な「僕」を
感じ、共感を得たかった。しかし、読み始めると、舌を巻いた。
いつの間にかオッサンの気持ちが手に取るように分かるのである。
わたしは娘を持ったことなどないが、何かのために歯を食いしばる
その心が、とてもよく伝わってくるのである。それに今までの
登場人物たちの活躍もいい味を出している。特に朴瞬臣の、
知られざる過去なども少し出てきたりして、前回のファンも、
大いに楽しめるようになっていた。金城さんは人が頑張り、
そして何かが叶う、という達成感を描くのがとても上手い。
それと同じく、何かが叶わなかった悔しさと、その立ち直り方の
描き方が上手い。なぜオッサンが木登りをしただけで、
または山下が病室を訪れただけで、私たちは涙を堪えなければ
ならないのだろうか。上にも少し書いたが、金城さんの文章は冷たい。
容赦がない。刻々と語られる言葉には、しかし温かい血が流れている。
読んでみればわかるから、そして絶対面白いから、読んでみてほしい。

★★★★☆*87

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2009年10月18日 (日)

「レボリューション No.3」 金城一紀

レヴォリューション No.3 (角川文庫) レヴォリューション No.3 (角川文庫)

著者:金城 一紀
販売元:角川グループパブリッシング
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これは凄いぞ。あんまり面白かったんでぐぅの音もでないぞ。
そう言えば「SP」の時も褒めちぎっていたな私。
どうやら私は金城さんが大好きなようです。もっと早くに読んでおく
んでした。それにしてもこれがデビュー作なんて向かう所敵なしだな。

新宿区の一角には、総理大臣や高級官僚をわんさか輩出する有名高校が
なぜか集まっている。その中で陸の孤島のごとくたった一校だけ存在
しているのが、オチコボレ高校、僕たちの高校である。優秀な彼らは、
僕たちのことを『ゾンビ』と読んでいるらしい。その由来は、
僕の高校の偏差値が、脳死と判定されてしまう血圧値ぐらいしか
ないことからきている。もう一つは、「殺しても死にそうにないから」
反面、僕たちはヒーローには不可欠な資質を備えているというわけだ。
そんな僕たちには一年に一度の一大イベントがある。
僕たちの高校の近所にある「清和女学院」の学園祭に潜入するのだ。
去年、一昨年と失敗が続き、今年は屈強な男子運動部員を、
警備に雇っているらしいと噂だ。僕はさっそく策を練り始めるのだが……。

金城さんと言えば、反日、なイメージ。今回もこめかみに謎の傷がある
韓国人舜臣やハーフのアギーなどの「日本人」ではない人間と、
彼らに対する「日本人」の偏見、というかむしろ差別的な態度、
というのをかなり極端に書いている。ご本人も韓国系日本人とのことで、
きっとご自分で受けた被害などが反映されているのだろうと思う。
しかし戦争を実際に知る人が減っている今、根本的な原因であった、
「日本人」の韓国人に対する差別意識が薄れてきているように思う。
今の若い人たちは、なぜ韓国人をそんな風に扱っていたかすら
知らないのだから。事態は逆転するか? 韓国人が嫌っているから、
こちらも嫌ってやる、といった攻防戦に発展していくのではないか。
勿論過去の差別意識は許されないことだろう。けれども、
どこかで解かれなければ、解決は訪れない。難しい問題である。
で、話は逸れたが、この小説は大変面白い。オチコボレ高校生たちの、
「世界」を回す大作戦。頭が悪いことの、何が悪い、と逆ギレ上等の
乱闘劇。やられてやられてボコボコになり、それが何だと殴り返す。
青臭くしかし、爽快で、少し照れくさい、青春をたっぷり味わう
ことが出来る。なぜ自分たちがここにいるのか。それはよくわからない
けれど、この仲間に会えたなら、捨てたもんじゃないと思うだろう。
金城さんは笑いを作る時の間がとても絶妙で、感服するばかりだった。
私のツボにかなりヒットしているので、たぶんほとんどの
ボディーブローを正面から受けたと思う。とか、なんとか。
あとアクションシーンの的確な描写にも感服。大変分かりやすい。
面白いので、ぜひ読むべし。ゲラゲラ声をあげて一気に読み上げ、
お茶を飲んでゆっくりしたら、頭の隅に残る反日について、
じっくり考えたらいいだろう。それにしてもこれがデビュー作って、
感嘆だな。向かう所敵なし、というか、きっと、防御に防御を重ね、
武装に武装を重ねて、さて出陣と思ったら、敵があんまり弱かった、
とそんな感じだろうか? だって金城さんのコメントを読んでいると、
いつも不満そうなんだもの。もっと強いやついねぇのかよ、ってさ。
下克上、起こしてみればいいのになぁ、とか。期待しています。
私も武装しよう。

★★★★★*94

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2008年5月30日 (金)

「映画編」 金城一紀

映画篇 映画篇

著者:金城 一紀
販売元:集英社
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すみません、最近更新がままならない……。
読書も若干サボり気味です。読みたい本はたくさんあるのだが。
この本は予約してようやく読んだのだけど、
何だか期待していたのとちょっと違って…いや、よかったけどね。

「太陽がいっぱい」
在日朝鮮人である僕は、昔民族学校に通う中で龍一とであった。
生真面目でいつも教室の隅にいるような僕と、
中心で賑やかに騒ぐ龍一には、接点などなかったが、
あるときから、映画に夢中になり意気投合した。
家族に欠陥を抱え、常に虐げられている僕たちにとって、
アクション映画の主人公はいつもヒーローだった。
二人は、気に入らない結末を書き換えてしまうのが好きで、
だから僕はこうして物語を書く仕事に就いた。
そして大人になった僕は、龍一の結末を物語のように書き換えるのだ。

金城さんシナリオ本しか読んだ事がなかったので、小説は初めてでした。
結果、読みやすい。読みやすいのだが、残念ながら
私の好きな文章ではなかった、と自分の趣味と比べてみたりして。
申し訳ない。物語もとても納得できるし、楽しめるものなのだが、
何となく共感しがたい、というかそんな気持ちになる工程が、
複雑で気持ちが追いつかない、というか、そんな感じがした。
特に印象に残っているのが、「太陽がいっぱい」である。
金城さん自身も在日朝鮮人(韓国?)であることから、
ストーリーはとてもリアルで、ラストはとても切なかった。
そうか、韓国の文化を自然に覚えている人間が、
日本に立つと、こんな気持ちになるのか、
と今まで想像でしかなかった感覚を知ることが出来る。
あと、映画の本数には驚いた。きっとこの小説に出てくる、
映画を金城さんは全部観ているんだろうなぁと思うと、
凄い、という一言に尽きる。そこから得られる何かについても、
やはり凄いな、と羨ましいという思いがしたのだった。
けれども、物語については、私にとって何だかちょっと……
と思ってしまうものが多くて、というか、むしろ映画で
自分の人生が上向きになっちゃうよ、みたいな
ポジティブな感情がないからかもしれないのだが。

★★★★☆*86

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2008年3月11日 (火)

「SP」 金城一紀

SP SP

著者:金城 一紀
販売元:扶桑社
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500ページ強あるというのに、徹夜で読み終わらせました。
あ、ちなみに昨日買いました。いやぁめっちゃ楽しかったです。
ドラマ「SP」に夢中だった方、是非読むべき。
しかし一つ注意点は、これはシナリオ集です。小説ではありません。

現総理大臣が、その昔選挙の際画策した出来事により、
幼い頃、駅前の路上で両親を殺害された井上は、
目の前の惨劇のショックから、特殊な能力を手に入れる事となった。
意識を集中させ、辺りを見回すシンクロ……それだけで、
どんな些細なことも見逃さず、記憶することが出来る。
SP(Security Police)いわゆる要人護衛職を志望し養成所に入ったが
そのずば抜けた能力を買われ、尾形によって即座に起用された。
要人を守り神経を尖らせるたび、井上の頭には、
幼い頃見た惨劇が思い出される。それは日に日に強くなり、井上自身が
苦しみ始めた頃、やって来た仕事は皮肉にも総理大臣の護衛だった。

しかも、サイン本である。何が「しかも」なのか自分でも分からないが、
こんな楽しい本にサインがしてあると言うだけで、私は幸せだ。笑
正月特番で深夜やっていたドラマSPに母とはまり、
朝5時までやると言うのに、二人で真剣に見てしまった。
その後も、続けてみていたのだが、何とまぁ、さすが私と言う感じで、
最終回だけバイトのために見逃してしまっていた。
見損なってから、私は自分をアホだと責め続けていたが、
この本を読んで、ようやく自分を許すことが出来た……。
ところで、冗談はさておき(いや、九割本当だが)、
この本はシナリオ本としては、最高級の位置にあると思う。
金城さんがあらすじを書き、監督やプロデューサーの指摘などを
手を加えられ、ドラマに即したものになっている。
何と言っても舌を巻いたのは、金城さんの無駄のない的確な文章。
多いわけでもなく、少ないわけでもなく、絶妙な情報量で、
配役の行動が書かれているため、たとえ映像を見たことがなくても、
手に取るようにそれを想像することが出来る。
おまけに演じる役者にとっても、それはかなり親切設計だ。
無理な描写はなく、キャラクターを描く輪郭だけが、
スマートに描かれているから、そこに自分のアドリブ的なものを入れ、
演じることが出来るようになっている。
もちろん、金城さんは、配役が誰だか知っていて書いているので、
その俳優・女優にかなりマッチした動き、セリフなどで、
どれをとっても完璧であった。
それと、シナリオの下段に、金城さんの呟きが書かれている。
これがまた面白いのだった。あそこは実はあぁしたかった、とか、
あのギャグいけてない、とか、諸般の事情でこうなりました、とか、
実はあの映画のあのシーンをイメージして描きました、とか、
舞台の裏話が、こっそりと呟かれているのである。
ここに面白さを感じられるのは、金城さんが撮影現場に何度も足を
運んだんだろうな、と分かる真剣さや、追求するものの品位が、
とても高いためだろうと思う。この本の感じ、というか、
物語のラストを見てみても、SPはまだ続きそうである。
とても楽しみ。そして今度こそ見逃さないようにする。笑

★★★★★*95

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