2010年3月22日 (月)

「MISSING」 本多孝好

MISSING (双葉文庫) MISSING (双葉文庫)

著者:本多 孝好
販売元:双葉社
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そうそう、この頃が好きだったんだけど、な本でした。2002年か……
もう8年前になるんですね。最後に収められた『彼の棲む場所』という
物語からも、今の本多さんのテーマ「正義」を感じました。何が正しく、
何が間違っているのか、正解はなく、しかしそのぶん物語も虚無になる。

『蝉の証』
僕はときおり『緑樹荘』という介護施設へ向かう。その名前とは裏腹に
新鋭さを感じられないその場所には、祖母が一人、暮らしていた。
家族がいるというのに介護施設にいる祖母に、僕は毎回一緒に暮らそう、
と声をかける。しかし、当の僕にも祖母にも、ここを出て一緒に住む
気などさらさらなく、いわばそれは来客に出す茶程度の、挨拶なのだった。
祖母は先日自殺をした老婆の話をした。孫に騙されていると知った
その老婆は、金を渡した後、自ら命を絶ったという。また、
同じ部屋にいる相川という老人に、最近若い男が見舞いに来るという
話しを始めた。自殺した老婆のようになられては困ると、
祖母は相川さんについて調べて欲しいと僕にいうのだが……。

人が作る作品を、一生好きでい続けることは無理だ、という話を
友人としていた。例えば、人が10年間作品を出し続ければ、
人が10年ぶんの変化を得るように、その作品たちにも、
10年ぶんの変遷がある。1年目に好きになり、2年目3年目も
好きだった、けれども4年目は好きかどうか分からない。その時は共鳴
していた2人分の思考が、時を経るごとにすれ違ってしまう。
これは仕方のないことだ。だけど、一つだけ言えることがある。
それは10年経った今も、1年目の作品を好きでいること
ができる、ということである。時が経っても変わらないこと。生きる
ために何を残したか、ということ。まぁそれ以前に、再び2人の思考が、
新たな接点で共鳴することは十分にあり得ることだけれど。
と、余談が半分を占めてしまったが、わたしはこの頃の本多さんの
作品が好きだった。もちろん今もこの作品が好きである。そして、今の
「本多さん」は好きだが、今の「本多さんの作品」は好きではない。
また再び共鳴したらいいなぁ、と思い読み終えた。この本は、
「何かをなくした人」たちの物語である。特に良かったのは、
「蝉の証」だった。自分の死というものの代わりに、誰かの心に、
死後も生き残っていたい、という浅ましい心。自殺をすると、
周りの人間は衝撃を受ける。自分のせいで、と悩む。そして、心に残る。
決して美しくないその「残る」という事実を、しかし、まったく誰にも
記憶されずに消えてゆくより、幸福だと思ってしまうのだと。
誰かに、時折思い出してほしい、そう思うことさえも罪なのか。
本田さんは、誰もが持つ、心の奥のくすんだ感情を、
するりと差し出してくれる。いつもみんなはそっと隠しているから、
それを受け取った時に、ハッと息を飲んでしまう。あぁそうか、
そう思っていたのは、わたしだけではなかったのか、と思う。

★★★★☆*87

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2009年11月17日 (火)

「チェーン・ポイズン」 本多孝好

チェーン・ポイズン チェーン・ポイズン

著者:本多 孝好
販売元:講談社
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本多さん久しぶりでした。1年半ぶりくらいかな。なんだか、
あぁ、こういう作風だった、と思うようでもあり、あれ?
こんなの書く作家だっけ? と疑問に思ったりもした。
うーん……テーマは好きなんですけど、ストーリーが何とも。

もう人生に疲れた。十七年もいるのに、雑用ばかり押し付けられる
会社も辞めた。最初のうちは羽を伸ばせたと、何もない一日を嬉しく
思ったが、それも数日で終わった。私には何もない。
もう死にたい。いつしかそう考えるようになっていた。
することがなく疲れ果てた私は公園のベンチに佇んで死にたいと呟いた。
「本気ですか?」背後から突然声を掛けられ振り返ると、
そこにはスーツを来た一人の男性が立っていた。
「本気で死ぬなら、一年待ちませんか? 
その代わり、一年頑張ったご褒美を私が差し上げます」
男は不思議な事を言う。私は立ち去った男の言葉を思いながら、
それを信じあと一年だけ生きて、楽に死のうと思った。

テーマに申し分はない。自殺願望者の前に現れる、謎の男。
思いつめた、彼、彼女たちの前で、死ぬのをあと一年だけ待って
みないか、という。そうしたら、楽に死ねる方法をあげようと。
予想はつくが、死にたいと思っていた人間が、人と触れ合うことで
その願望が薄まり、もう少し生きてもいいのではないかと思えてくる。
一年ではなく、それより先の自分を想像できるようになる。
そう言った上昇する感情が良かったように思う。けれども、
もう一つの視点である雑誌記者の推理がとても微妙だった。
物語は死ぬ本人視点で最初に進むため、読者は真実を知っている。
しかし、雑誌記者はそれを知らないはずなのに、
妙に早く「一年間だけ死ぬのを待ったようだ、それはおかしい」
などと言い始める。普通これだけのヒントでは気づかないのではないか
と、思ったりした。書いている人(作者)は一人なので、
仕方がないと言えば仕方がないが、ヒントの出し方の順番が違ったり
すれば、もう少し楽しめたように思う。例えば、保険金とか。
多分自殺じゃないかと疑われる時などは、保険金を最初に確認される
のではないだろうか? 誰かに保険金を掛けられて死んだのでは
ないだろうか、とかそういう道もあるからだ。この物語でも、
保険金を掛けており、おまけに施設に寄付されるようになっている。
ということは、そう言った履歴が保険会社に残っているわけで、
それを見れば消息がすぐ分かるはずなのだ。というようなところから、
間延び感が出ていて、残念に思った。と、最近ミステリばっかり
読んでいるので推理の仕方にうるさいわたし。すみません。
なんだか昔の方が好きだった気がするんだけど……これが書き下ろし
だからだろうか……ただ今『WILL』予約中。でもきっと読めるの来年だな。
最近の本多さんのテーマは「正義」みたいですね。法律もっと詳しく
書いて欲しいです。法学部卒として堅い小説楽しみたい今日この頃。

★★★☆☆*86

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2008年3月19日 (水)

「ALONE TOGETHER」 本多孝好

ALONE TOGETHER (双葉文庫) ALONE TOGETHER (双葉文庫)

著者:本多 孝好
販売元:双葉社
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はっきり言って、どんな状況なのかよくわかりません。
かなり残念なパラレル小説。もったいないもったいない。
なんで本多さん書いてるときに気づかなかったんだろう…。
不思議でしょうがないくらい、描写が欠けています。

僕は父に母を殺された。
そんな事実を僕は誰にも打ち明けることなど出来ず、
心の闇と共に大事に守ってきた。
父は先祖代々繋がる「呪い」によって母を殺したが、
その「呪い」は当然のごとく自分にも備わっている。
相手が無防備な感情を見せた瞬間、僕はその相手と同調する。
心の澱を吐き出し、詰まった思いを緩和する。
しかし自身の思いはつのるばかりで、決して軽くなることはない。
他人の悲しみを詰め込み満たされてゆく僕は、
果たして誰かと本当に触れ合うことが出来るのだろうか。

冒頭にも書いたのだが、「状況」が全然描かれていない小説である。
この主人公・柳瀬は、特殊能力により、
他人の心に同調することが出来、また気持ちを導くことが出来る。
しかし、その能力を発揮するとき、どのような状況になっているのか、
まったくもって、よくわからないのだ。ところどころ、「箱のような」
みたいな説明があるのだが、描写が少なすぎて箱って一体なんだよ、
みたいな感じ。まぁ、私の想像能力が乏しいのかもしれないが、
それにしても「人は誰しもバリアーを持っているのだが、
それは箱状のものであり、僕がそこをすり抜けると…」
くらいの説明はつけてほしいと思う。その能力が発動すると、
背景はなくなってしまうのか、周りの人間にはどのように見えるのか、
書くことはたくさんあるはずで、たとえ毎度それを書かないにしても、
非日常を書くときは初回のときの描写は気をつけるべきでは?と感じた。
内容は…というのも、主人公が相手を諭すと言う状態が、
これまた曖昧すぎてよく理解できない。一瞬、相談室で相談に
のっていて、柳瀬の力により有無を言わせないというような状況
なのか…?と思うのだが、どうやら違うようで、柳瀬は鏡と化すことで、
相手は相手自身を見つめて話している、ということらしい。
そう分かるのがラストのあたりなので、正直「おいおいおい」という
呆れた感じだった。うーんこれは最初にあるべきでは?
まぁ、うんえーと。本多さんは好きですよ。毎度言いますが。笑

★★☆☆☆*72

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2007年12月16日 (日)

「正義のミカタ」 本多孝好

正義のミカタ―I’m a loser 正義のミカタ―I’m a loser

著者:本多 孝好
販売元:双葉社
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まず一言目は、「本多さん、イメチェン成功おめでとう!」です。
いやはや、かなり失礼な発言ですが、今までの本多さんの雰囲気を、
がらりと変えた作品です。私的に表すと「東京版・鴨川ホルモー」
だからと言って、面白いか…というと非常に微妙なところなんですけど。

高校で流行っていたのは、僕を張り付けの刑にし、
殴ったり蹴ったりする、という遊びだった。
繰り返される暴力に耐え、僕は誰も進学しないような大学に行く事を決めた。
死ぬ気で勉強し入学した大学だったが、周りを行く人は全て敵に見えた。
この中にはいじめっこが二割、いじめられっこが二割…
頭の中で生粋のいじめられっこである、自分の身の置き様を考える。
そんな時、僕は「正義の味方研究部」という奇妙なサークルに出会った。

問題なのは、話の途中から目指す地点が変わること。
「何が正義なのか分からない」というは、永遠のテーマだと思うのだが、
結局「何が正義なのか分からない」という結びで終わっているため、
「何か得た」という感じが、かなり希薄である。
そのため、主人公がいじめられっこという下位層から抜け出す、
という目的と、「何が正義なのか分からない」という混沌とが
ぐちゃぐちゃになってしまい、本当に言いたかった事がこれでもかと曖昧だ。
と、言うのも、「本当に言いたかった事」ということ自体が、
言葉や規律や法律で定められないような事柄だから仕方ないのだが、
そうすると、最初の下位層から抜け出す、という目的がうやむやになり、
主人公は、「それでも僕はダサいなりに…」なんて言いだして、
堂々巡りをしているじゃないか、と言うのが感想だった。
最後に部長が主人公を蹴るシーンはとても不快だった。
現実はそうかもしれないが、あの描写はちょっと行き過ぎてる気がして白ける。
そして最大の理由が、主人公が中盤からもうすでに正義を疑っている。
間先輩が10万くれた時点で、明らかに怪しいと気づくはずだ。
というか、読み手は絶対気づく描写になっているのに、
主人公がまったく気づいていない、みたいな風に進んでいくので、
個人的に読んでいてイライラした。ばれない伏線ならいいが、バレバレなのだ。
売りさばく物も、「大学といったら大麻かな」と予想がつくのに、
「え?!大麻ですか」みたいに驚く様子がかなり白々しい。
なんだか知っている事を、手取り足取り説明されている気になるのだ。
まぁ、これも個人的なところかもしれませんが…。
全体的には、今までの本多さんとは思えないくらい、
文章がかなりポップになっていて、リズミカルに読める。
その点では、イメージチェンジ大成功、正反対の執筆スタイルで斬新だった。
若干、森見さんや、万城目さんの売れ筋傾向に便乗したのだろうか、
とも思ったが、それを差し引いても、良い雰囲気ではあった。
って、私いつにも増して上から目線ですが…本多さん好きなので、
そこだけは間違えないよう、お伝えしておくとします。次回に期待。

★★★☆☆*84

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2007年9月16日 (日)

「FINE DAYS」 本多孝好

FINE DAYS (祥伝社文庫) FINE DAYS (祥伝社文庫)

著者:本多 孝好
販売元:祥伝社
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本多さん四冊目、短編集です。
うーん、相変わらず言い回しが古臭くてくどいです。
いや、それがとりえなのだし、いい味なのかもしれませんが、
春樹派の私としては、二番煎じに見えてしまうというか…。

「イエスタデイズ」
父親と衝突し、家出をしてから約一年。
その間、家族とは一切連絡を取らずにきたのに、
突然父親から呼び出された。今更何の用だっていうんだ?
不機嫌そうな僕に父親は言った。「昔の恋人を探して欲しい」
僕は鼻で笑いながらも、死にゆく彼の姿を直視できなかった。
余命三ヶ月…そりが合わず大嫌いな父の恋人を探しに、僕は歩き出す。

「MOMENT」の時はさほど感じなかったのですが、
今回の「FINE DAYS」は言い回しのくどさを感じました。
うーむ、最後の「シェード」なんかは前半で飽きてました。
本多さんの話のくどさで語るなら、もう少し魅力的な話ではないと、
読み手は飽き気味になるのではないか、と思いますね。
それがそれが、あまりシンクロしていない過去話だったので。
とりあえず一番良かったのは、さきほどあらすじをかいた
「イエスタデイズ」かと思います。
絶交したはずの父親が急に自分を呼び出した理由は、
昔の恋人を探せという、馬鹿らしい相談だった。
しかし、あまりに性格不一致な父が、昔どんな女性を好きだったのかが
気になり、主人公は結局探しに出かけるのだ。
そして、行方知れずの女性を訪ね、入ったボロアパートの中…
そこには昔の父と、それから恋人が仲睦まじく暮らしていた、と。
この話のいいところは、最後はハッピーエンドではない事だ。
仲睦まじく暮らしていた二人だったが、ここに自分がいる限り、
この二人は上手く行くはずがないのだ。
あまりにお似合いの二人のために、自分の存在を掻き消す覚悟、
なるものを主人公が考えるところが切なかった。
勿論、一人の力で未来なんて変わらないのかも知れないが、
その微妙な葛藤はラストを知っているだけに、より悲しみを増すのだ。
私は「奇跡的な生還」とか「超能力の奇跡で感動」というものが、
とても嫌いである。しかし、この本多さんのさじ加減は絶妙で、
全くいやらしくない。一瞬だけ見た夢…あるいは夢オチなんてもの、
なのかもしれないが、その「夢」が人のためであるというのがポイントだ。
本多さんの主人公は誰かに気を使って、生きているから素敵である。
しかし、一つ問題なのは、女性が魅力的ではないこと。
「FINE DAYS」でも分かるように、「男っぽい女」しか本多さんは書けない。
淑やかな女性の心というのが描かれておらず、どこか他人行儀で、
いつも主人公のそばにいるのは、ボーイッシュな女の子。
実際言葉遣いであっても、こんな女はそうそういないだろう、と私は思う。
そこが、少し残念なんですよね、とか文句を言って終わらせておきます。

★★★☆☆*82

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2007年7月12日 (木)

「真夜中の五分前 side-B」 本多孝好

真夜中の五分前five minutes to tomorrow side-B 真夜中の五分前five minutes to tomorrow side-B

著者:本多 孝好
販売元:新潮社
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私はAの方が好きでした。
なぜなら「超常現象の奇跡」っていうのが凄く苦手だからです。
だから市川拓司とかだめなんだと思うのですが、
「site-B」は全体的にうーん…と言った感じでした。

二年前出合った、僕の愛していた女が死んだ。
彼女は一卵性の双子で、容姿や性格がそっくりな妹がいる。
事故に遭い、双子の片方が生き残った今、尾崎さんが奇妙な事を言い始めた。
「これは本当にゆかりなのか?」
久々の再会に戸惑いながらも、僕は彼女がゆかりである証拠を探すのだが、
生き残ったゆかりを見るたび、その表情や仕草からかすみを思い出した。
もしかしたら、かすみがゆかりのフリを?疑惑が深まる中、
僕はまた真夜中の五分前に引き戻されてゆく。

とりあえず、ラストが「えー」って感じがしました。
せめて最後はどっちかにしてよ、って思ってしまい、
私にとって、その超常現象的事態は許せないところでした。
途中までは、彼女を泳がせてみればいいのに、って思っていたのです。
水泳に通っていたのはかすみだけなのだから、
泳げたとしたら、かすみ、そうじゃなかったらゆかりだと。
でもこの話では精神世界にまで入り込んでしまって、
何かの偶然で、二人が一つの体に!みたいな、超常現象を肯定して、
僕はどうにも出来ない、といった何だか切ない悩みに変わって残念でした。
結局、人類の歴史三回分の奇跡は、呪われていた?というか、
ここまでの奇跡を起こすのだ、とかそんな事を考えてしまう。
一方で、水穂のシーンはとても好きでした。
主人公が今まで乗り越えられなかった壁が崩れ、飛び越え、
あの日の水穂を好きだった自分に戻りに行く。
冷徹人間というレッテルを自分で作り上げていた主人公が、
ふと、人間の優しさに触れてみようとする瞬間が良かったと思います。
お店がどうなったのか、とても気になるのですが…。
そして迎える最後が何とも苦しいというか、これで良かったのだ、
と無理に決め付けているような、台風一過のような、
静けさが水穂のシーンととてもミスマッチ(狙ったのかな?)で、
あまり好きになれませんでした。Aの時はサッパリ、でも情熱的な感じ、
が良かったと思ったのですが、今回はうーん…です。
あ、読むときは勿論「side-A」を読んでから読んでくださいね。

★★★☆☆*83

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2007年7月 4日 (水)

「真夜中の五分前 side-A」 本多孝好

真夜中の五分前five minutes to tomorrow side-A 真夜中の五分前five minutes to tomorrow side-A

著者:本多 孝好
販売元:新潮社
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「真夜中の五分前」…なんて素敵なタイトル!
とミーハーな気持ちで初めは読みたいと思ったのでした。笑
哲学的なこと書いているのかしら?と期待していたのですが、
そうでもないような、何だか最後に切なさが押し寄せてくる話でした。
傾向的に大崎善生さんのような感じがしました。

僕は会社で孤立した部署の席についている。
ワンマンでやって来た女性課長に従う従順な部下、
そう貼られたレッテルは、あまり嬉しいものではなかった。
悪い噂には尾ひれが付き、社内で手を出した女性の名前まで挙がっている。
五分遅れた時計を眺めながら、仕事なんてただ生きるための糧でしかないと
全てを丸め込もうとした時、僕はある女性に出会った。
同じ顔、同じ声、同じ性格の妹を持つ一卵性双生児の女性に。

うーん「MOMENT」の黒さでは乙一さんを感じたのですが、
今回はなかなかピュアな感じがして、大崎さんぽいかも、
と思いながら読んでいました。失礼ながら大崎さんより好きですが。
個人的にはもう少し哲学的なことを望んでしまいました。
五分前というかその五分の間に起きる何か、みたいに、
少し突っ込んでくれるかしら、と思っていたのですが、そうでもない。
ただいつも五分遅れている時計を見て、過去の思い出を思い出している。
それをいつまでも直さないのは、心のどこかで忘れたくないと思っているのか、
それとも忘れたがる自分の戒めとして、そのままにしておくのか…
そんな切ない心境を読み取る手段として、ひっそりと描かれていました。
対する双子のかすみの登場。同じ顔、同じ声、同じ性格を持ち、
そして同じ人を好きになってしまう双子の姉妹。
結婚を決めた妹ゆかりの恋人を、かすみは死ぬほど好きだった。
しかしそこには越えられない壁があり、自分は決して愛してもらえない。
そんな愛に飢え、自分を見つけようともがき続けるかすみと、
自分を変えた初恋の女を忘れられず、全てを拒絶し消し去ろうとする僕。
二人は曖昧な平行線を描きながら、決してくっつかないのだ。
でもどちらかが少しでも傾き、近づいてきたら…?
そうしたら、いつしかポーカーフェイスを崩す時がやってくる、
その五分を跨ぎ「愛してる」に踏み出すその瞬間が。
そんな様子が、淡々と、でも確実に描かれていて、
そのお陰で最後のシーンで二人が壁を乗り越える時、
とても心に染みるものがありました。
本当の事を隠しつづけるクールな僕の中に潜むのは、
一人のあどけない少女だった、というところが、
私としてはグッとくる?ような。吉田さんの情けない男も好きですが、
本多さん格好つけ男の内情も良いかもしれません。
って私の好みを言ってどうするって感じですが;次は「side-B」でも。

★★★★☆*86

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2007年6月15日 (金)

「MOMENT」 本多孝好

MOMENT MOMENT

著者:本多 孝好
販売元:集英社
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初本多さんでした。何となく佐々木譲さんのような、
乙一さんのような、そんな感じの雰囲気をもった方でした。
最後まで浮上しない低空飛行が何ともいえませんが、
好きな感じの作家さんです。次は「正義のミカタ」読んでみたいなぁ。

主人公・神田のアルバイト先の病院には、こんな噂があった。
「死に際の人間の願いを叶えてくれる人がいる」という必殺仕事人伝説。
院内の清掃がてら、様々な患者と接触する神田は、
ひょんな事から、その噂の人物、必殺仕事人の役を引き受ける事になった。
もう死ぬと分かっている人間が、最後に一つ願う事、
それは華々しい物ばかりとは限らない。
人間は最後に何を考えると思う?投げかけられた言葉を胸に、
神田は患者の最後の望みを叶えるため、奔走する。

死を扱っているからもう少し明るくすればいいのに、と思ったりしました。
だってヒロインが葬式屋さんで、しかも彼女は両親を事故で亡くしている。
そもそもそこですでに、ダークな感じがするではありませんか。
その上、必殺仕事人の内容も、願いがどれも陰険過ぎるように思う。
死に際で嘘をつき、最後の最後まで人を陥れようとする老人、
死という恐怖を、怨念と共に他人に押し付けようとする少女、
借金返済のために、自殺し生命保険を手に入れようとする男……。
どれもこれも、まったくあり得そうな話で、思わず引き込まれました。
最後の望みさえも、恨みや怒りや虚しさに当てる彼らの荒んだ心が、
とてもリアルに表現されていて、「死」について考えさせられました。
そこは凄くよかったと思うのです。しかし、暗すぎる。
上記のような精神が病んだ患者も当然いるでしょう、
もしくは苦しいから殺してくれ、という人もきっといるでしょう。
でも、そうではない人もいると思います。
例えば生き別れた息子に一目会いたいとか、
忘れられない味の料理があるとか、そういった素朴な望みをもった人です。
誰もが歪んだ精神ばかりを持っているわけではないと言う事。
そこに見え隠れする、死への恐怖を掻き消すため望む温かいもの。
それが描かれていないというか、最後は打ち消されて、
結局ダークな感じに纏められ、これでよかったのか?と疑問が残る。
いや、疑問が残るのも人生だ。といわれればそれまでですが、
でも極力疑問を残さず書かないと、必殺仕事人の存在が薄れてしまいますし。
暗いまま、明るくなる事無く、終結に……
何となく虚しさ、儚さばかりが残る、後味の悪い感じがしました。

★★★★☆*86

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