2012年10月19日 (金)

「月と雷」 角田光代

20121025_2 

角田さん何冊目かしら、40冊超えたかしら……今回も詰まらない
気がすると思いつつついついハードカバーで購入してしまう角田さん
の魔力をひしひしと感じた本でした。つい買ってしまうのです。つい。
そしてこの本もあまり面白くなかったのですけれども。

不意の出会いはありうべき未来を変えてしまうのか。
ふつうの家庭、すこやかなる恋人、まっとうな母親像…
「かくあるべし」からはみ出した30代の選択は。最新長篇小説。
(Amazonより)

この本がどうも群像じみていて納得できない気分になるのが、
母の存在がとても極端すぎるからだと思う。もし母がもう少し
まともで普通の人間で描かれていたとしたら、もう少しまともな
本になっていような気がするのだが、この母の存在によって、
「こんな人いないと思う……」と否定的な気分になるのだった。
宿無しでもいきていけるような、もしくは誰かに寄生していないと
生きていけないような人物を角田さんはうまく描く。とくに絶妙
なのが、宿無しで生きている人間が、ふと自分自身を振り返り、
「わたしのこんな生き方はいいのだろうか」と思いたつ瞬間の
身のすくむ感じが、なんとも角田さんらしく上手いのだった。
こんな生き方でいいのか、と思う人は、「こんな生き方」をして
しまった人であって、したことがない人は書けないのである。
極端な道の一番端までいったときに気づく、身のすくむ思いは、
だから、ここまで極端に書かなくても、相手に伝える手段がある
はずである。角田さんなら、それを知っているはずなのだが。
この本はなんとも極端すぎる、それに尽きるのだった。最後子供が
生まれるところには、とても希望的な気持ちを抱けるのでいい。
最近角田さんは出産話が多いような気がするが、それだけ幸せなの
だろうか。子供が生まれる転機。離婚話の苛立ちより素敵である。

★★☆☆☆*77

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2011年4月27日 (水)

「夜をゆく飛行機」 角田光代

夜をゆく飛行機 夜をゆく飛行機

著者:角田 光代
販売元:中央公論新社
Amazon.co.jpで詳細を確認する


今年角田さん3冊目?結構なハイペースで読んでおりますなぁ。通算、
おそらく35冊目(感想書いていないものも含)この方何冊本を出されて
いるのでしょう……東野圭吾のそれを数えるのも怖いし、森博嗣のそれを
数えるのも怖いのですが、まぁあるだけ全部読むことでしょう、いずれ。

里々子は谷島酒店の四姉妹の末っ子である。長女の有子は嫁に行き、
次女素子は合コンに明け暮れる、三女琴子は大学生で、里々子は高校生、
何の変哲もない日常をおくっていた里々子たちであったが、ある日を
堺に、一家の様子は変わり始めた。ぼんやりと大学生をしていた琴子が
小説を書き新人賞に選ばれたのだ。家族中で大騒ぎしてお祝いをしたものの、
その小説に出てくるのは、紛れもなく谷島酒店一家の平々凡々とした、
事実の羅列なのであった。過去の駆け落ちを暴露された有子は激怒したし、
里々子も家族の事が知れ渡るのが恥ずかしくあった。しかも有子は、
その小説を読んだ事によって、不倫を始めた。里々子は受験した大学すべて
に落ちた。琴子はソムリエになるといい始め、父は店を改装すると言い
はじめる。母は入院した祖母の看病でやつれ、一家はまとまりをなくした。
そして里々子はアルバイト先で恋に落ちるのだが……。

『空中庭園』系。とても苦手である。なぜなら、まったく現実味がないから、
である。四姉妹という時点で角田さんの描写的に許容オーバーな気もし、
おまけにミハルおばさんや、ぴょん吉、松本、と言ったよくわからない
役割の人物が多々出てきて、それでいて話があまりにのっぺりとしている
ので、読んでも読んでもページが進まない感じがした。いなくなった人の
物語、というのもわからなくもないのだが、それでいくと、ぴょん吉、
ミハル、祖母、と3人もの死者が出てきて、そんなに必要だったのか?
と思わなくもない。ところどころに輝く角田光代的な映えた訴えも、
ぐちゃっとした家族構成で、「薄らぼんやり」になってしまったように思う。
死んだ弟をぴょん吉といい回想するポップな感じ、コミカルな姉妹の様子、
はもう少しなんとかスリムに纏めたら、主人公・里々子にとっての
感受性の変化、成長、を描けたように思うのだが、その部分は何の
方向性も定まらぬまま、終わってしまい、ちょっと残念だった。もちろん、
日常を切り取ったような生活、というのもわかるのだけれど。それなら、
もう少し現実味ある感じで書いた方が、設定が生きたように思えてならない。

★★☆☆☆*78

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2011年4月13日 (水)

「恋するように旅をして」 角田光代

恋するように旅をして (講談社文庫) 恋するように旅をして (講談社文庫)

著者:角田 光代
販売元:講談社
Amazon.co.jpで詳細を確認する


あらすじを考える気力も起きない、とかいうとまた非難轟々でしょうか。
大変時間の無駄さを感じた本でした。解説でいしいさんが、ゆっくり読め
的なコメントをしていますが、ゆっくり読むくらいなら、自分が旅に出た
方がいいように思われました。まぁ、勿論わたしの主観なのであしからず。

笑えてちょっと切ない旅のフォトエッセイ。時間ができるとふらっと旅に出る。
タイ、ベトナム、モロッコ、アイルランド。場所を想うことは恋することと同じ。
無頼で自由でストイックな著者の魅力満載。
(Amazonより)

最初からエッセイだということは分かっていたので、薄々嫌な予感はして
いたのだが、今までに読んだ角田旅行エッセイの中でワーストを争う
結果になった。(もちろんわたしの中で)エッセイ……って一体何?
とか、根本的な部分を疑いそうになる本だった。解説のいしいしんじは、
エッセイ以上の本であり、読者も旅をしている気分になれる、などと
書いているのだが、旅をしている気分、以前に愚痴を聞かされている気分
に陥り、得たのは「角田さんが極度の方向音痴である」ことと、
「旅をしていると男に襲われることがある」ことと、「旅は恋に似ている」
という3つだけだった。したがって、エッセイと言うよりも、旅の日記を
見せてもらった、と言った気分でしかなかった。その理由は、この本を
書いている当時の角田さんは、おそらく「旅に恋している」状態だった
からだろう。恋、というよりも、旅行中毒である。わたしもライブ中毒
を経験しているのでわかるが、「何かをしなくてはならない」という
選択肢はなく、これしかないのだ、という気分になる。まさに中毒。
その状態で書かれた本が、面白いわけがない。わたしは中毒なんです。
旅はこんなに素敵だから。と言われても、「何がどうして中毒になり」
「どんなところが中毒になりえるほど素敵だと思える要素なのか」が、
まったく記載されていないのだから、読んでいても「あぁそうですか」
と思うほかないのである。「ここがいいの!」という熱烈な文章なら
ともかくとしても、だらだらとよく自分でもわからないけど、移動して
いなければ気がすまない。理解できない。わたしが年間100本のライブ
(単純に考えて年間100日ライブハウス)に行くということが、
にわかに尋常の人には納得し得ないように、角田さんのこの旅行中毒は
納得できるものではなかった。からにして、一番良かった部分は、
「文庫版にあたりのあとがき」だった。旅行中毒から幾分抜け出し、
冷静に自分を観察している文章。もはや本文よりも最後のその2、3ページ
のみでよかったのではないかとすら思う。わたしはまったく海外の旅に
出ない人間なので。でもライブは100本行けるのだ。その心理を、
ぜひとも今角田さんの文章で読みたいところだ、と思う。日常の
エネルギーを旅行のために溜めている……? 違うと思うんだよな。

★★★☆☆*82

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2011年1月19日 (水)

「ぼくとネモ号と彼女たち」 角田光代

ぼくとネモ号と彼女たち (河出文庫) ぼくとネモ号と彼女たち (河出文庫)

著者:角田 光代
販売元:河出書房新社
Amazon.co.jpで詳細を確認する


ところで、昔よく見に行っていたブログ(ほとんど読書ブログ)をぶらぶら
数年ぶりに見て回ってみたら、ほぼ全滅していて切なくなった。うーん。
リアル友人のブログも全滅。みんなmixiとかはやってるのかな?うーん。
かくゆうわたしがmixiとか放置なんでなんも言えないが。世の中いろいろ。

免許を取って中古のシビックを買ったぼくは、車を友人に見せて回ることに
した。なんと言っても「自分の車」。それだけでわくわくして、とにかく
みんなに自慢したかったのである。しかし、みんなの反応はいまいちだった。
ぼくにとっては念願の車であっても、みんなにとってはただの中古の
シビックでしかない。誰も彼も「へぇ、車で来たんだ。で?」って感じで、
ちっとも驚いてはくれなかった。だんだん腹が立ったぼくは、だから春香の
元へ車を見せに行くなんていう間違いを犯してしまった。春香は中古の
シビックを見てぼくを褒め称えた。その上車に乗せて欲しいといい、
着替えを持って乗り込んできたのである。そもそも車を自慢したいだけ
だったぼくにはどこにも行くあてなどなかった。今更ひっこみのつかなくなった
ぼくは、春香とあてのないドライブに出かけることになるのだが……。

なんとも珍しいタイプの本だった。なんと角田さんがヒッピーではない
のである。いつもだったら物語の中で密かに、いや堂々とヒッピーな
素晴らしさを熱く語ってくれる角田さんだが、この本ではなんと、
まだヒッピーに成り切れていないようなのだった。ヒッピーになったら
楽しいだろう、という羨望を描きならも、自分ではまだ踏ん切りが
つかず、ヒッピーの世界には足を踏み入れられていない。そのもどかしく
初々しい様子が、「ぼく」を通して描かれていた。たぶんこの本は
とても初出が早いのではないだろうか。文庫になるのが遅かったようである。
いろいろ充足し、『東京ゲストハウス』とか、ヒッピーまみれの角田さんの
濃い世界を知っている身としては、新鮮で、「こういうのもいいじゃん!」
と言う感じだった。でも、もう書けないだろうとも思う。知る前の、
「無知な好奇心」みたいなものがとても自然で、やはりその部分が、
この本の一番の魅力であるように思った。本の中で凝り固まった思考を
もっていた主人公は、最後に乗せた女の開放的な思考に衝撃を受ける。
沖縄までヒッチハイクで行くという、それだけでも無謀な行動の上に、
自由な喜びを垣間見て、羨ましいと思う。しかし、ヒッチハイクをし、
ゲームをしているのを羨ましいと思うのではないのだ。それらの行動をして、
楽しんでいる満ち足りる、という精神の充足が、なんとも魅力的に映るのである。
だけど、万人が同じ行動をして楽しいわけではない。自分の中の、「それ」
を見つけたいという欲求が、とてもストレートに、角田さんにしては
そこらへんも珍しく、書かれていた。住めば都とはよく言ったもので。
どんな環境であっても、それが、そこが、楽しくて仕方のない場所なら、
自分にとっては十分であると。気づいていれば後悔はしないのかもしれない。

★★★★☆*89

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2010年9月21日 (火)

「あしたはアルプスを歩こう」 角田光代

あしたはアルプスを歩こう (講談社文庫) あしたはアルプスを歩こう (講談社文庫)

著者:角田 光代
販売元:講談社
Amazon.co.jpで詳細を確認する


角田さんのエッセイはあまり好きではない。というか、小説家の
エッセイは、あまり好きではない、と言った方がいいかもしれない。
冷静に考えて、一般的に小説家は家に篭って行う職業なので、個人的
なことの範囲が狭い(偏見?)今回は旅エッセイ、とてもよかったなぁ。

ある日見知らぬ人からファックスがきた。「イタリアにいきませんか?」
と、ある。「イタリアの山で、トレッキングしませんか?」と。
イタリアに山ってあるのか、というのが最初の感想である。
はて、トレッキングってなんぞや、というのが次に思ったこと。
イタリアにも山ぐらいあるんだろう、山歩きしようってことなんだろう、
と勝手に解釈し、しばらくファックスを眺めていた。
イタリアに行くことに決めた私は、山に着いた瞬間から、
なんかおかしいぞ、と思い始める。山は一面雪景色。おまけに
建物は一切見当たらず、山の急斜面が続くばかりである。
トレッキングとは、山を歩きピクニックすることではなかったのか?
私の不安はどんどん膨れ上がってゆくのだが……。

とても広大で美しい自然を目の前にした時、人は上手く言葉を操ること
ができない。キレイ、美しい、壮大、立派、素晴らしい、など、
それらを表現しようと文字を並べれば並べるほど、空虚で
ちっぽけなものに見えてしまうからだ。自然の素晴らしさは、
人為的なもので表現することは、きっと無理なのではないか。
この本の角田さんはそう解釈し、難しい表現を一切使っていない。
むしろ「言葉に出来ない」と言った、言葉の表現者としての
悔しさが書かれており、小説家である角田さんですら言葉にできないのか
と読者は受け取り、ますますその自然の景色が魅力的に思える
のだった。それと、一緒に山登りをするメンバーとの連帯感、
異国にいるという高揚、壮大な自然に佇むときの感情のすべらかさ
などが文章に表れていて、わくわくし浮ついている気分を、
文字を追うごとに感じることが出来た。海外旅行に未だ踏み切れない
わたしだが、この本を読んでとてもこころ惹かれた。
音楽を文章現すように、景色を文章で現すのは、至難の業である。
ましてや、読んでいるこちらにぜひ聴いてみたい、ぜひ行ってみたい、
と思わせるのは尚更である。その点、さすが角田さんだなぁ、
と言う感じ。初めて他人の旅行記で魅力を感じたように思う。
中には登山ルートの図解しかなかったので、写真くらいあっても
よかったかも、とも思う。一度読んでみる価値はある。

★★★★☆*88

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2010年6月16日 (水)

「菊葉荘の幽霊たち」 角田光代

菊葉荘の幽霊たち 菊葉荘の幽霊たち

著者:角田 光代
販売元:角川春樹事務所
Amazon.co.jpで詳細を確認する


恐ろしく時間の無駄を感じた本でした。よもや、時間が有り余って
いるときに読んだら楽しいのではないのかしらん。本の中の人間たちの、
徒労や疲労感が紙の中から滲み出ていて、読んでいるこちらにまで
絡み付いてくるような感じがした。時間がないときに読むべきではない。

職を失ったわたしは、同じくニートである吉元とともに次に住むための
アパートを探し始めた。一駅降りては不動産屋を訪ね、
ここは日当たりが悪いだの、駅から遠いのだのと文句をつけ歩く。
吉元は一向に物件を決める気がないようで、わたしはしだいに苛立ちを
感じ始めるのだった。そんなある日、吉元は町を歩きながら、
自分はこのアパートに住みたいのだ、と言いぼろぼろのアパートを
示した。住みたいも何も、そのアパートはすでにアパートは埋まって
おり、住人が住んでいる。不動産屋を当たってみたが、案の定
断られただけだった。わたしは何とかして吉元をそこに住まわせようと、
そのアパート――菊葉荘の住人を追い出そうと計画を始めるのだが……。

あらすじだけを読むと、なんかちょっと楽しそうな話に聞こえるのに、
ちっとも楽しい本ではなかった。あらすじの「菊葉荘の住人を追い出す」
という、なんとも常識破りな提案に期待が集まるところだが、
その期待を見事に裏切ってくれる本。話の大半は、知人になることに
成功した蓼科との生活に割かれていて、この部分が実に
曖昧でもやもやと続き、もやもやしたまま終わるから、肩透かし感を
倍増させているのだろう。もやもや、という部分は、まさに角田さんの
専売特許とも言うべきところで、今回もとてもいい味を出していたと
思う。種類でいくと「エコノミカル・パレス」や「東京ゲスト・ハウス」
などの類の、こんなにも厚かましく、かつ寂しがりやなのだ、
というような、人間の纏わりつくどうしようもなさが見事に
描かれていた。飲み会に勝手に参加し、酔いつぶれた挙句、
知人のふりをして家に入り浸る。見事なまで、である。しかし、
入り浸ってみたはいいものの、「わたし」はこれと言って何もしない。
追い出す計画、計画、と言いながら、情?ともなんともつかない、
やる気のなさで、毎日飯を食うだけで、一体何がしたいのだ?
と思った。唯一押されているように感じたのは、最後の方で、
蓼科が「普通になりたいんだ」というような事をいうのだが、
普通になりたい、ということは今の自分たちが普通ではないわけで、
普通ではない人間が寄せ集まったのが、この菊葉荘であり、
また菊葉荘に入りたがる吉元も、それを手伝う「わたし」も
普通ではないのであり、要するに、「普通になりたいのだ」と、
言うことなのだろう。普通、それは、「飲み会に勝手に参加し、
酔いつぶれた挙句、知人のふりをして家に入り浸る」なんてことを
しない「普通」なのかしら。どこも強く押されて書かれていないので
よく分からない本だった。忙しいときに読まないほうがいい。

★★☆☆☆*55

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2010年4月19日 (月)

「ピンク・バス」 角田光代

ピンク・バス (角川文庫) ピンク・バス (角川文庫)

著者:角田 光代
販売元:角川書店
Amazon.co.jpで詳細を確認する


久しぶりに角田さん読みました。最近図書館に行く気力がなくて、
家に積読(未読)していた購入済みの本たちを掘り返し中。古本で
大量に購入した中にこの本はあったのですが、最初の数ページで
嫌な予感がし、放置されていました。なぜか。初期本だからです。

「昨夜はたくさん夢を見た」
二十年間生きているうちに十人の人が死んだ。水泳大会や、
競技大会よりも、私は葬式が得意行事かもしれなかった。
人が死んでも、そうか、そういうものなのか、と納得すらしている。
ある日「死の体験ツアー」なるものに参加したらしいイタガキは、
少し様子がおかしかった。ふらふらしていたかと思うと、
突然インドへ行くと言い出し用意を始める。出発は一週間後と言い、
本当にインドへと旅立ってしまった。周りの友人から、
イタガキがいなくなって寂しいでしょう? というようなことを
聞かれたけれど、私は自分がどう思っているのかよくわからない。
イタガキとは、もう会えないかもしれない。そう考え、
ふと、イタガキに笑顔で手を振った自分が、亡くなった人を送る自分に
重なり、まるで死人を笑顔で見送っているような気分になるのだった。

あとがきで石川さんが角田さんの「疲労感」なるものを力説しているが、
まったくなるほど、角田さんは大変疲労感があると思う。疲労感と
いうのは(石川さんの言葉になるが)単なる「疲労」というわけでは
なく、ある物事を説明する際に使用する文章の単語が、大変なげやり
である様子、のことである。角田さんは現在の作品でもそうだが、
大変擬音が多く、やはり投げやりな描き方をする。着飾ったような
修飾語は使わず、終始ジーパンとTシャツで会話を続けているような、
気だるい感じなのだ。それが文章中に滲み出ている。主人公は
まるで溌剌としていながらも、その文章を通して語られる感情は、
どこかフィルターがかったような感じで、生き生き、とは違う、人間の
感情の生々しさのようなもの、を感じるのだ。ごく当たり前の語彙で
語られるそれは川上さんの「空気感」のような「角田味」があり、
読む人を惹きつける。しかし、この本は、上にも書いたように、
初期の本である。表題作の「ピンク・バス」はまだ荒削りすぎて、
何を書きたいか明確でなく、それでもってぐだぐだと続く
(そこが角田味でもある)ので、中だるみもいいところだった。
ぐだぐだすぎて読むのがしんどかった、というのが正直な感想だが、
けれど読み終わって、今感想を書く段になると、言いたかった事が、
何やらよく分かるのである。不思議なものだ。なんというか、
一つのことを達成するための一割と、残りの九割のぐだぐだ、そんな
雰囲気にあふれているのだが、読後はなぜかその一割のことが、
はっきりと頭に残っている。してやられた感が残る感じだった。
「昨夜はたくさん夢を見た」は逆に単刀直入。言いたいことは、たぶん
「まるで死人を笑顔で見送っているような気分になる」という部分で、
わかりきっていることだけど、なるほど、と再確認させられ、いい。
雰囲気が、どこか津村記久子の小説のようでもある。
でも、ぐだぐだで挫折する人が多そうなので、素直にお薦めできない。

★★☆☆☆*75

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2010年1月 9日 (土)

「だれかのことを強く思ってみたかった」 角田光代,佐内正史

だれかのことを強く思ってみたかった     集英社文庫 だれかのことを強く思ってみたかった 集英社文庫

著者:角田 光代
販売元:集英社
Amazon.co.jpで詳細を確認する


最近、感想を書く時間がない。睡眠時間を削りたいのだが、昔から結構
寝ないと1日起きていられない損な体で困っている。この間、某人に、
「虚弱」って言われた!虚弱って……おじいさんか、わたしは!!
と涙が溢れんばかり。で、この本、とてもよかったのです、お薦め。

「父と歩いた日」
あまりにシュールなために忘れようがない記憶のひとこまとして、
父と銀座を歩いた日がある。私は小学校に入学したばかりで、
お祝いに何か買うのだと言って、父は私を連れ出した。何か買ってもらう
うれしさよりも、父と出歩くことの居心地の悪さがさきに立った。
父と二人きりで外出するのははじめてだった。しかし銀座について、
デパートでもおもちゃ屋でもなく、父が向かったのは喫茶店だった。
父とは不釣合いな洒落た店で、父はコーヒーを飲み、私はパフェを食べた。
その後父はビアホールに入り、ビールを飲み始めた。父はなぜかあきらかに
落ち込んでいた。私は父の気を引こうと、子どもらしいしぐさを始める。
しかし、気づいてしまう。父という男は、無口で、無愛想で、融通が
きかなくて、どちらかといえばひどくかっこわるい人なのだ、と。

私の大好きな写真家、佐内正史氏とのコラボレーション本。以前読んだ、
吉田修一の本と同じような構成だった。今回の方が、白黒のページも多い分、
佐内さんの写真が多いようにも思う。それにしても、佐内さんの写真は、
いつ見ても、いいなと思う。絶対的な安心感を伴った風景。撮らせたら、
他を観ない。前も佐内さんの写真展「対照」でも書いたけれども、
どこにでもある風景を切り取る天才である。ふと人が街に視線をめぐらした
とする。そうして、うちに帰る。それから、街のことを思い出したとき、
こころに残っている素朴な風景。それを、とても上手く捉える写真家である。
何時しか観た事のある風景であるし、別段変わった撮り方をしている
わけではない。けれども、さり気なく瞳を滑らせた、その風景は、
ありふれているからこそ、捉えにくく、そして、フィルムに収まった
温かさをより感じるのだと思った。付随している角田さんのSSはというと、
あとがきに1年間佐内さんと一緒に旅した、とあるように、とても写真に
合った物語になっていると思う。もちろん、写真のために書いた、という
わけではなくて、写真と共存している世界観というか、そんな感じ。
同じ空気を吸った人間が作ったのだろうな、と思える親密な何かを、
感じ取る事が出来た。中でもわたしが好きだったのはこの「父と歩いた日」
である。ある日、幼い「私」は、父親に連れ出され、銀座の街を歩く。
進級祝いを買ってもらうという買い物だったはずが、父は何を思ったのか、
「私」を、喫茶店やビヤホールに連れて行き、「父親」の姿を誇張する。
しかし、それは何だか違うのである。小学生の「私」は、むしろ子煩悩な
父親の姿を求めているというのに、父は、大人の自分を示そうとする。
その大人気ない行動というか、空気を読めていない行動がなんともダサくて、
そして、そのダサさを「私」はありありと知る事になるのだ。
自分の父親は、ダサいのだと。盲目的に尊敬していた「父親」だったけれど、
本当はそうではないのだと、世間の喧騒の中で、「私」が気づいていしまう
様子が、短い中にとても上手く描かれていた。なんかそう、親をダメだな、
と思うときの気持ち。とても共感が出来た。人はみな完璧ではない。
けれど、信じていたものが違ったとき、その絶対的な価値観を失う瞬間は、
とてもいとおしく、切ないものなのだと。他多数のSS。どれもよい。

★★★★☆*88

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2009年12月28日 (月)

「三月の招待状」 角田光代

三月の招待状 三月の招待状

著者:角田 光代
販売元:集英社
Amazon.co.jpで詳細を確認する


あぁダメだ。前回読んだ本と同じく、どうにも心に残らない感じ。
どうしたことだろう、角田光代の本だというのに、残念すぎる。
ただ一ついえるのは、角田さんに現在進行形の感情が似合わないということ。
まぁわたしが思っているだけなのかもしれないけれど。

充留は大学の友人の夫婦から珍妙な招待状を貰った。それはなんと
「離婚パーティ」である。学生時代から付き合ったり別れたり、
また付き合ったり別れたり、結婚したりし、十五年の間を過ごした2人は、
離婚をするためにパーティをするというのだ。結婚式の時も、
何かの冗談のようにパーティは学生街の居酒屋で行われた。
それが彼らの在り方なのであろう。そうして今度の離婚式もまた、
学生街の居酒屋が指定されていた。どこまでも冗談でいく気なのだ。
こうなったらこっちもバリバリにおめかしをして出席をするべきではないか、
と、充留と麻美は相談するのだった。再び懐かしい仲間とつるむことになり、
また二人の別れを祝う学生気分の抜けきらない仲間たちだったが……。

つまらなーい……。なぜだ、なぜだ、天下の角田光代の名の元に、
こんな作品が……と、跪きたい。しかし、一つだけいいこともある。
これは今しか書けない本であった、ということである。過去の感情を遡る
達人である角田さんにとっては、ある意味冒険的にもとれるこの作品。
内容はあらすじとおり、離婚に際した女の葛藤と悩み、というか
そこにまでいたらない思考のあれこれ、といった方がいいだろうか。
形容しがたい、まだ「これ」と言って行動がとれないときのもやもや、
であり、しかし今の現状だけはどうにかしたいと願いながら、
だけど、壊れてしまう安息を切なく思ってしまい自己嫌悪するような。
……、というなんともいいがたい内容の本なのである。
先日離婚を経験された角田さんの思いと怒りと、その他いろいろが
たっぷり詰まった本であると言える。そう思い返せば、夫の伊藤さんは、
『八月の路上に捨てる』という離婚本で芥川賞をとったではないか。
内容は確かなかなか乾いた感じの主人公が自動販売機のジュースを
補充する仕事をして回る話だった気がするのだが、なるほど、
女の人よりも男の人の方が、「現在の感情」から「未練と呼ばれる何か」に
感情が変わるのが速いのだろうか、とも思えてくる。わたしはこの本と
伊藤さんの本を前に差し出されたら伊藤さんの本をとる。なぜか。
この本はまったくもって登場人物の感情が整理されていないからである。
ので、まったく読後に心に残らない。残念である。最初から最後まで、
女たちは悩んでおり、しかしその悩みは微妙で細かすぎる。
もちろん繊細なのだ、と言われてしまえばそれまでなのだが、
その細かさの度合いは角田さんの中だけのものであって、読んでいる
こちらにとっては、ずっと同じことを言い続け、お互いを罵りあい、
罵る事によって自分を確立しているように見えてくるのは、嬉しくない。
すべての人間の感情を描くのは大変な事だと思う。もとい、
人間のすべての感情と言うべきか。「麻美のことが本当は苦手なのである」
とてもよくわかる、その感情。ふとした瞬間に、いつも一緒にいながらに
して、でも自分に合わないと思うその瞬間。しかし、それはこの場に重要
なのか。学生仲間と言うその馬鹿みたいな連中に救いがあるはずなのに、
あまり描かれていないのが原因なのかも知れない。学生気分の抜けない人。
見ているとイライラする。その気持ちもよくわかる。けれど、心のどこかで、
それを求めているんだと、素直に描いてほしかったのに、離婚の苛立ちの
方が勝って、全体をかき乱してしまった本。わたしはパス、しかし、
これをこころから受け入れられるそんなの時もくるかもしれない。
でも、まぁ、角田光代の本としては、得意味がなく面白くない本だと思う。

★★☆☆☆*75

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2009年12月12日 (土)

「おやすみ、こわい夢を見ないように」 角田光代

おやすみ、こわい夢を見ないように (新潮文庫) おやすみ、こわい夢を見ないように (新潮文庫)

著者:角田 光代
販売元:新潮社
Amazon.co.jpで詳細を確認する


あぁ何かしなきゃなぁと思う。わたしはいつまでこのぬるま湯に
浸っているんだろうか。何かを、何かを、何かを、といって、
ただ何かを待っているだけのような気がする。そうだなぁ、明日からは。
暢気なわたしが言う。そうね明日から。わたしは頷き日は過ぎてゆく。

「空をまわる観覧車」
あなたを呪ってやる、というりり子の一言で、重春の浮気は幕を閉じた。
それからというもの、ちょっとした嫌な出来事があるたびに、
重春はりり子の仕業ではないか、と怯えるようになった。ファミレスで
貝殻が混入していた時も。コーヒーのミルクが古かった時も。
重春は買い物リストを握りスーパーをうろつきながらも、
りり子の影に怯え、後ろを振り返った。りり子との浮気がばれてから
妻の亜佐美は家事をしなくなった。重春に仕事を辞めさせ
家事を担当させるようになったのだ。重春はなにを言うでもなく、
作業に掛かる。浮気というその出来事によって、何事も重春が
押し黙るといった方程式が出来上がっているような気がした。
りり子の声と、亜佐美の言葉に重春は窮屈な思いを必死に受け流す。

つまらない。久しぶりに、つまらない。2回言っちゃうほどつまらない。
角田さんの本が面白い時の吸引力、と言ったら物凄いものがある。
ページを捲る手が止まらないのだ。ラストに向けて物語が終わって
しまうことが残念にすら思え、ため息混じりに最後を読み終える。
読んでよかった、この本に会えてよかった、と思うのである。
でも、この本はつまらなかった。角田さんは、現在進行形の気持ち
よりも、過ぎてしまったことの余韻を書くのが上手い作家だと思う。
通り過ぎてしまった恋愛や恋、離婚してしまった夫婦、
仲が悪くなった友だち、会わない誰かの思い出、などなど。
幾分負のパラメータが多い気もするが、逸れに負けない説得力がある。
あぁわたしもそう思う。と、まったく違う経験なのに、
気持ちを馳せることが出来る。というのは中に描かれている感情が
本物だからだろう。現在進行形の気持ちというのは、
そもそも書くのが難しいものだと思う。特に怒りや憎悪、と言った
一瞬で燃え上がるような強い感情についてである。それはなぜか。
時間が経つと、人間はその気持ちを忘れてしまうからだ。
その時は確かに怒っていても、時間が経てば「まぁいいか」と思えたり、
順を追って考えてみたら、なぜ怒っていたのか分からない怒りへと
変わってしまう。例えば「殺したい!」と思った一瞬の感情を、
時間が経った今正確に思い描き、ましてや描写するのは、至難のわざ
であると思うのだ。そして、角田さんはそれがとても不得意のようだ。
以前『三面記事小説』を読んだ時も思ったのだが、怒りへの
感情の起伏が、とても曖昧で微妙だった。怒りや憎悪を感じる
もやもやとした葛藤はあるのだが、それが吊りあがり、高ぶってゆく
という描写が皆無である。この本もそう。浮気がばれた混沌とした
様子や、異常な行動をする娘と世間との葛藤など、ぐるぐると、
考え悶絶しているが、そこで止まってしまっていて、全然殺したそうに
思えないのだ。惜しいんだよな……。ので相当後味の悪い小説に
なってしまっている。まぁミステリ的な感情は無理な角田さん
なので、多くは望めませんが……。東野さんの『白夜行』とか、
最高に苛立って読んだ気がするんだけど。ミステリを書くのって、
そこら辺が重要よね、とか思う。殺意に同意できないと、つまらない。
「まぁいっか」な殺人など読みたくないのである。と、話が逸れたけど、
角田さんには違う方面で期待しています。もしくは化けた殺意を。

★★☆☆☆*65

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