2011年10月31日 (月)

「看守眼」 横山秀夫

看守眼 (新潮文庫) 看守眼 (新潮文庫)

著者:横山 秀夫
販売元:新潮社
Amazon.co.jpで詳細を確認する


どうもどうも、ご無沙汰しておりました。この感想を書いているのは、
11/27ですけれども、しれっと日付を遡り更新したいと思います。
久しぶりに読んだ横山さん。最近全体的に読書スピードが落ちたので、
何となく読む本を前よりも選んでしまうようになりました。

刑事になるという夢破れ、留置管理係として職業人生を閉じようとして
いる、近藤。彼が証拠不十分で釈放された男を追う理由とは。
自叙伝執筆を請け負ったライター。家裁調停委員を務める主婦。
県警ホームページを管理する警部。地方紙整理部に身を置く元記者。
県知事の知恵袋を自任する秘書。あなたの隣人たちの暮らしに楔のごとく
打ち込まれた、謎。渾身のミステリ短篇集。
(Amazonより)

どんな文章も読まなければならない、という仕事に就いたためか、
とんでもない文章にも慣れてきたように思います。というのも、
人間の1度も読み返さない文章は、大抵他人に読ませるようなものではなく
(このブログの大体がそうだけれども)、だから、小説の完成には、
ご本人をはじめ、校正係、編集者、編集長の多大な努力の結果出版されて
いるのだなぁ、なんて考えてしまい、1冊の感想の重みが変わってきたよう
に感じるのでした。で、横山さんはと言いますと、とても読みやすい文章
だと一瞬で分かります。さすが元記者だけはあるな、という貫禄の文章で、
圧巻です。他の作家がみんなこれほど洗練された文章であったら、大変
詰まらない世の中だろうな、と思う正当な文章でもあります。まぁ、
新聞というものは、そう言うものでもあるかもしれません。前置きが長く
なりましたが、内容はどこかで起きていそうなよくある話で、
とくだん感動するでもなく読み終えました。(さらりと酷い感想)
中では「口癖」という家庭裁判所調停員の編が一番引き込まれましたが、
全体的に予定調和というか、結論のためのストーリー感が漂っていて、
「読ませる」という小説の魅力に少し欠けていたようにも思いました。
まだ読んでからそんなに経っていないのに、内容を忘れてしまいそうな、
小説です。ある意味生活に溶け込んでいるのかも知れませんが。何度
書いたか分かりませんが、横山さんは長編が好きです。

★★★☆☆*83

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2011年3月16日 (水)

「ルパンの消息」 横山秀夫

ルパンの消息 (光文社文庫) ルパンの消息 (光文社文庫)

著者:横山 秀夫
販売元:光文社
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久しぶりに横山さん。1年ぶり。この本読んだと思っていたのに、読んでいな
かった。わーお、デビュー作にして、これ、この筆力!さすがと言わざるを
得ない。新聞記者ってすごい職業なんだなぁ、って思う。そもそも、物語とか
そういう云々を抜きにして文章が既に読みやすく、物凄く人を引きつける。

十五年前、自殺とされた女性教師の墜落死は、実は殺人事件だった。
警視庁に入った謎のタレコミによって、署内には緊張が走った。
なぜならその事件の時効が明日の0時までであったからだ。当時の
事件の容疑者だと思われる人物を、片っ端から集めた。初めに呼ばれた
喜多が告白し始めたのは、同級生の悪ガキ三人で仕組んだ『ルパン作戦』
という、試験問題を盗みだす作戦についてだった。テストの前日の深夜
校舎に潜り込み、校長室の金庫から、翌日のテスト用紙を盗み出す。
成績を上げようという邪な考えではなく、ただ単に、試験問題を盗む、
という怪盗のような行動を行ってみたかったからだった。試験期間は
順調にすぎ、いよいよ最終日になった日、三人が金庫を開けると、
金庫の中には女性教師の死体があった――。慌てて逃げる三人だが、
逃げる途中、他にも逃げてゆく人影を見ていた。そいつが犯人なのか?
そもそも女性教師は墜落死ではなかったのか?謎は謎を呼び「ルパン」
の名をより怪しく導き出す。

面白かったー!と久々に両手ばなしして読み終わった本だった。
ぐちゃぐちゃした謎がほぐれ、なるほど!という結末。これを
時効まで1日の中にぎゅっと凝縮したことによって、とてもタイトながら、
ハラハラ、ドキドキ、最後まで読み手を放さない力があった。
そして何より、文章の読みやすさ。脱帽である。中学生の時の現代文
なんかで、「文節」とか「修飾語の正しい位置」とか、習った気がしたが、
わたしたちはそんなことはすっかり忘れてしまっている。横山さんの
文章は、とても正しくて、まるで教科書のような読みやすさだった。
この読みやすい文章で、まさか小説が読めてしまうなんて、とある意味、
画期的な感じだった。教科書でありながら、キャラクターも生きている。
デビュー作ということもあり(とはいっても結構改稿されてはいるようだが)、
飾らない文章が、余計に新鮮で、浮かび上がった生き生きとした人物たちが、
十五年という歳月を教えてくれた気がした。ただ、物語の中に、
三億円事件の犯人について、ひつように書かれているのが、少しミスマッチ
な気がした。わたしは生まれていないが、(調べたら1968年の事件だった)
そのあらすじくらいは知っている。警察や新聞記者は、そうとう悔しい思い
をしたのだろうな、とも、うかがい知る事が出来る。それを「立て看板的」
に引用する事で、未解決事件の解決達成を描きたかったのだろうが、
三億円事件はまったくの謎が多すぎて……というのが有名である。
別にここで三億円事件を推さなくても十分面白い物語だったろうなぁ、
とも思ったりした。するすると導き出される結末、そして幸子の正体。
不覚にもうるうるしてしまう後半、してやられたラスト。デビュー作、
にこれですか。な一品。一読の価値あり。横山さんはやっぱり長編が
いいと思うのだけどなぁ。あ、ぜんぜん関係ないけどなんだか突然乙一の
『夏と花火とわたしの死体』を再読したくなった。これもデビュー作。

★★★★★*89

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2010年1月28日 (木)

「臨場」 横山秀夫

臨場 臨場

著者:横山 秀夫
販売元:光文社
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横山さんもいつの間にか一年ぶり。ちょっと気を抜くだけで、一年も読ま
ない作家が出来るなんて、と驚き。その分読書の幅が広がったのか、
あるいは、それほどたくさんの作家が存在していると見るべきか。
しかし久しぶりに読むのもなかなかいいもので、なるほどこの人は、と思う。

「真夜中の調書」
中央市の東部団地で、二十九歳の高校教諭、比良沢富男が絞殺された。
犯人は五十二歳の元ホテルマン、深見忠明。物取りの目的で比良沢宅に
忍び込み、目を覚ました富男と格闘の末、ネクタイで絞め絞殺した。
慌てて戸外に逃れたが、隣家の人間に見つかって110番され、わずか
三十分後に団地内で警邏隊員に取り押さえられた。室内に残されていた
血液とのDNA型も一致しており、犯人は深見忠明ということで確定した。
しかし今日になって、結論が覆りそうだった。終身検視官という異名を
持つ、検視のプロ・倉石が異論を唱えたのだ。このような完璧な証拠に
何を疑うというのか? キレ者倉石の力が試される。

倉石検視官の「臨場」を描いた短編集。娯楽として読むには上質なほどの
短編集。しかし、「もうちょっといけるのでは……」といつも横山短編集
で思ってしまうのは、上質な短編集を書く割に、それを長編へもっていかない
からだろう。特にこの「真夜中の調書」なんかは、この(トリック?)案を
他の作者が見つけたら、絶対長編だね、というほど質の高いものだと思う
のだが、横山さんは、そうしない。長編は書くのが疲れるのか? それとも
長編にするために肉付けするのが苦手なのか。いつも短編ばかりで、
あぁもったいない、と思い読了するのであった。横山さんは1年ぶりだった
のだが、久しぶりに読むと、その人の癖が分かるもので、この本からは、
強烈な男臭さを感じた。勿論いい意味で。そして、その男の中でも、
悲いしいことは溢れている、でも生きていかなくてはいけないし、
というような心の中で割り切られているような淡白な男さを感じた。
十七年前の女を引きずる男にしても、どこか強さを持ちえており、
女に縋ってみたり、という弱さや、誰かに八当たりする、という弱さがない。
要するに、弱くないのである。悲しいだけど、頑張る、という静かな
強さが描かれており、その部分が警察ののし上がり的な地位意識と、
いい感じに合間って、作品のいい味になっているとも思える。でもこれに
気づいてしまうと、どれも同じ感情を持った人間に見え、よろしくないの
だけれど。……とそれはわたしだけかもしれない。最近に始まったこと
ではないが、誤認逮捕という事実がある。近頃では、栃木の幼児殺害事件
の犯人は誤認だったと知れたばかりである。初動捜査できちんと調べて
いたら、そんなミスなど起きなかったろうに、と悔やむ思いから、この
「倉石」の活躍がとても爽快な光景として映る。このような人間はいない、
心のどこかで思いながらも、何かを信じている自分を感じる事が出来る。

★★★★☆*87

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2008年10月27日 (月)

「第三の時効」 横山秀夫

第三の時効 第三の時効

著者:横山 秀夫
販売元:集英社
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アマゾンのレビューが大変高かったのですが、私はそうでもなく…。
というのも、この本が長編だと思っていた肩透かしと、
「第三の時効」というタイトルから、感動ものを期待していたことの
ギャップが原因だと思いますが。この本は連続短編集です。

「第三の時効」
本間ゆき絵は、幼馴染にレイプされた。その直後居合わせてしまった、
幼馴染と夫は、揉み合いの喧嘩になった。ナイフを持っていた幼馴染は、
金属バットを取ろうとした夫を、後ろから刺し殺した。
幼馴染は逃亡を図り、十五年間失踪した。
今日がその第一の時効日である。しかし幼馴染は、その後一週間
海外逃亡をしたから、本当の時効日は一週間後の第二の時効日であった。
ゆき絵宅に待機した警察たちは、今か今かとその時を待ちわびていた。
しかし、一人楠見は違った。「犯人には第三の時効がある」
仲間内にもの知らされない、第三の時効とは…?

タイトルから想像して、迂闊にも感動ものだと思い込んでいました。
身内を殺され、心の癒えるまでの「第三の時効」みたいな。
だから、短編集だと分かったとき、まずがっかりしたし、
「第三の時効」が本当に第三の時効、と言う法的処置だと分かった
あたりから、「なんだぁ…」とちょっと残念に思いました。
と、勝手な思い込みにより、一人がっかりしていて、
迷惑極まりないのは承知の上なのですが、うん、ホント凹みまして。
しかし、全体を通して、とてもよかったです。
警察と言う閉鎖的な組織の、人間関係、軋轢、競争、嫉妬、
様々な様子が、とてもリアルに描かれています。
連続短編になっているので、一つ目の話に出てきた主人公が、
2話目で少し語られていたりして、さすが横山さん読者が喜ぶことを
知っていますね、と言う感じでした。特に良かったのは、
本人の心理描写と、他人が語るその人物とでは、
微妙なずれがあることです。これは実際においてもそうだと思うけれど、
自分の考えていることと、周りから見られている部分は違うもので、
同じものだけど、少し違うというところを、さり気なくこなして
話が描かれている部分に、話の完成度も合わさって、
貫禄の作品であることは間違いないな、と言う感じがしました。
あぁ、でも私は横山さんの感動ものを読みたい…。

★★★★☆*86

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2008年10月 2日 (木)

「震度0」 横山秀夫

震度0 震度0

著者:横山 秀夫
販売元:朝日新聞社
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これ怒られるんじゃないのかなぁ…とか、思いながら読みました。
誰にって?いや、神戸の人に。あんまり大きな事件が起きたので、
情報が錯綜してしまって、本当は簡単だった事件の証拠さえも、
おざなりになってしまう、ということらしいのだが、何とも。

ある日、N県警本部警務課長の不破が突然姿を消した。
出勤してこないのはおろか、その妻さえもが彼の消息を知らなかった。
そんな時、あの事件が起きてしまった。戦後最大級とも劣らない、
阪神淡路大震災である。あまりの被害の大きさに、情報は錯綜し始めた。
時間を経過するにつれ、鰻上りに増えてゆく死者数は、
テレビ越しで見ている人間さえもを震撼させる力を持っていた。
こんなときに不破は何をやっているんだ? まさか死んだのか?
不安が過ぎる中、懸命の捜索が始まった。

そもそもの話、話の中盤で主要人物の心理描写で
「何千何万人死のうと、遠いところにいる自分たちには関係ない」
みたいな事を言い出すのですが、それってどうよ?と疑問が湧き、
素直に読めなくなった。あれこの本のタイトルなんだっけ?みたいな。
地震とは関係がない、と言いながら、あまりにも大きな事件では、
色んな情報が飛び交ってしまい簡単なことも解決できない、
そんな様子が「震度0」と言っている。失礼極まりないと思う。
とか、思った。もしこの地震が架空のものだったとしたら、
(それは日本が地震大国ではない事も想定の上で)
かなりパラレルで絶賛される本だろう。要するに「日本沈没」、
みたいな状況(ちょっと行きすぎだけど)の中、
主人公は一人の人物をまめまめしく探す、のような。
でも、この本は明らかに阪神淡路大震災が舞台なのだ。
それを考えると、どうしようもなく被害者を労わらない本だよね、
とか嫌な感情が先に来てしまうのだった。不謹慎と言うやつ。
その他、この本は誰が主人公なのかイマイチよくわからなかった。
主に三人ぐらいの視点でぐるぐる回るので、
誰にも感情移入できずに読了。主をころころ変える
利点は何なのだろうか、と疑問に思った小説だった。
あとは、捜査の杜撰さ?「妻の話を聞いてみなくては」という感じの
ところがあって、奥さんも推理参戦ですか?と、若干しらける。
折角警察内部の面白みを書けるのだから、いろいろ、
よく考えて書いて欲しいよ、もったいないよ、と思ったのでした。

★★☆☆☆*74

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2008年9月19日 (金)

「深追い」 横山秀夫

深追い (新潮文庫 よ 28-1) 深追い (新潮文庫 よ 28-1)

著者:横山 秀夫
販売元:新潮社
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本当に久しぶり横山さんを読んだ。このかたっくるしい感じ、大好き。
横山さんが書くと何で全部事件は事件らしく見えるんだろうと、
毎度不思議でなりません。この本は短編集ですが、今までの
短編集の中では一番いいかもしれない。

「人ごと」
ある日とある交番の前で粗末な財布が拾われた。
中には少しの小銭と、フラワーショップの会員証が入っている。
「草花博士」と呼ばれる西脇はそれを見て、
確かそのフラワーショップでは、会員名を記録していることを
思い出したのだった。粗末な財布から、貧乏で哀れな老人を
連想した西脇は興味を持ち店を尋ねてみることにした。
財布の持ち主は多々良という老人。けれども多々良は裕福な男だった。

財布だけで貧乏な老人と判断するのかよく分かりませんでしたが、
この話はラストがとてもよかったです。
こんな老人がなぜ高層マンションに住むことにしたのか、
その理由が、花とかけられて、娘たちを見守るためなのだ、
と知れたとき、それを全然予想していなかったからか、
とても心にしみたのだった。けれども、やっぱり
なぜ多々良は財布を落としてまで警察に自分を知らせたかったのか。
もしくは、もしも花好きな人に拾ってもらえなかったらどうするのか、
等々、微妙にこじ付けがましいところはあるのだが。
それを差し引いても、今回は読んでよかったかもと思った。
その他は、警察内部のバツの悪い話、と言う感じ。
だけどそれが悪いのではなくて、警察内部にいながら、
その「悪」に気づき、これじゃいけない、と決意して、
自ら足を踏み外してみる、という感じ。悪くないです。
個人的には横山さんの本は、長編の方が好きなんですけどね。
私はやっぱりミステリが好きなようです。
最近あんまりいい本に巡り合っていないのだけど、
だれか、どうぞお薦めを…と言いつつ、私に読ませると
ひどいこと書きますからね、すみません。
でもちゃんとしっかり読んでいるんですけども。

★★★★☆*88

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2008年3月 5日 (水)

「真相」 横山秀夫

真相 (双葉文庫) 真相 (双葉文庫)

著者:横山 秀夫
販売元:双葉社
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横山さんを久しぶりに読んでました。個人的に重い長編を読みたいな
と思って読み始めたので、短編集だと気づいた時には、
かなりのショックでした。笑 短編であっても、
一つがこんなに濃厚なのは、なかなか凄いことである気がしますね。

「真相」
息子を殺した犯人が捕まった。篠田は、体が戦慄くのがわかった。
十年間待ち続けた瞬間が、今ようやく訪れたのだ。
この吉報を、篠田は妻に、娘に、知らせたくてたまらず、
またその嬉しさや喜びを分かち合いたかった。
しかし、警察が新聞記者を携え家に訪れたときに、聞かされたのは、
息子が「万引きをした」と言う犯人の供述だった。
佳彦は殺されたんだぞ? それでも尚罪を被らせるつもりか…!
篠田は激昂し、記者や妻たちを攻め始めた。佳彦はそんな子ではない。
だが、娘が語り始めた息子は、篠田の思うような優等生ではなかった。

つい隠蔽して、なかった事のようにし、
ただよい部分だけを思い出や記憶として取っておく。
そうした脳内の処理は、きっと人間が知らず知らずのうちに
行ってしまっているものだろう。殺された息子が、
まるで優等生で穢れのない子どもだったと、錯覚してしまうように、
綺麗な記憶とだけ残してしまうのは、とても頷ける。
そして、実は違ったのだ、と知らされ、
「そう言えば、あいつは俺を嫌ってたじゃないか」とか、
そう隠していた記憶が蘇るときの切なさが、
とてもよく描かれていたように思う。
個人的に「真相」が一番よく、その他は微妙だったように思う。
「花輪の海」などは、なんだか死のこじ付けが激しく、
その後自殺してしまった友人の、妻の様子がとても現実味がない。
とても現実的とは思えない雰囲気が、残念ながら、
他の全ての作品から感じ取ることが取れた。
ちょっと深く描くために、説明が多すぎたのかも?
そういうところからも一番「真相」がシンプルで、
「真相」という、物事の裏側に隠してしまっていた事実、
を描けていたように思う。これは「死者の美化」でしたが、
「殺人の正当化」も書いて欲しかったな、と一言。
せっかく「真相」なのに、さほど「真相」じゃないのが玉に傷。

★★★☆☆*85

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2006年12月 8日 (金)

「出口のない海」 横山秀夫

出口のない海 出口のない海

著者:横山 秀夫
販売元:講談社
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あー・・・泣いた。疲れた。
横山さんの刑事ものも記者ものもいいけど、戦争ものもいいな、と思った。
あえて言うなら、もうちょっと序章が長くてもいいような・・・。
短くて何が起こったのか判らず、読む気になりづらい雰囲気がある。
並木の章に入ってしまえば、もうそこからは言う事無しです。

時は第二次世界大戦―そこには甲子園で優勝をした豪腕ピッチャーがいた。
大学へ進学し、いよいよ職業野球を目指せると意気込み始める頃、
その右腕は悲鳴をあげ、ボールをホームまで投げる事さえ出来なくなってしまった。
激戦が繰り広げられる最中、野球を諦めきれない彼も間もなく徴兵されてしまう。
国、それから家族と仲間を守るため、戦う事を余儀なくされ、そして、
彼は自らの命と引き換えに追撃する、特攻隊を志願した。
死の間際でさえも定まらない死の理由と、戦争への疑問。
複雑な思い抱きながらも魔球を完成させようと死の世界へ駆け上る。

「兄さん。お国のために立派に死んできてください」
そう敬礼するトシの様子を思い描き涙が止まらなかった。
こんなことってあっていいのだろうか?・・・と疑問と複雑な思いが過ぎる。
トシの中ではごく当たり前のことを言ったのであろう、
戦争の時代に生まれ、幼い頃から戦争に勝つことだけを教えられているのだから。
甲子園を優勝した兄が誇らしかったように、
特攻隊として国のために命を捧げる兄はどれほど立派に映っただろう。
しかし、それは間違っている。その歪みがとても痛烈だった。
兄一人が死んだところで国が勝つわけでもなければ、家族だって救えない。
むしろ、かけがえのない青年を犠牲にしているだけに過ぎない。
目の前を過ぎる爆撃を前に私が同じ事を言える自信は到底無いけれど、
この悲惨なまでに腐食された戦争と言う悪魔が憎たらしかった。
隣を次々に飛び出し死んでゆく同志たちを見て、
自分の番は今か今かと待ちわびる姿が焼きついてはなれない。
これが飛んだら、死ぬ。死に直面した時の人の気持ちと、
死人を送り出さねばならない補助員の様子が、痛々しく、辛い。
いい話、だけど並木の最後がなぁ・・・あれでよかったのかな、と少し思う。
でも確かに並木が伝えてくれた思いは重かった。
涙したのは、失敗・自信の喪失・焦燥・・・もっぱら特攻出撃時でした。
(と言いつつあの「ボレロが聞きたい」の理由が薄かったと思うのですが;)
最後はしっとりと纏められて、老人が語る懐かしい日々、と言う形になる。
しかしながら、話の殆どが並木の戦場を写しているため、
まるであの時の2人が並木と言う人物をその目で懐かしんでいるようで良かった。

★★★★☆*88

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2006年12月 1日 (金)

「半落ち」 横山秀夫

半落ち 半落ち

著者:横山 秀夫
販売元:講談社
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うーん。映画を細かい所までよく覚えていないからかも知れませんが、
私的に映画の方がよかった印象があります。(と言っても2年前の記憶
それにしても、まさに寺尾さんのために主人公が用意されたのでは?
と思うほどマッチしていてかなりスムーズに情景を思い描けます。
そしてここにも記者健在。さすがだね、横山さん。

現役警察官が「妻を殺した」と言って自首をしてきた。
年齢49歳、元警部、周囲は口々にすこぶる温厚で心優しい人だと答える。
彼は容疑を認め、反省をしているが、一つだけ引っかかる問題がある・・・
彼が自首をしたのは妻を殺してから2日経った3日目の早朝だったのだ。
息子の死、妻がアルツハイマーだったと言う事情や彼への同情の余地も見える中、
その空白の2日間が、マスコミに大きな問題として取り上げられる。
黙秘や虚偽を述べながら頑固として真実を語らない彼の本心を、
警察・検察・記者・裁判官、そして刑務所員が必死に追いかける。

日本の法律は、被告人が罪を認めてさえいれば、
例え心に秘めた隠し事があったとしても、そのまま処理されてしまう。
そんな、あってはならない事実がこの切ない話の中に盛り込まれている。
現代とは僅かなずれが生じると感じながらも、
法を駆使し、躍起になる警察や検察や裁判官たち。
そんな、法で雁字搦めにされた様な彼らの前に、全ての罪を認め、
自分に過酷な道を選んでさえも守りたい物の存在が現われる。
書面や定義付けられた作業では救う事ができないその大切な思いを
どうか開放してやる事は出来ないかと願う、その姿に感動した。
でも、一番心を動かされたのは、やはり犯罪の動機である。
7年前に白血病で死んだ息子。梶と妻は息子の命日に墓参りに行った。
しかしアルツハイマーの妻は、墓参りに行った事を忘れ、
「息子の命日を忘れるなんて」と狂気し、殺してくれと叫んだのだ。
それ思い浮かべた時、果たして私は殺す事を躊躇う事が出来るだろうかと迷った。
あるいは、夫に「殺して欲しい」と言わずにいる事をだ。
妻を殺したあとの2日間。中盤から話の方向がそちらへ向く。
だから、読み手としては、ラストへかけて期待が高まっていき
「妻を殺した事に苦心しながら」と言うのがポイントになるため、
ラストの部分は若干暖簾に腕押しな気もする。
勿論感動的で、そうか、それで死ぬ、と言う簡単な逃げ道よりも、
罪を負ってまで誰かのために生きると言う方を選んだのか、と納得も出来る。
でも妻に対し、と言うよりは「妻もその方がいいと言ってくれるだろう」
的に感じてしまい、私的には盛り上がった分、盛り下がりも激しかったと思う。
今思い返せば、映画でも中盤(殺害理由)あたりで号泣してました。
いい話なんだけどね、凄く。でも小説はちょっとくどかった。

★★★☆☆*85

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2006年7月 8日 (土)

「クライマーズ・ハイ」 横山秀夫

クライマーズ・ハイ クライマーズ・ハイ

著者:横山 秀夫
販売元:文藝春秋
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横山さんにやられた!!って思った1作。
もう最高です。何も言う事ありません。
のむさん、薦めてくれてありがとう。本当に。

止まらない、止まらない!物凄いスピードで読みました。
「半落ち」から1年半ぶり位に横山さん読みましたが、
列なる文章の中に只ならぬ迫力に圧倒されました。
いつもと違う、って感じ。さすがは自分の土俵だからでしょうか。
(私は実は記者だって知らなかったのですが……)
悠木の世界最大級の大惨事と息子との軋轢と同僚の闘病と
部下の自殺の間で、必死にもがく悠木の苦悩と決死の決断がひしひしと
伝わってきます。小説なのにドキュメンタリーでいけるんじゃない?
って思うくらい丁寧で緻密なストーリーにもう文句の付けようが無い。
悠木の心の葛藤が、そのまま自分の事様に流れ込んできて、伊藤に
イライラしてみたり、安西との約束を破った事に本気で後悔しました。
勿論新聞社の社内でのモメモメな大変さや、現場とのやり取りの
歯がゆさの中の悔し涙、どれをとっても素敵でしたが、私は
「そのハーケン、淳君が打ち込んだんですから」
と言う燐太郎この一行で泣けました。自分を嫌っているのでは?
もう父と子の関係すらもてないんじゃないか?
と考えていたのに、実は息子は父のためにハーケンを残していた。
息子との関係に悩んでるお父さんにもお薦めの一冊です。

★★★★★*98

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