2012年12月11日 (火)

「夜明けの街で」 東野圭吾

51pgtcu0lgl_sx230_

サイン本です。本棚を整理していたら発見しました。東野さんの
サイン本なんて結構レアなんじゃないですかね?しかし、サイン
が入っていると、どうも貴重な感じがして読まないんですよね。
いいのか悪いのか微妙なところ、久しぶりの東野さんでした。

渡部の働く会社に、派遣社員の仲西秋葉がやって来たのは、
去年のお盆休み明けだった。僕の目には若く見えたが、彼女は
31歳だった。その後、僕らの距離は急速に縮まり、ついに越えて
はならない境界線を越えてしまう。しかし、秋葉の家庭は複雑な
事情を抱えていた。両親は離婚し、母親は自殺。彼女の横浜の
実家では、15年前、父の愛人が殺されるという事件まで起こって
いた。殺人現場に倒れていた秋葉は真犯人の容疑をかけられ
ながらも、沈黙を貫いてきた。犯罪者かもしれない女性と不倫の
恋に堕ちた渡部の心境は揺れ動く。果たして秋葉は罪を犯した
のか。まもなく、事件は時効を迎えようとしていた・・・。
(amazonより)

ネタバレしてます、ご注意。
東野さんの恋愛メインシリーズには、個人的に嘆息を覚える作品が
多数あります。その真骨頂が「ウインクで乾杯」ですが、この本は
リアルタイムで読んだためか、古めかしさを感じることなく読了しました。
とくにわたしは女性なので、男性の浮気に至までの心理描写が、
なかなか真に迫っているように感じがして、不倫ではありますが、
恋愛小説という面で、面白さを感じることができました。しかしながら、
たくさん推理小説を出している作家さんにありがちな、物語の
「パターン化」現象は何とも言い難いもので、物語後半の推理劇では、
やっぱり「推理劇なんですね……」という残念な気分になるのでした。
前半の恋愛部分が好感触だった部分、最後のミステリとの結合が
余計に推理劇突入を浮き彫りにしていました。むしろ、それを狙った
んだろうか?と思わなくもないくらい、くっきりと。「それにしても物凄い
自殺方法だ」みたいな主人公の心理文章が出てくるのですが、
「いやいや、そのありえない設定の物語書いているのあなたじゃあ
りませんか」とつっこみました(笑)。でも、東野さんの恋愛+ミステリ
の中では、わたしの中でかなり上位を占める本でした。

★★★★☆*88

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年4月25日 (月)

「どちらかが彼女を殺した」 東野圭吾

どちらかが彼女を殺した (講談社文庫) どちらかが彼女を殺した (講談社文庫)

著者:東野 圭吾
販売元:講談社
Amazon.co.jpで詳細を確認する


おーさすが東野圭吾である。あーやっぱり東野圭吾である。東野圭吾を
読むたびに思うのだが、このもやもやした気持ちをどう伝えられよう、
と悩むばかりである。まるで教科書のような。まるで読者がどう思うか
すべてを知り尽くしているかのような。あるいは上り詰めた頂点であるような。

和泉康正は数日前の妹との電話の内容が気になり、彼女の様子を見るため
上京することにした。妹・園子のマンションに着いてみると、呼び鈴を
鳴らしても何も反応がなかった。不審に思った康正は、合鍵を使い中へ
入った。園子はベッドに横たわり、――そして死んでいた。布団を捲ると
パジャマの中に電気コードのような物が繋がっているのが見えた。さすがに
服をめくる気力はなかったが感電死したのは明らかのようだった。横には
タイマーらしき物がセットしてある。康正は警察官という職業柄
冷静さを取り戻すと、この部屋の不審な点を探し始めた。部屋を見渡すと
何かがおかしいのである……。しかし、このままでは園子は「自殺」として
処理されてしまうのが目に見えていた。そして康正はある計画を考え始めた。
他の人間の手は借りず、自分で犯人を探し当てること。園子の部屋の冷蔵庫
には、園子の友人と、「J」という人物の電話番号が書かれていた。康正は
さっそく犯人を割り出そうと状況の推理を始めるのだが……。

文庫で読んだのだけども、単行本で読むことを大いにお勧めします。以下、
ネタバレ含みますので、本書をお読みになった上で読まれた方がよいかと。
「袋とじ」と呼ばれる推理の手引きなるものには、右利きか左利きか、
というところが大いにクローズアップされているが、正直、本編最後の
数行部分にある「どちらでもよかった」的な主人公の描写で「ごもっとも」
と思ってしまっていたので、本当に「どちらでもいい」と思った。そもそも
中盤から、共犯ではないか、説が出てくる時点で、なんとなくもっと愛憎劇
が必要ではないか、とか思ってしまうのだった。だって、容疑者は最初から
最後まで2人しかいないので、「彼」「彼女」「2人で」の3パターンしか
答えがないのは当たり前なのである。しかも「彼」「彼女」は、園子から、
同等の憎しみを受けている。同じ理由で。寝取った女が殺したか、
浮気した男が殺したか、どちらもありがちで、なんとも動機の重さに
かけるような気がしてならないのだった。それはなんだか、「東野ミステリ」
という、なんだかよく分からない物語に、人が踊らされているように見える
からかもしれない。主人公・康正についても「妹を殺された恨み」よりも、
「犯人が誰かを突き止める」の方にかなり傾いており、人間味的なものが、
まるでないのだった。例えば何度も妹の部屋に行けば、思い出の一つくらい
思い出しそうなものだが、彼は何も思い出さない。黙々と事件のチェックを
するばかりである。勿論犯人を突き止め、復讐するという念はとても
よくわかるし、ありがちだし、読みやすいし、受けやすい内容だが、そう
したスタンダードから来る(むしろわざとスタンダードにしたというべき)
「推理」としては、何となく煮え切らないのだった。煮え切らないまま、
どちらでも犯行可能な状態、どちらかが頷けば犯人確定、というような、
なんとも微妙な進行は、面白さよりも、「で、どっちなの?」という、
結果だけを知りたがって、周りを見落としているような感覚に陥る上
これまた主人公・康正のような感情になり、疲れ果て「どちらでもよかった」
と思うのだった。そう言う意味ではとても主人公の気持ちを理解できる
小説ではないか!と思わなくもないのだが。いかんせん、狙いはそこではない。
タイトルが『どちらかが彼女を殺した』なのだから。最後読み終えてみると
「どちらかが彼女を殺したみたいだが、まぁどちらでもいい」
気分になる小説とでも言っておこう。これ単行本読まないと犯人特定でき
ないんじゃ?とか思いつつ、犯人は彼女です。それとそう、加賀シリーズです。

★★★★☆*86

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2011年3月30日 (水)

「名探偵の掟」 東野圭吾

名探偵の掟 (講談社文庫) 名探偵の掟 (講談社文庫)

著者:東野 圭吾
販売元:講談社
Amazon.co.jpで詳細を確認する


毎年なんだかんだ言って、一番読んでしまう東野圭吾。この人の本は、
「お茶請け」的である。と言うと多方面から反感を買いそうだが、
「とても面白いことは滅多にないがとても詰まらないことも滅多にない作家」
だと思う。やはり反感を買いそうだ。それにしてもやりすぎだよ東野さん。

「第一章 密室宣言――トリックの王様」
「警部、事件であります。奈落村で殺人事件が起きました」
布団の中にいた私の元へ、お決まりの電話がかかってきた。当直刑事の
うろたえる声が耳に飛び込んでくる。ミステリ小説では極めてありがちな
出だしである。私は早速部下を連れてジープに乗り込み、奈落村へ向かった。
村にはよぼよぼの巡査しかいないと言う。これでは無法地帯も同然だ。
私が死亡した作蔵という男の家を調べていると、野次馬の中から、
よれよれのスーツにもじゃもじゃ頭という変な格好の男がステッキを
持ってやってきた。このシリーズの主人公、天下一大吾郎だ。
「また君か。なぜこんなところにいる?」私はお決まりのセリフを述べた。
「それより大河原警部、この事件はどうやら、『あれ』のようですよ」
「『あれ』なのか」……閉ざされた雪深い農村で起きた殺人事件。
雪の上の足跡は、第一発見者の鉄吉のものしかない。これは、もしかして、
禁断の、『あれ』……み、みみっし……いや、読んでからの方がよろしい。

そもそも「ミステリ」という書物は、人間にとっての最大の娯楽ではないか
とわたしは密かに思っている。現実社会で人を殺してしまうと、残念なことに
警察のお世話になってしまうので、その鬱憤を晴らすために、これらを、
読むのではないか、と思うのである。ことに、最近のミステリは、もはや
「ネタ切れ」状態である。とっても面白いミステリは、遠い昔にアガサ・
クリスティやアーサー・コナン・ドイルが書いてくれているので、
もはや、今からそれらを超える名作を作り出すのは不可能ではないか、
と考えられる。その結果、そのミステリ作家の混迷の結果、生まれたのが、
この本と言ってもいいだろう。東野さんは、意欲的にいろいろなパターンを
描く作家である。『十字屋敷のピエロ』や『むかし僕が死んだ家
仮面山荘殺人事件』『私が彼を殺した』などなど、いろいろな「トリック」
を駆使した作品を作り出している。どれも東野圭吾色。まさしくミステリを
作り上げており、感嘆、ではあるが、しかしそれらの「トリック」の、
ネタ元を辿れば、いつかどこかで誰かが書いたようなミステリなのである。
「女が宙に浮く手品を何度も見せられて、「トリック」が違うんです、
などと言われても、誰も喜ばない」と言うようなことがどこかに書かれて
いたが、自分たちを失笑するにもほどがある……痛々しすぎて泣けそうだった。
いや、物語は、実に滑稽極まりなく書かれているのだが、「どんなに
頑張ったってすでにすごい作品がたくさんあるからもう仕方ないのさ!」
といった開き直りを感じるのだった。確かに、そうだと思いますよ、東野さん。
しかし、やっぱりミステリを求めている人間がいるからには、「新しい」
何かを描かなければならないわけで。だから『容疑者Xの献身』のように
人情に迫るか、堤幸彦監督の『TRICK―トリック』のように、テーマは、
もはや「定番」でよろしい、ギャグすら吹き飛ばすありえない「トリック」
でゆくか、という2パターンにわかれるような気がする。この本は、
そのどちらとしても描かれておらず、そのようなミステリ界を俯瞰して
笑うためのものである。エッセイか解説本でもいいんじゃないの? な、
あきれるほどの失笑と、あきれるほどの苦悩を鑑みて、「作家って大変だな、
っていうか「新しい」っていう定義がそもそも……」とか同情する始末だった。
『黒笑小説』とか、そんなんですね、もはや。やりすぎです。
そう言えば、このドラマ見たかも。松田弟の出てるやつ。あれがそうだったのか?

★★★☆☆*83

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年1月18日 (火)

「さまよう刃」 東野圭吾

さまよう刃 (角川文庫) さまよう刃 (角川文庫)

著者:東野 圭吾
販売元:角川グループパブリッシング
Amazon.co.jpで詳細を確認する


ん?……うーん?……うーん……。なんとも言いがたい本だった。先日
高野さんの正確な知識ががっちり詰め込まれた「13階段」を読んでしまった
ので、余計に陳腐さを感じてしまったのがこのもやもやの原因かも。
しかしまぁ、人気作家が行うべくは、王道で正しい事を投げかけることかと。

お祭りの夜、長峰の一人娘・絵摩は2人の男に襲われた。2人は一人歩きの
女性を狙ってレイプを繰り返す卑劣な奴らだった。男たちは絵摩を
レイプした後解放するつもりだったが、クスリを投与したときのショックで
彼女が死亡してしまったため、死体を川に流す事にした。死体は見つかると
すぐさま事件はニュースになり、マスコミの注目の的になった。
一人娘を失った長峰は、絶叫した。身を引き裂かれるほどの感情が長峰を
襲い、残ったのは犯人への憎悪だった。しかし、犯人とされる2人の男は、
未成年であるとされていた。未成年はどんなに悪い事をしても罪が軽くなる。
例え大人であれば死刑を求刑される犯罪であっても、未成年と言うだけで、
無期懲役、あるいは軽い執行猶予で済んでしまうのである。そのことは、
長峰をさらに苦しめた。そんな時、長峰の元に謎の人物から密告の電話が
かかってきた。逃走中のレイプ犯の所在を知らせる内容だった。長峰は
訝しがりながらも、自ら犯人を懲らしめようと現場に向かうのだが……。

王道の王道。法学部で「刑事政策」を取った場合、ここを押さえておけば、
まぁ単位は取れるでしょう、な部分である。実際の授業の内容でいくと、
グレイゾーンなるものがあり、19歳~20歳までの少年は20歳1ヶ月の少年と
どう違うのか、などと言う細かい論争に発展してゆくのだが、この本では
一切その部分は語られない。警察がたっぷり出てきているのだから、
もう少し語られてもいいのではないか、と思わなくもないが、そう言った
少年法のおかしさ、よりも、マスコミのおかしさ、の部分を描きたかったようで
途中からマスコミについてに流れてゆく。ちなみにマスコミについては、
「マス・コミュニケーション論」という授業で、プライバシーの権利など
を学ぶことが出来る。これについてもグレイゾーンなるものが存在するが、
この本では一切その部分は語られない。一般の人間が「それっておかしい
でしょう」と思う内容の「上澄み」の部分を上手く利用した物語だった。
というわけで、まったく法律的な深みがなかった。だけど、法学を
学ぶ機会のなかった人たちが読むのだったら、まさに疑問と思っていると
ころを描いてくれている訳で、人気作家・東野圭吾が行うべくはこのような、
「あるある」な「わたしがこんな状況にあったら我慢できない」といった
ような、状況を上手く描き賛同を得ることなのだろうか?と思ったりもした。
でもなぁ、ここでぐぐっと法律的な知識で「なるほど!」ていう部分が
あったら、すごく面白かったと思うのだけど。500Pもあるし、懇親の作で
あるのはよく分かるのだが、惜しいなぁと思う気持ちが先に来てしまった。
そう言えばこの本は7年前の本だが、今の時代、携帯電話の電源を入れる
だけで、GPS機能が作動し、一体どこにいるのか分かってしまうようだ。
この本ではGPSも、着信履歴もまったく捜査されないが、なんとも便利な
世の中になったものだと思う。これで犯罪が減らないってどういうことよ、
とか思いますがね。云々。結論、少年法は難しい。え、そこかよ。みたいな。
少年法の面白さはそこじゃない気がするんだよね。とか。云々。

★★★☆☆*86

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年1月 8日 (土)

「むかし僕が死んだ家」 東野圭吾

むかし僕が死んだ家 (講談社文庫) むかし僕が死んだ家 (講談社文庫)

著者:東野 圭吾
販売元:講談社
Amazon.co.jpで詳細を確認する


久しぶりに東野さん。なんだかとても東野圭吾が読みたい!と思い読んだ。
外れないがなかなか大当たりもしない東野圭吾。なんとも東野さん
らしい本だった。東野ステレオタイプな人物の会話。なんだかどうも
感情を理解できない部分があるような。しかしそこが安心感なのか

同窓会で再会した元恋人から、あるお願いをされた。失くしてしまった
昔の記憶を一緒に捜しに行って欲しいというのである。沙也加は、
小学生以前の記憶がまったくないと言うのだった。沙也加はすでに
別の男性と結婚しており、一児をもうけている。わたしは躊躇ったが、
彼女の悩みを聞くうちその誘いに乗ることにした。2人は車に乗り、
手がかりである山沿いの家へとやってきた。玄関は開かず、隣の納屋から
入ると奇妙なしかけのこの家からは、次々に謎が見つかり始める。
ここに住んでいたのは、高齢の夫婦と、晩年に出来た幼い息子の3人
のようだ。謎が解けるにつれ沙也加は次第に記憶を取り戻すのだが……。

いつも思うのだが、東野作品の人物の会話は、英会話の翻訳を聞いて
いるようだ。それが「ステレオ」なる単語を考えてしまう原因かも
しれない。ある意味いつでもそこにある「ステレオ」こそが、
こうしてまた読みたいと安心感を与えてくれる一つなのかもしれないけど。
とか、思ったりして。この本は登場人物が主に2人である。すべては
2人の会話だけで成り立っているのか、と思うととてもすごいことだ。
そして今回より一層「ステレオ」を強調している部分でもあった。
それにしてもせっかくぐるぐる面白かった謎が、うまく昇華されずに
もったいないな、と思ったのが一番だった。一体この家は何なのか?
誰が住んでいたのか?そもそも住んでいたのか?誰が殺されたのか?
誰が殺したのか?本当の父は誰なのか。前半部分でこの家は作り物である、
と薄々感じるのだが、ページの始めから8割までは、非常にもやもやして
楽しい。さて、面白い推理に期待!とわくわくし始めたところで
やってくる、唐突なよくわからない心情に、うーん……であった。
親が子どもを虐待して殺してしまいそうだ、という話で来たはずなのに、
子どもが親を殺して隠蔽し終わるのか。虐待をやめたいのにやめれない、
沙也加の悪い過去を葬り去るための「家」だったはずが、父親の
変質的な性行為が露になっただけで、沙也加がなぜ虐待にいたったのか
のせっかくの説明が立ち消えたように思う。同じ暴力の方が、説得力
あったのになぁ、むむむ。違う本も読んでみよう、そうしましょう。

★★★☆☆*86

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2010年3月 6日 (土)

「ウインクで乾杯」 東野圭吾

ウインクで乾杯 (ノン・ポシェット) ウインクで乾杯 (ノン・ポシェット)

著者:東野 圭吾
販売元:祥伝社
Amazon.co.jpで詳細を確認する


何とも昭和の香り漂うタイトルですが、タイトルもさることながら、
内容も昭和の香りがぷんぷんしてました。こういうスタイルって、
どこで生まれるものなんでしょうね。雰囲気は、火曜サスペンスより
土曜ワイド劇場「美人コンパニオンの推理日誌」とかそういう雰囲気。

有名宝石店「華屋」のパーティにコンパニオンとして参加した香子は、
一人の男に目をつけていた。男の名は高見俊介――「華屋」の常連客で
あり、高見不動産の有力な跡取として噂されている男である。
宝石が大好きな香子は、是が非にでも高見と恋人となり、あわよくば
高級な宝石や財産を手に入れようと、玉の輿を狙っていたのだった。
パーティが終わり、偶然ホテルのラウンジで高見を見かけた香子は、
チャンスを逃すまいとして、接近していく。話が弾み、場所を変えて
食事をすることになった。店を移動し、高見を待っていたが、その間に
衝撃的な事件が起こった。同じコンパニオンとして働いていた絵里が
ホテルの客室で死んでいたのだった。現場は密室。しかし、絵里には、
自殺の動機がない。真相を暴こうと絵里は刑事の芝田に協力するが……。

土曜ワイド劇場「美人コンパニオンの推理日誌」、まさに言い当て妙。
くるくるの巻き毛に、真っ赤なルージュ、ボディコンのような衣装で、
笑顔を振りまく女。まさにバブルの女の描写だが、主人公香子は、
まさにそのような女である。これが流行っていた、というよりも、
それこそが普通、というような、動かしがたい何かが息づいている本、
である。それは宮部みゆきの古い本を読んでいる時にも、とてもよく
思うことなのだが、ある意味、価値があるもではないかと思う。
数十年経って、数百年経って読まれたときに、伝わる何か、である。
バブルというものをまったく知らない人間が読んだとしたら、決して
「古臭い」ではなく、違う感覚を得るのだろう、と思えるからである。
しかし、それ以外の、ミステリは、そのような時代の流れの何か、
で変わるものではないわけで。まぁ最先端の科学的なトリックなら
別だが、この本には一切そのようなトリックは使われていない。上に、
小学生でも思いつく呆気ないトリックであるために、そのバブル時代を
克明に描いている美点を全て打ち消して、「しょうもない感じ」、
いわゆるどこにでもありそうな、量産可能な物語(まさに土曜ワイド)、
に成り下がった、という感じであった。残念極まりない。
セロテープって……。本格推理小説!と押しているのが泣けてくる。
それに、もう一つの失点は、警察の捜査が一般人にだだ漏れであること。
しかも、その漏れ方が、男女の友情。これはちょっと……。
まぁまぁ文句は書いたけれど、まさに、土曜日にテレビで見られる
殺人事件という感じである。このスタイルは果たしてどこで生まれるのか。
そう言えば「華屋」はこんなときから、考えられていたのか、と驚き。
佐竹という男も、だいぶ登場するし、思い入れがあるんだろうな、と。

★★★☆☆*75

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2010年1月 8日 (金)

「時生」 東野圭吾

時生 (講談社文庫) 時生 (講談社文庫)

著者:東野 圭吾
販売元:講談社
Amazon.co.jpで詳細を確認する


あぁ、そうなのか、そうなのか、と新たな1つに気づいた本。それにしても
この読ませる力、すごいよね。もしも面白くなくても、こんなにスムーズに
ページを繰れるなら、そこには才能があると認めざるを得ない。
もちろんこの本は、面白い分類の本でした。鍛錬の賜物かと敬服。

宮本拓実は今さら発すべき言葉もなく、ベッドの脇で立ち尽くしていた。
言葉がないのと同様に、打つべき手もなかった。彼の息子・時生は今、
集中治療室のベッドの上で、生死の境を彷徨っている。こうなるであろう
ことは、時生が生まれる前から分かっていたことだった。妻である麗子の
家系はグレゴリウス症候群という病に犯されており、特に男子には、
遺伝する可能性が非常に高いとされていたのである。その病は、不治の病で
あり、成長するにつれ、だんだんと運動機能を失ってゆく。つまり
若くして死を迎えることを意味していた。血の滲むような苦悩の決断で
あったが、拓実は麗子に子どもを生むことをお願いしたのだった。
しかし、その息子はもう、助かりはしないところまで病状が進んでいた。
そんな様子をみながら、拓実はその昔、まだ麗子に出会う前、突然
自分の前に現われた青年のことを思い出した。その青年はたしか「トキオ」
と名乗り、自分と唯一の血縁なのだと言っていたが……。

読みやすさ、抜群。今までの東野本の中で、一番のスピードで読み終わった
気がした。もうページを繰るてが止まらないのである。するすると文章が
頭に入り、状況を的確に知る事が出来る。謎は残らず、すっきりと読了する。
鍛錬の賜物、と言うべきような作品であった。何度も何度も同じことを
していれば、物事が最適化するように、読み手が欲しい物を、ほしい所に、
的確に配置しているという印象がとても強い。分量はこのへんで展開した
方が読みやすく、このへんで終局したほうがすっきりするだろう、と
とても洗練された構造になっているのだった。と、裏を返せば少々機械的。
そして、説明文がとても多く、すべてに置いて状況を「説明されている」
という印象を受ける。それと、これは今回気づいたことだが、東野さんは
かなり細かいところまで描写を入れる人である。小説と言うのは、
「書かなくていい行動」と呼ばれるものがある。もしもすべての人間の
行動を描写していたとしたら、とんでもない枚数になってしまうわけで、
その行動の中から、作者が選りすぐった行動を、作者なりに書くわけである。
そんなの当たり前だ、と言われそうだけれど、これがかなり重要なポイント
として、自分の好きな作家、嫌いな作家を分けているといってもいいと思う。
で、今回東野さんは、だいぶ細かい動作まで描写する作家なのだ、と改めて
気づいたのだった。もういろいろ合わせると20冊くらい読んでいるけれど、
目に見えない、感覚という点で、「あ、他の人より多い」とようやく
感じる事ができた。それくらい描写というのは潜在的で、もっとも物語
自体とは関係がないので、分かりにくいものなんだなぁ、とか、しみじみ
思った1冊だった。そして本の内容だけど、とても感動できるものであった。
最初から結末が見えているといえば、見えているのだが、そこは問題ではない。
あと、やはりやくざの登場が東野さんらしいというか、なんというか、
ちょっと非現実的な「若気の至り」ではあったのだが、まぁ、さて置き、
「きっと素晴らしい人生がまっているから」という一言を読む時の心の揺れに、
この本の全てが詰まっているだろう。誰しも、占いや予想に頼りたい弱さが
あり、その不安な小さな隙間を埋めてくれる温かい何かが欲しいのだと。

★★★★☆*87

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年12月 7日 (月)

「十字屋敷のピエロ」 東野圭吾

十字屋敷のピエロ (講談社文庫) 十字屋敷のピエロ (講談社文庫)

著者:東野 圭吾
販売元:講談社
Amazon.co.jpで詳細を確認する


本の感想とはまったく関係ないけど、最近体調が怖ろしく悪い。
きっとそんなに長くないんだろうな、とか思ってしまう。残念だ。
で、今日もまた東野さん。この安心感を味わえる事さえ幸せに思う。
これを二十代で書いたのか、と思うと、高橋さんと一緒、憎らしく思う。

北から南に伸びる廊下と、東から西へ伸びる廊下が交差した、
不思議な造りをした屋敷を、水穂は十字屋敷と呼んでいる。
そこでは、先日亡くなった頼子の四十九日のため、親戚一同が集まる事に
なっており、水穂は一年半ぶりに海外から帰ってきたのであった。
屋敷には、竹宮産業の社長をはじめ、取締役など重役、孫娘、秘書、
家政婦、遠縁の美容師、同居人の男などが椅子を並べている。
久しぶりに集まったメンバーだったが、話ははずまない。
何といっても頼子は自殺だったのだ。その上頼子の夫である宗彦は、
妻が死んだのをいいことに、秘書を愛人としているらしい。
暗黙の了解として、家族はみな知っている事であった。
そんなとき、人形師と名乗る男が屋敷を訪ねてきた。なんでも、
宗彦が買ったというピエロの人形を買い取りたいという。頼子の自殺の際も
置いてあったその人形は悲劇を呼ぶ人形と言われているらしいのだが……。

面白いか、と聞かれると、「普通」である。今回の本は、人間の視点とは
別に、棚に置かれたピエロの視点、という描写が加わっている。
とても斬新と言うか、画期的と言うか。なにせ殺人の様子を、ピエロが
語ってくれるのだから、通常の殺人事件よりもヒントが多いことになる。
人間が得るヒントと、ピエロのヒント、合わせていくと、パズルのように
段々穴が埋まってゆく……はずなのだが、ここで終っては楽しくない、
とばかりに、ピエロの目には嘘が混ざっている。会話から聞き取る人物名
は不確かであるし、ピエロが思い込みをしている、と設定されている。
このことによって、事件がとてもややこしくなって、少し残念だった。
この嘘がなかったらもう少し面白かったんじゃなかろうか、と思わなくも
ない。まぁしかしミステリはトリックを最後まで分からせない、という点が
重要なので、例えば少しややこしくても濁しておく方が大事なのかもしれない。
それと、この本が「普通」な原因として、「よくある屋敷トリックの典型」
というものに含まれてしまうのではないか、と思う。奥様、旦那様、秘書、
娘、娘の好きな好青年、恋敵の青年、家政婦。登場人物を見ただけでも
あぁよくあるあのパターンですか、って感じである。内容も脱税や、
企業乗っ取り、隠し子、など、耳にたこな感じである。そこに、ピエロの
視点という新しいものが入っているわけだけど、ちょっとくどい感じに
なっていて、あまりよくいっているようにみえない。
それにしても、これは東野さんが20代で書いたものである。面白い。
これ20代に書けました?と聞いたら、どんな大物作家でも首を横に振るだろう。
そう見ると、とても悔しい本である。あふれる才能をここでも感じられる。

★★★☆☆*80

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年11月18日 (水)

「仮面山荘殺人事件」 東野圭吾

仮面山荘殺人事件 (講談社文庫) 仮面山荘殺人事件 (講談社文庫)

著者:東野 圭吾
販売元:講談社
Amazon.co.jpで詳細を確認する


ところで、この小説「仮面」についての記述が3行しかありません。
すげぇよ、東野さん。やっぱりあなたは天才だと思います。笑
と思いつつ、今回も満足読了。なんていうかきちんと読み終わったのに、
まだ何かあるってお試し感が漂う東野さんの力に脱帽です。詳しくは下で。

高之と朋子はある事故がきっかけで出会った。高之が運転する車に、
朋子が追突事故を起こしたのだ。そのせいで朋子は片足を失い、
目指していたバレリーナの道を諦めざるを得なくなってしまった。
一時は自殺未遂を起こした朋子だったが、リハビリを懸命に頑張ようになり、
高之はだんだん彼女に惹かれていった。交際は順調に進み、婚約した。
結婚式は春だ。しかし、その式が訪れる前に、車を運転していた彼女は
崖の上から転落し死亡してしまったのだった。打ちひしがれる家族や高之。
どうにか元気を取り戻そうと、家族や親戚を招いて式を行うはずだった
山荘で慰安旅行する事になっていた。しかし、到着してみると、
そこには銀行強盗が篭城していた。高之たちを監禁すると言う。
休まる暇のない8人だったが、ひょんな事から、朋子が死んだのは
事故ではなく殺人であると議論し始める。果たして犯人は誰なのか……。

ネタバレします。嫌な方は読まないように。
あとがきに折原さんが書いているように、わたしもこの本が嫌いである。
……と、まぁ折原さんの因縁めいた嫌悪ではないが(笑)わたしも、
本の中盤で犯人が判ってしまったからだ。残念すぎる。推理小説で、
一番つまらないのは、最初に犯人が判ってしまい、「もしかして、
そんなわけないよねー」と読み進めて「そんなわけあった」ときである。
今回も、はははは、やっぱりな、と主人公の笑いとともに思った。
そもそも、この話は作りこみすぎである。交通事故は、もしかしたら
殺人事件だったかもしれない! という議題が与えられ、推理が始まった
ところに、なんと銀行強盗が闖入である。ぐちゃぐちゃしてわけわからん。
ふと有栖川さんの『月光ゲーム』を思い出したくらいだ。
それでも必死に整理して読み進め、完璧なる犯行手口のゼロを確認したとき、
これで父親が死んだら父親が犯人。生き返ったら主人公が犯人パターンだ、
と気づいてしまった。あぁ。でも、そう分かって読み進めていても、
とても面白い本であった。ヒントを小出しにするテクニックや、
薬の有無(『私が彼を殺した』でも出てくるが)の、発想の転換などは、
さすが東野さんであると思った。それと、上にも少し書いたけど、
この本の一番憎いところは、この本を簡単に書いていると分かるところだ。
東野さんの文章はそんなに濃くないし、長くもない。どちらかと言えば、
修飾語なども少なく、すかすかしている方と言えるだろう。でも、
伝えるべきところは逃さない。お得意の書き方なのだった。それでいて
気張っておらず、「ちょっとこういうの書いてみたかったんだよね」的な
軽い感じなのに、なんなんだろうこの舌を巻く推理は。やられた感は。
東野さんは賞を受賞してデビューするまでに、20回くらい落とされ続けた、
と何かのエッセイに書いていたが、その度違うストーリーを考えていたんだ
ろうな、と思うと、やはり彼は天才だ、としか言えないだろう。
等々、何でもないことを魅せる力に脱帽である。さて、ところで、この本の
タイトルは『仮面山荘』だが、仮面は一切トリックに関係しない。
おいふざけんなと呆れるか、主人公の嫌な予感をズバリ表現していて最高だ!
と褒めちぎるかは、読んだあなた次第である。笑

★★★★☆*87

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年9月30日 (水)

「私が彼を殺した」 東野圭吾

私が彼を殺した (講談社文庫) 私が彼を殺した (講談社文庫)

著者:東野 圭吾
販売元:講談社
Amazon.co.jpで詳細を確認する


それにしても「東野圭吾」という安心感は凄いと思う。東野さんは
取り分け面白いというわけではないんだけど(爆弾発言)、どれもぶなんに、
面白いのだ。どの作品も「ちっ時間の無駄だったぜ」と思わせるものはなく
それなりに楽しんで読了する。読み始める前の安心感が素晴らしいと思う。

鼻炎持ちである新郎・穂高は、式の前に鼻炎薬を飲む事にしていた。
式の最中に新郎が鼻をすするなど、格好がつかないと笑っていた。
しかし当日、花嫁姿に変身した美和子の前に現われたのは、
悶え苦しみ、死に絶えた穂高の姿だった。絶句し、倒れる美和子。
式は騒然となったが、容疑者はすぐに3人に絞られた。
花嫁である妹と恋人関係にあった兄か、仕事の関係上穂高を
快く思っていなかった駿河か、昔の愛人である雪笹か……。
彼らの手中で動き回る、ピルケース――果たして犯人は誰なのか。

この本前に読んだ事があったようだ。犯人を覚えていた。
東野さんには珍しい、空論推理である。実際の現場はほぼ出てこず、
当事者があぁでもない、こうでもない、と言い合うタイプである。
そしてその様相がまさにアガサ・クリスティ。文中にもあるけれども。
この本の一番凄いところは、最後の数ページ、と言うところに来て、
3人の容疑が一旦白になるところだ。「え、誰が犯人?」と、
息を呑む瞬間が、アガサ・クリスティ張りに用意されている。
回答も実に明快で、仕掛けがわければ「あ!」と瞬時に理解できるもの。
これだけ、考え考え来て、終盤に今までの推理をかき消され、
回答を突きつけられたときの、「やられた感」は、さすがだと思った。
一つの難点は、はじめの方で、すでにピルケース怪しいです的な
描写になっているため、否が応でも文を追ってしまうこと。
そこの部分だけ話がくどくどしいので、よく読んで置いてくださいね、
と言われているようだ。それがもう少し薄く、まさか薬で毒殺
とも思わせずに話を進められたとしたら、かなりの小説だと思うんだけど。
それと愛情表現、というか、なぜ美和子が穂高を好きなのか、
とかそう言う「人間味」的などろどろした部分がなく、残念。
東野さんは大抵ないんだよなぁ……どろどろしてるようで、
実はさっぱりしてるんだよな、といつも思うんだよね。それと、
この本は一応加賀刑事のシリーズだけど、ちょっと加賀さんの出番が
地味だったようにも思う、ちょっと脇役的な感じで残念ではある。
そもそも、あまりシリーズを把握して読んではいないので、
「あ、加賀さんだった」という程度なんだけど。新刊読んでみようかな。
とか言いつつ、東野さんは安心して読める作家の一人です。

★★★★☆*86

| | コメント (0) | トラックバック (0)

その他のカテゴリー

***このブログのあれこれ | *ライブ(セットリスト一覧) | *映画・DVD (85) | *漫画 (18) | *読了本(678) | *雑談 | *雑談(エッセイ的なもの) | ■作家別一覧('12.12.01) | ■個人的お薦め本 | □掲示板 | あ あさのあつこ (15) | い 伊坂幸太郎 (20) | い 伊藤たかみ(6) | い 石持浅海 (6) | い 石田衣良 (6) | う 歌野晶午 (5) | お 乙一 (15) | お 大崎善生 (3) | お 奥田英朗 (7) | お 恩田陸 (6) | お 荻原浩 (10) | か 上遠野浩平 (7) | か 川上弘美 (8) | か 桂望実 (4) | か 海堂尊 (6) | か 角田光代 (38) | か 金城一紀 (5) | き 北村薫 (5) | き 桐野夏生 (8) | さ 佐藤多佳子 (7) | さ 桜庭一樹 (6) | し 島本理生 (5) | し 時雨沢恵一 (8) | し 重松清 (8) | せ 瀬尾まいこ (8) | た 太宰治 (5) | た 谷川俊太郎 (7) | つ 津村記久子 (4) | と 豊島ミホ (10) | な 夏目漱石 (11) | に 西澤保彦 (6) | ひ 姫野カオルコ (4) | ひ 東野圭吾 (22) | ほ 本多孝好 (8) | み 三崎亜記 (3) | み 三浦しをん (5) | み 宮部みゆき (17) | む 村上春樹 (17) | む 村上龍 (4) | も 本谷有希子 (4) | も 森博嗣 (24) | も 森絵都 (7) | や 山本幸久 (2) | や 山本文緒 (13) | よ 吉田修一 (23) | よ 横山秀夫 (10) | 他 その他:ノンフィクション・ビジネス書等 (15) | 他 その他:女性作家 (64) | 他 その他:男性作家 (96) | 他 アンソロジー (7) | 海外 その他 (5) | 海外 ミステリー (5) | 記事収納庫