2011年1月 9日 (日)

「夏が僕を抱く」 豊島ミホ

夏が僕を抱く 夏が僕を抱く

著者:豊島 ミホ
販売元:祥伝社
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久しぶりの豊島さん。2年半ぶりくらいですかね……時が経つのは早い
もので。そもそもこうして感想を書いているのも読んだ本を忘れない
ためなので、この場所はいい仕事してるな、と思います。まぁ、
書き忘れた本や、まぁいいか、とここにいない本もありますがね。笑

「ストロベリー・ホープ」
護が帰ってきたというニュースを持ってきたのは、クリーニング屋の
おじさんだった。成績が優秀だった彼は、東京に行ったが、
大学を中退し、専門学校へ入りなおしたらしい。遠回りをした挙句
こうしてまたこの場所に帰ってきたのだ。対するわたしは、
わたしは勤めている農協の上司と、不倫をしていた。しかし相手が高齢の
母親の介護について話し始めたころから、わたしは離れたのだった。
そうして昨日、その母親は自殺したらしいのだった。自分はひどい女だ
と思う。護の胸に顔を押しつけ涙を流した。

30代以上の方が読んだら、きっと「なんだこの軽くて薄い文章は」と、
眉をしかめるのではないだろうか。特に男性は尚更だろう。
今の若者がしゃべる、崩れた言葉。それがそのまま地の文に現れていて、
なんとも軽くて薄いのだ。わたしでさえもどうにかならないものかと思う。
ちゃらちゃらして、あまりいい印象のない文章は、しかしページを繰ると
その蟠りは消えてなくなる。いつの間にか、主人公の気持ちに同調し
その言葉たちに馴染んでしまうのだった。話し口調の言葉たちは、
その主人公たちを立体的に映し出し、まるで友人になったかのような
本当は誰にも相談できない惨めな部分を、そっと見せられているような、
近い親しみを感じることが出来る。高校生の話ばかり書いていた
豊島さんだったけど、この本に出てくる主人公は23歳くらいである。
豊島さんて何歳なんだっけなぁ、と調べてみたら28歳だった。
5年……自分で経験したことを、寝かせて感情を処理し、物語りに
するには、いい期間なのかもしれなかった。東京の大学に通い卒業、
そして執筆活動をして、疲れてしまった(本人曰く)豊島さんは、
確か秋田の実家に一時帰っていたはずだ。この本には、そうした都会と、
田舎のよいところがあわさっていて、「寝かせて感情を処理し」が、
とても上手くいっているように思った。煌びやかさに惹かれ頑張って
みたけど、本当の自分は冴えない穏やかさがやっぱり好きで、
それを心のどこかで求めてしまうのだ、と。田舎と東京の話に限らず、
不良や真面目な学生、との対比でも、その心境が伺える。頑張ってみても
結局わたしはわたしだと。土地柄に関しては、わたしも田舎者なので、
「東京に出る」ということがどんなことかを知っている。なにせ、
田舎の同級生の半数以上が、東京に行ったことさえないのだ。それを
考えると、自分がこうして東京にいることがとても大きなことのように
思える。何かしなくては、と思う。でも、いつしか田舎に戻る時がきても
そうか、こうした感情が得られるなら、疲れてもいいかもしれない、
と思えた本だった。久しぶりに豊島さん、いいな、と思ったかも。
久しぶりに読んだので、他の本も読むべしだな、と。

★★★★☆*87

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2008年7月 3日 (木)

「花が咲く頃いた君と」 豊島ミホ

花が咲く頃いた君と 花が咲く頃いた君と

著者:豊島 ミホ
販売元:双葉社
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最近豊島さんの本読んでもガッカリするばかりだったので、
今回の本はなかなか楽しめた方だと思いました。
いい感じの、願わくば春頃に読みたかった本でした。ところで、
そろそろ中高校生を抜け出してもいいんじゃないかと。まぁ大学生もあるが。

『椿の葉に雪の積もる音がする』
私の家は両親と弟、それからおじいちゃんの五人家族だ。
他の家の子と比べたら、家計は潤っているし、夫婦仲も円満。
けれど最近堅い事を言うおじいちゃんは一人、馴染めなくて寂しそうだ。
これは秘密だけど、私は眠れない夜おじいちゃんの部屋へ行く。
そっと布団に潜り込ませてもらって、おじいちゃんの言う
「椿の葉に雪の積もる音」を探すうち、いつの間にか眠っている。
おじいちゃんは幼い頃から一緒に見ていた椿全集をくれると言ったけど、
私は何も考えずに断ってしまった。そんな渋い本、私には似合わない。
次の日の朝、おじいちゃんは倒れていて、私は事の重大さを知った。

よかったにはよかったんだけど、ちょっとネタ切れ感の漂う短編集。
前回の『リリイの籠』何かよりは数倍いいのだが、
それでも残しておいた最後の手段……というような雰囲気がしてならない。
いや、もちろん勝手な私の想像なので、違っていたら申し訳ないのだが。
この本は中学生の主人公たちの、青春な物語を描いている。
中でも私は一番好きだったのは『椿の葉に雪の積もる音がする』である。
まず、おじいちゃんと孫、という設定に弱いのだけど、
(父と息子もしかり)その微妙に世代の違う蟠りというのを、
上手く描いていたように思う。おじいちゃんに話しかけたいが、
共通の話題が見つからない。おじいちゃんのくれるものは、
嫌いじゃないけれど自分には合わない気がする。
そういった中、失くして気付く大切な存在は、
決してあせる事無く主人公の中に大きな花として形を残す。
「椿の葉に雪の積もる音がする」その一言に詰まる、
不安な夜の、また不安の夜に得た安らぎの、祖父という微妙な存在の、
大きさと広さと、深さと温かさが、耳に残るようである。
その他の作品、『コスモスと逃亡者』なんかは、
何故こんな設定?という思いもなくはないが、
安心し、最後までどっしりと腰をすえて読める短編集であった。
まぁ、『椿の葉~』以外は、そんなにテーマも深くないので、
そこが残念といっちゃ残念かも知れないのですけども。

★★★★☆*85

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2008年5月13日 (火)

「リリイの籠」 豊島ミホ

リリイの籠 リリイの籠

著者:豊島 ミホ
販売元:光文社
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なんかね、ただ量産すればいいってわけじゃないと思うのです。
確かに面白いし、納得できる話もあるけれど、
でもさ時間がたって、五十年後とか百年後とかに読まれたとしたら、
よくわからない本だなぁ、と思われるような気がするのです。

「ポニーテール・ドリーム」
私は高校生の時、大人になったら髪を伸ばそうと思っていた。
それはその時流行っていたドラマの主人公がそうだったからで、
長い髪をポニーテールするのは恋の魔法なのだと考えていた。
しかし教師になり高校に戻ってきた私は、髪は長くなったものの、
相変わらずダサくて、恋のかけらなど見つけるのが難しい。
スカートをギリギリまで短くし、ギャアギャア騒ぐ由貴を見ていると
きっと私が高校生だったら友達になりたくないと心の中で呟いた。
でも、私はつい心に留めていたポニーテルの話を、
由貴にしてしまった。なぜ話してしまったのか…私は後悔する。

豊島さんは若い女の人の偏屈な気持ちを書くのがとても上手いので、
どれを読んでもまぁ楽しむことが出来る。
でも冒頭にも書いたけれど、これがさ時が経って読まれたら、
あまり受け入れられないような話が多い気がするのだ。
まず第一に、背景描写が希薄である。
読んでいる私たちは現代人だから、いちいち説明されなくても、
ただ読むだけで理解できるけれど、どうもいきなり話しに
足を突っ込んでしまったような感じのする話が多く、
何だが安っぽい、軽い話に見えてならなかった。
もちろん、その素朴な感じがよいのだ、というのも分かるけれど、
うーん書くテーマが細かいのか…。高校生は何万人もいて、
それぞれ違った青春があるわけだから、
それくらいの話を書いてもいいのかもしれないけれど。
さておき、短編集だったのだが「ポニーテール・ドリーム」と
「ゆうちゃんはレズ」が好きだった。私も女子高だったので、
まぁそんな友人がいたにはいたのだが、いつだったか、
「レズ」と「ゲイ」について熱く語ったことがあった。
そんなことが出来てしまうのも、女子高ならではだけど。笑
結論は確か対等関係だから、というものだった気がする。
自己顕示欲が強い女性は、権力関係が対等である女を好きになり、
あるいは、男性同士が関係を持つのを傍観する趣味がある。
とか、何とか。まぁ話はかなり脱線しましたが、
誰にでもそれは起こりうる心境の変化、という意味で、
「ゆうちゃんはレズ」はよかったかな、と思う。
何か、もっとしっかりした豊島さん読みたいなぁ。
まぁ前回読んだ「ぽろぽろドール」より楽しめました。

★★★☆☆*85

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2007年11月 8日 (木)

「ぽろぽろドール」 豊島ミホ

ぽろぽろドール ぽろぽろドール

著者:豊島 ミホ
販売元:幻冬舎
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うーん、短編集でしたが、傾向が全部一緒じゃん?と言う感じで。
人形=八つ当たりの道具、もしくは人形=人間の化姿、
という固定観念が豊島さんにはあるようで、何となく偏った感がありました。
自分の事を書いてる、みたいであまりよろしくないような。

「きみのいない夜には」
私は他人の運命に呑まれ、それを引き裂くのが好きだ。
具体的に挙げるのであれば、友人が一番可愛がっている人形を奪い、
悲しみに暮れている姿を眺めるとわくわくする、というところだろうか。
ある日オークションで中古人形を手に入れた私だったが、
その中には人形宛ての手紙が入っていた。
元持ち主からの、人形への手紙…そんなことするのは、
尋常ではなく人形を愛していた証拠だろう。私は再び胸が躍り始めた。

実は結構期待して読み始めた。と言うのも、私も実は小さい頃から、
ずっと持ちつづけているぬいぐるみがあるからだ。
そんなに大事に愛でていた訳ではないが、それでも、
そのぬいぐるみが部屋の中にないと落ち着かない…
というような感じで、今も私のベットの隅に鎮座している。
そんな人間と人形という微妙な関係を、
豊島さんはどんな風に描いてくれるのだろうと楽しみだったのだ。
だが、この本に書かれている人形愛について、私は少しも同調出来なかった。
唯一納得できたのは、「きみのいない夜には」の男の気持ちである。
事情により手放したが、やっぱり人形が気になり手紙まで書いてしまう。
私はまさか手紙を書いたりはしないが、拠り所がなくなった不安、
みたいなものに共感を得る事が出来た。
しかし、この他の話はと言うと、自分や他人にそっくりな身代わり、
であったり、ストレスを発散する道具として描かれていた。
それって、ごく一部の人ですよね?と私は思う。
他人に見立てたり、ストレスを発散する気持ちは分からなくはない。
むしろ私もぬいぐるみでそんな事をしてきたかも知れない。
だけれど、結局のところはぬいぐるみは心の拠り所、
もしくはなくてはならないもの、というような書き方をした方が、
もっと共感してくれる読者が増えたのではないか、と思った。
あとは個人的なことですが、文法がはちゃめちゃで、読みにくかった。
豊島さんってこんな文章だった…?と思いつつ。
文章は長けりゃいいわけではなく、長くても角田さんのような、
美しい文体にして頂かないと読みにくくて仕方がない。
「―」の乱用も気になり、色々な意味でなんだかなぁでした。

★★★☆☆*80

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2007年7月14日 (土)

「神田川デイズ」 豊島ミホ

神田川デイズ 神田川デイズ

著者:豊島 ミホ
販売元:角川書店
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問題なのは、きっとどの主人公とも共感できない事にあると思う。
私は根本的に豊島さんと考え方が違うのだなぁ、
とちょっと打ちのめされた気がする。いや、いい意味で。
でも残念なのは感情移入が出来ないと言う点なのですが。
短編集です。

「どこまで行けるか言わないで」
この映画サークルに入った同級生は、たまたま皆女の子だった。
私と奥村とマルちゃん。向上心の欠片もない映画サークルに、
見切りをつけた私たちは、三人で団結し新たなサークルを作る事にした。
奥村は監督志望で、マルちゃんは女優志望で、私は脚本志望、
そして掲げた目標は「女性向けのピンク映画」を作る事。
誰も手を出していない分野に足を踏み出す、ワクワク感。
そんな明るくふわふわした思いを胸に、私たちは野望だけを語っていた。
次第にやる事が具体化し、実際に脚本を書こうとした時、
私の手は止まって動かなくなった。そしてマルちゃんも…。

連続ではないですが、短編集です。
主人公は毎度違い、話の内容も違うのですが、
共通の人物が出ていたり、本編では語られなかった結果が語られている。
その点ではとても楽しめたし、これこそが現実なのかもしれないと、
ちょっとヒヤリとした様子もうかがうことが出来きて、面白かった。
そして私にとって一番問題だったのは、この短編の誰とも共感出来なかった事。
文章が悪いのか、表現が悪いのか、何なのか、よく分からないのですが、
根本的に、私はきっと豊島さんほど向上心がないからかもしれない。
もしくは、まだ自分は何か出来るはずだ、といきがっているからかもしれない。
そんなところから、ちっとも心を揺さぶられないのでした。
と、言いつつも「どこまで行けるか言わないで」はよかったなと思いました。
何かをやりたいやりたい、とそれだけで抜け出した映画サークルだったけど、
結局自分たちが目指していたのは、とても大きな事だった。
そしてそのぶち当たった壁を越えられる者と越えられない者。
そんな二種類の人間がいて、越えられない人間は、越えられた人間を、
ただ呆然と、少し悔しさを交えて見るしかないのだ、
というとても皮肉っぽい表現がよかったと思います。
ただ、他の話でも言える事なのですが、豊島さんの話は痛いものが多い。
それはとても現実的に描く上で良い事だと思うのですが、
痛い中にも、少し上昇した慰めがないと、
どん底に突き落とされたまま終わってしまうというのは、とても耐え難い。
だって現実だってそうじゃないですか、どん底を見たら、
いつしか浮上するわけです。ずっとどん底にい続けるわけではない。
リアルに痛さを求めるあまり、どうしても排除されがちなその部分を、
もう少し配合してくれたらなぁと私は個人的に思うのでした。
だから、この作品は、全体を読んで一枚絵にするとよいと思う。
一つ目の作品に出てくる主人公たちは、次の、そのまた次の作品では、
徐々に活躍するようになり、彼らの努力が実った事を知る事が出来る。
そうするとやはり安心してしまう私がいるのです。
だから、最後の最後にやっぱりまた突き落とす豊島さんを見て、
「あぁ、あなたって人は…」とふと思ってしまいました。
いえ、それが悪いとは思わないのですが、よいとも思えず、
自分との相違点として受け取るのが一番かも知れないと思った次第です。

余談ですが、夜間部は学校により結構な人数がいます。
なんだかこの本では凄く少ないみたいに書かれていたので…。
早稲田は夜間が小規模なんだろうか?よく知りませんけど;
私の学校は憲法とか刑法とか必修になると軽く200人はいますので。
よく夜なのにこんなにいるなぁ、と自分を差し置いて感心しますよ。

★★★★☆*88

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2007年4月10日 (火)

「ブルースノウ・ワルツ」 豊島ミホ

ブルースノウ・ワルツ ブルースノウ・ワルツ

著者:豊島 ミホ
販売元:講談社
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こちらも、すきま風さんにお借りしました!ありがとうございます^^*

正直、何だか何が言いたいのか良く分からない話でした。
童話のような、そうでなような、ちょっと楽しめない雰囲気が;
取りあえず大人になりたくない子供はキチンと描けていましたが、
そのために用意された周りの設定が、非現実的すぎて、
その上、あまり練られていない為、完成度を下げている気がしました。
豊島さんは現実的な作品が一番です・・・。

メイドを従え豪華な生活を送っていた楓に、弟ができる事になった。
父親に連れられていった先で見たものは、
人間とは程遠い、野生児の男の子だった。彼は楓の弟になるのだ。
始めはいぶかしんでいた楓であったが、
いつの間にか、純粋な野生児・ユキの心に惹かれる所があった。
言葉すら通じないユキから感じる、永遠の子供らしさ。
楓は、自らの葛藤の中でユキを求め始める。

うーん・・・ちょっと残念。
読み始めは、「お?今度は童話?児童書?」と期待したのですが、
子供向けにしては表現が固くて、違うような気がしました。
日本でありながら、シャンデリアがあるような豪華な家に住む楓。
その設定の時点で、何か非現実的な世界を感じてしまい馴染めず、
おまけに言葉の話せない様な野生児が出てくるのを、
一体どう処理して話を進めるんだろう、と心配していました。
これら話が進むにつれ大きな問題になる二点・・・しかしながら、
上手く話に嵌め込まれなかった、と印象が強く、
何が言いたいのか良く分からない・・・と言う感じがしました。
大人に成りたくない少女、それはまるで言葉を話せない野性が、
そうであるように、無理やり成長させられるなんて間違っている。
そう言った気持ちが前面に押し出されていたので、
ブルースノウワルツの意味は判りました。
うーん、でも私はあまり楽しめませんでした。ごめんなさい。

★☆☆☆☆*-

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2007年4月 7日 (土)

「エバーグリーン」 豊島ミホ

エバーグリーン エバーグリーン

著者:豊島 ミホ
販売元:双葉社
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すきま風さんにお借りしました!どうもありがとうございます^^*

あー良かったです。
なんだか偉そうな事を言ってしまえば、成長したね、って感じの本。
比喩とか、主人公の女の子の気持ちとか、
とても上手くて、すんなりと共感する事ができました。
ちょっとマニアックな内容を含んでいますが、
それは豊島さんが実際になさっていたからでしょうか・・・?
今回はかなりネタバレぎみで書いてるので、気にする方は読まないで下さい;

時は中学生-。漫画家を目指すアヤコと、ミュージシャンを目指すシンは、
卒業式の日に約束をした「10年後にまた会おう」と。
きっと夢を叶え、またこの場所へやってくる事を誓った。
好き、とは違う。ある意味憧れのような、目下のような、
曖昧な関係でありながら、あの時の二人はお互いに支えあっていた。
消えない夢、ずっと心に住み続ける思い出、
そっと胸に手を当てながら、二人は10年後のあの場所へと向かう。

豊島さんの小説を読むと思うことなのですが、
豊島さんはかなり現実的なことを書かれる作家さんです。
それがいい意味での作風だと思いますが、
小説、フィクション、ハッピーエンド、だと思って読み始めると、
突き当たった現実に寂しさを覚える事があります。
と、言うのも私が小説で非現実的なものに現実逃避を求めているから、
主人公は仲間ともども幸せに、問題は全て解決、を探しているのです。
しかし、この本でも分かるように、主人公のアヤコ、
それからシンは、決して結ばれる事はありません。
こんなによい題材を前に、思い悩み必死に格闘しながら、決して結ばれない。
そう、それこそが現実なのです。10年もの間、
お互いが他の誰とも付き合わず、ずっと一人の人間を待ち続ける。
そんな事は現実的には無理なのです。
気持ちは変わりゆき、そして全ては思い出になる。
その現実を突きつけられたとき、儚くて、苦しくて、切なくて
でもどこかで「しょうがないか」と言って涙を流すような、そんな小説です。
勿論その「しょうがないか」は少しの諦めと、現実の確認。
変わり行くものを確かめ、前を見据えなおす、そして思い出はしまっておく。
最後に見せたアヤコの表情が好きでした。
「その小さな残像さえいとおしくて、
私はしかめっつらになるくらい強く強く目を閉じる。」
良い本です。

★★★★☆*91

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2007年2月26日 (月)

「陽の子雨の子」 豊島ミホ

陽の子雨の子 陽の子雨の子

著者:豊島 ミホ
販売元:講談社
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ちょっと抽象的過ぎたんじゃないか・・・と思わなくも無いですが。
この読後の爽快感は「やっぱり読んでよかったかも」
と思わせる豊島さんの魅力的な力が隠れていると思う。
決して表舞台ではない裏の世界での葛藤を、どうか気づいてよ・・・!
と訴えかけられます。やっぱり「底辺女子高生」読んでから読むべきですわ。

幸枝が夕陽と言う男子を連れて来た時、
何故かそいつがあの日の俺であるような気がした。
そう、何もかもが嫌になって家出をし、幸枝に拾われた日の俺だ。
育った環境とかけ離れた世界へ一歩を踏み出す時の恐怖心が、
夕陽の言う、灰色の点々が隅から集まり迫り来る感覚だろう。
4年前を思い出し懐かしさに耽りながら、
俺はあの日を後悔しているだろうかと考えるけれど、
ふとした瞬間に、今の俺は彼女の笑顔ばかりを追いかけているのだ。

伝えたい事がよく判らないあらすじになりましたが・・・。
この話は、夕陽と聡と言う2人の視点によって、
幸枝と言う一人の女性が描かれている作品です。
あまりにも傷つきすぎた過去を隠して、普通を装いながら、
それでいて自分の存在意義を、何かしら掴みたいともがく儚さ。
自分は特別なんだ、と地団駄を踏んで、
でも叶う事の無い思いにまた同じ過ちを繰り返す。
何で私だけ幸福を望む事が許されないの?
と絶望する私(幸枝)をどうか励まさないで、傍にいてくれませんか。
そんな思いを夕陽とそして聡から感じる事が出来る。
悲しいと言うよりは哀しい。
でも、それだけではなく、涙を堪えながら微笑んでいる幸枝を、
そっと見守りたいと思う、そんな話。
全体的には何となくだらだら感と、現実的にありえないでしょう、
と言うちょっと身を引いた気持ちになるのですが、
中盤からラストにかけて幸枝の気持ちを理解するに従って、
徐々に惹かれて行く自分がいました。
しかしながら、別に短歌でなくても・・・といいたい気もします・・・。
どちらにしてもラストがとても好きでした。

★★★☆☆*87

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2007年1月18日 (木)

「底辺女子高生」 豊島ミホ

底辺女子高生 底辺女子高生

著者:豊島 ミホ
販売元:幻冬舎
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試験期間中ってなんでこんなに本が読みたくなるんだろう・・・。
詳しい真意は判りませんが、自分の判断によると明らかに現実逃避です。
険しい現実に立ち向かう勇気が削がれ、「もしやもうダメなんじゃない?」
と半ば諦めかけた時、そんな現実と諦めを一挙に初めから無かった事にする。
そんな夢のような幻覚に必須アイテムなのが、本なのです。
あの参考資料文献をたどる重い瞼が、小説の上ではこんなにも滑らかに動く。
まさに魔力としか言い様がありません。
徒然書きましたが、要するに渇望している時に読む本は、より面白いのか。
とかそんなことを考えていました。
一種のアドレナリン効果でしょうか・・・(多分違う)
どうなんでしょうね、面白い物はやはりそのままでも面白いと思いますが、
精神の極限で得られる緊張を緩和させる物質には、
少なからず快感を覚えるのでは?と思ったりします。
長くなりましたが「底辺女子高生」面白かった。それが言いたかったのです。
エッセイなので、どうやって紹介し様か迷うところですが・・・
うーん、取り合えずいつも通りにいってみましょうか。

底辺女子高生、その名の通り高校生時代を「底辺」で過ごした豊島さん。
高校2年生で確立したクラス内でのランク付け、
その中で自分は明らかに最下位だったのだ・・・つまりは底辺。
本当の友達の出来ない息苦しい教室から逃げるように、
彼女は大脱走劇を繰り広げたり、保健室に入り浸って現実を逃避する。
あの頃は自分にとってあのようにする事しか思い浮かばず、
ただひたすらに底辺にいる自分を否定し、もがいていた。
出来るだけ自分が傷つかないように、出来るだけ自分を出さないように、と。
そしてふと高校生最後の日の私を今ゆっくりと思い出してみる。

まず思ったのは、ここまで底辺だとは!、です。
題名にあるように、底辺の女子高生、読む側だってそれなりの覚悟がある。
主人公(エッセイなので作者ですが)はそれなりに暗い生活を送っていて、
その頃の自分がどれだけ惨めであったか・・・。
大抵はそんなことが綴られているのだろうと予想がつくのだけれど、
この本はそんな2行で収められるような一筋縄では行かなかった。
まず挙げなくてはいけないのは、底辺を恐れての「現実逃避」。
自分探しを名目に旅に出たはずなのに、得る物は何一つなく、
そして帰った頃に自分は、さらなる底辺になっている。
周りを気にして、被害妄想が膨らむようになり、いつも何かに恐れていた。
でも、その時は決して気づかない。
豊島さんも文中で、「今だから言える」と書いているけど、
やっぱりこの本の文章は「今になってしか言えない」文章なのだ。
あの時の自分を振返って「馬鹿だなぁ私」と思うけれど、
あの時の自分は自分に精一杯で客観的思考がないから、そんなこと思えない。
過去を振返れば笑い話、そんな事を良く聞くけど、
それは、そんな過去の苦しさや悲しさや切なさを、
心のどこかで「もう2度と感じたくはない」と考えていて、
それでも、それを乗り越えた自分は少し誇らしくて、
そんな矛盾した感情が混ざり合うと「笑うしかない」
と思わずにいられないのではないか、と私は思う。
今回のこの本だって、読んでいると面白くて楽しくて笑ってしまう部分もある。
でも、これは「今」の彼女が書いたのであって、きっとあの頃の豊島さんは、
面白くも楽しくも笑ってしまうことも殆んどなかったに違いない。
過去を振返る。
それは凄く大切な事で、どんな辛かった事だって、
あの頃があったから今の自分がいるのだと、思えるのだ。
この文章を書きエッセイにした豊島さんも然り、
そして、読んだ私たちはそんな彼女の姿を見、何かを得なくてはいけない。
「私昔はこんな子だったの、馬鹿だったわ」と笑うのもいいけど、
「あの時があるから、今の自分がいるのだ」と思え、
そんな過去を面白く伝える事が出来る・・・
それがどれだけ大変か、それがいかに大切かを学びとれた本だと思う。

・・・予想以上に堅苦しくなりましたが、良い話でした。
肥やしになる、なんて言ったら失礼極まりないですが、
経験をせずとも、語り伝えてくれる貴重な体験だと思いました。
もちろん、「あぁ私の過去に似てる」と言う部分もありましたが、
そう思い出して感動する、と言うより、それ以外の思いの方が強かったです。
他の本も俄然読んでみたくなりましたね。
すきま風さん、お薦めどうもありがとうございました^^*

★★★★★*96

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2007年1月11日 (木)

「檸檬のころ」 豊島ミホ

檸檬のころ 檸檬のころ

著者:豊島 ミホ
販売元:幻冬舎
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いや~「底辺最高!!」とか叫んでもいいですか(笑)←読んだ方は判る
うん、まさに私の青春はこんな感じでした。
えぇ田舎の僻地で、然程目立つ事の無い青春生活。
豊島さんも年齢近いみたいで親近感わきますし、感動する。
今ゆっくり振り返ってみたら確かにレモンの香りがするかも知れませんね。
今まで私の中にあった高村光太郎の「レモンをガリリと噛んだ」から、
レモンの香りのリップクリームに変わるかも、なんて。
願わくば長編が良かった・・・かな。短編です。

身を焦がすようなめくるめく出会いとか、心が惹かれあう衝撃的な恋とか、
そんな明るいスポットライトには決して当たらない、地味な青春時代を描く。

「ルパンとレモン」
俺の頭の中・・・
中学校最後の野球の大会、バッターボックスに立った俺の後ろからは、
秋元が指揮をするルパンのテーマが流れている。
同じ高校を目指すと言うのを口実に、俺たちは何かと一緒にいるようになった。
2人で過ごした時間、2人で歩いた道、秋元から香るレモンの香り。
あんなに鮮明に思い出せると言うのに、今、秋元は俺の隣にはいない。
こんなに胸が痛むのに、俺はレモンの香りと共に彼女を忘れなくてはいけないのだ。
そう、俺はルパンばりにクールなのだから、決して泣きはしないけれど。

あーダメだ、過去を思い出しすぎる・・・。
あまりに私に近いところを突いてくれるから、
思わず溢れるほどの思い出が飛び出してきてしまう。
あまりの自分の情けなさに思い出したくないのだけど、
なぜか西を見ていると、レモンの香りと共に温かい風が心に吹いてくるようだ。
その時の自分のふがいなさ、今考えれば「あの時ああ言っておけば」
と思うのだけど、記憶の中の自分の足は動いてくれない。
ただ、今の心の中にはツンと刺す痛みだけが残っていて、
それと共に秋元の柔らかい表情が、アルバムのように頭の中を駆け巡っている。
西を見ていると、不器用にじたんだを踏むその姿が、切ない。
多分、自分の方へ向いてくれている秋元に安心しすぎているだけで、
自分がどれだけ彼女を思っていたのか気づかなかったのだと思う。
失くしてから気づく、大切な物。
ありがちだけど、その大切な物の形はそれぞれ違うし、
全ての物が元に戻るわけなんてないのだ。
思い出すたび、響く胸の痛みと、漂うレモンの香りをどうしたらよいだろう?
そんな青春・・・そんな一言では括れないのだけれど、
思春期の揺れ動く繊細な心が美しく描かれている。
個人的に、その後の「雪の降る街」には耐えられなかった。
希望が無いとはわかっているけれど、それでもまだどこかで期待していて、
もう彼女の中に西はいないのだ、過去になってしまったのだ、
そう思っただけで、移り変わる気持ちの儚さが深くしみこんでくるようだった。
話の展開が私が今まで読んだ中にない感じの作家さんで、とても良かったです。
映画化楽しみだけど、動画になって欲しくない気もします(苦笑)

★★★★★*95

すきま風さん、くろさん、お薦めありがとうございました^^*

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