2007年11月16日 (金)

「明日この手を放しても」 桂望実

20071116
桂さん成長したなぁって感じでした。
心理描写の書き方が個人的に前から好きなんですが、
今回の方がよりすんなり感情移入できたと思います。
が、物語としては「?」な作品だったので、お薦めはしませんが。

私は19歳で視覚障害になった。
甲斐甲斐しく世話をしてくれた陽気な母を、突然の事故で失い、
私の生活に太陽がなくなった。無口な父、気の合わない兄と、
上手くやってゆく自信はなかった。
そんな時、私は父親の漫画の原案者になることになった。
主人公は私と同じく視力を失った少女。
私と兄が考えた偏屈な少女は、時を追うごとに成長し、心を開いてゆく。

先日長嶋さんの「レインツリーの国」で聴覚障害者が主人公だった。
その主人公も女の子だったが、障害があると言うことに捕らわれすぎて、
とりあえずへそ曲がりで、性格が歪んでいた。
だから、そうかこんな卑屈な思いをしているのかな、と思っていたのだが、
今回の桂さんの主人公は至って冷静だった。
それがいいのか悪いのかは正直決めかねるところだが、
確かに癇癪を起こすだけがストレスではないだろうと感じた。
この話のメインは、取り残された、そりの合わない兄弟が、
それぞれ心を開き、信頼し、そして離れてゆくところが描かれている。
潔癖症な上に、視力を失いネガティブな主人公と、
ストレスを怒りでしか発散できない不器用な兄。
二人の関係が徐々に解れあい結びついた時、
桂さん書き方上手くなったなぁ…と思った。
しかし、文句をつけてしまうと、ストーリーが「結局どうしたいの」
と言う感じになっている。目は見えないし、母親に先立たれ、父親は失踪、
おまけに信頼していた西尾に裏切られ、ラストはぱっとしない。
確かにこんな悲惨な事が続いたからこそ、
目が見えない苦しさを忘れ、乗り越え、主人公が成長できた気がするが、
それでも父親が戻ってこないのはどうかと思うし、
兄が結局女性に振られてしまう理由も曖昧になってしまった。
せめて母(父?)に似たいい女性と、兄が結婚する…あたりまで、
もっていってくれるとよかったなぁ、と思った。
もしくは西尾と上手くいくとか。とりあえず、中身は充実しているのだが、
ラストが肩透かしを食らう、微妙な話になっているのが残念。

★★★☆☆*85

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2007年3月25日 (日)

「ボーイズ・ビー」 桂望実

ボーイズ・ビー ボーイズ・ビー

著者:桂 望実
販売元:小学館
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こりゃ良かった。
「Run!Run!Run!」ではちょっと「?」と言う感じでしたが、
こう言うシンプルな方が桂さんは描くのが上手いと思いました。
ぶっきらぼうな口調、でもじんわりと心を突いてくれる良いお話です。
ちょっと泣けるかも。電車なので我慢してしまいましたが・・・。

ママが死んだ。
小学校6年生の隼人はその悲しみを必死に堪えていた。
弟である6歳の直也に「ママが死んだ」と言うことを教えなくてはならない。
直也は人の「死」と言うものを理解できていないのだ。
そんな隼人の気持ちに気づかず、パパはクリスマスに何が欲しいと聞いてくる。
「そんなの決まっているじゃないか、僕たちはママが欲しいんだよ」
痛切な思いを隠し切れず、隼人は自分だけの秘密の場所へと歩きだす。

桂さん、好きなんですよねぇ作風?が。
何となく全体的に観たら文学的にどうなの?と言われるのかも知れませんが、
やっぱり心にグッとくる文章を書いてくれるんですよね。
今回は母親に先立たれた少年の心境がありありと描かれていて、
胸を締め付けられるような思いに駆られました。
小学生の隼人は、6歳の弟に「死」について教えなくてはいけない。
「ママは死んだんだ」
毎日母親のいなくなった病室をふらりと訪れる弟を哀れみ、
死ぬという事が、もう2度と会えないと言う事で、
でもママは遠くから見守ってくれているんだよと伝えるのだ。
しかし、お兄ちゃんだから、と言う理由で責任感に悩む隼人だが、
たかだか小学生の子供なのだ、悲しくないわけがない。
弟のために必死になるあまり、自分の悲しみに気づいていない。
ママの双子のお姉さんが新しいママになるのも嫌、
ママもいなくなってパパもいなくなるなんてもっと嫌。
そんな切実な思いがじんじんと伝わってきて、心が痛くなりました。
このお話は、もう一つストーリーがあり、70歳のおじいさんも出てくる。
栄造は頑固者で子供なんて大嫌いだ。しかし、自分の乳母の死の悲しみを、
隼人の母の悲しみに重ねてしまい何かと面倒を見るようになる。
「どうしたんだ俺は、どうかしている」そう呟きながら、
嬉しそうな顔をしている頑固親父の顔が目に浮かび、思わず微笑んでしまう。
隼人は抱えていた悩みを相談できる初めての大人である栄造を得て、
栄造は人と関わる大切さと人の温かさを隼人から得る。
今までトゲトゲと周りを威嚇していた2人が、
徐々に柔らかく打ち解けるようになり、周りには笑顔が広がり始める。
そんな感覚を描くのが桂さんはとても上手で、思わずホロリときます。
今まで読んだ3冊の中で一番いいかな~。

★★★★☆*92

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2007年3月14日 (水)

「Run!Run!Run!」 桂望実

RUN!RUN!RUN! RUN!RUN!RUN!

著者:桂 望実
販売元:文藝春秋
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陸上のお話だから、とちょっと期待して読んだのですが、
初めから終りまで「?」と疑問が多い作品でした。
あの佐藤さんの「一瞬の風になれ」の影響が強すぎたかも知れません。
桂さんならではの、堅物の冷徹人間が徐々に心を開いてゆく、
と言うシーンも何となくインパクトにかける気がしました。

優は陸上のためだけに生きてきた。
箱根駅伝を途中棄権せざるを得なかった父の夢を背負って、
自分は完璧なアスリートになると決めていた。
夢はオリンピック、たかだか大学生ごときが走る箱根なんて目じゃない。
優がアスリートとして完璧な生活をするなか、
優とは別に医学の分野で完璧を目指していた兄が突然自殺した。
兄は何故死んだのか?
突き詰めてゆくうちに優は自分が遺伝子操作された人間だと知る。

うーん。簡単に言ってしまうと、
今まで陸上だけを見てオリンピックを目指していた人間が、
遺伝子操作されていた、と言う事実により夢を諦めなくてはいけない。
と言う話でした。いやはや遺伝子操作はドーピングでひっかかるらしい。
今の時代ってそんなに遺伝子操作が流行しているのでしょうか?
詳しく知らないですが、このテーマについて、ちょっと壮大すぎて、
陸上で纏めるにはインパクトが強すぎるよ、と残念に思いました。
あえて言うのなら、医療とかの分野でクローンはいけないよ、
見たいな感じで主人公か医者とかなら良かった気もします。
今回は親が決めた身勝手な判断によって、子供が洗脳されてしまう、
そう言う世の中が来るのはいけないことだとは、ひしひしと感じました。
例えその事によって夢が閉ざされてしまっても、
子供は走りつづけなければならないのですから。
しかし、さて遺伝子操作を自分がするのか?と聞かれれば、
きっと「しないよ」と言う方が大半だと思うので、
感情移入は難しいかも知れません。
しかしながら洗脳されてされてしまっていた優が、
はたと本当の自分の夢について考えるシーンや、
周りの温かな環境により冷徹な心が段々に解れていく様子が好きでした。
まぁ、でも出来るならそれがドーピングだから、
みたいな自分ではどうしようもない理不尽な理由ではなく、
今までは孤独に練習していたが、温かい仲間に支えられて~・・・
のような一見平凡な内容の方が涙を誘ったのではないか?と思うのです。
今後の世の中が、遺伝子操作が進み、親が子に理想を押し付ける、
なんて時代が来たら、「なるほどね」とすんなりこの本を
受け入れられる日が来るかも知れません。いや、望んではいませんけども。

★★★☆☆*79

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2007年2月 8日 (木)

「県庁の星」 桂望実

県庁の星 県庁の星

著者:桂 望実
販売元:小学館
Amazon.co.jpで詳細を確認する

映画が気になっていた作品でした。
何せ母が織田祐二のファンなので「観に行こうよ」とうるさかったのです。
しかしながら、映画の主人公は公務員、
そしてヒロインは柴咲コウ扮する、パートのお姉さんでしたよね?
原作を読んでビックリですよ、ヒロインは子持ちのおばちゃんです。

県庁職員の俺は、県の指令で民間企業に、
1年間研修へ行くプロジェクトに参加する事になった。
研修を受けるからには、店の規則を徹底的に把握し、
この店は何が売れるのか、どうしたら経済が上向きになるのか、
過去の数値データより上昇率を換算して導き出してやろう。
躍起になっていた俺だったが、大変な事が起きた。
なんとこの店には規則が無い。おまけに営業マニュアルさえない。
管理文書が無いなんてありえない、
これじゃ一体どうやって経営していけばいいというのだ。

題材的にはとても面白いと思うのですよ。
だから本屋大賞にノミネートされたのだと思うし。
しかしながら、何でだか文章が単調に感じてしまって残念。
全て物事は契約書で成り立っていると言う堅物の県庁職員・聡と、
独自の判断でその人に合った柔軟な対応を求められるスーパーのパート二宮。
その2人の間には厚い壁が存在し、自分が正しいと主張して
そりが合わず、話を聞いてみようと言う気も無い。
でも実際のところ、聡は人の事を考えると言う能力が欠落し、
二宮は不正を繰り返し低迷しつづけるスーパーに安住し向上心が無い。
どちらも足りない部分があり、それを補う事が大切なのだ。
2人の心の隙間が徐々になくなって、1つの目標を目指すようになった時、
物凄い達成感と新しい追い風に身震いを感じた。
願わくば・・・ですが、何かもうちょっと、こう・・・。
「あの人と私たちが協力したら凄い事になるかも・・・!」
と二宮を興奮させても良かったような気がした。
まぁそれは口下手な二宮、と言う設定からして、
難しいかもしれないけど、何となく勿体無い気がした。
二宮と息子の関係はよかったですけどね、あの後どうなったか気になったり、
食事にがっつく母親に向ける親しみのこもった優しい視線が好きでした。
問題は正攻法に移るまでが坦々としすぎていたのと、
桜井が挫折してイライラとした聡が、
どんな思い変わったか詳しく書いて欲しかったような気がするかな。
でも最後は好きですけどね、「やる気の欄」最高です。

★★★★☆*89

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