2006年12月 7日 (木)

「九月の四分の一」 大崎善生

九月の四分の一 九月の四分の一

著者:大崎 善生
販売元:新潮社
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なんだぁ・・・素敵なタイトルだと思ったのに、と言うのが率直な感想です。
ちょっと期待しすぎたかなぁ・・・。
短編4編で、哲学的な事を頑張って描いてる本なのですが、
もう一歩何かが足りない感じで、物足りない、煮え切らない、纏まらない。
哲学的なところは春樹さんと比べてしまい、
人物描写は吉田さんと比べてしまったりして、今ひとつな感じ。

「悲しくて翼もなくて」
バンドを組んでいた僕は、練習の後の公園で、一人歌を歌う少女に出合った。
彼女・真美の歌、ツェッペリンは美しく澄み切る歌声に聞き惚れてしまう。
真美をボーカルとして向かえ、開いた学園祭のライブは大盛況で、
息高揚した僕たちは2人で僕のマンションへ帰りことにした。
しかし、真美の事を思った僕は手を出す事もなく、真美は田舎へ帰ってゆく。
十数年後、真美の死を境に、あの時なぜ抱き止めなかったのか、と後悔する話。

うーん・・・この他の話もなのですが、
人言えぬ焦燥感とか、過ぎてしまった過去への後悔とか、そう言うのが多数。
そこまではいいのですが、こだわりが歌声だったり(これはまだいい)
チェスとブロンズ像だったり(ちょっと春樹さんぽい)、将棋だったり・・・。
何となくちょっと視野が狭すぎませんか?と問いたくなる。
そして多々出てくる出版社。いや、多分大崎さんが昔勤めてたんでしょうけど;
もうちょっと色つけてもいいのでは?と。
大崎さんはどちらかと言えば、哲学的・・・と言うよりは、
合理性への追求、とかそう言う方が上手いような気がするし、
哲学を前面に押し出すと、こんな感じの本になってしまうのでは?と思う。
「傘の自由化」とかめっちゃ合理性追求で、「おぉなるほど!」
とか思うのに、今回は首をかしげたまま読み終わってしまった。
こんな書き方もするんだね、と作者を知るのにはいいかもですが、
どうぞ、1冊目には読まないほうが良いかと思われます。
やっぱり最初に読むなら「アジアンタムブルー」かな。

★★☆☆☆*69

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2006年10月28日 (土)

「パイロットフィッシュ」 大崎善生

パイロットフィッシュ パイロットフィッシュ

著者:大崎 善生
販売元:角川書店
Amazon.co.jpで詳細を確認する


大崎さんの本て、やっぱり透明感があるよなぁ、と改めて思った。
金魚や熱帯魚が似合う感じ、素敵です。
話の中にエロイ要素・今回もエロ本編集者ですが、
結構生々しく書いてあるのに、過去を淡々と語る様子は、
どことなく切なくてそれさえも美しく見えてしまう、と言う感じ。
硝子越しに見ている物語、って言うのが大崎さんの印象です。
今回も「アジアンタムブルー」の主人公と同じ。

優柔不断で頼りなくて、どうしようもない人間だった僕は、
たまたま入った喫茶店で、男を友人に寝取られ泣いている少女・由希子に出会った。
付き合い始めた2人は、とあるバーのマスターと仲良くなるが、
ある日マスターは家族を残したまま理不尽な理由で死んでしまう。
その知らせに僕が落ち込み、部屋に閉じ篭っている時にやって来た人物・・
それは由希子の昔の男を寝取った伊都子だった。
壊れた愛情は19年越しに思い出され、本当の別れを告げ去ってゆく。
そんな話。

「傘の自由化は成功しましたか?」
ここを読んだ時、ぞわぞわと鳥肌が立ちました。
「アジアンタム」の時も、名刺の所で、「まさか、そんな!」の衝撃でしたが、
今回は運命的というか、輪廻的?な物を感じて身震いしました。
それにまさかここにマスターが!と言う驚きで。
大崎さんは、2度あることは3度ある、とかそう言う訴えがあるようで。
あと何か大切な物を失った時の絶望感と使命感、
これか凄く綺麗に描かれていると思います。
沢井が死ぬ間際、手足を拘束されながら僕の名前を呼びつづけていたのは、
幻覚の見える世界であっても、「きっと私を助けてくれるはずだ」
と言う僕への思いがあったのだろうと思うと、心を締め付けられるようでした。
ちょっと残念だったのが、七海の登場。
可奈でもよかったんじゃないのかなぁ・・・と思ってしまう。
でも可奈だったら「傘の自由化~」は無かったわけで。
でもたまたま来た女の子と、その日に寝ちゃうなんてどうよ?とか思いました。
いや、結構それ現実的だから、とか言われたら文句は言えませんけど。苦笑
それと、せっかくのパイロットフィッシュが、ちょっと曖昧すぎるような?
私の理解不足かもしれませんけど、なかなか判りづらい。
マスターは僕たちのために住み良い世界を作ってくれたんだ、とかその位?
私的には「アジアンタム」先に読んで良かった、と思いました。
「パイロット」の方が先に出てますけどね。
話は断然「アジアンタム」の方がいいですが、続編的に楽しめます。

★★★☆☆*81

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2006年10月16日 (月)

「アジアンタムブルー」 大崎善生

アジアンタムブルー アジアンタムブルー

著者:大崎 善生
販売元:角川書店
Amazon.co.jpで詳細を確認する


お、なかなかいいかも、と思って読んでいたら、実は映画化らしい。
しかも主人公が阿部寛!
「おいおい、冗談じゃない、めっちゃ合わないよ」
と読んでからツッコミを入れてしまったのは私だけですか?
阿部さんはお願いだからいつまでもトリックの阿部さんでいて下さい・・・。

端的に言うと、愛する人を失った悲しみを描いた純愛ストーリー。
だけど、どことなく泥臭くてエロティックで馬鹿らしい。
エロ本編集部に勤める「僕」は、エロさを追求し続ける編集の極意に飽き始めていた。
そこで水溜りだけを撮り続ける、カメラマン・葉子を新しく抜擢する。
次第に「僕」と葉子は互いに惹かれ合ってゆくが、長くは続かなかった。
愛する人がいなくなった時の絶望感は計り知れず、
つい面影を探そうと、「僕」はデパートの屋上で一人佇んでいる。
人は何かを乗り越えるために生きなくてはいけない、そう伝わってくる本です。

「僕はテロリストなのだ」
この言葉が後半になってこんなに響く言葉になろうとは。
ベットに潜り、手を繋ぎながら2人でテロリストになっただろう瞬間、とても好きでした。
脈絡でいきなりテロリスト、と出てきたので、ん?なんでいきなり。
と思っていたのですが、そこはさすが重要な鍵に繋がっていました。
それと名刺を受け取った瞬間は鳥肌もの。
人生を狂わす人間は、自分が死ぬまでつきまとってくるのではないか?
と言う恐怖心と、まさかここに来てこいつがまた現れるなんてと驚愕しました。
本自体の雰囲気は「陽気じゃない伊坂幸太郎+村上春樹+横山秀夫」※偏見です
病気とかSMとか自殺とかセックスとか、あんまり綺麗ではない物が
ごちゃごちゃ出てきていますが、すべてが上手い具合にやんわりと表現されています。
あと音楽もお好きなようで、「君が生きている時間、僕は幸せだった(?)」
みたいな歌詞が出てきていますが、それはいい感じに纏まっていました。
が・・・・なんだか色々出しすぎた感。
ストリートライブの2人は正直なくてもいいし、
せっかくのタイトルの「アジアンタム」の出番が少ない。
枯れてゆくアジアンタムを食い止めるのは至難の技で、
それはきっと癌にかけているのだと思いますが、あまり伝わっていない。
初めの方で屋上で出会うヒロミも、設定が突然消えるって感じでしたが、
それでも彼女は何のために出現したんだ?と疑問が強め。
同じ恋人をなくした悲しみなら沢井で十分だったろうに・・・と残念。
私的には本の中盤あたりまでが凄く良かったです。笹井に宣告される辺り?
でもその後がねぇ・・・ちょっとくどいような、ニース。
前半にで悲しみを押し出しすぎているからか、
後半にも愛を詰めこまなくちゃ!みたいな感じがし重い。
最後の水溜りの写真展がもう少しボリュームアップでも良かった気も。
うーん。
文章が凄く好きだったためか、ラストにかけての持って行き方が惜しいと思ってしまう。
そんな感じでした。

★★★☆☆*85

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