2011年2月17日 (木)

「リアルワールド」 桐野夏生

リアルワールド (集英社文庫(日本)) リアルワールド (集英社文庫(日本))

著者:桐野 夏生
販売元:集英社
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桐野さんも久しぶり、と思ったら、去年1冊読んでいた。『IN』も
なんだかわたしには微妙だったなぁ、と思いながら、『やわらかな頬』
での吸引力を思い出したりもした。あれももう4年前か……。
もう一度読み返してみようかとも思いつつも、読む気力は起きない。

私の隣の家のには同じ学年の男子がいる。地味で目立たなくて、
勉強だけを目指している根暗な感じのヤツ。私はそいつにミミズという
あだ名をつけた。そんなある日、ミミズは母親を殺した。
抵抗する母親を金属バットで頭から殴り殺したのだ。ミミズは意気揚々と
した顔で私の前を通り過ぎ、そうして私の自転車、および携帯を
盗んで逃走を開始した。ミミズは私の携帯から私の友達に電話を
したらしかった。ユウザンやキラリンから、「母親を殺した男から
電話があった」と連絡があったからだ。わたしたちは逃走を続ける
ミミズの話を聞いた。母親を殺した人間とは、どんな心境なのか。
通報することもなく、それぞれ私たちはミミズの逃走を援助するのだが……。

どのへんが「リアル」なのか、さっぱりわからない「リアルワールド」
だった。この本の中で唯一「リアル」なのではないか、と思えたのは、
今の若者は面白がって、近くに殺人犯がいても警察に通報しないのでは
ないだろうか、というところだった。携帯電話を所持し逃走するミミズ。
しかしその携帯電話は本人のものではないので、通話記録も残らない。
その上、携帯電話の持ち主や、その友人たちが黙っていれば、ミミズは
逃げ続ける。自分たちが秘密裏に殺人犯を助け、逃がしているという、
妙な高揚感。母親を殺した男子学生が一体どんなヤツなのか。そして、
それを知りたいと思う好奇心は、警察をあてにし頼りにするという思考
よりも遥かに強く魅惑的なものだ。「わたしたちだけの秘密」もしくは、
「楽しんでやろう」という、不謹慎な気持ちは、テレビゲームの中で、
行われている、非現実的なゲームのようで、なるほど現代の子どもを
描きたかったのだろうと感じた。最近確かにそう言ったゲーム的な思考を
持った若者が多い。だからその部分を逆手に取り、きっと桐野さんは、
彼らにとっての「リアル」な世界と言う意味で、「リアルワールド」
とつけたのだろう。けれども残念だったのは、この描き方だと、
殺人の重みまでもがゲーム的な比重になり罪の重みが軽くなってしまって
いて、母親を殺したという重さがまるでなく、なぜ逃げるのか、疑問に思う
ことだった。「彼ら」のリアルは確かに「へへ!母親殺してやったぜ、俺!」
とか、そういう感じなのかもしれないが、それだけ晴れ晴れと殺したなら、
晴れ晴れと捕まれば?と言う気もするし、「やっぱり殺すんじゃなかった」
となる気もするし、「殺した親が夢に出てきた」となる気がするのだった。
「リアル」だったのは、彼らと、桐野さんの頭の中だけであり、読んでいる
こちらとしては、そちら側にまったく引き込まれることなく、
テレビの中の逃走ゲームを見ているようだった。それを狙ったならいいの
だけど、まったくどのキャラクターにも感情移入できず、引き込まれない
時点で、彼らの「リアル」に魅力を感じなかった。

★★☆☆☆*68

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2010年7月 5日 (月)

「IN」 桐野夏生

IN IN

著者:桐野 夏生
販売元:集英社
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桐野さん久しぶり。何度読んでもやはり感心する男性的な文章。
さばさばしていて、初めて読むときに名前を隠されていたら、まさか
女性作家とは思わなかったと思う。しかし一度読んでしまうと、
それはもう桐野味になってしまい、どこからどう読んでも桐野夏生。

緑川未来男の自伝的小説「無垢人」には、「○子」と匿名で語られて
いる女がいた。緑川の不倫相手であり、公にも噂が広まっていた
誰もが知っているはずの女。興味を引かれたタマキは、「○子」と
思われる女と接触するが、自分は関係がないと門前払いを喰う。
ますます真相を求め始めたタマキは、小説「無垢人」の人物たちに
入り込んでゆくのだが……。

桐野さんのベストセラー『OUT』の対となっている本だと言われて
いるが、わたしはいまいち関係性を見出すことが出来なかった。
というのも桐野さんの本をそれほど読んでいないというのもあるし、
題材とされている島尾敏雄という人物をよく知らないからだと思う。
それと主人公が小説家、という何とも頭を悩ませるテーマで始まるため、
作家は作家の世界しか描けないのか、という太宰治ばりの興ざめ感を
感じた本だった。本が出版されて、確からしい事実なのに、文字と言う
曖昧で優美な表現方法に翻弄され、現実を捉えられないタマキ。
大きな事件を突きまわり、塗り固められた僅かな嘘に感慨を覚える感じ、
そしてあながちミステリのような雰囲気がどうも島田荘司の
『占星術殺人事件』を思い出してしまい、前にも似たようなものを
読んだな、と考えてしまった。もしかしたら、もしかしたら、
と薄闇を突き進む面白さはさすが桐野さん、と言う感じだけど、
主人公自身の対比がどうもくみ取れず、最後の○子の謎が解けた時の
感情とそれとをどう読んだらいいのかよく分からなかった。
久しぶりに読んだからか、何だか桐野味を大変濃く感じた。
ロールプレイングゲームのように、行く先々でなぜかべらべら喋る
関係者、主人公の移り気な感じ、話の方向転換のアサッテさ……
などなど、初々しかった『顔に降りかかる雨』のような印象を、
なぜか受けたりした。桐野初心者にはお薦めしない。

★★★☆☆*83

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2009年9月 9日 (水)

「OUT 下」 桐野夏生

OUT 下  講談社文庫 き 32-4 OUT 下 講談社文庫 き 32-4

著者:桐野 夏生
販売元:講談社
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そもそも上巻読んだのいつだよ、位に放置してました。前読んだ時の
感想とまた違うと思う。 この喪失感、いや、喪失感すらも
霞んでしまう擦り切れた感情を、描けるのはやっぱり桐野さんだけだ、
と思う。彼女たちがそれらを取り戻すことは出来るのか。

マサコと師匠は風呂場で死体をばらばらに分解し、
邦子に死体を捨てさせた。入念に血液を洗い流し、これで大丈夫だ、
と一息ついた。人を解剖した。手には肉を切り刻んだり、
骨を切断した時の感触がまだ残っている。けれども罪悪感は
全くと言っていいほどなかった。容疑者として他の男が逮捕された。
弥生の元に保険金が入り、それで上手く終わると思っていたが、
釈放された容疑者・佐竹は彼女たちの犯行を探り始めた。
ばらしてほしくなければ、仕事の手伝いをしろと持ちかけられた。
佐竹が持ち込んだ仕事……それはまたもや死体を解剖する仕事だった。

麻痺した心は、回復しない。いろいろな感情を失った登場人物に、
残っていたのはどんな感情だったのだろうか?坦々と、感情を
移入することなく読み終えてしまうと、それを得ることが出来ない。
お金のためなら、人を解剖することを厭わない女たち。
けれども本当に金が必要なのか、と考えると、それは違うのだ、
と簡単に知ることが出来る。もし有り余るほどの金があったら、
女たちはこんなことをしなかったのだろうか。もちろん、
それも十分な要素だろうが、けれど足りない何かを金として換算して
いるに過ぎない。金があったら夫との関係を修復できるわけでもなく、
母親の介護がなくなるわけでもなく、家庭内暴力がなくなるわけでもない。
彼女たちは逃げ出した日の当たる場所に、もう帰ることはできない。
きっとそれに気づいて、けれど気づかないふりをしているから、
それがどんなにおぞましい事だと分かっていても、
手を染めてしまうんだろう。感情は感嘆に回復などしないのだ。
そんな女の曲がらない芯を、桐野さんだから描けるのだろう。
後半、なぜか物語りは逸れ、雅子と佐竹の「運命」についての
話になる。確かにそういうものもあるだろうが、今まで関わってきた
弥生や師匠や邦子はそっちのけになり、2人の世界に入ってしまうのが、
とても残念である。とてもヒットしましたからね、是非呼んでみては。
この物語をすんなり受け入れられたとしたら、自分にも、
そんな心が潜んでいるのではないか、と疑ってみたらいい。

★★★☆☆*85

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2009年7月27日 (月)

「アンボス・ムンドス」 桐野夏生

アンボス・ムンドス アンボス・ムンドス

著者:桐野 夏生
販売元:文藝春秋
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突然ですが、さっきニュースを見たら今年の日本は、
1日平均94人以上が自殺しているらしいです。
1日約100人がいなくなっているのか……そう考えると
なんとも言えない後味の悪いグミでも飲み込んだ気分になりますね。

「アンボス・ムンドス」
私は数年前まで国語の教師をしておりました。
田舎の小さな学校では、一学年に一クラスしかなく人間関係が過密な上、
また小学五年生という微妙な年代の子どもを扱うには、
新任の教師にとってはとても重いことでもありました。
クラスの女の子の間では、陰口が常に交わされ合っていました。
その時、私は教頭の池辺と不倫の関係にありました。
夏休みの少ない私たちは、僅かな休暇を不倫旅行にあて、海外へ飛びました。
夢のような日々でした。けれど、一方で小学校では、
重大な事件が起きていたのです――。

短編集。表題作が一番良かった。一番重いし、好きだった。
この一遍でも読んだ価値があると思う。
「表裏」がテーマになったこの話、それ以外の部分でもとても楽しめる。
いじめの蔓延した学校……けれどそれらは裏に隠れていて、
周りの人間は気づくことが出来ない。本当はいじめが原因で死んだ
サユリのことも、みな気づかず、明るい表面ばかりを求めようとする。
きっとみんな知っているのだろうけどね。
でも気づかないふりをして、「本当」の裏側の事を知ろうとしないのだ。
それは大人に限らずに。本当に怖いのは、それを悪びれることなく
実行する子どもたちなのだ。いじめは恐ろしい。
いじめを起こすその行動よりも、キラキラと笑っている可愛い子が、
顔を歪めて醜く笑い発する、他人を蹴落とそうとするその言葉が怖い。
その瞬間を考えるだけで、ぞっとしてしまう、そう思いませんか。
この話には不倫も絡んでいて、それは桐野さんらしいというか、
いい絡め具合だった。で、その付き合っていた教頭が自殺したので、
上に書いたように、自殺者の数に目がいってしまったのだった。
「よく現実は小説より奇なり」って言うじゃない。
それのように、きっと自殺している人の原因を調べたら、
小説じゃ描けないどろどろがあるんだろうな、とか思った。不謹慎かな。
あと、久しぶりに桐野さんを読んだけど、さすがだなぁ、と思う。
『ルビー』なんかを読んでいる時は、山本文緒のような印象を
受けなら読んで、そうだ桐野さんだった、と読み終わってから思った。
文体を変えず、色々な要素を引き出して違った味わいを出せるのは凄い。
『OUT 下』も読もう、放置しすぎだなぁ。

★★★★☆*89

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2009年2月 4日 (水)

「OUT 上」 桐野夏生

OUT 上  講談社文庫 き 32-3 OUT 上 講談社文庫 き 32-3

著者:桐野 夏生
販売元:講談社
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上巻を読んだ感想だと、「柔らかな頬」の方が私は好きだと思った。
しかしこの血なまぐささ、冷静にすらすら書かれた文章だから成せる業。
気持ち悪くなって何度も手を止めた。だって、まるで私もこの4人の
中に参加してしまいそうだったから。抜け出したい、思いで人は殺せる。

弁当工場での深夜夜勤を勤める主婦たちは、様々な鬱屈を抱えていた。
家族とのすれ違い、老人介護、借金、家庭内暴力。
昼と夜が逆転した生活では、常に睡魔が彼女とたちを付き纏い、
また、家庭の「主婦」としての時間が待っている。
頑張っているのに、報われない周りの環境に、疲弊するばかりだった。
そんな時、雅子のもとに夜勤仲間である弥生が、電話をかけてきた。
家庭内暴力を振るっていた夫を、殺した、と言う。
悩まされ続けた夫のせいで、今の生活が壊れるのは嫌だった。
2人は仲間を誘い、夫の死体を分解し、捨てることにした。

たぶん、下巻を読んだらもっと面白いのだと思う。
桐野さんの文章は、冷たい。私はそう思う。酷いことを書いてある、
と言う意味ではなく、ありのままを冷静に書いてあるから。
何の装飾もされずに書かれるその文章は、冷たい。
それは、読んでいるうち現実がそうなのだと、気づかされる。
夜勤で疲れきった主婦たちの間に漂うのは、そんな冷たい空気だった。
仲間、である。けれど、仲良くはない。彼女たちは、
自分たちの誰をも信じることが出来ずに、苦しんでいるのだから。
気がついたら、わけも分からず、仲間の夫を分解していた。
自分でも何故それをしたのか分からない。けれど時間が経てば立つほど
それは報われない生活に終止符を打つためだったと、確信に変わるのだ。
この本には、愛かを失った人がたくさん出てくる。
家族愛、夫婦愛、情愛、恋愛。失った時は悲しくても、
その時間が長くなれば長くなるほど、麻痺し何も感じなくなる。
自分でも気づけなくなった「喪失感」が、
バラバラ殺人と言う猟奇的な事件を生み出したのだろう。
悲しくなんてない、怖くなんてない、可哀想なんて思わない、
だってもう失うものはないのだから、可哀想なのは自分だから。
彼女たちの無言の嘆きが文章から滲み出ている。

★★★★☆*86

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2008年1月 6日 (日)

「顔に降りかかる雨」 桐野夏生

顔に降りかかる雨 (講談社文庫) 顔に降りかかる雨 (講談社文庫)

著者:桐野 夏生
販売元:講談社
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デビュー作です。桐野さんなので期待していたのですが、
しかも江戸川乱歩賞だし…ですが、まぁさすがデビュー作という感じです。 
あおりには「二転三転事件の真相」が面白みとされてますが、
それが逆に仇になったような感じのする作品でした。

ベルが鳴り響いていたが、夜中になる電話を私は取らない事にしていた。
それは亡くなった夫からの電話を思い出さぬようにするためだ。
次の日、ライターである親友・耀子が、突然姿を消したと知らされた。
それも一億円もの大金を持ち逃走したらしかった。
耀子の部屋の着信履歴から、最後に電話した人間が自分であると分かり、
私は耀子の恋人である成瀬と、チンピラの君島に疑われ始めた。
耀子が持ち逃げしたのは、いわゆる闇の金であり、公にできない。
一方で企業から疑われる成瀬と私は、耀子を探すため動き始めた。
果たして耀子は大金を持ちどこへどうして逃げたのか…

何が悪かったかと聞かれると、非常に困るのですが、
何と言うか、話が纏まってない…というかそんな感じでしょうか。
ヤクザの金が出てきたり、ドイツの人種問題が出てきたり、
乳首にピアスを開けるSMが出てきたり、変な演奏家が出てきたり、
かと思えば、ライターや出版の話が出てきたり、探偵?だったり。
とにかく「さて、どうやって纏めようかしらね」と頭をひねるほどの
方向性の違うものたちが、わらわらと沢山出てくる、という印象があった。
まず、主人公は探偵なのか、という疑問についてよくわからない。
描写もないので、きっとだた父親が探偵だった、というだけなのだろうが、
そのことがかなり微妙な分量しか書いてないので、煮え切らない。
私的にどうせなら、父親がどうの~というのはなくてもいい気がするのだが…
でもこの主人公はシリーズものらしいので、
そうするとやっぱり探偵っていうのを強調したかったのかな、と思えてくる。
だとしたら、描写不足だなぁ、という感じがした。
それと死体愛好家っていうのも、結構突然出てきたような気がして、
話の中盤から、いきなり方向性が逆転した雰囲気があり、
前半の話いらなくない?とか思えてくる。
極めつけは、「二転三転」のくどさ。
一回目の逆転でかなり終わった感があるのに、
三転目はさすがに勘弁してくれという感じだった。
女性作家のハードボイルドを確立した、とか言われてますが、
それについては、やっぱり凄いと思いますね。
「OUT」読み途中なので、もう一回読もうと思います。

★★☆☆☆*74

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2007年7月23日 (月)

「柔らかな頬 上下」 桐野夏生

柔らかな頬〈下〉 (文春文庫) 柔らかな頬〈下〉 (文春文庫)

著者:桐野 夏生
販売元:文藝春秋
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桐野さんの本は読みたい読みたいと思い、結構買い込んでいるのですが、
いかんせん長いので…と言う理由で放置気味でした。
それにしてもテスト期間中の読書って何でこんなに捗るんだろう。
去年は森さんの「DIVE!!」を二日で読了したしなぁ。
この本は個人的には好きだったのですが、選り好みが激しい作品のようです。
直木賞取れそうだな、と思っていたら直木賞受賞作品でした。

高校卒業と同時にカスミは親と故郷を捨てた。
一人東京を彷徨い、たまたま就職した、小さな会社の社長と結婚する。
しかし、子供も生まれ、順風満帆な生活が回り始めた頃、
カスミは急に実家のある田舎町を思い出したのだった。
今の平凡な自分は、あの時望んでいた自分ではない。
そんな思いを掻き消すため、カスミは大胆にも
家族のいる一つ屋根の下で、夫を裏切り不倫をした。
もう家族を捨てても構わない…そう思った次の日、長女・有香が失踪した。
カスミの長い長い苦悩の幕開けだった。

久しぶりに読み終わった後暗闇に鳥肌を感じた作品だった。
何の事はない、書かれているのは、一つの事件のあらましと、
その事件に関わった人間の心境と末路である。しかしながら、
桐野さんの秀逸な文章のお陰で作品の完成度が格段に上がっており、
読後物凄く考えさせられる仕上がりになっている。
失踪した娘を探しつづける母親。
カスミは娘がいなくなったと言う事実に、不倫をした自分の卑しさを呪い、
これでもかと人を疑い、また家族を捨てた自分を責めた。
この呪いは娘が無事発見されるか、死体が見つかるまで続くのだ。
失った娘という存在は、その存在価値を超え、
自分の仕出かした罪滅ぼしへと変貌を遂げてゆく。
その言葉では言い表しがたい、内面のおどろおどろしい心境を、
三つの視点から照らし合わせ描かれており、とても生々しかった。
途中で登場する、末期ガンの内海。彼の存在がカスミを大きく変え、
死に直面する事により、もう自分が癒される事はないと自覚する。
それに気づいた時の、煮詰まった思いが晴れたカスミが好きだった。
もう、終わったのだ。一つの事に区切りをつけるのはとても難しい。
ましてや娘の死などは尚更だろう。そして根底に横たわる故郷への思いも。
それらが全て済み、死に行く内海に寄せる愛がとても美しかったと思う。
この話は、結末を言ってしまうと犯人は出てこない。
カスミや内海が苦しみながら見る夢で妄想を抱くだけなのだ。
娘がカスミが捨てた両親に誘拐された夢、娘が殺された夢。
でもそれは夢でしかない。夢でしかないのだけれど、
最後死にゆく内海がもがきながら見た夢こそが真実だったのかも知れない。
そう曖昧に括られるあたりが、死の儚さと、真実の儚さを映していると思った。
一つ言っておくと、主人公に感情移入は期待できない。
不倫をしたり、人を疑ったり、宗教に癒されたり…
と何事においても中途半端なところがあるからである。
少し関わりがあった人間も後半にかけて一切出てこなくなる。
でも本当の人間て…と立ち止まって考えた時、その冷徹なカスミは、
自分だったりするのではないだろうか、と思えノンストップで読む事が出来た。

★★★★☆*92

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2006年9月14日 (木)

「錆びる心」 桐野夏生

錆びる心 錆びる心

著者:桐野 夏生
販売元:文藝春秋
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初、桐野さん。
最初「OUT」読もうかと思っていたのですが、
ちょっと気分的に重かったので、短編集にしてみました。
なかなか、なかなか。才能ある作家さんだな、と。
お話が何かと生物系です。

「錆びる心」なんて言うからミステリーなのかと思ったら・・・。

まずは「ジェイソン」から。
実は酒乱だった。そんな真実を31歳になった今初めて知る。
酒を飲んで消えてしまっていた記憶の中では、
「ジェイソン」と陰口されるほどの凶悪な事件を起こしていた。
ただ羽目を外していた、そう思っていただけだったのに、
実は自分はとんでもない事をしている、そんな恐怖を味わえます。笑
奥さんが出て行ってしまってた理由を考えていましたが、
無理やり襲ってしまった位だろうか、なんて安直過ぎました。
まさか・・・まさかそこまで自分はやっていたのか?!
と言う自分への恐ろしさに鳥肌が立ちました。
現実にもありそうで怖い。自分もねぇ・・・。

次は「錆びる心」を。
10年間耐え忍び、夫の誕生日に家出を決行した。
囚われ続け妻でありながら家政婦のような主婦生活を送っていた絹子であったが、
本当の家政婦の職に着く事によって生きがいを取り戻した。
しかしその心は本人が気づかないうちに隠し切れないほど蝕んだものになっていた。
苦しみや怒りを押し殺した10年にも怖いほどの執念を感じますが、
その間に失った思いと翳ってしまった思いに気づかない怖さの方が強かった。
「他人だから」そう聞いた時、なるほどなと思いました。
忘れがちですが、親子は血は繋がっているけれど、夫婦は他人です。
ただ1枚の紙で繋がったに過ぎないんだ。
そう考えるとその虚しさとある意味の納得がとても悲しく感じました。

*83

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