2008年10月14日 (火)

「偏路」 本谷有希子

偏路 偏路

著者:本谷 有希子
販売元:新潮社
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読み始めるまで脚本だとは知りませんでした。
が、まずまず楽しめました。しかし、本谷さんは好きなんですけど、
どうも好きになりきれない理由は、マンネリにある気がする。
だって、いつもテーマ一緒じゃないですか。なんだかなぁ。

東京で劇団員をしていた若月は、出戻りすることになってしまった。
劇団が色恋沙汰でドロドロになり、解散になったのだ。
とりあえず実家に帰ってみようとしたものの、
そもそも実家が嫌で嫌で仕方がなかったから飛び出したのであって、
今更その空気に馴染むことが出来ないのだった。
父親を始め、親戚一同は、劇団員として若月を送り出した苦労話
ばかりをし、早く有名になってくれとせがむ。
若月は葛藤の末、劇団が解散になったことを伝えるが……。

舞台で見たら、きっと面白いだろうなぁ、と思いました。
ところどころ実際の舞台の写真が入っていて、
よりイメージを膨らますことが出来ましたし、
ありそうな家族をコメディ調に書かれていて、好感が持てます。
しかし、一つ気になったのが、上記にも書いたように、
ストーリーのマンネリが目立ちます。今回の話は、
役者になろうとして実家を出たものの、鳴かず飛ばずで、
出戻りした惨めな女が主人公。あれ?この光景どこかで……、
と思い返してみると「腑抜けども悲しみの愛を見せろ」でも、
「ほんたにちゃん」でも、そのような設定だったではありませんか。
と、言うことはあれですかね、毎度イメージはご自身なんでしょうか?
と考えてしまった次第でした。「腑抜けども」でも「江利子と絶対」
でも分かるように、あの絶望感を描ける人と言ったら、
本谷さんの右に出る人はいないと思います。けれども、
その絶望をいつも同じ設定でしか使えないのなら、
それは残念なことだなぁ、と勝手に思いました。
今回も、面白いんですが「あぁまたこの設定ですかぁ」
と言う感じで、あんまり楽しめませんでした。
本谷さんの舞台は見てみたいですね、興味があります。

★★★☆☆*78

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2008年8月25日 (月)

「ほんたにちゃん」 本谷有希子

ほんたにちゃん (本人本 3) (本人本 3) ほんたにちゃん (本人本 3) (本人本 3)

著者:本谷有希子
販売元:太田出版
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今年読んだ「どうしようもねぇ本」、堂々の第2位。
まぁ1位は間違いなく「NHKにようこそ!」滝本竜彦著であることは
確かなのだが、それに劣らない強烈などうしようもなさ。
最高だ、本谷さん。大丈夫、あなたは誰にも負けていない。

カメラマンになると言って上京した私は、
結局のところ何にもなっておらず、むしろなろうとしていた
カメラマンと言う職さえも、本当は望んでいなかった気がした。
そんな時到来したのは、版画の巨匠との飲み会だった。
酒を飲み終わった後、運良く二軒目を誘われた私は、
必死に自分をその男に売り込もうとした。しかし、
私はそんなキャラではない。例えるならばエヴァンゲリオンの
綾波レイのようにクールでミステリアスな女なのだ。
そんな思い込みから、私は男の誘いを断ってしまい……。

私が書いたあらすじよりも、この本はもっと凄い。
と言うか形容できないので、仕方なく少し堅い感じになっています。
本当にどうしようもねぇ本。しかし、この本をどうしようもねぇ、
と思ってしまったらもう、本谷さんの作中に嵌っていると言っていい。
そう、この本はどうしようもねぇ本なのだ、最初から。
だからどうしようもなくて結構、それが勲章なのである。
しかし、凄い。この格好つけ女。噂ではこれは自伝小説、
とあるのだが、本谷さんは、こんなことを考えて毎日いる(いた)
のだろうか。確かに、わからなくもないところもある。
自分はキャピキャピした今時の若い女とは違うのだ、
と言って、クールぶってみたり(というか私そのまんま)、
ここぞー、という男にアピールする部分になって、
あれーどうしたらいいかわかんねぇ、みたいな(というか私そのまんま)
けれども、さすがに下着姿になってどうぞ、タッて下さい、
なんて懇願する女は、ここまで来るともう滑稽を通り越し変態である。
もしこの本のいくらかが実話だとするのならば、
それは本谷さんが今になったから加筆できるということである。
もしも現在その変態女真っ只中、だったとしたら、
この本を書けないだろう。その要素を持ち合わせつつも、
どこか達観したところで、書いているからこそ、
ボキャブラリ溢れるこのどうしようもなさが書けたに違いない。
人はみな経験だね。最後の十年後の自分が、今頑張っていることに
悔いないように、という文が、当たり前だけど、
急に切に戻るその感じが、とてもよかったと思う。どうしようもないけど。
あとは、これは狂っているのが主人公だというところがいいですね。
新境地。狂っている人を観察する本はこれまでたくさんあったんで。
まぁ観察したように書けるっていうのも才能だと思いますが。

★★★☆☆*85

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2007年8月19日 (日)

「江利子と絶対」 本谷有希子

江利子と絶対〈本谷有希子文学大全集〉 (講談社文庫) 江利子と絶対〈本谷有希子文学大全集〉 (講談社文庫)

著者:本谷 有希子
販売元:講談社
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すげー本谷さん…と、ちょっと感動した。
ここまで負のオーラを撒き散らした小説も、そうそうないだろう。
どん底一直線、もうこれ以上落ちないと分かった時の喪失感が絶妙。
まぁ凄いのは別として、面白いかと聞かれたら、そうでもないのだが…。
個人的にですがね。短編集です。

「江利子と絶対」
一ヶ月前に転がり込んできた私の妹・江利子は引き篭もりだ。
高校に通うことが出来なくなった彼女は、一歩も外に出ようとしない。
しかし、他の一般的な引き篭もりの人たちに、何か理由があるのに対し、
私の目に映る江利子は、ただ全てをサボっているようにしか見えなかった。
「……お姉ちゃん。エリ、これから前向きに生きていくから」
そんな時、江利子は唐突な事を言い出す。そして、引き篭もりをしながら、
自分を絶対裏切らない犬、「ゼッタイ」を飼い始めたのだった。

本谷さんの小説の面白いところは、
人が狂っていく様子を克明に表現してくれるところだと思う。
「腑抜けども~」でも相当の絶望感を感じたのだが、
今回の「江利子と絶対」もまた、恐ろしいまでの負のオーラを味わった。
主人公は引き篭もりの妹を持つ姉であり、
その引き篭もる妹を、半ば呆れたような、
手におえないような、そんな視線で物語りは進んでゆく。
普通の人間ではすんなりと理解できない、短絡的思考だったり、
微妙に意図がずれた納得であったり、妹・江利子とのやり取りは滑稽だ。
しかし、そこまで深刻に考えるのは変だと感じるほどの思い込みや、
姉が「大丈夫だろう」と思った些細な出来事を受け入れられない
ちょっとした出来事が積み重なり、江利子の心は次第に恐ろしく歪む。
そしてまさに拍手喝采と言うべきは、上り詰め頂点に達し、
江利子が狂ってしまう時のあまりにも現実味のある狂言。
自分でも何を言っているか分からない、そんな様子から、
読んでいる人間をも震撼させる狂気を感じる事が出来るのだ。
だけど、残念なのが、短編三篇のうち、三つとも傾向が同じ事である。
最初から誰かしら狂った人間が一人出てきて、
正常な神経の持ち主が、それをとつとつと語ってゆく。
特に言ってしまうと最後の「暗狩」なんかは途中で飽きてしまった。
これはまるで乙一さんのような切り口で、ちょっと新し味がない。
もしも、普通の人間がちょっとした神経の偏りから、
徐々に狂人へと変貌し、プツリとキレ、惨劇になる…
と言うような長編ものをしっかり書けたら、奥田さんの「最悪」などを、
ゆうに超えられるのではないかと、ちょっと楽しみだな、と思った。
アマゾンレビューは点数高いのですが、
私はどちらかといえば、面白さは「腑抜けども~」の方が高いかと。
この本を読むと「凄い」という事はしっかり分かりますが。笑

★★★☆☆*84

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2007年8月 6日 (月)

「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」 本谷有希子

腑抜けども、悲しみの愛を見せろ (講談社文庫 も 48-1) 腑抜けども、悲しみの愛を見せろ (講談社文庫 も 48-1)

著者:本谷 有希子
販売元:講談社
Amazon.co.jpで詳細を確認する


高橋源一郎が解説だったので、思わず文庫本を買ってしまったのですが…。
何とも毒々しい本でした。毒々しいっていうか、むしろ毒でした。
毒に犯された主人公を、誰もアク抜きできずにもがいている。
結局は誰もが苦しんでいる悪循環が崩れる時、一体何が起こるのか。

澄伽は自分が特別な存在だと思っていた。
美しい容姿を生かし、唯一無二の女優になる事を信じて疑わない。
そんな自信に満ち溢れる反面、彼女に才能がないのは傍目では明らかだった。
周りが煽てた事によって勘違いし、必要以上に傲慢になった女・澄伽。
彼女を止める事は、もはや誰にも無理だった。そんな時、両親が死んだ。
狂った家で過ごす中、ストレスのあまり感情をコントロール出来なくなった
妹清深は、姉の狂った姿を漫画に描き始める「お姉ちゃんは最高に面白いよ」

この凄まじい絶望感は何だ。始めに言っておくと読後感は最悪である。
自分を特別だと信じて疑わない澄伽の傲慢さは異常だった。
まるで自分は神に認められた人間と言わんばかりの異様な威張りを見せ、
家族や周囲を萎縮させている。しかし、そもそも彼女のこんな態度の始まりは、
兄が甘やかした結果であり、姉に怯える妹のせいでもあった。
妹・清深は、姉のその傲慢な狂乱ぶりを漫画にした。
それは自分自身のストレス発散のためであったが、いつの間にか世間一般に、
とにかく誰かに見て欲しいと言う欲求に変わったのだった。
そして運悪くその漫画は雑誌に載ってしまい、村中に知れ渡る。
そのために清深は姉の復讐に怯え、傷ついた澄伽を兄が慰めたのだ。
おまけに、両親が死んだ。
お陰で拍車がかかった澄伽の傲慢さは、誰にも止められなかった。
益々天狗になる澄伽、怯え続ける清深、家族を思うあまり追い詰められる兄、
巻き添えに合う不幸な兄妻。一人一人の負が合わさり、更なる負を呼び寄せる。
一人の人間のために狂い倒れる「腑抜けども」たち。
「悲しみの愛」を胸に抱きながら、それらが崩壊する時、
究極の「絶望」がやってくる。もう、何もないという「絶望」が。
語り口は劇作家と言う事で、とても的確・軽快だった。
巻末で高橋さんも言っているのだが、劇作家でありながら、小説家でもある、
と言うようなイメージを抱かせる絶妙な融合が心地よい。
さすがは体言止めなんかがないあたりが、劇作家ぽいかも知れないと思う。
迷い・中途半端な表現のない文章でよいのだが、
三人称の視点が時折おかしい。澄伽視点で描かれていたかと思えば、
途中から清深視点になっていたりする。しかしながら、全体視点と言うことで
もしや、それこそが劇っぽいのかしら?と思わなくもない。
まぁ取りあえず、最後の「絶望感」を味わってみるのもいいかも。
私も思い当たるところがあったので、にやりと笑ってしまいました。
あの時のどん底に落ちた感情をこう的確に書いてくれる作家も少ないでしょう。
少し残念なのが、ストーリーがあまり展開しない点で。

★★★☆☆*86

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