2008年1月21日 (月)

「失われた町」 三崎亜記

失われた町 失われた町

著者:三崎 亜記
販売元:集英社
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この本は、この分厚さに対し時間を裂いてまで読もうと思えない本でした。
いや、読みましたけど。短編でいいです。
理由は下に述べますが、ちょっと幻滅する本。
果たしてどれだけの人数の人が楽しいと思うのか、ある意味興味があります。

数十年前から、突如町が失われる、という現象が起きていた。
それは三十年に一度やって来て、町に住む人々を、一瞬にして消し去る。
しかしその一瞬を、町以外の人は知る事が出来ず、
その上、町内部にある映像器具全てが、その瞬間を映していないのだった。
そして一番の難点は、次の「消滅」に抗うため、
決して失われた人々を悲しんではいけない、という決まりだ。
「死」とは違い、突然失われるという不可解な現象は、
人々の心に深く刻み込み、しかし悲しむ事の出来ない
二重の苦しみを胸に彼らは「失われた町」を思い続ける。

つまらない、と第一声に出してしまう原因として、
読者が置いてきぼりである、という点が挙げられる。
もちろん、ついていける読者もいると思うが、
私を含め大部分の読者が置いてきぼりであろう。
と、言うのも、以前の「となり町戦争」を
読んだ事がある方ならおわかりいただけると思うが、
あの時主人公は、「こちら側」の人間だった。
そう、隣町と戦争をするという非現実的な事象に対し、
主人公は私たち読者と同じ目線で「え?隣町戦争?!」と、
驚き考える一般人だったのだ。しかし、今回はどうだろうか、
と見てみると、主人公(主要人物)は「あちら側」の人間である。
失われた町があり、それに対する捜査機関がある事を
全て知っている人物たちが、立ち回り、ぺらぺらと話を進めている。
そしてこの話には沢山の悲しみが出てくるのだが、
その悲しみという感情がどうも厄介で、全然読んでいても悲しくないのだ。
その理由は、読んでいる読者が「失われた町」に関わる人間に
成りきれていないからだろう。誰かに感情移入し、
「あの人が失われてしまったら!」と衝撃を読者に与えるためには、
いくつかの工程があると思う。少なくても登場人物の誰かに共感し、
失うという事がとても悲しい事だと植え付ける必要がある。
そして「こちら側」にいる読者を「あちら側」に連れて行かねばならない。
その経緯がすっ飛ばされて、「悲しい悲しい」と言っている
登場人物に私は逆に白けた感情が生まれてしまったのだった。
とにかく、時間がもったいなく感じた本だったので、お薦めしません。

★★☆☆☆*65

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2007年9月27日 (木)

「バスジャック」 三崎亜記

バスジャック バスジャック

著者:三崎 亜記
販売元:集英社
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おぉ、これはいいではありませんか。短編集です。
三崎さんらしく突っ走っていないのがいい(ほめているのか何なのか…
これは「となり町戦争」とはちょっと違った感じで読めると思います。
うん、なかなか。元々三崎さんの文章は好きなので、楽しく読めました。

「送りの夏」
麻美の母、晴美が突然いなくなったのは、夏休みに入ってすぐだった。
父と自分は母に捨てられたのだろうか…
そんな不安が過ぎり父に尋ねてみるのだが、
「大人の事情だから」と言って何も教えてはくれなかった。
しびれを切らした麻美は父の手帳を盗み見、母の住む新しい住所を目指す。
たどり着いた先、そこには何も語る事のない「人間」と暮す母がいた。

「送りの夏」これはまさに、三崎さんの奇抜な規律意識と、
現代人が好む描写、背景、などを兼ね備えた良い作品だった。
この本は短編集なので、三崎さんの突っ走り具合が良く分かる。
例えば「バスジャック」や「二階扉をつけてください」あたりは、
三崎さんの趣味丸出しである。勿論、悪くない。
傾向的には、一般常識とは掛け離れた奇抜な規律、指定、世界観、
を予め設定しておき、現代人(つまり読み手と共鳴する主人公)を
登場させる事により、その混乱や戸惑いの面白みを描いている。
それは裏側から見れば、どれを「一般常識」とするかは、
いつも不確かであり、ともすれば、こんな世界になることもあるのよ、
といった訴えがあり、それが滑稽、恐怖、畏怖を呼び起こし、
読み手に面白みを与えてくれるのである。
これはパターンが決まっているため、毎度こんな感じに話が進むなら、
マンネリ化し読む気力が失せるだろう。
だが、今回は「しあわせな光」「送りの夏」を見れば分かるように、
ちょっと違った領域に踏み込んでいるのが分かる。
背景や状況、混乱を楽しむのではなく、
感動し気持ちが揺れ動く様を描きつつ、少し変わった世界を見せる。
それは、そうであったらいいなという理想であったり、
こうはなりたくないなと思う嫌悪であったり、そこに加わる独特な感動が
最後にあぁ読んでよかったかも、と思わせてくれる一つでもあった。
なかなか。「となり町戦争」で挫折した方にお薦めです。

★★★★☆*88

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2007年7月13日 (金)

「となり町戦争」 三崎亜記

となり町戦争 (集英社文庫) となり町戦争 (集英社文庫)

著者:三崎 亜記
販売元:集英社
Amazon.co.jpで詳細を確認する


うーん、何とも言えない後味。あまり美味しくはないような。
確か三崎さんものむさんにお薦めしてもらったような…
もうしわけないです、文章はとっても読みやすいし、好みなんだけど。
でもなぁちょっと狙いすぎかな、と思わなくもない内容でした。

突如、僕の住む町は、となり町と戦争する事になった。
何の前触れもなく決まったそれは、ポストに入っていた
「広報まいさか」に、まるでイベントのひとつの様に書かれていた。
この町で戦争? 半信半疑のまま月日は経ち、開戦の期日を過ぎた。
しかし、町の様子はいつもと変わらない。
いつもののんびりとした風の装いで、温かな光を漏らしている。
これが戦争なのか? 僕が疑問を持ち始めた頃、役所から一通の手紙が来た。

まず、もっと驚くんじゃないだろうか、と思ったりした。
そもそも、この話の舞台になっている世界(とは言っても日本だけど)は、
今の人間の感覚と微妙にずれて描かれているのです。
もしも、実際にこんな風に「となり町と戦争をして復興しよう」なんて、
そんな案が出たとしたら、物凄い数のクレームや罵詈雑言が飛ぶでしょう。
でもこの話では、その部分がやんわりと割愛してあるのです。
戦争はもうすでに行うものとされていて、反対意見はむしろほぼいない。
そんな状況をこの敗戦国日本で作り出せるまでのプロセスが、
どうしても描く事が出来ず、曖昧な心持ちのまま進める事になりました。
一番の問題点は主人公の考えている事が分かりづらいと事にあると思う。
舞台は戦下中ですから、周りの人々は躍起になっている、
そんな姿を見て、我一人関せず、と言った具合に戦争に対し考えがない。
周囲が目まぐるしく動いているのに、取り残される主人公を見ていると、
同じように生きてきたはずなのに、一人自分は違うと言う立場を取れるのか
と疑問が湧きます。微妙なギャップが生じているのです。
まるで異世界にタイムスリップしてしまった様に描かれている、
というのがその原因で、先ほど言った「割愛」によって生まれたものです。
内容はといえば、戦争は見えないところで起こっているということ、
自分が生きるために誰かが犠牲になっていること、
戦死と殺人との区別で悩むべきこと、戦争は何か有益なものと引き換えに、
虚しいものをたっぷり残すこと…色々、色々描かれています。
何も戦争について考えていなかった主人公が、
間接的に戦争に関わる事で、徐々にその恐ろしさに気づいてゆく。
そこには非常のわくわく感もある。そのわくわく感もしまいには、
自分のために犠牲になった人の事を考え、自分を卑しく思い始める。
そんな様子が、的確に描かれているので、何だか主張しすぎな気もして、
狙ってる感が漂っているのですが、内容的にはとてもよいものかと思います。
そんなわけで、小説より舞台の方がよさそうだなぁと思いました。

★★★☆☆*84

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