2007年11月 1日 (木)

「まほろ駅前多田便利軒」 三浦しをん

まほろ駅前多田便利軒 まほろ駅前多田便利軒

著者:三浦 しをん
販売元:文藝春秋
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直木賞選考委員は、一体この作品の何を推して受賞させたのだろうか。
ふと、読み終わってそんな事を考えてしまった本だった。
「この作家の本領は、もっとちがうタイプの小説にあるのかもしれない。
思いがけない化けかたをする予感を信じて、(中略)一票を投じた。」
という五木寛之に同意したいような内容だった。

多田は、まほろ駅前で地域密着型の便利軒を営んでいる。
仕事は庭掃除から犬の飼い主探しまで幅広くこなす、
「便利軒」…言い換えれば「何でも屋」なのだった。
ある正月、一日のバスのダイヤを監視する仕事を終えた時、
多田はあまり再会したくない知人・行天に出会ってしまう。
行き場所のない行天を仕方なく住まわす事になり、
バツイチ男二人の、妙なでこぼこコンビが出来上がった。

言いたいことは分かるんだけど、と私は三浦さんの本を読んでいつも思う。
前回の「私が語りはじめた彼は」でも酷評しているけれど、
物語を展開するにおいての切り口が、適当な場所ではない気がするのだ。
今回もその類である。犬を飼えない経済状況の子供の心理や、
結婚する年になって、本当の親子ではないと知ってしまった男の心理など、
表したい事柄は良く分かるし、こんな心理を描こうという心意気は
好きだけれども、しかしきちんと描きたいのなら、そのことについての
描写は少なすぎるし、主人公との関係が浅すぎると思うのだ。
要するに漫画的なのである。色々な現実的な事柄を省略し、
主人公や登場人物の胸の中にしまい込み過ぎに思える。
だから、読み手が感動するようなシーンがうっすら通り抜けてゆくだけで、
核心の伝えたかっただろう物事が、見えないままになる。
そんな事を今回も「あーもったいないなぁ」と思いながら読んだ。
そして多田と行天のちぐはぐコンビは、漫画的で実在の姿を思い描けない。
話の内容はというと、「一度ダメになったものは元に戻らない」
という事をテーマに、割かししんみりとした雰囲気で描かれていた。
特に生々しく最後まで引っかかるのはやはり行天の切れてしまった指だった。
「一度死んだものを、繋げて生きるのはどんな気持ちなのだろう」
というような多田の心理の問いかけが出てくるのだが、
それが、多田の死んでしまった赤ん坊と、それに付随したいざこざ、
不仲になった夫婦関係など、全ての「生」を失ったものたちに掛かり、
仄暗い人間の感情を上手く描いていたと思う。
だけれども、その上手さを上記で打ち消しているとしか思えないのが難点。
結論を言うと、普通に読めば、普通に楽しい。
だけど、直木賞をとるほどかしら?と少し考えてしまうような本だった。
三浦さんはもっと違う才能があると思うんだけど……
だから、この本で受賞してしまうのは少し残念な気がするな、
と勝手な思いも生まれたりしました。失礼な話ですが。

★★★★☆*89

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2007年8月18日 (土)

「私が語りはじめた彼は」 三浦しをん

私が語りはじめた彼は 私が語りはじめた彼は

著者:三浦 しをん
販売元:新潮社
Amazon.co.jpで詳細を確認する


うーん…何が言いたいのかよく分からない本でした。
語る切り口や文体を変え頑張っているのは伝わってくるのですが、
何か根本的なところで表したいものが不明瞭な気がしました。
大勢の人間を狂わせた、ちっぽけな男…という設定にした方がよさそう。
連続短編集です。

「予言」
俺の知らないうちに、全ては決まっていた。
両親は離婚をし、父はこの家から去ってゆく。
そんな事実にうろたえる俺を、母と姉は静かにあざ笑っているようだった。
いつでも遊びに来ていいんだから、とそう言う父だが、
実際に足を運んでみると、そこは俺が足を踏み入れるべき場所ではなかった。
再婚相手の無愛想な女、連れの子供、もう戻らない父、
その全てが俺に最大級の嫌悪感を抱かせた。もう父と会うことはないだろう。

この本は一応一人の「川村」という男に振り回された人々が描かれている。
「予言」に出てくる「俺」は「川村」の息子であり、
父の身勝手さ、身内からさる川村の非道さなどを克明に語っている。
他の編も大体そんな感じで、例えば再婚先の娘であったりとか、
川村の弟子であったりとか、という視点から話は進んでいく。
しかし理解しがたいと言う点で問題なのは、あまりにも切り口が遠い事だ。
再婚先の娘の編では、主人公はその娘ではなく、
素行調査を依頼された、調査員の男の視点から描かれている。
勿論、話の中には、義父である川村も出てくるのだが、
ほとんど存在意義がないように思えるほどで、
果たして娘について語りたいのか、川村について語りたいのか、
不明瞭すぎて、全体がバラバラに見えてしまうのが残念だった。
そして「川村」という人物について、正直よく表現されていない。
これは先ほど挙げた、遠まわしすぎるのもあるのだが、
一体何を描きたいのか、例えば「身勝手な男ぶり」なのか、
「人がいいようで、実は腹黒い」なのか、そう言った所までが、
ぼんやりしてしまい、川村によって振り回された人々の怒りの矛先が、
イマイチはっきりせず、何が言いたいのかよく分からない。
どちらかといえば、個人的には川村が主人公の編はいらないように思う。
周りからもっと濃厚に川村の素行を描写してあげた方が、
面白みと、彼について言いたい事が具体的に伝わったのでは?と感じた。
タイトルが「私が語りはじめた彼は」ですからねぇ…ちょっと。
それにしても短いのに読み終えるのに物凄く時間が掛かった。

★★★☆☆*82

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2007年7月10日 (火)

「格闘する者に○」 三浦しをん

格闘する者に○ 格闘する者に○

著者:三浦 しをん
販売元:草思社
Amazon.co.jpで詳細を確認する


まったくの興味本意で、三浦さんのデビュー作を読んでみました。
一言目の感想は、「直木賞作家になるとは思えない」でした。
いや、とっても失礼な事を言っていますが、うーん…と唸りたくなる、
そんな作品だったのです。これが「風が強く吹いている」の作者かと、
そう思うと、頑張ったなぁというか、成長したなぁとか思ってしまいました。

くしくも私が生まれたのは政治家の家系であった。
母は他界し、義母と、血を半分分けた弟共に豪邸に住んでいる。
父はおらず、教育ママの義母の鋭い目が光るこの家で、
私はいかにして娘を演じるかを決めかねていた。
自分は政治家になるつもりはないし、確固たる目標もない。
強いて言うのならば、愛している漫画を読みつづけたいと願うだけ。
後継者争いが激化する中、私は就職活動に精を出すカクトウする者になった。

読み返すと赤面のデビュー作と言ったところではないだろうか、と思う。
一番最初に主人公が書いたとされる小説の走り書きがあるのだが、
それがどうにも後に生きてこない。何だか物語の盛り上がりが分からず、
落ちもないまま、ラストを迎え、何ともメリハリがない感じを受けた。
確かに、デビュー作。そんなイメージを受ける作品でした。
その中でも三浦さんらしい様子がうかがえたのは、やはり会話のシーン。
今まさに漫画を読んでいるような、と言うタッチで描かれており、
とても面白いし、キャラクターが活き活きしている。
しかしここにもなんだかなぁ、と思う点があり、
キャラクターの性格がはっきり描かれていない、と残念に感じる。
初めはおしとやかなのか?と感じるキャラクターが、
いつの間にか口うるさいキャラクターに変貌していたり、
主人公はこっそりオタクで地味女なのかと思いきや、煙草をスパスパ……
私だけなのか?わかりませんが、あまりのイメージの不一致に、
このキャラクターはどんな人間を想像して描いているのか分からず、
終始曖昧なまま丸め込まれた感がありました。
物語の最初よりも中盤から後半にかけて筆がこなれて来た感があり、
勢い余ってキャラクターのテンションもヒートアップ、という感じもし、
その上ラストが結局フリーターですか、という展開になり少しいただけない。
カクトウしただけで諦めてんじゃん、とかちょっと思ってしまいました。
色々書きましたが、妄想は面白かったかな。
「彼女を大切にした」男を殴りつける妄想なんかは、
あぁまさにオタクって感じがするな、と微笑ましい感じでした。
お薦めはしませんが、三浦さんの原点を知りたい方にはいいかも。
「まほろ駅前多田便利軒」読みたいな~予約待ち50人くらいです。涙

★★☆☆☆*76

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2007年6月 9日 (土)

「風が強く吹いている」 三浦しをん

風が強く吹いている 風が強く吹いている

著者:三浦 しをん
販売元:新潮社
Amazon.co.jpで詳細を確認する


いやぁ、面白かった。
雰囲気を一言で現すなら、陸上版「テニスの王子様」。
主人公は反抗的ではありませんが、周りのがやがや感がそんな感じです。
主人公は当たり前のように強く、最後は必ず勝つ。
目に見える結末を考えると、私は「一瞬の風になれ」の方が好きでした。

主人公・走は、高校の時に考え方の違いから監督と衝突し、
大騒動の末、陸上を辞める事を決意した。特待の話も蹴り、
活躍を期待していた両親からも逃げるように家を出て、無名の大学に入学をする。
ひょんなことから転がり込んだ竹青荘で、走は賑やかな9人に出会った。
走を合わせて10人……。今までの辛かった記憶を消し去り、
陸上を忘れようとする最中、荘の長である灰二が驚きの提案をした。
箱根駅伝に挑戦する。ろくに走った経験も無い人間ばかりのこのメンバーで?
揺れ動くそれぞれの思いを胸に、今「走り」をかけた、熱いドラマが始まる。

一言目の感想は漫画的。勿論面白い。
10人以上もキャラクターが出てくるにも拘らず、
それぞれの個性が出ており、読み返す必要が無いと思うほど。
登場人物の大半が男なのですが、あぁ三浦さんて男の子書くの好きなんだな、
と思えるほど、キャラクターが生き生きしている。
話としては、ボロアパートの住人10人で、箱根駅伝に出てみましょう。
と言う話。現実的に考えると、かなり無理臭いです。
しかもシード権取っちゃうし……と言う、奇想天外な展開を見せるのですが、
そこに上り詰めていくまでのドラマが、読者の評価が高い理由だと思う。
だって10人いますからね、色々あるわけです。
それをきっちり書いてくれているので、それぞれが走っている時、
思わず頑張れと応援したくなるのです。
ただし、それ以外の部分はどうかと言うと、少し残念な部分はあります。
10人もいるから、辛い部分は10それぞれが分担しています。
そして巧みに10の心情を描いてくれちゃっているので、
主人公の心情価値がかなり下がっているように思うのです。
いや、10人皆が主人公だから、問題ないわ、と言われればそれまでですが、
いかんせん、主人公が殆ど挫折しない。焦っているところは出てきますが、
それは皆焦るものですから問題にならないとおもいます。
あと故障しない。一年だけのドラマと言うリスクだというのもあるし、
故障と言うものの大変さは全て灰二が担っていて、リアリティが無い。
10人もいたら、絶対数人は肉離れを経験するはず。ましてや素人だし。
あと、走っている時、色々考えすぎている。
これは小説だから仕方が無いのかもしれませんが、
走っている時って、そんな事考えていないと思うのです。いわゆる邪念。
ランナーズハイになった時「あぁ気持ちい」と思うくらいで、
後は前の選手の背中をひたすら集中する事くらいしか。
あと、監督はきちんと計算してから選手にあと10秒早くと言います。
必死に走っている人間はそんな細かい計算は頭に入りません。
そんな事をうじうじ考えていたら、あぁちょっと漫画的だなぁと思いました。
リアリティは佐藤多佳子さんの「一瞬の風になれ」で、
人間ドラマはこの「強い風が吹いている」で味わってはいかがでしょう。
「陸上は個人競技だが、陸上部は団体競技だ」と言った、
私の恩師の言葉を思い出す本でした。泣けはしないけど、楽しい本です。

★★★★☆*92

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