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2012年3月25日 (日)

「ふじこさん」 大島真寿美

久しぶりに大島さんを読んだ。単に文庫コーナーに並んでいたので、
たまたま手に取ったのだけれども、やっぱり輝きが違うなあと思った。
いつしか角田光代のような存在になってくれるだろう、なんて期待を
存分に持ちながら、次回作を楽しみにしている。わたしのための、宝物。

離婚寸前の両親の間で自分がモノのように取り合いされることに
うんざりしている小学生のリサ。別居中の父が住むマンションの
最上階から下をのぞき、子供の自殺について考えをめぐらせる
ことがもっぱらの趣味。ある日きまぐれに父の部屋を訪れると
見覚えのない若い女の人が出迎えてくれて…。ほか二編。
(Amazonより)

一番最初に読んだ大島さんの本はなんだったか。「ほどけるとける」
だったか、「戦友の恋」だったか。この本を読んで改めて感じたことだが、
大島さんの本は、「欠けた」ものしか登場しない。そしてその欠けた
ものを気づかないように努める姿をとてもうまく描く作家である。
今回3編入った中の「ふじこさん」はとくにそれを上手く捉えていて、
なぜだか分からない心惹かれたものが、後になって自分の宝物であった
と気づく話だ。渦中にいる、ぐちゃぐちゃした感情に飲まれて、
本当に救われている部分に気づけないでいる。しかし、気づけないで
いたと分かることすらも、「いつしか浮上してきた私」というところに
立たないと実感を得ることができないという。でも、本当にそうなのか、
というと、それは自分の中の問題なのであって、その「渦中」が過ぎ
去るのは、今日かもしれなく、明日かもしれなく、そして、主人公の
ように椅子が届いたときであるかもしれないのだ。もう過ぎ去った
ときに、そこにその人がいなかったら、いまの自分が保てないような
不安と有り難さを感じるそれこそが宝物といえる代物なのだ。
と教えてもらった本だった。死にたがり。一度くらいは、水中を浮上し
水面に顔を上げるみたいに「やったー」と健やかな喜びを人生で
感じてみたいものである。

★★★★☆*90

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