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2011年3月 6日 (日)

「田舎の紳士服店のモデルの妻」 宮下奈都

田舎の紳士服店のモデルの妻 田舎の紳士服店のモデルの妻

著者:宮下 奈都
販売元:文藝春秋
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東京生まれの東京育ちの子ありで、結婚と共に夫の田舎に行かなくては
いけなかったような、40代女性が読んだら、それだけで何かの共感を得る
だろう。しかし残念ながらわたしは田舎生まれの田舎育ちであった。
高校の最寄駅は徒歩20分だったし、実家からJRの最寄駅は自転車で32分かかる。

夫がうつ病になったため、梨々子は夫の実家のある田舎に引っ越すことになった。
東京で生まれ、東京で育ち、これからも東京で暮らしてゆくと思っていた
梨々子にとっては青天の霹靂だった。幼稚園のお受験や、保育園でのママと
の交流。それからこれからも続くであろう都会でのファッショナブルな暮らし。
それらは呆気ないほど簡単に消え去り、梨々子を田舎へとおしやった。
海もなく山もない、何の特徴も取り得もない夫の田舎。そのうえ知人は
誰一人いない。友人だと思っていた保育園のママ友たちも、本当の意味では
友だちではなかったと知ってしまった。子育てに加え、今までの生活
とのギャップに苦しむ梨々子は、東京での餞別に貰った十年日記に、
それらを書き付けることにした。そんなある日夫が商店街の紳士服店の
チラシのモデルになると報告を受けるのだが……。

上にも書いたが、わたしは田舎生まれの田舎育ちなので、この主人公の
気持ちがある意味でとてもよくわかった。なぜなら、わたしはそこが
嫌だから今東京に住んでいるからだ。でも、また違った意味で、悲しさを
覚える。田舎には、東京に住んだことのない人がたくさんいる。
ましてや、東京に行ったことさえない人もたくさんいる。そういう人たちを、
この主人公は無意識に卑下し、蔑んでいるからだ。なんだか妙に腹が
たって、作者を調べてみたら、宮下さんは福井県の人だった。福井……?、
ごめんなさい、日本地図のどのへんかわからないや……。ということは、
この主人公は宮下さん自身ではなくて、宮下さんの作り出した、
「都会人らしき人」なんだな、と頷いて、わたしは自分を納得させた。
そう考えたら、宮下さんの書いた主人公の女性「都会人らしき人」は、
ある意味人物像として成功していたように思う。きっと都会で育った人は、
自転車で32分もこがないとつかないJR駅を利用するなんて考えただけで
眩暈がするだろうし、「最寄り駅から徒歩20分」を売り文句にしている
高校の宣伝を見ただけで、唖然とするだろう。そして頑張って納得しようと
頑張る。わたしが今作者が福井出身だと知って納得したように、10年かけて、
田舎とは、人生とは、こういうものだ、と納得するのである。残念だったのは、
その納得の仕方が、やはり東京を羨望、あるいは比較していることだった。
人間は生きていればどこにいても同じである。ただこころの中で、
どれだけ幸せであるか、の度合いで決まる、それがいまいち伝わってこず、
ただの主婦の愚痴日誌のような感じになってしまっているように思える。
せっかく『田舎の紳士服店のモデルの妻』なんていうキャッチーな
タイトルなのだから、もっと田舎臭さを全力で存分に出して欲しかったし、
もっと人の服装や考え方や行動のダサさを強調して欲しかった。なぜなら、
それが「田舎」の最大の魅力だからだ。これ以上この上ない魅力だからだ。
銀行と病院とパン屋と豆腐屋、それから美容室と肉屋しか開いていない
商店街とかさ。写真屋のタイル貼りの加減とかさ。ヘルメット被った
学生たちとかさ、丈の長いスカートとかさ。そういうの。それらがまったく
なくて、残念だった。わたしの実家の商店街にも「紳士服店」はある。
ダサくてダサくて、入るのも恥ずかしい。でも、そこがわたしの生まれ
育った場所である。最後の章はよかったんだけどなぁ、もっともっと、
ダサさが欲しかった。底抜けの、止めてくれよって言う恥ずかしさ。
そうそう、少し前まで、うちの実家の最寄駅からは東京へ行く切符が
買えなかった。自動券売機に1000円札しか入れられない上に、840円まで
しかボタンがなかった。東京へ行くには1000円以上かかる。この町を
出るなというのか? でも最近はパスモが使えるらしい。改札はないけど。

★★★☆☆*83

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コメント

宮下さん、最近結構好きな作家の一人。
個人的に「よろこびの歌」「メロディ・フェア」「スコーレNO.4」がお薦め。

アンソロジーで読んだのが初めてだったけど、その時は全然印象に残らなかったのよね(笑)
東京行きの切符、こちらは昔、窓口でしか買えなかったよ。そして私が高校生の頃まで自動改札じゃなかった・・・。

ぜひるいちゃんの小説の中で、田舎の現状を書いていただいて(笑)多分めちゃくちゃ共感しながら読める気がするよ。

投稿: すきま風 | 2011年3月14日 (月) 08:44

>すーちゃん

宮下さん、山﨑マキコさんみたいな雰囲気を感じたよ。
この人ももう少し読んでみようかと思って、
「スコーレNO.4」予約したところ。
楽しみ~♪

うちは今も窓口でしか買えないよ(笑)
自動改札もないよ(笑)
つくづく田舎だなぁ、と思う今日この頃。

震災でガソリンが買えないからスーパーまで自転車で
行かなくちゃいけなくて、大変らしいよ。
食料もないみたいだし、そちらも大変だよね。

そうそう、なんかさ田舎が舞台の小説ってあんまりないよねぇ。
特に栃木・茨城あたりの。
坂東さんとかは四国だし、伊坂さんは仙台だし、豊島さんは秋田だし。
地元密着型みたいな感じで書いた方が、
読んでくれる地元の人が共感してくれそうだよね。

投稿: るい | 2011年3月15日 (火) 14:02

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