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2011年3月26日 (土)

■雑談:校庭の空よりも高いもの

今日は久しく会っていなくて会いたかった人、ベスト3に入る1人に会った。
軽く2年は会っておらず、その間まったく連絡を取っていなかった。
喧嘩をしたのである。

いや、喧嘩にも及ばなかったから、会わなくなったのだろう。
ともかく、あの頃のわたしは彼女から逃げていた。
いつ彼女のことを嫌いになったのかわからなかったが、
会うたびに、じわじわ、じわじわと彼女が嫌いになっていった。

会うたびに、なんて言うが、彼女は幼なじみと言っていいほど、
昔から知っている友だちだった。
今までもいつだって一緒にいたし、いつだってそばにいた。

それが就職という言葉を境にして、わたしと彼女は遠ざかっていった。
きっと、わたしが遠ざけていたのだろう。
彼女はいわゆる「作る仕事」をする職業を選んだ。豪快に。
そして彼女は忙しかった。

その時わたしはまだ大学生で、
しかも会社員で、アルバイトで、パートだった。
どれも生産性のまったくない「作らない仕事」だった。
そしてお金がながなくて、死にそうだった。
でも、死にそうって誰にも言えなくて、
彼女になら相談できるかもしれないと思っていた。

賭けてもいいが、あの時彼女よりもわたしの方が忙しく時間がなかった。
それなのに、彼女は遅刻した。何度も何度も遅刻し、
しまいには謝らなくなった。忙しいから、仕方ないと言った。

就職した彼女は、ちょっと気取った女になった。
「作る仕事」をしている人間の、自信あるあの表情である。
彼女はわたしに会うと、その表情をして、
今の仕事がいかに忙しくて辛くてどうしようもないか、を楽しそうに語った。

わたしは相談できなかった。
どう見積もっても共感を得られるなんて思えなかった。
そう思ってしまった。
それから、わたしは彼女に会うのが嫌になった。
「作る仕事」をしている人間の、自信あるあの表情を見たくなかったのである。
まったくもって生産性のない毎日をおくる自分が惨めだったから。
わたしは彼女の誘いを拒否し続け、気づいたら2年が経っていた。

今日新宿駅であった彼女は、わたしの顔を見て、
「元気そうでよかった」と第一声に言った。
わたしは今、元気ではない。
微笑み返したわたしは自分が上手く笑えているのか、不安だった。
「元気じゃないよ」と嫌味っぽく言い返しそうな嫌な感情すら芽生えた。

しかし、帰り際になって、
「元気そうでよかった」の前には、
「わたしが思っていたよりも、」とついていたのだろうと、わかった。

話した内容は、どうでもよいことばかりだった。
ただ2年前と同じ、どこにでもあるような女の悩みと、
どこにでもあるような世間話をして、服屋とCD屋と本屋をうろついた。
何も2年前と変わっていないように思えた。

ただ変わったのは、わたしの幼く窮屈だったこころだけである。
ただそれだけのために、もう何年も共にしてきた親友を、
わたしと彼女はなくすところだったのである。

ごめんなさい。
ともう少しで言ってしまいそうだったが、止めた。
その言葉は、もっと大切なときにとっておこうと思った。

ありがとう。
今日は、そう伝えられてよかった。

今日朝起きた時、なんだか突然パパパッって電光石火みたいに、
記憶の写真が飛び出してきて、彼女に初めて会った日のことを思い出した。
わたしは「ねぇ、ゆえちゃん」と、彼女を呼んだ。

自転車の停められた、天気のいい空の高い校庭の片隅で、
振り返り、「『ゆえ』じゃないって言ってるでしょ」と彼女は怒った。
まるでそれは昨日のようで、でもずっとずっと昔のことで、
自分は中学生のようで、頭の中がぐるぐるして、おかしかった。
わたしは、あはははって、ひとり部屋で笑って、泣いた。

会えてよかったな、今日。

いつも来てくださり、どうもありがとうございます。

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