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2011年2月28日 (月)

「借金取りの王子」 垣根涼介

借金取りの王子 借金取りの王子

著者:垣根 涼介
販売元:新潮社
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まさかこのタイプの話で泣かされるとは……。わたしも相当弱って
いるのか。いや、そもそも社会の八割以上がサラリーマンの世の中で、
今までこのタイプの話がなかったからなのか。容赦のない切捨て。
しかしよく考えてみる。そこが本当に自分を一番生かせる職場なのかと。

「借金取りの王子」
ヒューマンリアクト(株)に勤める真介の仕事は、社員の首を切る
ことである。大きな会社の人員削減に伴い、必要のなくなる人間を
面接し、辞職を促すことを請け負っている。他会社から見た方が、
その人間のことがよく分かり平等になるし、クビを切る方もまた、
気負いがなくなってよい。今日、真介が面接をするのは、顔立ちの
整った美男子だった。消費者金融会社の支店長だという。この優男が、
あの暴力団並の気合を強いられる消費者金融の支店長……?いかにも
気弱そうな彼はモデルにでもなった方がよさそうだった。真介は、
会社は人員を削減したがっており、あなたがその候補であること・
会社は退職に対しかなりの優遇をする事を説明した。それと同時に、
真介は私的な感情さえ交え、もっと向いている職業が
あるのではないか、と強く勧めた。しかし、彼は曖昧な返事をし、
退職を拒んだ。暴力団並の過酷な職――彼は一体何に迷っているというのか。

連続短編集である。表題作もよかったが、わたしは「女難の相」が
一番好きだった。爽快で爽快で、主人公の男のように晴れやかな
気分になった。通称「クビ切り面接」でうろたえる被面接者たち。
自分がリストラ候補に上がったことでまずポテンシャルは落ちているし
その上、この先のことを考えるとお先が真っ暗になる。「女難の相」
では、その上「女性恐怖症」などという厄介な悩みさえあり、
もう「どうしようどうしよう」の連続である。「仕事を続けるべきか」
「続ける気力をこの職場で引き出せるか」「仕事を辞めるべきか」
「でも辞めたらどうするのか」ぐるぐるぐるぐる頭を駆け巡る。
しかし、とある変人にたった一言言われ、我に返る。
「大丈夫ですよ、死ぬわけじゃないんだから」そうなのだ、仕事を
やめたって死ぬわけではない。仕事を辞めて少しの間家でごろごろして
いたって、いつかはどうにかなるのである。至極当たり前のことなのだが、
ぐるぐる悩み続けている中、その一言は「パッ」と視界がひらける
ような爽快感があった。「なーんだ、そっか、そっか。辞めちゃえ」
みたいな。もちろん必ずしも辞めることがいいことではない。しかし、
人には向き不向きと言うものがあり、だから、「リストラ候補」に
入るということは、きっと「向いていない」のである。だから、
これを機に新たな第一歩を進めてみる。それも悪くないよな、と、
うじうじ悩んでいるよりも、と思った1冊だった。ちなみに
「借金取りの王子」は泣いた。こんなダメ男になぜ泣いているのか
分からないけれど、読みながら泣いていた。「バカだなぁ、お前」
って背中を叩いてやりたくなる王子のような人間がわたしはとても
好きである。最近仕事を辞めたとある人にこの本を読んでもらいたい。

★★★★★*91

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コメント

垣根さんのこの「君たちに明日はない」シリーズはヤバい。初めて読んで、仕事に対する概念っていうか、そういうものを改めて考えさせられた。
転職する前にぜひ読みたかったと思ったくらい。
他の作品がハードボイルドなやつばっかりだから、私もこの作品で泣かされてびっくりした(笑)
シリーズものだけど、連作短編だからぜひ他のも読んでみて!お薦め!

投稿: すきま風 | 2011年3月14日 (月) 08:37

>すーちゃん

そうなんだ~。
まぁ、大体転職したって生きてはいけるだろう、
って思うけど、なかなか踏ん切りつかないから、
この本すごくスッキリした気分になってよかったよね。
わたしも泣かされてびっくりした(笑)

垣根さんいいかも~と思って、
今「ヒートアイランド」読んでいるんだけど、ちょっと微妙。
とりあえずは、「君たちに明日はない」シリーズ読もうかな。

投稿: るい | 2011年3月15日 (火) 13:56

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