« 【漫画】「ソラニン」 浅野いにお | トップページ | ■雑談:いいこと »

2011年2月23日 (水)

「葛橋」 坂東眞砂子

葛橋 (角川文庫) 葛橋 (角川文庫)

著者:坂東 真砂子
販売元:角川書店
Amazon.co.jpで詳細を確認する


「霊力に魅せられた女」というのが、坂東さんという人のわたしの勝手な
イメージである。あの荒野さんの「切羽へ」で感じたような、地元の空気が
べっとりまとわりつく感じ。その究極系が、坂東さんである。何せ、
坂東さんの世界には神がいるのだ。日本人がなぜか崇めたてるその土地の神が。

「恵比須」
サラリーマンを辞めた夫に連れられ、漁師の町へやってきた私は、
毎日平坦な生活を送っていた。毎朝2時に起床し、夫の朝食を作る。
体の悪い姑夫婦の面倒を見、2人の子どもを送り出す。そして、ようやく
私はパートに出かけ、へとへとになり帰宅したら、また夕飯の準備がまっている。
私はパートに行く途中、海辺を歩いている時だけが、自分の自由な時間で
あるような気がするのだった。ある日、パートに行こうと海辺を歩いていると、
奇妙な物体を見つけた、白っぽく濁ったその塊は、私の興味を引き立てた。
気になって持ち帰ったが、ひょんなことから、それが鯨の糞であり、
とても高価な物であると知った。どうやら五千万円にもなるらしい。
家族中大騒ぎになり、そして噂は狭い町にすぐに広がった。わたしは
他人に取られる前に早くこの物体を金にしてしまおうと考え、高知市の
骨董品屋へ向かうのだが……。

何か悪いことが起きると「祟りだ」と言う。神は自分たちの周りにそっと
おらせられ、見守って下さっている。なぜだか知らないが、そう染み付いた
日本人の精神を、坂東さんは怖ろしいほど上手く描く。土地に染みつく、
不穏な空気。たまたま起きた悪事も、そこに言い伝えられた逸話に結び
つけられ、まるであたかも神の逆鱗に触れた、というような「怯え」を
起こさせる巧みな技だ。技、というよりも、見えない「神」という存在に
縋る人間の醜い心なのかもしれないけれど。「恵比須」では、短大の同級生の
豪勢な暮らしぶりと、平坦で単調な自分の暮らしを比べ、「私」は、
つい心を許してしまう。自分の見つけた貴重な品物で、少し高い服を買う
ことを。家族に内緒で、豪華な食事をすることを。しかし、そうした「私」
の元に入るのは、漁師である夫の訃報である。嵐になり、船が座礁したらしい。
帰りを待っている間、生きているのか、死んでいるのか、というそれよりも、
こんなことが起きたのは、自分が家族に内緒で、金を使おうなどと強欲が
働いたからに違いない、と思ってしまう。この何者かに戒められている、
不穏で、強靭な力が、何度読んでも、「さすが」としか言いようのない
圧力でのしかかってくるのだった。逆に言うと、その「神の力」以外を
描いた本を読んだことがないのだけども……。しかしながら、この陰鬱で、
ねばっこくて、じっとりと、体にまとわりつく空気は、もはや坂東さんの
専売特許だよな、とか思いつつ。そう思うと前回読んだ『死国』は、
もう少しひねったらいいものが出来たのではないか、と思わなくも。
この文章で「リング」とか「学校の怪談」とか書かれたら、
怖くて夜眠れなくなりますね、絶対。でも、坂東さんは自然系が多い。
雑木林を歩いていると、そっと背筋を撫でられるような、濃密な、
文章から滲み出る霊の力をぜひ味わっていただきたい。悪いことはできない。

★★★★☆*86

|

« 【漫画】「ソラニン」 浅野いにお | トップページ | ■雑談:いいこと »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/126354/39017831

この記事へのトラックバック一覧です: 「葛橋」 坂東眞砂子:

« 【漫画】「ソラニン」 浅野いにお | トップページ | ■雑談:いいこと »