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2011年1月11日 (火)

「13階段」 高野和明

13階段 (講談社文庫) 13階段 (講談社文庫)

著者:高野 和明
販売元:講談社
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高野さん3冊目。どれも面白い。「平明で温厚」な文章が心地よく、
なんとも病みつきになりそうだ。だけどあんまり作品がないので、
読むのがもったいなくてしかたがない。この本は、江戸川乱歩賞である。
こんな作品出されたら、他に誰が受賞するの?って感じ。満場一致

また一人、冤罪人に死刑が言い渡されようとしていた。死刑囚の名は、
樹原亮。彼は以前強盗の現行犯で逮捕され、仮釈放されていた。
仮釈放の期間中は、保護司と呼ばれる人間に定期的に会う事を
義務付けられている。樹原はその保護司とその妻を斧などで惨殺し、
現金、通帳、印鑑などのを盗み逃走した。ところが逃走中、
急カーブを曲がりきれずに転倒。そのまま気を失い倒れているところを
保護司の娘夫婦たちに発見された。樹原は、強盗殺人の容疑が
かけられ、凄惨な殺害方法は非道極まりない犯行と判断されたため、
死刑を求刑されたところだった。しかし、一つ問題があった。樹原は、
バイクで転倒した際頭部を打ち、犯行当時の記憶をまったく憶えて
いないのであった。刑務官・南郷は、疑問と冤罪を晴らすべく、
秘密裏に調査を始めることにした。助手には傷害致死で殺人罪に問われ、
仮釈放中の三上という青年を雇った。2人は果たして冤罪人を
救うことは出来るのか。

法学部で習うのは、まさにこの部分である。法律の抜け穴。
法律の杜撰さ。法律の非道さ。法律への疑問。人間が人間を裁くという、
神をも超える行為への疑念。この本はその堅苦しく出来たら避けて
通りたいすべてを、とても分かりやすく物語りにしてくれている。
今回の一番の争点は、本当はやっていないのに無実の罪を着せられて、
処刑されてしまう「冤罪」という事柄と、「改悛の情」と呼ばれる、
一度犯行を犯した者が反省し慎ましく世の中を生きられる人間に
更正できたかの度合いについてである。特に「改悛の情」については、
読んでみれば分かるが大変不明確で唖然とする事実がある。他人が、
どれだけ反省し更生できたかの度合いなど、何かで測れるわけでは
ないということだ。しかし、彼らの肩には死ぬか死なないか、という、
生命の危機が圧し掛かっているから、何らかの手段で取り決めなければ
ならず、それは勿論人の手によって判断されているのである。
人が人を処刑するのは、人殺しではないのか? 国が殺すのだから、
殺人罪ではないが、しかし、実際に死刑囚の首を絞めるのは、
人間の手でかけたロープであり、人間の押した床の降下ボタンである。
そのできたらうやむやにしてしまいたい部分には、実行する人間の
苦悩が詰まっているのだ、と苦々しい気分を味わった。特に、
暴れまわる死刑囚を取り押さえ、縄にかけるときの御経が響き渡る様子
を克明に思い描いてしまい、なんとも滑稽な様に不謹慎にも笑って
しまいそうだった。笑ってしまうほど馬鹿げた取り決めであると同時に、
人の命を懸けた笑えない現実だった。そう言えば、この間死刑場が、
初めてマスコミに公開され、テレビでその光景を見た。色が統一され、
無機質な印象のそれを見ても、なんの感情も得なかったが、
実際に実行する人間となったとしたら、震え上がるほどの恐怖を感じる
だろう、とこの本を読んで思った。最後、他人の冤罪を晴らすために、
駆けずり回った仮釈放中の好青年三上は、だけど「改悛」しない。
三上が殺してしまった男は、自分で転倒し死んでしまったが、
実際は三上が殺したくてたまらない人間だった。残された周りの人間に
申し訳ないという気持ちが生まれても、あの男を殺さないという
選択肢は、三上には存在しえないと結論づいている。その理由を見ると、
読者であっても三上のような猟奇的な気分になり得そうな気もし、
またここまで続いていた論争の結論を、まんまとひっくり返す構図
ともなっていて感慨深かった。それにしても、終始ノンストップ。
最高潮に暗い話題の上に、ギャグを交えるわけにはいかないこの
縛りの多い法律の世界を、よくぞこんなに心に響く形で書いてくれました
と言う感じ。しかもデビュー作。この本が受賞しなくて、何がするのか。
それにしても作品が少ないのですよね……もっと読みたいなぁ。
一読の価値大いにあり。1月からトップテン入り間違いなしの本だな。

★★★★★*95

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