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2010年9月27日 (月)

「悲しみよこんにちは」 フランソワーズ・サガン

悲しみよこんにちは (新潮文庫) 悲しみよこんにちは (新潮文庫)

著者:フランソワーズ サガン
販売元:新潮社
発売日:2008/12/20
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某人がサガンをお読みになっていたので、どれどれと興味引かれました。
たぶんサガンは読んだことないなと思い、図書館でタイトルを
眺めていたらどれも聞いたことがありました。映画化か何かでしょうかね
読んだら物語も知っていた気がして、昔読んだかもなぁ、と思いました。

十八歳のわたしは、プレイボーイである父、それからエルザと共に、
海辺の別荘で一夏を過ごすことになった。エルザは、母が亡くなってから
現れた、父の何人目かの若い恋人である。わたしは優しくて陽気な
エルザの参加を歓迎していた。自由の象徴である別荘で、
海を眺めながら大好きな父と過ごせることは、この上ない幸せである。
そんな楽しい日々が何日か過ぎた頃、父はとんでもないことを言いだした。
このヴァカンスに、もう一人の恋人・アンヌを呼ぶというのである。
アンヌは以前都会で身寄りのないわたしを育ててくれたこともある、
母親のような親密さをもつ女性である。厳格なアンヌは、わたしや父の
破天荒な遊びを静かに咎めるような雰囲気のある女性でもあった。また、
若い恋人・エルザの存在も問題である。わたしはせっかくのヴァカンスが
アンヌによって脅かされるのではないか、と気に病み始めるのだが……。

一番驚くべきことは、やはりこの小説が18歳の少女によって書かれて
いるということだろう。日本でこの年齢でこんなに深みのある恋愛小説を
描ける作家はいるだろうか。ふと思いついたのは、島本理生の
『ナラタージュ』だったが、確かあれは22歳とかだったので、
この4歳の差は大きいだろう。この本では、18歳の淡い恋心と、
熟年の恋愛とが複雑、かつ単純に描かれている。どちらかの恋愛が
成就すれば、もう片方が成就しない。「大人になればわかる」
と言いかざす年長のアンヌに対し、セシルは言いなりになっている
ような気がして、納得することが出来ない。同じ女としての悦びを
知っているだけに、自分だけいい思いをして、相手に禁止を求める
アンヌをよく思えないのだ。恋愛とは恐ろしいもので、「欲しい」と
思い始めると、我慢することが難しい。欲しい欲しいと思うあまり、
アンヌの全てが悪人のように見え、しかし違う、と打ち消し、
いや、でもおかしい、と思い悩む少女(から女になるセシル)の、
心理描写がとても生々しくリアルで、圧巻だった。というような経験を、
日本の子どもは経験できる機会が極めて少ないのだろうな、と。
フランスの小説、映画などで思うのは、陽気な人物・性格・物語
思考の合間には、言いえぬ残酷さが漂っていることである。
もちろん、日本の風土にも、そのような残酷さがあるのだろうが、
それを上手く汲み取っている作品はとても少ない。
(ここで言う日本の残酷さは、山﨑豊子や松本清張などが見せる、
女と男の蹴落としの縦社会でや、仕事ばかりする人種の虚しさと言う点)
その一つに、セシルたちが一体何日間海にいるのか考えて欲しい。
飯を食い・海に潜り、寝るばかりである。仕事もせず、まるで生産的な
ことをしない。これは老後の退屈さ並の間延びである。
(……と、それもわたしが日本人であるから、なのかもしれないのだが)
その間、彼らはずっと相手の異性を取り合う事を考えているのだ。
早く街に帰れよ、と思う。火花をバチバチさせながら、何もない
海で過ごすくらいなら、街に帰ったほうがどんなにマシだろう。
でも彼らは帰らない。そういう民族であるからか。それとも、
その睨み合う関係を楽しんでいるからか。極めつけの残酷な
ラストシーンは、このような長い長い苦悶の末、更に効力を発揮する
巧みな配置になっている。フランスものは間延びする物語が多い。
わたしは嫌いではないが、実際にフランスに行ったとしたらその慣習
に馴染めるかどうか、とても不安に思う。まぁ行かないんだけど。
サガンいろいろ読んでみようと思う。とてもいい時間だった。

★★★★☆*89

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