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2010年9月26日 (日)

「黒革の手帖 上」 松本清張

黒革の手帖〈上〉 (新潮文庫) 黒革の手帖〈上〉 (新潮文庫)

著者:松本 清張
販売元:新潮社
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最近何回か読みかけて放棄した記憶があるが、松本清張自体が高校生ぶり
だったと思う。とても懐かしく読んだ。やっぱりすごいなぁ、という感嘆が
まず。なんなんだろう、この圧倒的な感じ。それは山崎豊子を読んでいる
ときにも思うことなのだけれど。真の小説家とは、まさにこのことだと。

銀行に勤めて十数年。お局扱いを受け苛立ちを抱え始めていた元子は、
銀座のママになることを決意した。店を開くためには多額の金が必要である。
銀行では、高所得者の隠し口座の開設を頻繁に行っている。元子は銀行の
杜撰な管理を逆手に取り、そこから七千五百万円を見事に横領した。
店を開いた後、横領が発覚したが、元子は愛用の黒革の手帖にしたためていた
杜撰な管理の証拠を差出し、一円も返す事無く事件を隠蔽した。
フランス語で手帖―カルネと名づけた銀座の店は、段々に繁盛店になった。
中でも美人の評判の波子のお陰で、客層も上々である。しかし、波子は
自分の人気が高ぶるにつれ、客である産婦人科医・楢林に入れ込み始めた。
挙句の果てに楢林の金で、自分の店を出すと言う。元子は、
笑顔でその報告を歓迎するのだが……。

何がすごいって、やはりページを繰る手が止まらなくなる事である。
あらすじでも分かるとおり、この主人公・元子はかなりの怖い女、である。
そして、賢い。しかし元子の周りには、元子に輪をかけて怖い人間ばかり
なのだ。銀座のパブという場所柄、酒を飲み女を侍らせる男たち。
へらへらと笑い、性に溺れながらも、その根底には金がうようよと
蠢いている。たった一言の合図で、何千万もの金が動く。男と女の
情の合間に見え隠れする、本心と外面のやりとりが見事だった。
特にその翻り方がとてもあざとい。今回は女の世界を描いているだけ
あって、ぬめぬめとした粘着性をより感じた気がした。上巻後半から、
元子は新に店をでかくしようと多方面に探りを入れ始める。その
危険な会話のやりとりがまた、そわそわし、とても気になってしまい、
なかなか手を止めることができないのだった。松本清張を改めて読んで、
ふと山崎豊子の文脈を思い出した。2人には似通った性質があると思う。
山崎豊子は男の社会を描き、一方で松本清張は女の世界を描く。
どちらもさもあらん、といった完璧なディテールで、これこそ、
異性の性質をも知り尽くしたストーリーテラーなのだろうな、と思う。
今更、なんだけれども。最近ふと、外国人の人に、日本の小説を薦めると
したら、どんなものがいいのだろうか、と思った。あるいは、この作家は
外国の作家で言う、どの作家なのだろうかと。ぜんぜん話がそれてしまったが、
下巻も手元にあるので、早速読もうと思う。

★★★★☆*87

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