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2010年7月 7日 (水)

「かけら」 青山七恵

かけら かけら

著者:青山 七恵
販売元:新潮社
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青山さん3冊目?かな。地味だけどとてもいい文章。この本は
川端康成文学賞を受賞した作品だが、なるほど透明感があって
とても納得した。短編集なので他の作品も入っているが、
ダントツに表題作がよい。虎視眈々と、という言葉がなぜかよく似合う。

「かけら」
ひょんなことから父と二人きりでさくらんぼ狩りに出かけることに
なった。とりわけ仲のよいわけではない父とわたしは、普段二人きり
になることなどない。その上無口な父とどのような会話をすべきなのか
まったく思い浮かばないのだった。一抹の不安を抱えながら参加した
さくらんぼ狩りでは案の定会話が弾まなかった。気まずい雰囲気が
流れるが、ある時の休憩で父の意外な行動を目にする。いつしか
思い込んでいた父という印象がだんだん変わり始めるのだが……。

父と言う人物が、一人の男としてどのような魅力を持ち合わせている
のか。この疑問を持つ時とてもむず痒い気持ちになる。子どもとして
育てられたわたしたちは、どう足掻いても父の子であるために、
「男」という意識を持ち得ない。年を重ね、ふとその思考に思い
当たることに、とても居心地さを感じる。それはもしかしたら父親
からしても同じなのかもしれないけれど、親子という感覚を離れ、
一人の人間として意識するときの閃きのようなものを、この本は
見事に描いていた。書いていることは至ってシンプルであり、
ただ父と娘がさくらんぼ狩りに出かけるというなんとも滑稽なもの
だけど、読んでいる方までむずむずする感じが、質のよさを物語って
いたし、認識の変化を描いた頼りなさがとてもよかった。
(ここに描かれている父親がまた、うちの父親に似ていたというのも、
とても居心地の悪くなった原因のようにも思うのだが……)
青山さんは「ひとり日和」がとてもよかった記憶があるのだけど、
文章に透明感があって好きである。川端康成文学賞がとても
頷ける。若い女の、けれどぶれない思考と描写がすばらしく、
初々しいのに、揺るがない強さに、虎視眈々とした筆力を感じる。
次回作も楽しみ。

★★★★☆*86

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