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2010年6月16日 (水)

「菊葉荘の幽霊たち」 角田光代

菊葉荘の幽霊たち 菊葉荘の幽霊たち

著者:角田 光代
販売元:角川春樹事務所
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恐ろしく時間の無駄を感じた本でした。よもや、時間が有り余って
いるときに読んだら楽しいのではないのかしらん。本の中の人間たちの、
徒労や疲労感が紙の中から滲み出ていて、読んでいるこちらにまで
絡み付いてくるような感じがした。時間がないときに読むべきではない。

職を失ったわたしは、同じくニートである吉元とともに次に住むための
アパートを探し始めた。一駅降りては不動産屋を訪ね、
ここは日当たりが悪いだの、駅から遠いのだのと文句をつけ歩く。
吉元は一向に物件を決める気がないようで、わたしはしだいに苛立ちを
感じ始めるのだった。そんなある日、吉元は町を歩きながら、
自分はこのアパートに住みたいのだ、と言いぼろぼろのアパートを
示した。住みたいも何も、そのアパートはすでにアパートは埋まって
おり、住人が住んでいる。不動産屋を当たってみたが、案の定
断られただけだった。わたしは何とかして吉元をそこに住まわせようと、
そのアパート――菊葉荘の住人を追い出そうと計画を始めるのだが……。

あらすじだけを読むと、なんかちょっと楽しそうな話に聞こえるのに、
ちっとも楽しい本ではなかった。あらすじの「菊葉荘の住人を追い出す」
という、なんとも常識破りな提案に期待が集まるところだが、
その期待を見事に裏切ってくれる本。話の大半は、知人になることに
成功した蓼科との生活に割かれていて、この部分が実に
曖昧でもやもやと続き、もやもやしたまま終わるから、肩透かし感を
倍増させているのだろう。もやもや、という部分は、まさに角田さんの
専売特許とも言うべきところで、今回もとてもいい味を出していたと
思う。種類でいくと「エコノミカル・パレス」や「東京ゲスト・ハウス」
などの類の、こんなにも厚かましく、かつ寂しがりやなのだ、
というような、人間の纏わりつくどうしようもなさが見事に
描かれていた。飲み会に勝手に参加し、酔いつぶれた挙句、
知人のふりをして家に入り浸る。見事なまで、である。しかし、
入り浸ってみたはいいものの、「わたし」はこれと言って何もしない。
追い出す計画、計画、と言いながら、情?ともなんともつかない、
やる気のなさで、毎日飯を食うだけで、一体何がしたいのだ?
と思った。唯一押されているように感じたのは、最後の方で、
蓼科が「普通になりたいんだ」というような事をいうのだが、
普通になりたい、ということは今の自分たちが普通ではないわけで、
普通ではない人間が寄せ集まったのが、この菊葉荘であり、
また菊葉荘に入りたがる吉元も、それを手伝う「わたし」も
普通ではないのであり、要するに、「普通になりたいのだ」と、
言うことなのだろう。普通、それは、「飲み会に勝手に参加し、
酔いつぶれた挙句、知人のふりをして家に入り浸る」なんてことを
しない「普通」なのかしら。どこも強く押されて書かれていないので
よく分からない本だった。忙しいときに読まないほうがいい。

★★☆☆☆*55

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