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2010年6月17日 (木)

「りすん」 諏訪哲史

りすん りすん

著者:諏訪 哲史
販売元:講談社
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読み始めてページを見開いた時に気付いてしまった。あーやられた、と。
今まで人々が気付かずに通り過ぎていたことをいとも簡単に救い出し、
ほら現実にはこんなにも面白いことが隠れていたんだぞ、と差し出されて
いる気分になった。最高な本です。改めて言うが、いい作家に出会った。

血のつながりはないが兄妹のように育った朝子と隆志。しかし朝子は
骨髄癌に冒され長期入院を余儀なくされていた。隆志は自分の病名に
気付いてしまった朝子を必死に励ます。まるで「絵に描いたような
病に臥せる様子」である。そんなある日、ひょんなことから、朝子は
同室で病に臥せっている女性患者が、自分たちの会話を盗聴している
のではないかと気づいてしまう。女性が残した朝子たちを描写したノート
を見つけ、いよいよ自分たちは物語の主人公にされていると確信を得るが……。

読み始めて数ページ、これはくるぞ、と思い、最後の数ページ、やられた、
と思った。久々に読み終わって鳥肌が立った本だった。ネタバレを好まない
方は、ここから先は読まぬよう。この本は、最初から最後まで、「」の
物語である。要するに会話しか書かれておらず、背景描写は一行もない。
しかし面白いことに、朝子や隆志がいるであろう病室の様子、あるいは
彼女たちの表情などがとてもよく伝わってくるのだった。ひょっとしたら
描写があるよりも伝わるんじゃないかしらん。そんなことを言っていると、
この本の作中にはまったようで悔しい気分になる。隣人の女性が、
自分たちの会話を盗聴していると気付いた朝子たちは、突然、この本の
「会話文の中の兄妹」という枠組みから外れ「物語の主人公」に昇格する。
それと同時に、2人が話しているはずの会話は、「物語」という
体に納まり、いつしか2人は隣人女性に創作されている産物と化す。
そこにいたはずの紙面上の2人が実態を帯びて浮かび上がり、はたまた
作者の登場により、紙面上の操り人形に成り下がる。その面白い動きが、
実に素晴らしくて感嘆した。なにしろ、会話文しかないのだから。
むしろ会話文のみでしかなし得なかったこと、ではあるのだが、
まさかこのような脳内の転換に面白みが見出せるなんて、と呆れるばかり
であった。諏訪さんこれからもっと面白い本を書いてくれそうな気がする。
村上春樹以来、群像群像と言いながらも、突飛さは繰り返され、
いつの間にか突飛とは言えなくなっていた。しかし、なるほどこの作家は
新たな突飛さを見つけたんだな、と思った。まぁ随時見つけるのも大変
なのでしょうけどね。そんなときは、「ポンパ!」じゃないでしょうか。
一読の価値あり。ちなみに『アサッテの人』から読んだ方が良い。

★★★★★*95

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コメント

お久しぶりです。
るいさんがそこまで唸る本、気になります!

姫野さんの「リアルシンデレラ」をやっと借りれて(図書館の休みが自分の休みとしょっちゅうかぶってました(ノ∀`) )
初めはさくさく読んでたんですけど、本当に実話なのかな?と思いだしたらスピードが落ちてしまってます…。
結末が早く知りたい感じです(笑)

ちょっと前の雑談、勘についての話。
勘がよさそうな感じはします(笑)
何だろう。会ったからなのか、ここの文体からなのかは分からないんですけど。(両方なのかな…)
でもやっぱりるいさんの言うとおり、その人の経験から形成される価値観が勘につながるんだと思います。
人を見る目や人が発する言葉に対する感じ方、反応の仕方は自身の人生経験(否定されたり肯定されたり)から出てくるものなんじゃないかな、と…
ちょっと考えすぎですかね(笑)
またゆっくりお話できたらと思います。

投稿: しおん | 2010年7月24日 (土) 14:15

>しおんさん

こんにちわ!
お返事毎度遅くてすみません……!

いや諏訪さんのヒットは大きかった。笑
まだ3冊?しか出してないので、まだまだ先が気になる作家さんです。
いい方に傾いてくれるといいなぁ、と思う、今日この頃。
何かを生み出して書き続けるって大変だと思うからね。

姫野さんはまっちゃいましたか!
お気に入り作家が1人でも増えてよかったです。
あーでも確かに姫野さんの話ってウソくさい感じするよね。
現実に似せているのか、現実なのにぼかしてるのかはわからないけど、
「わたしのことはもうわからないのだけど」の時も、
なんだか微妙な1話があって、うーんと思ったよ。
あの奇天烈な物語の時はあんなに楽しいのに、現実を交えると、
上手くかけなくなってしまうのだろうか。とか。

勘ね……むだにいいのですよ。
本当毎度嫌になるのから、あんまり気づかないように頑張っているよ。
でも人生経験でかわるっていうのはあるよね、
わたしすごく人を褒めるのが苦手だったんだけど、
最近、あぁ自分が誰かに褒められた事なかったなかったんだ、と気づいた。
例えば自分が凄く努力しても、「わー頑張ったね!!」って、
素直に褒めてくれる人が誰もいなかったんだな、と。
最近感心した事には、素直に褒めるようにしてる。
なんかわざとらしいなぁ、とか思いながらも、すごいすごいって、褒める。
褒められたら、嬉しいもんね。
わたしも褒められたかったなぁ、とかそして思うよ。

またぜひゆっくりお話しましょう~!

投稿: るい | 2010年8月16日 (月) 01:05

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