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2010年5月14日 (金)

「沖で待つ」 絲山秋子

沖で待つ 沖で待つ

著者:絲山 秋子
販売元:文藝春秋
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あ、そう言えば読みたかったような気がする、とテキトウに手に取った
絲山さんでしたが、芥川受賞作でした。最近の芥川は本当に基準がよく
わからんです。これが「アサッテの人」と同じ賞かと思うと、
なんか納得できないと言うか。でも好きな作風ではあるのです。

「沖で待つ」
同期入社の太っちゃんは、「名は体をあらわす」という言葉が、
これほどなく当てはまる人です。入社当時はそれでもまだ、小太り程度で、
福岡にともに配属されてからは、見る見る間に太って行きました。
太っちゃんと私は仲がよく、よく飲みに行きました。慣れない福岡での
愚痴や仕事の悩みなど、一番話をしていたのは、私だったことでしょう。
でも太っちゃんは井口さんという、私の先輩と結婚しました。
ある日、太っちゃんは一つの提案を持ちかけてきました。自分の一番
見られては恥ずかしいものは何か? と尋ねてきました。それは、HDDじゃ
ないか? と太っちゃんは言いました。HDDはパソコンのハードディスク
のことです。確かにあれは見られたら恥ずかしいだろうと私も思いました。
私は太っちゃんと、相手が死んだら、お互いのHDDを内密に破壊する、
という協定を結びました。きっと私の方が早く死ぬに違いない。そう
私は思っていましたが、それから数年後太っちゃんは死んでしまったのです。

読み終わって少しすると、いい読後を得られる本だった。読み終わってすぐ、
は、なんだか虚しいばかりで良さが分からなかった。HDDなんていう、
現代の産物が中心になっているのも原因かも。HDDを破壊する協定を
結んだ2人の片方が死に、片方はその協定を守り、HDDを破壊する。
わたしはそんな仕事(HDDを破壊するような)をときおりしているので、
よく思うのだけど、あの何も読み込めなくなる一瞬って、とても虚しくて
儚いのだ。例えばこつこつと頑張ってきた10年分の誰かのデータが、
一瞬で消えてなくなる。HDD自体は残っているけど、中身は抜け殻だ。
そのデータという、目で見ることの出来ない質量がなくなることも虚しいし、
そんな目で見ることの出来ない不確定な質量のために、10年間も
汗水流してきたのか、と思うと、その努力が瞬間にして徒労に変わるような、
胸の空く感じがするのである。と、いうのを読んでから少し経って、
考えた本だった。でもわたしはこんな仕事をしているから、そういう感情が
簡単に出てきたけれど(それでも少し経ってからだったし)、だから、
もう少しその虚しさについての記述があったほうが分かりやすくて、
よかったんだと思う。審査員の作家とかは小説データを亡くして、
ショックを受ける、という経験があるだろうが、この本を主婦やパソコンを
まったく使わない職種の人が読んでもぜんぜん理解できないと思う。
このような虚しさを理解した時、文字では決して表されない、主人公の
淡い恋というべき感情が、生きてくると思う。最後の低空飛行感も、
なんだかちょっとミスマッチであったようにも思える。好きなんだけれども。
ここはもう一つの「勤労感謝の日」のが好き。他も読んでみようかなぁ。

★★★☆☆*86

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