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2010年5月 9日 (日)

「アサッテの人」 諏訪哲史

アサッテの人 アサッテの人

著者:諏訪 哲史
販売元:講談社
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群像と芥川を同時受賞。思わず全文掲載雑誌を買ったのを思い出し
ました。読み終わって感嘆。今回は再読でしたが、それでも尚、
興味を引かれる強烈なインパクトを感じました。諏訪さんすごい
作家になるんじゃ、と。楽しみですね。とか、手放しで褒めてみる。

行方不明になった叔父は、あえて文章で表すならば「アサッテ」な
人であった。どのようなところが、と例を挙げるならば、まず妻朋子さん
の話しなどに耳を傾けるといいだろう。近々結婚する朋子さんの
友人を2人を招き、ほのぼのとした会話をしていた、そんな時である。
叔父は新婚旅行の話に耳を傾けながらも、徐々に気分を害し始めた
ようであった。2人の話はちょっとした口論になり、友人は叔父に対し、
「明さんならどうします?」と話題を振った。叔父は沈黙したかと思うと
暖かみのある声で言ったのだった。「つまり、それは、タポンテューだ」
友人たちが呆気に取られたのは言うまでもない。「ポタンテュー」
その言葉には意味などはないのだから。叔父はつまり、
そうした「アサッテ」を追い求める人であった。しかし不運なことに昨年
朋子さんが亡くなってからというもの、叔父はだんだんとおかしくなり……。

ここ数年の芥川賞の中ではダントツにいい作品だと思う。尚且つ
「群像」の要素を含んでおり、ダブル受賞も大いに頷ける感じだった。
雰囲気は、あっさりした森見さんのような。ともかく、とても
個人的に好みの文章だったので、するすると話しが頭に入ってきて
これでもか、と「群像」を感じることができた。「群像」といえば、
かの村上春樹、や村上龍を輩出してきた賞である。村上春樹は
ハードボイルドであるし、村上龍はアクが強い。どちらも突き放された
高見にある素晴らしさ、というものだったきがするのだけれども、
しかし諏訪さんは違い、とても身近なで親切な印象を得た。一つに、
「群像」という、ちょっと犬猿されがちな傾向(書こうとすると、
格好つけて難しくなるから)ものを目指しながらも、読者が納得できる
という点が挙げられると思う。この本では最初から最後まで、
「アサッテ」について語られている。「アサッテ」などというと、本来
狂人的、いわゆる常識を逸脱した狂っている状態、そしてそれが
「自然」である状態を意味すると言う。だが、「叔父」はだんだんに
「アサッテ」を追い求めすぎるあまりに、「アサッテ」を自ら生み出す
ことに固執し、「アサッテ」の重複による「アサッテ」の消滅して、
「アサッテ男」ではなくなってしまった、云々…。「アサッテ」という
事柄が意識中から抜け出し、変貌を遂げる、その様子を
諏訪さんはとても丁寧に描いていた。そして面白い。読んで納得し、
これらを面白さをもって描けるのだ、という驚きがあった。
人物を多面的に炙り出すような章構成になっている堅苦しさに、
人間の苦悩の滑稽さ、面白い描写と、頓珍漢な「ポンパ!」、そして
極めつけの巻末の音頭。やはりギャップや温度差のあるものが、
絶妙に絡んでいる小説は、それだけで奥行きを感じる気がした。
少しの知識を身につけたようになりながら、それを「学ぶ」という
堅苦しい認識にさせない文章力。面白かった。他の本も読んでみよう。

★★★★☆*89

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