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2010年5月 1日 (土)

「藪の中」 芥川龍之介

藪の中 (講談社文庫) 藪の中 (講談社文庫)

著者:芥川 龍之介
販売元:講談社
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気がついたら、感想500冊まで、あと1冊だった。そんなこんなで、手にした
499冊目は、芥川龍之介。原点に帰るのも大概に、と言わんばかりの原点。
最後にきちんと読んだのは中学生の時だと思う。あの時は分からなかった
ことも、今なら(少なくともあの時よりは)分かるような、と錯覚に陥る。

「杜子春」
或春の日暮れです。
唐の都洛陽の西の門の下に、ぼんやり空を仰いでいる、一人の若者がいました。
若者の名は杜子春といって、元は金持の息子でしたが、今は財産を費い
尽して、その日の暮らしにも困るくらい、憐れな身分になっているのです。
「―こんな思いをして生きているくらいなら、
一そ川へでも身を投げて、死んでしまった方がましかも知れない。」
杜子春はひとりさっきから、こんな取りとめもないことを思いめぐらして
いました。するとどこからやって来たのか、突然彼の前へ足を止めた
片目の老人がいいました。「お前は何を考えているのだ。」
「私ですか。私は今夜も寝る所もないので、どうしたものかと考えている
のです。」杜子春は答えました。「そうか。それは可哀そうだな。」
そう呟いた老人は、「好いこと一つ教えてやろう。」と金がたくさん
埋まった在り処を杜子春に教えてくれるのだが……。

皆さまご存知、「芥川龍之介賞」の由来でもある、芥川龍之介。高校の
現代文のT先生が、芥川龍之介の大ファンで、「龍さま、龍さま」言って
いたのを思い出した。ヨン様が流行るそのご時世に、彼女は一人、
芥川龍之介の写真を机に飾っていたな。今頃になって、その本当の魅力を
ようやく感じることが出来たような気がした。もちろん、顔ではなく(笑)
この短編集の中には、『藪の中』と古典ものの5編が入っている。
『藪の中』に始まり、『鼻』で終わる、芥川龍之介の代表作がみっちり
つまった本だ。「王朝物」は、特に教訓めいたものが多く、この『杜子春』
なんかは、まるで漢文を読んでいるような気分になる。杜子春は、
謎の老人の手により、金持になり豪遊する。しかし、金は尽きる。
再び憐れな身分になると、また謎の老人に遭遇し、また金持になる。
そうして金がなくなり……と続き、けれど杜子春はある日気づいてしまうの
だった。人はみな、金を持っていると近寄ってきて、なくなると去ってゆく。
そのような人間に嫌気が差し、老人(仙人)に弟子入りを願い出るのである。
天界に着き「絶対に声を出すな」と約束させられた杜子春は、災難を
死に物狂いで乗り越える。だが、最後に両親が現われ八つ裂きにされた時、
その約束を破ってしまうのだった。どんなことに耐え得ても、
親が目の前で殺され黙っているようなことはできない。と、いうことは、
仙人にはなれないわけで、それと同時にそれ以外のものごとにはどんなに
辛くても人間は耐えられるものなのだ、というような教訓のようなものが
描かれている。あるいは、その部分が人間らしさであると、強調している
ような。と『杜子春』を語っておきながら、一番好きな話は、やはり
『藪の中』かもしれない。『藪の中』は芥川の中で中盤の作品だが、
この頃の話が好きであるように思う。藪の中であった、女と二人の男の
惨劇。夫だった男は、盗賊に殺され、女は逃げる。男はなぜ殺され、
女はなぜ逃げたのか。しかしすべての人間の話は食い違っており、
解決されぬまま、話は「藪の中」という話。この混沌とした中に、
茶目っ気と狂気を垣間見るところがとても好きである。ぼちぼち、
掘り起こして読んでみようかなぁ。そして夏目さんも読みたくなってくる。

★★★★☆*87

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