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2010年4月24日 (土)

「顔のない敵」 石持浅海

顔のない敵 (光文社文庫) 顔のない敵 (光文社文庫)

著者:石持 浅海
販売元:光文社
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石持さんは本格推理小説を目指していた!、と確認できた本。
作家デビュー後初の作品(これは単品)を含む連続短編集。もっと
昔の本なのかと思ったら、掲載年は『扉は閉ざされたまま』よりも後
だった。少し意外である。しかし、いいか、悪いか、と言われると……。

「銃声でなく、音楽を」
地雷除去NGOである坂田とサイモンは、活動を続けるため寄付金を
つのっていた。今回は音響メーカーである、マーチン&ノーラン社に
足を運び、最終的な契約の取り決めを行う予定である。
マーチン&ノーラン社についた二人は、社長秘書の女性につれられ、
上階のプレゼンテーションルームへと案内された。エレベーターを降り、
ひっそりとした長い廊下を進む。しかし三人が廊下の中腹へきたとき、
その静寂は破られた。小さな破裂音……銃声が聞こえたのである。
突然の事態に三人は走り出す。プレゼンテーションルームの戸を叩くと、
中には社長がおり、そして足元に男の死体があった。拳銃は死体から
離れたところにあり、撃ったのは社長ではないようだ。なぜ来客時に
銃撃事件が起こることになったのか? 坂田とサイモンは推理を始める。

「え、これが石持さん?」と声をあげたくなった。今まで読んできた
本とだいぶ作風が違うからである。それにしても地雷除去をテーマに
したこの本は、堅く、それでいてミステリに富んだいい作品だった。
書くからにはきちんと調べなくては、と思う方なんでしょう、
かなり緻密な事柄にも知識が及んでいて、まさか作品を書くために
学んだと思えないような深い心情理解と解説で、圧巻だった。
趣味だったらこう熱心になれるでしょうけれども、単に「興味をもった」
くらいで、ここまで突き詰められるのは凄いなと思う。
思い返してみれば、『セリヌンティウスの舟』のときも、
スキューバダイビングについてかなり詳しく語っていたなぁ、と。
(まぁ感想はかなり毒を吐いてますので、面白いかは別の話で)
と、そのような熱心な知識習得の賜物という感じで、登場人物の、
心情が実にわかりやすく、そうしてもっともらしい(いい意味)感じ
に描かれているため、感慨深く読むことができた。地雷により家族や
自身の手足を失った悲しみ。それは心の傷となって、決して消えること
はない。人を失うことは、人を殺してしまうほどの憎悪を生み、
しかし地雷は生産者を特定できないために、その怒りの矛先を
もつことすらできない。この現状をどうにかしなくては……。
そのような突き動かされる意志、悲しみ、そして悲しみから生まれた謎、
これらがとてもいいコンビネーションだった。しかし、一つ残念だった
のは、キャラクターに色がないことだった。個性がないというか。
書いている本人の中では個性があるのだろうが、読んでいるこちらには
それが伝わらず、名前だけが一人歩きし、人物と一致しない。だが、
あんまりキャラクターを押しすぎても、『扉は閉ざされたまま』の
ようになるだろうし、なんというか、「ほどほど」が欲しい感じだった。
この堅い感じ、好きなんだけどなぁ、惜しい。
最後に載っているデビュー作は、石持色で、とてもいい。あとがきも
とても読みやすく、石持さんの真面目そうな人柄が窺えてよかった。

★★★★☆*87

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