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2010年4月21日 (水)

「レタス・フライ」 森博嗣

レタス・フライ Lettuce Fry (講談社文庫) レタス・フライ Lettuce Fry (講談社文庫)

著者:森 博嗣
販売元:講談社
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巷でボロクソに言われている森博嗣の短編集。ははぁ、こりゃボロクソ
言いたくなりますわ。萌絵に頼るなよ、と嘆きたくなる短編集。
もっと違ったいい味もっているはずなのに、萌絵が大好きすぎて、
他のキャラクターを創造できていない残念さ。しかも難しいし。笑

「皇帝の夢」
丘に向かって幅の広い真っ直ぐな階段が続いている。権力を集めた
皇帝の墓だ。私はその階段を一段ずつ上っていった。
ガイドを申し出てくれた現地の若い女性も一緒である。
私は数日前に見たある夢の話を女性にした。ふわふわと宙に浮いて
いるようで、音はホワイトノイズに満たされている。今まで体験
したことのない感覚だった。夢の最後には、眩しい光を感じ、
目覚める瞬間に耳元である言葉を囁かれたのだった。中国語であった
その言葉は、昔の皇帝の名前であった。
「それは、神さまが知らせようとしたのですね」女性は言う。
階段はまだ続いている。限界に近い。もう一段くらいなら、と片足を
あげる。そうか、これは夢かもしれない。誰かが見ている夢なのだと思う。

この短編集の中で「皇帝の夢」が一番好きだった。炎天下、歩き続け、
意識が朦朧としながらも階段を昇り続ける。その感覚は、夢でも
同じものを味わったことがあるように思え、階段を上っている自分は、
誰かの夢の中の、人物なのではないか、と考える。この人の神秘に
触れるような、絶妙な物語、最高である。とても短いショートショート
なのに「はっ」とするような輝きがある。すごいな、と絶賛しながらも
なんなんだろう、この煮え切らない感じ。「刀之津診療所の怪」とか、
なんなんだよ……幻滅にもほどがあるよ。と嘆いてしまった。
「刀之津診療所の怪」は、なぜか一遍だけ、S&Mシリーズである。
萌絵が登場し、その場を掻っ攫う。面白いのだが、なんとこの話しの
トリックは説明されない。シリーズ読んでれば分かるでしょ、なオチ
である。わかんねーよ、と9.8割くらいの読者が思うことでしょう。
わたしもだ。不親切極まりない。そうして気づいたことだが、
この「刀之津診療所の怪」がこの本において異質に見える理由の一つが、
主人公の「色」である。「刀之津診療所の怪」はいわずもがな、萌絵色。
森さん本当に萌絵大好きだな……と思えるほど楽しそうに描く。
しかし、それ以外の小説においては、主人公にまったくといっていいほど
「色」がないのである。誰でも入れ替わり可能な無機質な「私」。
それはどこか『スカイ・クロラ』のコンセプトに沿っているような気も
するのだが、どこか個性を描くのを放棄しているようにも思う。
無機質な『スカイ・クロラ』は最高に好きだったが、萌絵以外の、
「キャラクタ」を頑張ってほしいような気分にもなる。
とりあえず、引退しないで下さい、と(笑)でもあと7巻でしたっけ?
最後まで楽しみにしています。この本は、シリーズ制覇後をお勧め。

★★☆☆☆*70

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