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2010年3月 4日 (木)

「ズームーデイズ」 井上荒野

ズームーデイズ (小学館文庫) ズームーデイズ (小学館文庫)

著者:井上 荒野
販売元:小学館
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アンソロジーで気になった井上さんを読んでみました。ははあ、ほほう、
そう来ましたか……と口もとに手を置いてしまいそうな本でした。
まぁ率直にいいますと、あまり好きではない感じで、しかしわたしが、
もしも物語を書けと言われたら、こうなってしまうだろう、と思う本。

私はズームーとの生活を良く思い出す。ズームーは八歳年下の男だった。
小説らしきものを書くのを仕事にしている私は、ズームーとテレビ局で
出合った。彼は私が司会としてでる番組のアシスタントディレクター
だったのだ。アルバイト大学生であるズームーの私生活に、
もしかしたら小説のネタになるのではないか、と興味を持った私は、
ズームーに日記を書いてもらえないか、とお願いした。照れながらも
嬉しそうに実行してくれたズームーだったが、残念ながらその私生活は
まったく面白くなかった。学校に行き授業を受け、帰宅し、アルバイト
へ向かう。平凡で単調な毎日が繰り返されているだけだった。自分以外
の人間の平坦な日々に安心を得、また日記をきっかけに親しくなった
ズームーと私は、同棲することにした。しかし、私は同時に、カシキ
という男と不倫関係を続けて行くのだが……。

ズームーという若い男と過ごした日々を思い出し語られる、全編
過去回想型の話である。「面白く」はない。まったくその要素はなく、
過ぎてしまった過去(結果としてあまりよくないのではないか、と
思われる過去)について回想をめぐらし、なぜああなってしまったのか
とか、あれがあったから今の状況がある、と言ったような説明が、
だらだらと、語られているのであった。主人公は、年下の若い男を
捕まえつつも、妻子ある男と不倫をしている。どちらも捨てがたく、
またどちらも拾いがたい、と言った優柔不断で曖昧な生活を
おくっている。生気をまったく欠いた生活の中で、得たものは何だった
のだろうか? のらりくらりと日々が過ぎ、34歳は44歳になるのだろう。
けれども、何も間違っていなかったし、その曖昧模糊な状態さえも、
しかたのない、あるいは、その時の自分にはそうとしかできなかった
と言うような思いが伝わってくるのであった。人は後悔をする生き物
だと思う。わたしもおそらく生きてきた半分以上を後悔している。
けれども、この本では、後悔という感情が見当たらないのであった。
ああすればよかったのかもしれない、と描かれつつも、その状況では、
これが最善の選択だったはずだ、と望み続けているような、
もしくは「この道を」と選んだ自分を否定しない頼りない強さ
というような。極めつけは、カシキとの選択であった。
「A、このまま会わない」か「B、ときどき会う」である。
Aにしておけばよかったものを、と周りは思うだろうが、Bを選んだとき
の、カシキに会いたいと言うときの「気持ち」を、時を経ても、
忘れない強さを感じる。この本の一番の魅力ではないか、と
わたしは密かに思う。しかしストーリーにまったくもって、
メリハリがないため、中だるみする。なーなーな救いのない生活に、
イライラする読者もいるだろう。そう考えると、同じ感情であっても、
見せ方を変えたらいいのになぁ、と思った。だから、面白いか、
と言われたら、面白くないのである。しかし、「詰まらない」では
ない何かを、ぼんやりと感じることができる本だった。
井上さん、もう少し評判よさそうなの読んでみます。

★★★☆☆*76

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