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2010年2月14日 (日)

「きのうの神さま」 西川美和

きのうの神さま きのうの神さま

著者:西川 美和
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映画『ディア・ドクター』の原作かと思いきや、違います。短編が数編
入っており、『ディア・ドクター』という名の話もありますが、
どれも原作ではありませんでした。物語はすべて過疎地域における、
陰鬱な人間のしがらみや、人を助ける医者と言うものについて、です。

「ディア・ドクター」
兄は父の事を太陽だと思っていた。兄が幼い頃、医者であった父は、
尋ねられるがままに、医療の経験を語って聞かせた。大学で教鞭を
とっていただけあり、語り始めれば経験と論理的な迫力ある話になる。
兄は益々父を慕って、いつしか自分も医者になろうと考えるように
なったようだった。医学部を受けようと受験勉強をする兄は、
まるでラブレターを書いている少女のようだった。僕や母には内緒、
もちろん父にも隠し、勉強していたのである。ただ一度、兄は父に
告白をしたことがある。自分も医者になりたいのだ、ということを、
もじもじと父に伝えたのであった。しかし父はそれに賛成をしなかった。
以来医者を諦め、平凡な大学生活を過ごした兄は、転がるようにして、
転落する人生を送っているように見えた。今は医療機器を扱う仕事を、
地域に一人しか医者がいないような場所でしているらしい。
父が倒れた。兄は、父を見舞いにやってくるのだろうか。

『ゆれる』をとてもいいな、と思って読んだのだが、この本は、
そうでもなかった。確かに才能があるのは重々承知しているの
だけども、長編を書くにあたってあった気合いらしきものが、
少し薄れているようにも思える。いや、そもそもこういう作風なのかも
しれないのだけれど。たぶん西川さん自体が、この本が2冊目のよう
なので、物語を書くのにこなれていないような、文章のちぐはぐさが
あったような気がする。『ゆれる』のときは、それがいいアクセント
になって心地よかったのだが、この本はただ長いだけの一文、
みたいな感じに思えて、読みづらさのほうが目立ったように思った。
今時の若者が語るような、だらり、とした文章で語られる、
陰のある物語たち。今回は、過疎が進み、人間のしがらみに縛られた、
閉塞感について重きを置かれて書かれていた。何か不祥がおきると、
次の日には村全体に伝わっているというような、まとわりつく感じ。
出て行こうとするものを、のけ者のように扱う冷たい眼差し。
入って来るものを阻害するような、ぎこちないよそよそしさ。
など、それらを含んだ、医療についての物語である。
小さな町医者のもつ苦悩や、そうなるまでの決意など、
とても現実味があり、深く取材を行ったというだけあって、
軽いテンポの割りに、奥行きのある話になっているな、と思った。
映画『ディア・ドクター』の原作かと思っていたのだが、まるきり
違うようで、もしかしたらサイドストリー?だったのかもしれない。
映画を見てからのほうがよかったかしら、とか。次も期待。

★★★☆☆*86

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