« 【DVD】木更津キャッツアイ ワールドシリーズ | トップページ | 2/5FoZZtone、ぺトロールズ@横浜F.A.D『Lodestone tourⅠ』 »

2010年2月 3日 (水)

「もう私のことはわからないのだけれど」 姫野カオルコ

もう私のことはわからないのだけれど もう私のことはわからないのだけれど

著者:姫野 カオルコ
販売元:日経BP社
Amazon.co.jpで詳細を確認する


久々に母に読ませたいと思った本だった。わたしと母は好みが丸っきり
違うので、好きな本をお薦めしても大抵はずれる。そもそもたくさん
本を読むわけでもないので、そういった本を最後まで読んでくれている
かどうかも怪しいものだ。だけど、この本は読んでくれる、そう思う。

「衣斐さんと、衣斐さんの奥さんのこと」
衣斐さんはいつも笑っている。衣斐さんは笑ったあと、いつも泣く。
衣斐さんの奥さんはいつも怒っている。衣斐さんの奥さんはいつも
怒ってばかりいる。「このぶさいくが」「おめえなんか嫌いだ」
病気なんだってわかっていてもわたしは悲しくなる。
「そうりゃもう、みんなに気をつかって気をつかって、ウチの手伝い
のもんにも細かいとこにも気をつかって、いっつもいっつも頭を下げて、」
「ふしぎね。前とはまるっきり反対の性格になってしまったの……」
衣斐さんの奥さんの昔を知る人は、そんな事を言う。
衣斐さんはわたしにありがとうと何度も言う。「家内の言いよることに
腹が立ったら、ばかやろうと、どうか代わりにわたしに怒鳴って下さい」
衣斐さんはいつも笑っている。衣斐さんは笑ったあと、いつも泣く。

病気を抱えた身内を看病・介護している人たちの心情を、姫野さんが
小説におこした短編小説集である。1話ごとにそれぞれ実在の人物が
おり、末ページにそのプロフィールが載っている。そのことを知り
内容の深さがぐっと濃くなったような気がした。大概、
事実を文字で伝えようとすると、うそ臭くなる。作家がその人を
描くと「その人を描く」という時点で作者の視線や感情が入り、
本物ではなくなってしまうからだ。そこからどんなにインタビューを
して言葉を聞いても、それは本人の言葉ではないように思えてくる。
しかし、この本は違った。小説よりも詩に似た、どこか「呟き」
のようなその一節は、見事に本人を捕らえていた。
「本当は、こんなこと言っちゃいけないの知っている、だけどつらいの。
そうして、つらい、と言ってしまった自分を許してほしい」
そう言った生々しい感情が、ぽつりぽつりと続く文章から
押し寄せてくるのだった。耐え、微笑むような笑顔がちらつく。
介護をするのは大変なことだ。だけど、自分の親でしょ? 
今まで育ててもらったじゃない、世話をしないなんてどうかと思う。
世間はそう思っている。けれど、やってみないとその気持ちは
分からない。介護をしたくない。でも介護が必要になってしまったら、
誰かが行わなくてはいけない。いったい誰が? その夫が、その妻が、
その子どもが。そのことから目を逸らしているから、
当事者になった人間のこころが分からないのだ。こうして伝えて
もらうまで。考えさせられた本だった。秀逸な本である。小説としての
重みはないが、こころの奥に大切な重みを得られる本である。
「受難」の後に読んだら驚愕すると思う。本当に同じ作者なのか? 
と。姫野カオルコ恐るべし。最後の小説は「ヒメノカオルコ」である。
上手く言えないけど、本屋で1話読むだけでもいいから、
ぜひ、読んでほしい。きっと自分と重ねられる話があると思う。

★★★★★*93

|

« 【DVD】木更津キャッツアイ ワールドシリーズ | トップページ | 2/5FoZZtone、ぺトロールズ@横浜F.A.D『Lodestone tourⅠ』 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/126354/33247754

この記事へのトラックバック一覧です: 「もう私のことはわからないのだけれど」 姫野カオルコ:

« 【DVD】木更津キャッツアイ ワールドシリーズ | トップページ | 2/5FoZZtone、ぺトロールズ@横浜F.A.D『Lodestone tourⅠ』 »