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2010年1月 5日 (火)

「正月十一日、鏡殺し」 歌野晶午

1819311

この本もしや絶版なのかしら? と読み終わってから気づく。
アマゾンで注文できない。というか講談社なのに絶版て……。
内容も絶版になるほどでもないような。もっと絶版にした方が
いいのではないかと思う本はたくさんあるしなぁ、とか怒られそう。

「プラットホームのカオス」
保護者の子どもの甘やかしが進んだ結果、学校は教師では取り締まれ
ない無秩序な場所となった。明らかな風紀の乱れと、校則違反を
認めながら、教師は言葉で叱ることしか出来ない。その上、
生意気な態度をとられようにも、殴ることは出来ず、苦虫を噛んで
その場をやり過ごすことしか出来ないのだった。狂っている。
須藤は自分の教え子の中で特に不良ぶっている寺岡に、何かと
舐められおり、苛立ちを覚えていた。そんなある日、帰宅途中の
電車のホームで、寺岡の姿を見つけた。彼の他にも高代、根元、誉田
と言った腰ギンチャクのような連中も一緒である。須藤はたまらず
注意を与えるが、寺岡は聞く耳を持たなかった。怒りが頂点に達した
須藤は寺岡の行動を観察しようと後をつけるが、次の瞬間寺岡の体は
特急電車のくる線路に舞い上がり、車両に跳ね飛ばされた。一体
何が起きたのか。現場に居合わせた誉田とともに聴取を受けるが……。

面白いか、面白くないか、と聞かれたら、面白くない。けれども、
とても納得して読むことが出来る。歌野さんはとにかく読みやすい
文章を書く作家だと思う。すらすら読むことが出来る。それに、
ちょっとあいつムカつくよな、とか人に苛立ちを覚えていたり、
あいつを殺してやろうとかいう殺意を書くのがとてもうまいと思う。
人に対し、ちょっとしたもやもや(あぁいう態度が嫌だ、など)が
生まれ、そこからだんだんだんだん嫌悪が増してくる。少し嫌い、
だったものが、結構嫌い、になり、すごく嫌い、になる様子が、
実に分かりやすく書かれていた。そして、すごく嫌いになり、
それが頂点に達した時、どうなるのか。そう、真っ白になるのである。
その頭の白くなった空白の間に、人は人を殺し、後に我に返る。
「しまった!」である。しかし、歌野さんはこの後が問題である。
特にこの本に目立ったものではあったが、その自分のしてしまった
行為(殺人)を、他人のせいにしようとするのである。
いや、俺がここまで追い詰められて、人を殺してしまったのは、
そもそもあいつが悪いんだし、それにあそこにいたあいつだって悪い、
と自分の行動を棚上げし、罪から逃れようと言う思考に切り替わる。
もちろん、その気持ちは多いにあり得る。大抵の殺人の隠ぺい工作は、
そのような心理が働いて行われる気がするし、納得もしている。
けれど、どうしてその後、濡れ衣を着せられた人間が毎回死ぬのか、
という残念さに切り替わる。人は、罪のない人間を殺してからで
ないと、罪を償おうとか、犯した過ちの大きさに気づけないのか?
いつもそこに結末が繋がっているようで、ちょっと微妙に思った。
あいつは死んでもいいが、あいつはだめだった、みたいな、ものである。
なんかちょっと改心の場所が違うような……と思えてくるのであった。
というわけで、救いがなく何ともいえない後味の本。あ、そうそう、
湊かなえの「告白」みたいな、そんな感じ。それにしても、
ミステリ短編は質が問われるな、と考えさせられた本。長編が好き。

★★☆☆☆*75

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