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2010年1月 8日 (金)

「時生」 東野圭吾

時生 (講談社文庫) 時生 (講談社文庫)

著者:東野 圭吾
販売元:講談社
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あぁ、そうなのか、そうなのか、と新たな1つに気づいた本。それにしても
この読ませる力、すごいよね。もしも面白くなくても、こんなにスムーズに
ページを繰れるなら、そこには才能があると認めざるを得ない。
もちろんこの本は、面白い分類の本でした。鍛錬の賜物かと敬服。

宮本拓実は今さら発すべき言葉もなく、ベッドの脇で立ち尽くしていた。
言葉がないのと同様に、打つべき手もなかった。彼の息子・時生は今、
集中治療室のベッドの上で、生死の境を彷徨っている。こうなるであろう
ことは、時生が生まれる前から分かっていたことだった。妻である麗子の
家系はグレゴリウス症候群という病に犯されており、特に男子には、
遺伝する可能性が非常に高いとされていたのである。その病は、不治の病で
あり、成長するにつれ、だんだんと運動機能を失ってゆく。つまり
若くして死を迎えることを意味していた。血の滲むような苦悩の決断で
あったが、拓実は麗子に子どもを生むことをお願いしたのだった。
しかし、その息子はもう、助かりはしないところまで病状が進んでいた。
そんな様子をみながら、拓実はその昔、まだ麗子に出会う前、突然
自分の前に現われた青年のことを思い出した。その青年はたしか「トキオ」
と名乗り、自分と唯一の血縁なのだと言っていたが……。

読みやすさ、抜群。今までの東野本の中で、一番のスピードで読み終わった
気がした。もうページを繰るてが止まらないのである。するすると文章が
頭に入り、状況を的確に知る事が出来る。謎は残らず、すっきりと読了する。
鍛錬の賜物、と言うべきような作品であった。何度も何度も同じことを
していれば、物事が最適化するように、読み手が欲しい物を、ほしい所に、
的確に配置しているという印象がとても強い。分量はこのへんで展開した
方が読みやすく、このへんで終局したほうがすっきりするだろう、と
とても洗練された構造になっているのだった。と、裏を返せば少々機械的。
そして、説明文がとても多く、すべてに置いて状況を「説明されている」
という印象を受ける。それと、これは今回気づいたことだが、東野さんは
かなり細かいところまで描写を入れる人である。小説と言うのは、
「書かなくていい行動」と呼ばれるものがある。もしもすべての人間の
行動を描写していたとしたら、とんでもない枚数になってしまうわけで、
その行動の中から、作者が選りすぐった行動を、作者なりに書くわけである。
そんなの当たり前だ、と言われそうだけれど、これがかなり重要なポイント
として、自分の好きな作家、嫌いな作家を分けているといってもいいと思う。
で、今回東野さんは、だいぶ細かい動作まで描写する作家なのだ、と改めて
気づいたのだった。もういろいろ合わせると20冊くらい読んでいるけれど、
目に見えない、感覚という点で、「あ、他の人より多い」とようやく
感じる事ができた。それくらい描写というのは潜在的で、もっとも物語
自体とは関係がないので、分かりにくいものなんだなぁ、とか、しみじみ
思った1冊だった。そして本の内容だけど、とても感動できるものであった。
最初から結末が見えているといえば、見えているのだが、そこは問題ではない。
あと、やはりやくざの登場が東野さんらしいというか、なんというか、
ちょっと非現実的な「若気の至り」ではあったのだが、まぁ、さて置き、
「きっと素晴らしい人生がまっているから」という一言を読む時の心の揺れに、
この本の全てが詰まっているだろう。誰しも、占いや予想に頼りたい弱さが
あり、その不安な小さな隙間を埋めてくれる温かい何かが欲しいのだと。

★★★★☆*87

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