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2010年1月28日 (木)

「臨場」 横山秀夫

臨場 臨場

著者:横山 秀夫
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横山さんもいつの間にか一年ぶり。ちょっと気を抜くだけで、一年も読ま
ない作家が出来るなんて、と驚き。その分読書の幅が広がったのか、
あるいは、それほどたくさんの作家が存在していると見るべきか。
しかし久しぶりに読むのもなかなかいいもので、なるほどこの人は、と思う。

「真夜中の調書」
中央市の東部団地で、二十九歳の高校教諭、比良沢富男が絞殺された。
犯人は五十二歳の元ホテルマン、深見忠明。物取りの目的で比良沢宅に
忍び込み、目を覚ました富男と格闘の末、ネクタイで絞め絞殺した。
慌てて戸外に逃れたが、隣家の人間に見つかって110番され、わずか
三十分後に団地内で警邏隊員に取り押さえられた。室内に残されていた
血液とのDNA型も一致しており、犯人は深見忠明ということで確定した。
しかし今日になって、結論が覆りそうだった。終身検視官という異名を
持つ、検視のプロ・倉石が異論を唱えたのだ。このような完璧な証拠に
何を疑うというのか? キレ者倉石の力が試される。

倉石検視官の「臨場」を描いた短編集。娯楽として読むには上質なほどの
短編集。しかし、「もうちょっといけるのでは……」といつも横山短編集
で思ってしまうのは、上質な短編集を書く割に、それを長編へもっていかない
からだろう。特にこの「真夜中の調書」なんかは、この(トリック?)案を
他の作者が見つけたら、絶対長編だね、というほど質の高いものだと思う
のだが、横山さんは、そうしない。長編は書くのが疲れるのか? それとも
長編にするために肉付けするのが苦手なのか。いつも短編ばかりで、
あぁもったいない、と思い読了するのであった。横山さんは1年ぶりだった
のだが、久しぶりに読むと、その人の癖が分かるもので、この本からは、
強烈な男臭さを感じた。勿論いい意味で。そして、その男の中でも、
悲いしいことは溢れている、でも生きていかなくてはいけないし、
というような心の中で割り切られているような淡白な男さを感じた。
十七年前の女を引きずる男にしても、どこか強さを持ちえており、
女に縋ってみたり、という弱さや、誰かに八当たりする、という弱さがない。
要するに、弱くないのである。悲しいだけど、頑張る、という静かな
強さが描かれており、その部分が警察ののし上がり的な地位意識と、
いい感じに合間って、作品のいい味になっているとも思える。でもこれに
気づいてしまうと、どれも同じ感情を持った人間に見え、よろしくないの
だけれど。……とそれはわたしだけかもしれない。最近に始まったこと
ではないが、誤認逮捕という事実がある。近頃では、栃木の幼児殺害事件
の犯人は誤認だったと知れたばかりである。初動捜査できちんと調べて
いたら、そんなミスなど起きなかったろうに、と悔やむ思いから、この
「倉石」の活躍がとても爽快な光景として映る。このような人間はいない、
心のどこかで思いながらも、何かを信じている自分を感じる事が出来る。

★★★★☆*87

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