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2010年1月13日 (水)

「万華鏡」 遠藤周作

100113

絶版?遠藤周作自体、5年ぶりくらいに読みました。だいぶ懐かしい。
この本もおそらく中学生の時に読んだことがあるようで、ところどころ、
あぁ読んだかも、と思う文章がありました。中学生でよく読んだものだ、
と我ながら関心。しかし人生で一番本に執着していたのも中学生頃。

「虫の知らせ(一)」
虫の知らせとは、夢を通してではなく、眼がさめて普通の状態の時に、
突然、なぜか胸騒ぎがする。そしてたとえば家族に異変のあったことを
察知するというような出来事だ。このような虫の知らせを経験された人は
多いだろう。私にもそれがある。十年ほど前、私は上顎癌の疑いで入院
していた。そしておなじ病院に、その時、知り合いの娘さんが血液癌
で治療をしていた。午前十時頃だった。私はベッドに横たわって
何気なく部屋を眺めていた。摘出した上顎細胞が良性か、悪性かが
とても気になり、気持ちはきわめて重かった。
その時、扉があいた(ような気がした)。そして私はその血液癌の
娘さんが、実にあかるいイメージで部屋に入ってきたように感じた。
「大丈夫ですよ。悪性じゃ、ありませんよ」と彼女は朗らかに言った。
そして、数分後、彼女の死が家人によって私に告げられたのだった。
皆さんはこのような不思議な経験をお持ちではないだろうか?

エッセイ集。上記はほぼ本文抜粋です。あらすじにするまでもなく
読みやすい文章に感嘆。遠藤さんの本は、「反逆」「ルーアンの丘」
「海と毒薬」くらいしか読んでいない気がしていたのだが、
この本も読んだことがあったようだ。それにしても読んだ内容を忘れる
のは、とても悲しいな。……さておき、内容というと、
人間が人間という動物を「感じる」、ということについて。
ナチスドイツのユダヤ人虐殺から、幽体離脱まで、「人間の不思議」、
と呼ばれるような事柄についてである。虐殺については、そのような
猟奇的になってしまう人間の心理の不思議さを恐怖し嘆いていた。
幽体離脱については、今まであり得ないとされてきたが、
しかしそうとしか説明しえない不思議な現象に眼を輝かせていた。
いろいろなテーマがあったが、どれも大変興味を持って書かれている
のを感じた。何にせよ、エッセイを書く上で、書いている本人が
興味を持っているか、持っていないか、の違いは大変大きなものである。
この本は、ものすごくわくわくしている様子や、知りたい、知りたい!
と思っている様子が、文章から伝わってきて、読んでいるこちらまで
引き込まれた。このエッセイは当時朝日新聞に掲載されていたが、
遠藤さんの熱心な語りに、毎度たくさんの手紙が届いたようである。
その経験談などの手紙の内容も載っており、実にバラエティに富んだ
事例が挙げられているため、その点もまた楽しむことが出来た。中でも
遠藤さんが1番興味を持ち力を入れていたのが、出来事の偶然や、
虫の知らせ、といった「共時性」というものについてであった。
人が死んでしまうという時や、絶体絶命という時、親しい誰かに
メッセージを送っているというものだ。幽霊が存在するのを、
頭から信じているわけではないが、しかし実際に起こっている不思議な
現象や、第六感の働きなどを、ちょっと考えてみるのも面白いのでは
ないか。だって不思議なんだもの。気になるじゃないか。そう言った
肩を張らない、陽気な雰囲気に満ちていて、読むのが大変楽しかった。
うちの伯母も看護士をしているのだが、彼女もまたその虫の知らせを
感じる人間である。夕飯の支度をしている時、誰かに呼ばれた気が
して振り返ると、今日の夕方まで看病していた患者さんが、すっと
立っていて、丁寧に深々とお辞儀をして去っていったというのだ。
次の日、出勤してみるとその患者さんは亡くなっていた。そう言った
経験が、何回もあるそうである。わたしも全てを信じてしまうのは
怖い気がする。だけど、不思議なことってあるよな、と思うし、
その「最後に伝えようとする想い」と言うものに、とても心が惹かれる。
そういう思いを、誰かと語り合っているような気分になれた本だった。
そうそう、遠藤さんてこうだった、とも。タイトルも実に遠藤さんらしい。
エッセイってこういうものだよね、と思う。今時のエッセイは……。

★★★★★*94

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