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2010年1月12日 (火)

【アンソロジー】「甘い記憶―6 Sweet Memories」

甘い記憶―6 Sweet Memories 甘い記憶―6 Sweet Memories

著者:井上 荒野,川上 弘美,小手鞠 るい,吉川 トリコ,野中 柊,江國 香織
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甘い記憶……と言いながら、まったく記憶に残らない残念さだった。
それにしてもアンソロジーって難しいものだと思う。書く方も、
読む方も。特に読者は全部好き、と思えることってなかなかない
のではないか、と思うのだけど、どうでしょう。割り切るべきか。

「金と銀」川上弘美
ハル、とみんなは呼ぶけれど、わたしは治樹さん、と呼ぶ。
治樹さんと初めて会ったのは、母方のひいばあちゃんの斎場であった。
わたしはまだ五歳で、当時治樹さんは十六歳。
みなが大往生だと笑いあう中、治樹さんは一人泣いていたのだった。
男の人でも泣くんだ。わたしはそう思った。
「誰かがいなくなるのってダメなんだ、俺」と治樹さんは言った。
それから長い間わたしたちは会わなかった。七年の月日が経ち、
わたしは大学の近くの映画館でばったり治樹さんとあった。
再会するまでの間に、治樹さんは結婚をし、離婚をした。
そして今は無職だと言う。旅に出ると言い失踪した治樹さんの手紙を
読みながら、わたしは治樹さんの泣いている姿を思い浮かべる。
ずっと治樹さんのことが好きだったのだ、と思う。

上にも書いたけれども、アンソロジーって実に当たり外れが多いと思う。
何と言っても書いている人が違うのだから、好みの違いがあるのは
仕方ないのだと思うのだけど、もう少し同じ傾向の作家に纏めるか、
もしくはもっとかけ離れた作家を起用して纏めて欲しかった。
そもそもこの「甘い記憶」という企画が何をしたかったのか、という
ところにも問題があると思う。この企画のモチーフは「チョコレート」
である。しかし、このそれぞれの作家に依頼したとき、すでに
「甘い記憶」という本のタイトルが決まっていたと思われる。
そこに「チョコレート」という描写を必ず入れる、というテーマ
のようであった。ここで考えて欲しいのが「記憶」というところである。
記憶と言うのは、大概にして過去のことである。ここに収められている
作家さんたちも、「過去」をイメージしたらしく、過去回想が主である。
おまけに、過去の回想の仕方として、半分くらいの作家が、「手紙」
という情報手段を使っている。「手紙」ということは、片方の相手は、
どこか手紙を出すようなところに行ってしまい、ここにはいない、
ということなのである。そこに駄目押しの「チョコレート」描写。
ここまで言えば、簡単に想像がつくだろう。主人公は何らかの都合に
よっていなくなった異性を、手紙とチョコレートともに思い出すのである。
主人公が変わっただけで、中身は一緒。同じような物語の羅列になり、
まったく記憶に残らない、というのが1番の感想だった。
それを考えると、井上荒野の「ボサノバ」なんかは、あくが強くて、
この縛りつけの厳しい中で、だいぶ個性を出している話だと思う。
井上さんは初めて読んだのだが、とても静かでいい文章である。
伊藤たかみ系な終わりで、何かの焦燥に駆られるラストが好きだった。
その他は川上さんを含め、にたり、よったり。好きだけど、
一緒の本として出すべきではないと思う1冊だった。

★★☆☆☆*65

■収録
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「ボサノバ」井上荒野
「おそ夏のゆうぐれ」江國香織
「金と銀」川上弘美
「湖の聖人」小手鞠るい
「二度目の満月」野中柊
「寄生妹」吉川トリコ

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