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2010年1月 4日 (月)

「白い巨塔 1」 山崎豊子

白い巨塔〈第1巻〉 (新潮文庫) 白い巨塔〈第1巻〉 (新潮文庫)

著者:山崎 豊子
販売元:新潮社
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圧巻である。さて、今年一冊目は、かの有名な巨塔です。未読でした。
あぁなんでもっと早く読まなかったんでしょうね、と思うくらいの吸引力、
久しぶりです。時代ものが流行ってたくさん描かれる世だけど、こういう
「今」を忘れちゃいけないと思う。おぬしも悪よのぅって今の人だって。

国立大学医学部第一外科助教授、財前五郎は、食道噴門癌の手術を得意と
している今院内で最も注目を集めている男である。最近ではマスコミでも
脚光を浴び始め、次期第一外科教授の座を約束されているとも噂されていた。
輝かしい将来に余裕もみせる頃、しかし現在の教授である東は、
自分の腕を見せびらかすような財前の傲慢さを嫌い、教授の座を譲ることに
難色を示し始めた。それに財前が教授になったのでは、東が退官した後、
便宜を図ってくれるようなことはないだろう、とも憶測していた。
それならば、てなずけた他の助教授を推薦し、今後も自分の言う事を聞く
ようにした方がいいだろう。数ヵ月後に開始される選考委員会で、
ぜひとも思惑を通さねばならない。東は票を持つ三十一人の人間に
賛同を得ようと、秘密裏に行動を始めるのだが……。

面白い。人間ドラマの真骨頂である。まるで戦国時代に、生きるか死ぬか、
もしくは殺すか殺されるかを毎日のように推し量り、すべての他人を
疑い生き抜くような人間の獰猛さが、恐るべき緻密な展開によって
描かれている。生半可ではないその生死の境を、今、医療という狭苦しい
世界で再び味わうことができる。もちろん、本当に死ぬわけではない。
舞台は病院であるが、手術の素晴らしさよりも、重要なのは権力である、
と言った真実を根底に、どろどろとした人間関係を見ることが出来るのだ。
生きるか死ぬか、すなわち、国立大医学部の教授になるか、左遷されるか。
わたしは血生臭い描写がダメなので犬猿していたのだが、その点には、
まったく問題がなかった。そう、そんなことよりも、地位と名声なのである。
手術など優秀にできて当たり前。そこからが戦いの始まりである。
表向きは厚い顔の面で微笑みながら、毒を含んだ言葉で他人に圧力をかけ、
味方を増やしてゆく。ときには多額の金が傍をすり抜け、しかし、
見ないふりをし、微笑み返す。見事な腹黒さである。お代官様に向かい、
「お代官様も人がお悪い」「何を言う、おぬしも悪よのぉほっほっほ」
といった感じ。そんな馬鹿らしいやりとりが、でも今ここにあるのである。
登場するどこかで聞いたことがある天下り発言の数々。きっと今夜も
どこかで、財界人はこうして座布団を寄せ合い酒を飲んでいるに違いない。
そんなことを考えながら、始まる表立った選考委員会を見、
「選考委員会はいうまでもなく、公正な調査と判断に基づいて、
第一外科の後任教授候補者を選出する(後略)」
という言葉を聞いた瞬間に、思わず笑いたくなった。滑稽、滑稽。
そうそう、世の中はこうなんです。よく見てください、という感じ。
巧みな言葉で隠された、本当の思惑と、自分主義。最高な小説である。
この世の皮肉る心を、誰しも忘れないで欲しいと心から思う。次も楽しみ。

★★★★★*95

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» 山崎豊子『白い巨塔〈第1巻〉』 [itchy1976の日記]
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受信: 2010年1月 7日 (木) 12:27

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■昨日フジテレビの『めちゃイケ』を観ていたら、ドラマ制作部に『白い巨塔』の毎週の視聴率が大書して貼り出されてある様子が映っていた。やっぱりだ。アウシュビッツは悲しいことに、ドラマ部門を強化したいという日本の一テレビ局の企業戦略の片棒をかつぐことになってしまった。おそらくテレビドラマ初のアウシュビッツ・ロケ敢行という謳い文句で、『白い巨塔』の視聴率はますます上がるだろう。まったくフジテレビは許しがた...... [続きを読む]

受信: 2010年1月22日 (金) 16:46

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