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2009年12月 5日 (土)

「人のセックスを笑うな」 山崎ナオコーラ

人のセックスを笑うな (河出文庫) 人のセックスを笑うな (河出文庫)

著者:山崎 ナオコーラ
販売元:河出書房新社
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この本もデビュー作。何だか最近誰かのデビュー作ばかり読んでいる
気がする。歌野さんしかり、西川さんしかり。あぁ何か足りないと
思っても、そこにきらりと光る何かがある。それを見つける仕事って
とても楽しそうだと思う。けれども、自分もそうならなくてはいけない。

猪熊サユリは、オレの大学の美術講師である。名前はサユリだが、
生徒はみな彼女の事をユリちゃんと呼ぶ。ユリはみんなの絵を
褒める。決して文句を言うことなく、指導らしい言葉すら言わない。
そしてにこにこ笑っている。それがユリなのであった。
ある日、ユリはオレを自分の作品のモデルにと誘った。
誰も訪れないアトリエに誘われ、それが肉体関係の始まりだった。
ユリはそろそろ四十を迎え、その上旦那もいる。
しかし、そうと分かっていてもオレはユリから離れられなかった。
恋に落ちた二人を、周りの言葉などでは止める事は出来ない。
そして、気持ちが離れてゆくことを、二人は止めることが出来ない。

これは映画を先に見てしまった本だった。映画は正直そこまでいい
印象を持たなかったのですが、(ワンカットが長く間延びしていて
この小説を読んだら、あぁあれはアリだったのかもしれない、と思った。
この本の中には、せかせかする大学生活の、しかしゆったりした
温かい部分が描かれている。わたしはとても好きであった。
温かい部分は、そう愛である。男と女であればセックスというのかも
知れないが、忙しい毎日の、大切にしたい時間が、優しく描かれていた。
例えば、それが不倫であったとしても。例えば、それが年の差の恋愛
であったとしても。何かの障害に目を瞑って繰り広げられる世界で
あったとしても、そこで紡がれる二人の時間は愛しく、誰にも邪魔
をさせはしまい。その温かい時間が、やはり呆気なく終わってゆく
としても、その温かい時間を悔やんだり、憎んだりはしない。
出会えてよかったのだから。あの幸せな時間を感じることが出来たの
だから。久しぶりに、いい、と思う恋愛小説だった。川上さんの
「センセイの鞄」もよかったが、これもなかなか、わたしの心を
揺さぶった。山崎さんの文章は、行間がたっぷりあり、すかすか
している。けれど、温かいその表現が、空いた文章の隙間を縫って、
とても心地の良いリズムを感じた。期待せず舐めた飴が、思いのほか
美味しい、そんな文章。映画は間延びだった、と書いたけれど、
過ぎてゆく何でもない日常は、そんなものなのかもしれない、
と思えた。あまり面白くなかったように感じる。でも、みるめとユリが、
ふらふらと自転車を二人乗りするなんでもないシーンを、とてもよく
覚えているのだった。なんでもない日、なんでもない温かい時間を、
大切にしたい。そう思える本だった。まぁ、先は長そうだけど。

★★★★☆*88

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