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2009年12月12日 (土)

「おやすみ、こわい夢を見ないように」 角田光代

おやすみ、こわい夢を見ないように (新潮文庫) おやすみ、こわい夢を見ないように (新潮文庫)

著者:角田 光代
販売元:新潮社
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あぁ何かしなきゃなぁと思う。わたしはいつまでこのぬるま湯に
浸っているんだろうか。何かを、何かを、何かを、といって、
ただ何かを待っているだけのような気がする。そうだなぁ、明日からは。
暢気なわたしが言う。そうね明日から。わたしは頷き日は過ぎてゆく。

「空をまわる観覧車」
あなたを呪ってやる、というりり子の一言で、重春の浮気は幕を閉じた。
それからというもの、ちょっとした嫌な出来事があるたびに、
重春はりり子の仕業ではないか、と怯えるようになった。ファミレスで
貝殻が混入していた時も。コーヒーのミルクが古かった時も。
重春は買い物リストを握りスーパーをうろつきながらも、
りり子の影に怯え、後ろを振り返った。りり子との浮気がばれてから
妻の亜佐美は家事をしなくなった。重春に仕事を辞めさせ
家事を担当させるようになったのだ。重春はなにを言うでもなく、
作業に掛かる。浮気というその出来事によって、何事も重春が
押し黙るといった方程式が出来上がっているような気がした。
りり子の声と、亜佐美の言葉に重春は窮屈な思いを必死に受け流す。

つまらない。久しぶりに、つまらない。2回言っちゃうほどつまらない。
角田さんの本が面白い時の吸引力、と言ったら物凄いものがある。
ページを捲る手が止まらないのだ。ラストに向けて物語が終わって
しまうことが残念にすら思え、ため息混じりに最後を読み終える。
読んでよかった、この本に会えてよかった、と思うのである。
でも、この本はつまらなかった。角田さんは、現在進行形の気持ち
よりも、過ぎてしまったことの余韻を書くのが上手い作家だと思う。
通り過ぎてしまった恋愛や恋、離婚してしまった夫婦、
仲が悪くなった友だち、会わない誰かの思い出、などなど。
幾分負のパラメータが多い気もするが、逸れに負けない説得力がある。
あぁわたしもそう思う。と、まったく違う経験なのに、
気持ちを馳せることが出来る。というのは中に描かれている感情が
本物だからだろう。現在進行形の気持ちというのは、
そもそも書くのが難しいものだと思う。特に怒りや憎悪、と言った
一瞬で燃え上がるような強い感情についてである。それはなぜか。
時間が経つと、人間はその気持ちを忘れてしまうからだ。
その時は確かに怒っていても、時間が経てば「まぁいいか」と思えたり、
順を追って考えてみたら、なぜ怒っていたのか分からない怒りへと
変わってしまう。例えば「殺したい!」と思った一瞬の感情を、
時間が経った今正確に思い描き、ましてや描写するのは、至難のわざ
であると思うのだ。そして、角田さんはそれがとても不得意のようだ。
以前『三面記事小説』を読んだ時も思ったのだが、怒りへの
感情の起伏が、とても曖昧で微妙だった。怒りや憎悪を感じる
もやもやとした葛藤はあるのだが、それが吊りあがり、高ぶってゆく
という描写が皆無である。この本もそう。浮気がばれた混沌とした
様子や、異常な行動をする娘と世間との葛藤など、ぐるぐると、
考え悶絶しているが、そこで止まってしまっていて、全然殺したそうに
思えないのだ。惜しいんだよな……。ので相当後味の悪い小説に
なってしまっている。まぁミステリ的な感情は無理な角田さん
なので、多くは望めませんが……。東野さんの『白夜行』とか、
最高に苛立って読んだ気がするんだけど。ミステリを書くのって、
そこら辺が重要よね、とか思う。殺意に同意できないと、つまらない。
「まぁいっか」な殺人など読みたくないのである。と、話が逸れたけど、
角田さんには違う方面で期待しています。もしくは化けた殺意を。

★★☆☆☆*65

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コメント

おはようございます。
TBさせていただきました。
私は、この本も楽しく読める角田光代ファンでした。(笑)でも、最近新刊本がなく、ちょっと角田さんにご無沙汰していると、むむむ、私は"あばたもえくぼ"的な恋は盲目状態だったのかも…と思えたりもします。

投稿: 時折 | 2009年12月15日 (火) 08:16

>時折さん

こんにちわ~^^*
わたし、この本は楽しくなかったです(断言・笑)
角田さん大好きで好けどもね。
しかし盲目状態になるっていうのも、重々分かります。
ふと立ち止まって時間を置いてから見てみると変わるものですよね。
他の本の影響であったり、自分の変化であったり。
もう一度読んでみるといいかも知れませんね、とか(笑)
わたしも吉田さんの「悪人」を再読予定です。あのとき盲目でした!

そう言えば、角田さん再婚なさったそうでびっくりしました。
角田さんと言えば伊藤たかみさんと結婚していましたけど、
離婚の内容の本が多いな、と思っていたら、本当に離婚していたようで。
再婚はもう2ヶ月も前ですが、バンド・GOING UNDER GROUNDの
ドラムさんらしいです。年の差11歳。やるねー角田さん。
次なる角田さんも期待したいところです。

投稿: るい | 2009年12月15日 (火) 11:25

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