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2009年11月12日 (木)

【映画】エル・スール

063
久しぶりに立ち観しました。辛かった……。座って観るって重要な事ですね。
何気なく観た映画でしたが、スペインの映画でした。もしや初めてかな、
スペイン映画。フランス映画はよく観るのですけども。あの間延び、
な感じが好きです。『ブロークン・フラワーズ』もう一回観たいなぁ。

特殊な道具を使い、水路を掘り当てる仕事にしている父を、
幼いわたしはとても尊敬していました。他の人が出来ないその不思議な力を
見るたび、父への思いを再確認し、また、そんなことが出来るのは、
父なのだから当たり前の事だとも、思っていました。父は周りから
変わり者と思われているようでしたが、わたしは気にしたことはなく、
むしろ誇らしく思ってさえいたのです。そんなある日、わたしは父の
出生について母から話を聞きました。父はエル・スールという、
南の暖かい場所で育ったそうでした。しかし、祖父との対立の末、
この街に移り住んだというのです。わたしの中に微かな父への蟠りが
生まれました。さらに別の日、わたしは父の書斎から、手紙を見つけました。
宛名には知らない女の名前が書かれており、間違いなく父の筆跡でした。
わたしの中の絶対的な父と言う存在が、だんだんと揺らぎ始めました。

フランス映画を間延び、と称するなら、スペイン映画は緩急、だろうか。
事情や、状況、行動などを説明するのは言葉であって、感情は無言の中で
伝える、そんな雰囲気を持った作品だった。雪がもさもさ降る地域に住む
主人公は、雪の降らない暖かい街エル・スールを上手くイメージすることが
出来ない。それは丸で父が心の中で何を考えているのか分からない、
その様子ととても似ているようであると。とても出来た作品であると思う。
語りとなっているのは、大人になった「わたし」である。
幼いころの自分を回想し、父と自分の関係を振り返ってゆく。
尊敬してやまなかった父だが、父への疑問が増えていくにつれ、
まるっきり信用するという無垢な気持ちをもてなくなってゆく主人公。
父がひた隠していた、妻以外の女の愛している、という事実を、
思わず口にしてしまうのだった。手紙を見たことや、父の行動から、
共犯者のように錯覚していたわたしは、父の本心を得たと思ったのだろう。
きっと「わたしも知っているの、仲間なのよ」と告げたつもりだったのだ。
けれどそれはきっと違うのだ。父は娘にだけは知られたくなかったのである。
妻を愛していない、と言うことはその血を受け継ぐ「わたし」もまた、
愛していないのではないかと、思わせないためにも。
でも主人公は幼すぎたせいで、自分がどうすべきだったのかも、
父が何を思っていたのかも分からず、そしてそれを理解できない自分に
傷つくのだ。あんなに愛していたのに、自分は何も分かっていなかったのだと。
この映画は、無言の中で伝える親しみや親近感がとてもいい。
総合的なスペイン映画がそう言う傾向にあるのかわからないが、
温かい印象が強い。それだけにテーマとなっている、娘の父親の不理解、
父親の自殺、という重い内容が、より映えて観えたように思う。
印象に残った部分は、いつもは絶対に協会に踏み入れない父が、
「わたし」の祝い事の日に限って足を運んでくれるシーンである。
「わたしのために来てくれた」と呟く表情が心に残っている。
けれど、父親が猟銃を打ち鳴らしていた思いの下に、
何が隠れていたのかも忘れてはいけないと思うけれど。
それと、「ほら、この音楽、一緒に踊ったじゃないか」と父が言うシーン。
父は娘の小さな姿を思い出し、懐かしそうに目を細めている。
けれど、主人公はそれを突き放してしまう。残酷に、そして気づかずに。
あの瞬間の絶望した父親の一瞬の表情が、頭から離れない。
会話は少ない。しかし伝わる何かを持ったいい役者そろいだったのだろう。
エル・スールはどんなところなのだろうか。暖かい陽気な街だろうか。
父はいない、けれど、父を知るたびに出る。とても心に沁みた。

★★★★☆*88

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