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2009年11月 6日 (金)

「キノの旅 Ⅴ」 時雨沢恵一

キノの旅〈5〉the Beautiful World (電撃文庫) キノの旅〈5〉the Beautiful World (電撃文庫)

著者:時雨沢 恵一
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ようやく気づいたのだが、時雨沢さんの描写には擬音が存在しない。
例えば、「モトラドがブロロロと音を出して過ぎ去った」とか、
文章に甘えがないのである。まぁそれを甘えと言うか否かは別だが、
ありそうでない、その余分こそがその世界を生み出す仕掛けではと。

「病気の国」
城壁の中には、外と同じ景色があった。茶色の岩山が続く、
草の一本もない荒れた大地だった。
「寒々しいね、キノ。空気も、景色も」走りながら、モトラドが言った。
「まあね。何もないね」キノと呼ばれた運転手が答えた。
「ここは、こういう国なのかな?」
「それがね、エルメス。この国はとても発展していて、建造物の中で
ほぼ一生暮らすことができる、きれいで清潔な国だって聞いているんだ」
「それ、絶対にガセ」エルメスと呼ばれたモトラドがすっぱりと返す。
気が遠くなるほど進み続けると、ようやく近代的なドームが現れた。
入国したキノは、ホテルのオーナに、病気の娘に旅の話を
してほしいと頼まれ、承諾した。病気の少女は一人の勇敢な男の子と
文通をしており、手紙を届けてほしいと頼まれるのだが……。

もしもライトノベルだから、という理由で読むのを躊躇っている方が
いたら、ぜひ騙されたと思って読んでみてほしい。買うのが恥ずかし
かったら、図書館で借りてくれば大丈夫。そもそもライトノベル、
というものに恥ずかしさを覚えるかどうかは疑問だが、少なくても
わたしは少しの躊躇いがあるのではないかと思う。そういうオタク系
ではないのかとか、そもそも文学的ではないだろうとか。しかし、
この本は違うと言っていいと思う。読みやすさ、と言う点と、
伝わりやすさ、と言う点から、異次元を作るためファンタジー的な
枠組みにされているが、この本は違った意味で価値がある本だと思う。
わたしはこれほど洗練された文章を他で味わったことがないと思う。
時雨沢さんの文章は、とても整然としている。擬音や形容詞を、
あまり用いず、的確に状況を書いている。「―た」「―だった」と
続く文章が、これほど心地いい本は他にない。それに描かれているのは
とても社会的な内容となっている。誰もが一度は感じた理不尽な思いや
笑顔の裏側に隠された残酷な事実が、とてもライトに書かれている。
一度読んだらその分かりやすさと、低空の感情が病み付きになるだろう。
と、前置きが長いが、今回も最高なのは「あとがき」である。
って言うかもう「あとがき」ですらないのだが……読んでみれば分かる。
もちろん本編も面白い。この本は「病気の国」を覚えていた。
届かない手紙の先には、死んだ事を隠し続ける国家がある。
まさに「病気の国」である。最後の「長い話をしよう」という一文が、
何とも苦く、それでいて「次」を感じさせる終わりである。
さて、次は読んだことあるのだったかな? たぶん6巻くらいまでしか、
読んでなかった気がするんだよね。時雨沢さんもたくさん本出してるな。

★★★★☆*86

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