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2009年11月 5日 (木)

「フライ,ダディ,フライ」 金城一紀

フライ,ダディ,フライ (角川文庫) フライ,ダディ,フライ (角川文庫)

著者:金城 一紀
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金城さんの文章は冷たい。余分な情けがなく、事実をズバリと記す。
目を逸らしたくなる事柄を避けずに真っ直ぐ、あるいは被害妄想気味
に描きなら、けれどなぜが涙を流してしまう。悲しいからか?
いや、いつの間にか胸に熱い思いが込み上げてくるからである。

娘が暴行を受けて入院した。病院に駆けつけてみると、
顔面を殴られ怪我した娘が力なくベッドに横たわっていた。
殴ったのは隣の学校の男子生徒である。殴られた理由を求めたが、
男子生徒の学校の教師たちに金を掴まされ、事を大きくしないようにと、
釘を刺された。憔悴しきった私であったが、ある日テレビを見ていたら、
暴力を働いた男子生徒がインタビューに出ており息を飲んだ。
なんとボクシングの期待の星なのだと言う。怒り心頭した私は、
家の包丁を持ち出すと男子生徒の学校へ乗り込んでいった。しかし、
上手くはいかなかった。呆気なくつかまり、おまけに侵入した学校は
隣の学校であった。男子生徒たちに事情を説明した私は、朴瞬臣という
韓国人から、倒すため体力づくりを指導してもらう事になった。

正義は必ず勝つに決まっている。金城さんの小説もまたそれである。
会話の中にも出てくるが、勝たなければ意味がない、と言った
強いポリシーの持ち主である。ので、話は簡単に読めてしまう。
どうせ勝つんでしょ、みたいな。それと、「レボリューションNo.3」
の続編と言いつつ、主人公は高校生の娘を持つオッサンである。
今までの軽快な口調から一遍、社会に縛られた堅苦しい語りになり、
ちょっと残念な気持ちで読み始めた。あの高校生の、陽気な「僕」を
感じ、共感を得たかった。しかし、読み始めると、舌を巻いた。
いつの間にかオッサンの気持ちが手に取るように分かるのである。
わたしは娘を持ったことなどないが、何かのために歯を食いしばる
その心が、とてもよく伝わってくるのである。それに今までの
登場人物たちの活躍もいい味を出している。特に朴瞬臣の、
知られざる過去なども少し出てきたりして、前回のファンも、
大いに楽しめるようになっていた。金城さんは人が頑張り、
そして何かが叶う、という達成感を描くのがとても上手い。
それと同じく、何かが叶わなかった悔しさと、その立ち直り方の
描き方が上手い。なぜオッサンが木登りをしただけで、
または山下が病室を訪れただけで、私たちは涙を堪えなければ
ならないのだろうか。上にも少し書いたが、金城さんの文章は冷たい。
容赦がない。刻々と語られる言葉には、しかし温かい血が流れている。
読んでみればわかるから、そして絶対面白いから、読んでみてほしい。

★★★★☆*87

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