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2009年11月 4日 (水)

「くまちゃん」 角田光代

くまちゃん くまちゃん

著者:角田 光代
販売元:新潮社
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さすが角田光代。貫禄の滲み出る作品である。何かもう、
面白くないはずないのである。あとは自分に合っているか、
自分の影を、その登場人物に重ねられるか、だけが問題である。
これはyomuyomuに載ってたやつなんですね。読んだことないのですが…

「こうもり」
ロックバンドのボーカルである槙仁は、ステージ上とは裏腹に、
とても無口な男だった。自分の発した言葉で、物事が進んでいく
ということが苦手なのである。槙仁の傍にはいつも苦労する
ことなく女が寄ってきた。特に槙仁が意思を言葉で表さなくても、
大体が上手くいく。だが、一緒に暮らし始め、時間が経つと、
そんなつまらない男だと思わなかった、と槙仁は必ず女に振られて
しまうのだった。しかし、今回好きになった女・希麻子は違った。
これまでのように女の方から寄ってくるのではなく、初めて
槙仁が好きだと感じた女だった。ほとんどとりえのない、
自分を好いてもいない女だったが、なぜか心を惹かれてしまう。
結局上手くいかった2人の関係を、槙仁は考える。

yomuyomuがすでに12号も出ていて驚愕した。
そうか……もうそんなに経つのかって。つい最近創刊されたよな、
とか思っていたのに。歳もとるわけだな。読んでみるべきか、
いやいや、単行本を読むほうが好きだ、うんぬん、考えているうち、
1号も読まずに今に至る。今からでも読むべきだろうか……。
と雑談はさておき、この本の内容は、恋愛に関する連続短編集。
全ての主人公がふられる小説である。そしてふった人間が、
次では主人公となり続いていく。とても密集している関係ではあるが、
とてもバラエティに富んだものとなっていると思う。ミュージシャン
から始まり、売れない役者、イラストレータに会社員、離婚した女。
様々である。どれも自分には関係のない職業であり、ちょっと
実現されるとは思わない恋愛が描かれていたが、そこに生きる感情は
本物であった。この短編と言う短い文章の中で、主人公の気持ちを、
手に取るように理解することが出来る。読んでいて滲み出るのは、
貫禄ある角田光代のエネルギーである。この本の中に、
「凄いと思ったら、その凄いと思った気持ちが引き揚げてくれる」
と言うような言葉があるのだが、その言葉を丸々返したいほど、
私はすげぇと思ったのだった。この「こうもり」についても、
すれ違う男と女についての例えが、とても素晴らしかった。
気が合わないのに、好きだと思ってしまったのは、自分も、
相手もまた旅の途中であったからかもしれない、と。
答えを述べられても自然に頷くことが出来るのは、それだけ
感情の誘導が巧で、その感情を読者が上手く描けているからだろう。
あと、恋愛の始まり方も、とても自然だ。驚くほど簡単に、
あぁそうかこうやって付き合えばいいんだ、と感心してしまうほどに、
その場面を描いている。角田さんが描くのは、日常ではない。
日常の詰まらなさなどから、抜け出そうとして、抜け出せなかったり、
違う何かを見つけたりする物語が多い。そう「物語」なのだ。
角田光代の妄想に私たちは魅せられている。当たり前のことだが、
もう一度だけ言っておくと、彼女は「小説家」である。

★★★★☆*88

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コメント

おはようございます。
TBさせていただきました。
>何かもう、面白くないはずないのである。
痛く同感です。
私の中では谷崎と肩を並べています。ははは。

投稿: 時折 | 2009年11月 6日 (金) 07:51

>時折さん

おはようございます。
TBありがとうございます!後ほど伺いますね^^

そう、貫禄が出てきたと思いますね角田さん。
最近の作品は本当に安心して読むことが出来ます。
谷崎さんと同率ですか!年齢的にもう少し年を取ったら、
角田さんは更にいい味が出るかもしれませんね。
これからが見ものかもしれません。まだまだいけますよ、きっと。

投稿: るい | 2009年11月 9日 (月) 09:28

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» 角田光代『くまちゃん』 [時折書房]
くまちゃん 角田さん的な「恋愛小説」。 内容(「BOOK」データベースより) 4回ふられても私はまた、恋をした。なんてことだろう。あんなにつらい思いをしたというのに。きっとここにあなたがいる、傑作恋愛小説。 いつしか、角田光代作品が、漱石作品のように感じられてい....... [続きを読む]

受信: 2009年11月 6日 (金) 07:49

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