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2009年11月24日 (火)

「ゆれる」 西川美和

ゆれる (ポプラ文庫) ゆれる (ポプラ文庫)

著者:西川 美和
販売元:ポプラ社
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才能があるっていいよなぁ、と言って指をくわえているのは、
才能をうまく使えない人のいいわけである。とか何とか、
言ってみたりして、結局いい才能持ってるわこの人、と感心するばかり
なのだった。なんだか、不思議な文章を書く人だな、西川さん。

久しぶりに実家に帰った僕は、変わらないその空気の重圧に嫌気が
さしていた。実家はガソリンスタンドを営んでいる。チェーン店
とは違うその個人店は、うらぶれて見る影もなくて、その店を
当たり前のように継ぎ、当たり前のように働いている兄のことを
俺は信じられないと思っていた。店には智恵子の姿もあった。
子どもの頃から一緒に育ち、少し可愛くなった頃、僕は智恵子を抱いた。
けれど流されるまま生き、自ら行動を起こさない智恵子の存在は、
次第にうっとうしさに変わり、家を出ると同時に、何事もなかったかの
ように置いてきた女だ。なんの罪悪感もない。しかし、数年ぶりに
会った俺はまた彼女を抱いてしまったのだった。兄は智恵子を好きらしい。
じっと僕を見据える兄は、僕らの何もかもを知っているのかもしれない。

文章が読みづらく感じた。特に修飾語が長いわけでも、捻くれている
わけでもないのだが、文節の位置が絶妙なバランスを保った文、
というような、そんな感じだった。読みづらいのは最初のうちだけで、
慣れてしまえば、噛むほど味が出るスルメのように、美味しかった。
そう思わせるように文をひねり出しているのだろうか。そんなこと
考えなくても、ただ自然に書いた文章が、こうなんだろうか。
とてもいい文章だと思った。特にいいことを言っているわけでも、
目だっていい表現をしているわけでもないのに、語られる物語に、
他とは違う絵を見た気がする。カメラで切り取られたような、
温かい像である。これを才能と言うのか、分からないがとても魅力的
だった。話は、真面目な兄と、奔放な弟の、絆の話である。
絆、とは言っても、もうぼろぼろで、誰も触ることが出来ない。
父親、兄、弟。母親が死に残された男たちのわずかな繋がりは、
まるで老朽化したつり橋のように揺れているのだ。誰も見ないふりして
過ごしてきたから、智恵子の死によって突きつけられる真実は克明で、
3人を傷つける。誰が悪いのか? いいや、誰も悪くはない。
誰もが抱えている小さな「罪悪感」の積み重なりが、だんだんだんだん
膨らんで、兄の被っていた皮を剥いでしまったのだから。
いや、それも違うのかもしれない。兄の内側の心を、知ろうとしなかった
だけなのかもしれない。残された幼い記録はあんなに美しいのに、
自分はどうしてこのような邪悪なことばかり考えているのか、
主人公の涙がとてもよくわかった。人はなぜ忘れるのでしょうね。
あんなに温かい記憶を。わたしの頭の中に残っている記憶も、
黒くくすんだものばかりである。内側を抉られるような、不快さと
現実を教えてくれる小説だった。この小説は西川さんの手によって、
映画化されていますね。観たかったのに、観てませんでした。
そちらも評判がいいみたいで、才能って凄いな、と思うのです。
あら、堂々巡り。そのうち借りてみようと思います。

★★★★☆*88

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