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2009年10月15日 (木)

「眠れるラプンツェル」 山本文緒

眠れるラプンツェル (幻冬舎文庫) 眠れるラプンツェル (幻冬舎文庫)

著者:山本 文緒
販売元:幻冬舎
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相変わらず病んでいると思う。中学生と恋に落ちるなんて。
しかし、病んでいる時に読んだら、とても救われる本なのだ。
一度でも落ちてみないと分からない、あの暗闇の中で
過ごしたことがある人なら、そうなの、なんでわかるの、と思うのだ。

起きてから私のすることといったら、パチンコに行くくらいだろうか。
帰り際、スーパーで大量の食料を買い込み、帰宅する。
女一人で食べるには多すぎて、大半は捨ててしまう。知っていながら
私は買い込み、特に何するわけでもなく、家の中でゴロゴロしているのだ。
暇だ。しかし、暇が嫌いなわけではない。夫が「好きな事をしたらいい」
と言ったように、私は好きな事をしているだけなのだ。
そんな私は、隣に住む中学生の男の子に恋をした。名前はルフィオ。
勿論、本当の名前は別にあるのだが、私は心の中でそっと呼んでいるのだ。
愛しい、愛しい、ルフィオ……。ある日、ルフィオは飼っている猫を
見せてくれといって家を尋ねてくるのだが――。

ただ何の思い入れもなくあらすじだけ読んだら、何とも気持ちが悪い本
である。何たって、人妻が隣の家の中学生をたぶらかし、
その上寝てしまうのだ。それを恋だ、と言ったとしても、世間の目は
「変人」扱いするだけで、冷たい視線を浴びせられるだろう。
現実はそうなのだ。しかし、「変人」はどこにでもいる。
誰が「変人」になるか分からないし、ちょっとした理由で「変人」に
なってしまうかもしれないのだから。専業主婦となり、
一切仕事をしなくなる。子どももできず、あまり社交的ではない。
夫とは上手くいっているようで、しかし現実を避けているだけであり、
「なんで子どもを作らないの」などと近隣の奥さまたちから言われ、
陰口を叩かれる。おまけに夫に押し付けられた猫の存在により、
嫌がらせが始まる。一体誰なのか。近隣の人たちみんなが怪しく思える。
相談できる人もいない。そんな状態では、どんな人間であっても、
何かにすがりたい気持ちになってくるのではないだろうか。
山本さんの凄いところは、その気持ちを1つずつ頷かせてくれることだ。
いつしか、読んでいる読者さえも、もしかしたらこの中学生に
好意を抱いてしまい、「私」と同じ行動を取ってしまうのではないか、
と思えてくるのだった。それと、山本さんはきちんと暗闇を知っている。
「鬱」と呼ばれる隠隠滅滅としたあの暗闇と、精神の定まらない
不安定さを、とてもよく知っているのだ。それを経験したことが
ある人にとって、だからするりと沁み込んでくる。そう、そうなの、
私もそうなのよ、と思わず山本さんに伝えたくなるのだ。
思わず猫を窓から落としてやりたくなるように、自分を解放できる日を、
今か今かと、みんな思っているから。

★★★★☆*86

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